瑞穂坂学園、転科に関する条項。

 普通科、魔法科を問わず、学園が認めた者は、科を変更することができる。
 転科を希望する者は、学園側に転科願いを提出することで、
その転科希望の旨を学園側に通知できる。
 一部の例外を除き、学園側はその転科願いを拒むことができない。
 例外とは、
  @ 普通科の者が魔法科転科を希望するにも関わらず、
   その者に魔力がない、若しくは魔法が使えない場合。
  A 魔法科の者が普通科転科を希望するにも関わらず、
   マジックワンドの不携帯を容認しない場合。
  B 転科試験落第者が一ヶ月を待たず、再受験の申し込みをした場合。
  C その他、日本魔法協議会が認める正当な事由により、
   その者に転科資格がないと認められた場合。

 転科願いを学園側が受理した場合、原則として受理された日の
次の日付から起算して8日後に転科試験を行わなければならない。

 転科試験においては、次のような手段を取らなければならない。

  @普通科転科の場合
    一 筆記試験(歴史、世界史、化学、物理)を行う。
     100を満点として計算し、全科目の合計が320を超えており、
     且つそれぞれが70を下回らないこと。

  A魔法科転科の場合
    一 筆記試験(魔法理論、魔法史)を行う。
     100を満点として計算し、全科目の合計が160を超えており、
     且つそれぞれが70を下回らないこと。
    二 魔法模擬実践を行う。
     但し、転科希望生の学年が1の場合、
     筆記試験の結果のみで判断し、これは行わないものとする。
      審査員には、学園の総責任者を含む6人が立ち会わなければならない。
     尚、試験官並びに対戦者はこの数に含めない。
     試験官並びに審査員は必ず本学園教員を立てる必要がある。
     対戦者においては、この限りではない。
     試験官はClassAを、対戦者は転科希望生の学年が2ならClassDを、
     3ならClassCを最低条件とする。
      転科希望生が対戦者に勝つ必要はなく、転科を認めうる実力を示すことが
     合格の判断基準となる。


 以上。瑞穂坂学園規則、転科に関する条項より抜粋。






Happiness story『小日向雄真の魔法科転科奮闘記』

Magic7.転科試験開始!!






 転科試験の開始時間は、通常の登校に比べて早い。
午前に筆記試験、午後に実技試験。
学校で簡単な転科試験の説明を受けたら、すぐに試験開始だ。

 筆記試験が終わると、試験官はすぐに添削作業に入る。
転科希望生は、その間に少し早いお昼休憩。
添削が終わると、転科希望生はその場で筆記試験の合否が伝えられる。

 つまり、筆記に合格できない者は、実技を受けることなく落第ということになる。
なにせ実技試験においては、最低でも試験官・審査員合わせ7名の教員がいる。
条項により平日に行われる可能性も秘めている転科試験では、
見込みのない者は早々に切っておかねば、学園全体に支障が出るからだ。
(今回は火曜日というまさに平日に行われる。
 そのため、試験者が筆記に受かった場合、魔法科生徒には午後の授業は自習となる旨が伝えられていた)






ジリリリリリリリリリリッ!
ジリリリリリリリリリリッ!
ジリリリリリ、ガシャッ

 寝ぼけ眼で目覚ましを止めた雄真は、カーテンへと目を向けた。
転科試験の開始時間が通常の登校に比べて早いとは言っても、
それは最近の雄真にとっては、あまり苦痛ではない。
最近は、魔法の修行で朝から鈴莉の家に出向くことも多く、
むしろいつもより起床時間は遅めだった。

 固まった体をほぐしつつ、ゆっくりと立ち上がる。

(…さて、いよいよか)

 何時もより早い脳の覚醒に、トントントンと階段から響く音が伝達される。
すももが上がってきたようだ。

(…もし、寝坊助兄さんの目がはっきりしてますとかで騒ぎ出したら、
 頭をはたいていやる)

 そう思いつつ、部屋のドアが開かれるのを待った。






「あら来たのね。おはよう、雄真くん。
 もう準備できてるから、食べ始めて良いわよ〜」

「おはよう。ありがと、かーさん」

 そう言いつつリビングに足を踏み入れた雄真の後ろから、
頭を押さえながらすももも入ってきた。
なぜ、そのような仕草をしているかは、ご想像にお任せする。

「う〜。兄さん覚えていてくださいよ〜」

「さて、なんのことやら」

 すももの呪いにすっとぼけながら、雄真はトーストをかじった。
あまり食欲はなかったが、無理に詰め込んでおかねばなるまい。
今日は長いのだ。

「それで? 昨日はしっかり寝られたのかしら?」

 洗い物を終えた音羽がテーブルにつく。

「もちろん。ぐっすりだったよ」

「…凄すぎです、兄さん。
 私なんて入試の前日はあわあわしてしまって、ほとんど寝られませんでした」

(…おまけにすもも時間まで発動してたしな)

