放課後の式守家は、普段の静寂な空気とは一変し騒々しかった。
なぜなら。
「おい、飾りが一個足りないぞ!!
準、お前どこへやった?!」
「馬鹿言うんじゃないわよ!!
貴方足で踏んでるじゃない!!
あ、杏璃ちゃん!!
伊吹ちゃんにここ垂れ幕掛けていいか聞いてきてくれない?」
「おっけー!! ここが終わったら行ってくるわ!
…て、ハチ! 邪魔よ!!」
「うおっ?! 杏璃ちゃんそれ振り回さないでくれ!!」
「うっさい!! 悪いのはアンタよ!!
ちょっと信哉?!
アンタ精神統一するくらいなら、食堂で料理の進み具合確認してきて!!」
「…うむ、承知した」
「ふふ。…信哉さんが自宅で迷子になるかならないか、見物ですね」
「小雪さんも手伝って〜!!」
雄真の魔法科転科歓迎会が、猛スピードで進められていたからだ。
Happiness story『小日向雄真の魔法科転科奮闘記』
Magic9.真相
「それでは、そちらにおかけ下さいな」
「…あ、どうも」
「ふふ。そんなに固くならずとも。
貴方の合格は決まっているのですから。
神坂さんもどうぞ?」
「…失礼します」
雄真に並ぶ形でソファーに座る。ここは瑞穂坂学園理事長室。
来賓用のソファーを勧めたゆずはは、その対面のソファーに腰掛けた。
その両サイドに鈴莉と陽菜が座った。
「さて、改めまして。私はこの学園理事長・高峰ゆずはです。
小日向雄真さん、魔法科転科おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
「神坂春姫さん。貴方も対戦者という大役を見事演じきってくれました。
この場でお礼を申し上げます」
「あ、いえ。…ありがとうございます」
ゆずはの言葉に、雄真と春姫はそれぞれ頭を下げた。
「雄真君、貴方の得意属性は火だと鈴莉から聞いていたのだけれど、
風の身体強化は独学で?」
「いえ、かあさ…御薙先生に見て貰ったというのもありますが、
途中から魔法拳闘同好会というところでお世話になりまして…」
「え? それって吉田さんの…?」
「ああ、魔力の細部の動きとかが難しくてね。
御薙先生が仕事で忙しかった時とかは、そっちに顔出させてもらってたんだ」
「…拳闘同好会。記憶にありませんね」
「非公式な部ですから。理事長の耳に入っていなくても不思議ではないかと」
ゆずはが頭を捻ったのを見て、横の陽菜が助け船を出した。
「なるほど。では次に遅延呪文ですね。こちらは?」
「これは伊吹…、式守伊吹から色々とアドバイスを貰いました。
あとは、独学で少々…」
「遅延待機可能時間(ディレイ・タイム)はどれ程?」
「約30秒です」
「では、神坂さんの拘束魔法に掛かる前には、
もう準備はできていたということですか」
「…おっしゃる通りです」
ここまで見抜かれるものなのか、と雄真は驚いた。
まぁ、拘束中に唱えたのは身体強化呪文だけだったので、
それしかないわけではあるが。
「ええ?! じゃ、じゃあさっきのって、結構ぎりぎりだったってことじゃない!!」
陽菜が驚いたように口にした。
「そうです。春姫があとちょっと拘束魔法を掛けるタイミングが遅ければ、
そしてあとちょっと俺が拘束魔法を解くタイミングが遅ければ、
発動はしませんでした」
「…凄い。全然気付かなかったよ…。なんというポーカーフェイス」
「いや、内心では凄い焦ってましたよ?
春姫には気付かれていたようですし」
「あら、そうなの? 神坂さん」
ここへきて初めて鈴莉が声を出した。
「…は、はい。雄真くんがちょっと焦っているように見えました」
「…早く試合を進めようとしているように見えたのだけれど」
そう、春姫はあの時自分から「それで? どうするの?」と聞いた。
まるで、雄真の次の行動を急かすかのように。
「…遅延呪文の話は聞いていましたから。
でも、ディレイ・タイムまでは聞いていなかったので…」
「さすがだな、春姫。
拘束魔法に遅延呪文の誘導。
俺はあの試合の中で二回も春姫に負けてたって事だ」
「ううん、それでも最後は雄真くんが勝った。
あの遅延呪文解放スピードはホントにびっくりしたんだよ?
障壁も本気で張ろうとしてたのに間に合わないんだもん」
『その通りです、雄真様。
実は春姫は、雄真様の遅延呪文対策としてここ数日、
少しでも速く障壁が張れるよう特訓をしていたのです。
それでも間に合わなかった。完敗です』
「…春姫とソプラノにそこまで言われると、照れちゃうな」
「…流石は雄真君を信じているだけはありますね?
神坂春姫さん」
春姫の体がビクッとなった。
「申し訳ありません、実はそのことで謝罪をしなければと思っていたのです」
「…春姫は泣いてました」
「ちょっと雄真くん?!」
「いいから」
止めようとした春姫を、雄真は手で制した。
「俺の転科試験に向けて、ずっと協力してきてくれた人の一人だったんです。
俺の合格を、一番に考えていてくれました。
この実技試験で相対するということは、春姫にとって重荷にしかならないはず。
母さんと親友だというあなたが、それを