 すもも時間。それはすもものみに訪れる不思議な時間感覚だ。
すももの瑞穂坂学園入試当日は、その発動により午前4時から幕を開けた。
早朝4時に叩き起こされ、寝坊してしまったと泣き喚くすももをどう対処すればいいか、
本気で悩んだのはまだ記憶に新しい。

「さっすが雄真くんね!」

「さっすが兄さんです!」

「…どうも」

 前日に熟睡できたことを褒められても、あまりうれしくない雄真だった。






「忘れ物ない?
 筆記用具は持った? ハンカチは? ティッシュは?」

「…持ちました」

 …なんだこの入学式前のやりとりは、と雄真は思った。
恥ずかしすぎる。

「兄さん、どんなに分からない問題があったとしても、
 横の人の解答は見ちゃだめですよ。
 それは、例え0点を取ることより恥ずかしいことだって、誰かが言ってました!」

「覗かないし、覗けねぇよ! 今日受けるの俺一人だからね?!」

「雄真くん、しっかりね!
 あなたならできるわ」

「そうです。
 私の兄さんは凄いんですから!」

 急に真面目な顔をして言われ、思わず雄真は不意をつかれてしまったが、

「ああ、任せとけ!」

 そういって玄関の扉を開けた。

 門をくぐり、学園へと足を向ける。
すると、後ろから―――――――――。




「雄真!!!!!!」




バサッ!!!




 振り向くと、横断幕を抱えた皆がそこにいた。
ハチ、準、春姫、杏璃、伊吹、信哉、沙耶、小雪、すもも、音羽。
今まで文句も言わず、ずっと雄真を支えてきてくれた面々だ。
何時から家の前で張ってたんだ、と質問するより先に横断幕に書かれた文字が目に入った。

 広げられた横断幕には、こう書かれていた。


『小日向雄真の魔法科転科奮闘記に終止符を』


 ご丁寧に伊吹の重力魔法で宙に浮かせ、
信哉が風の魔法で綺麗にたなびかせている。

「しっかりなー!!」

「ゆーま、がんばれーっ!!」

「雄真くん、信じてるからね!!」

「落ちたら承知しないわよー!!」

「私との特訓、無駄にしてくれるな!」

「心の眼で見極めよ、雄真殿!!」

「小日向さん、ご武運を!!」

「ご自分のお力を信じて、頑張ってください」

「兄さん!! コロッケ作って待ってますからね〜!!」

「ゆ〜まく〜ん! 落ちたら今日は家に入れないからね〜!!」

 皆の声援を受け、雄真は…。

「任せとけっ!!!」

 そう答えて走り出した。
学園に向かう途中、雄真は合格してから最初にしたいことを決めた。

(…まずは、あの横断幕を消し炭にしよう)

 そんなダークな事を考えつつ、雄真の顔は綻んでいた。

(ここまできて、負けられるか!!!)

 雄真にとって、長い長い一日が幕を開けた。






「はじめまして、私が今回筆記試験の責任者になった九条陽菜よ!」

 集合場所であった選択教室にて、雄真は初対面の教師から自己紹介を受けた。
ピンク色でショートカットの髪。背は雄真より少しだけ高い程度で体型はスレンダー。
第一印象で、明るくとても親しみやすそうな人だ、と雄真は思った。

「実技試験では試験官も務めるわ。今日は一日よろしくね!」

「普通科2年、小日向雄真です。こちらこそ宜しくお願いします」

「うんうん。さて、今日のスケジュールを簡単に説明しちゃうわね。
 まず、9時からさっそくだけど筆記試験を受けてもらうわ。
 10時までの1時間で魔法理論を、10分の休憩を挟んで
 10時10分から1時間後の11時10分までで魔法史を解いてもらいます。
 それから1時間のお昼休憩にします。こちらはその間に丸付けをしちゃうから」

 鈴莉から前もってスケジュールは聞いていたので、雄真はそれを思い返しながら頷く。

「12時10分には、この教室に戻って来て下さい。
 その場で筆記試験の合否を発表します。
 で、合格の場合は魔法服に着替えて、そのまま魔法実習ドームへ行ってもらい、実技を行います。
 内容は魔法模擬実践、対戦相手は神坂春姫さんよ。
 わかったかな?」

「はい。大丈夫です」

「よし! じゃ、9時まであと10分くらいか…。
 筆記用具とかの準備をして待っててね」

 そう言って春菜は雄真を席へ誘導し、自分は教卓についた。
おそらく、手にしているのは試験用紙だろう。
雄真は一つ深呼吸をすると、自分の鞄から筆記用具を取り出して準備を始めた。






「さて、これより魔法科転科試験の魔法理論問題用紙を配布します。
 試験に持ち込みが認められていないものは直ちに―――って、
 既に筆記用具だけか。じゃあ、はい!!」

「ありがとうございます」

 試験官には必要がないくらいに元気な陽菜から、雄真は試験用紙と問題を受け取った。

「カンニングは零点だからね」

「できるわけないでしょう!!」

「うむうむ。流石は鈴莉さんのご子息。
 あまり緊張はしていないようだねぇ」

「…? 九条先生。かあさ…いや、御薙先生とはいった――――――」

「はじめっ!!!!!」

キーンコーンカーンコーン

「うげっ?!」

 雄真は素早くシャーペンを取ると、問題用紙を開いて解き始めた。
そんな初々しい様子の雄真を一瞥し、クスクスと笑いながら陽菜は教卓へと戻った。






キーンコーンカーンコーン

「そこまで!!」

「おわったぁぁぁ〜」

 掛け声と同時に雄真はシャーペンを投げ出した。

「つ、つかれた〜」

「はい、お疲れ様!!
 これで、筆記試験・魔法理論と魔法史は終了です。
 昼休みだぞ!! お昼食べてこい!!」

「は、はいぃ〜」

 元気いっぱいの試験官に押され、雄真は選択教室をふらふらと後にした。

「…何だあの先生は。魔法科はあんなアクティブな先生ばかりなのか?」

 お昼を食べるためOasisに足を向けた雄真は、そう呟いた。
大人の女性に言うのもなんだが、綺麗というよりかわいいといったほうがしっくりくる先生だ。
テンションが物凄い。しかも母さんとは親しそうな感じのしゃべり方だったし。

「そういや、母さんとの関係聞くの忘れたな」

 そう言いつつも「まぁ、いいか」とお昼に向けて歩き出した。






「いただきます!!」

 学生の昼休みとは多少ずれている為、ほぼ貸切状態のOasisで雄真はAランチを食べ始めた。

「それでそれで?
 筆記試験はどうだったの?」

 チーフ・音羽は、雄真の対面の席に座りながら話しかけてきた。
まだ昼休みではないため、Oasisもヒマなのだ。

「もぐもぐ…。
 問題はない…と思うよ。
 魔法理論はかなり自信があるし、魔法史も思っていたよりも遥かにできたしね」

「あらあら〜!
 余裕そうじゃない!! よかったわー!!」

「…ありがと」

 自分の事のように喜ぶ音羽の顔を見て、雄真は気恥ずかしさを覚えた。

「なによりですね。
 これで後は神坂さんとの一騎打ちとなったわけですか」

「うぉっ?! 小雪さん!! 何してんですか?!」

「…? 見ての通り、昼食を取りにきたのですが。
 あ、音羽さん。五穀米カレーをひとつお願いします」

「はいは〜い」

「いやいや?! 授業はどうしたんですか?!」

 さも当然のように席についた小雪に雄真は叫んだ。

「今日の雄真さんの試験官。
 九条先生ではなかったですか?」

「…へ? ええ、そうですけど」

「今私たちの授業は、その九条先生が行う授業だったのです。
 今日は休講と、九条先生がおっしゃられてましたので。
 なので今Oasisにいる学生はほぼ私のクラスメイトです」

「…きゅ、休講って」

 …転科試験に参加する先生の授業って、自習にするんじゃなかったっけ?
そう思った直後、さっきまで一緒にいた教師の顔を思い出した。

(…ああ、しそうだ)

 雄真は納得してしまった。あの人なら、するだろう。

 結局小雪は、雄真が先ほどの選択教室に戻る時間まで、
雄真の真正面でひたすらカレーを食べ続けていた。






ガラッ

「お、雄真君!!
 戻ってくるの少し早くない?
 ご飯はちゃんと食べられたのかな?」

 教室に戻るなり、陽菜からそう声を掛けられた。

「ええ。しっかりと」

「そっかそっか。良かったね!
 じゃあ入ってきな! もう結果出てるからさ」

「あ、わかりました」

 少し緊張しながら教室に入る。

「さて、雄真君。
 この度はお疲れ様でした。
 それではこれより、雄真君が合格したという発表を始めます!」

「は、はい! …って、へ?」

「雄真君、君はなんと――――――?!」

「いやいやいや!! タメる前に結果言っちゃってますから!!」

「ん〜っ!! ――――――合格ぅ!!!」

「シカト?!」

「おめでとう!! 君は転科試験の第一関門を見事に突破したっ!!」

「…ありがとうございます」

 雄真はこの流れに合わせた方が賢明だと割り切り、お礼を述べた。

「凄いね雄真君。二教科合計点が183点だよ!
 魔法史がヤバいって話を聞いてたから、どうかと思ってたんだけど。
 魔法史は83点。これは魔法科の生徒たちにも灸を据えてやらないとだねぇ」

「ど、どうも。…83点?
 せ、先生。さっき俺の合計点183点って…」

 雄真の戸惑いに、陽菜は笑顔で頷いた。

「そう! 雄真君!!
 君の魔法理論の点数は、満点だ!!!
 まったくもって素晴らしい!!!」

 信じられなかった。…満点? 俺が?

「さて、筆記に合格した以上、次は実技になるわけだけど。
 …雄真君、覚悟はいいかな?!」

「は、はい!!」

 まだ現実に理解が追い付いていない状態で、雄真は陽菜の問いに頷いた。


 ―――――――――次は実技。転科をかけた最後の戦いが始まろうとしていた。


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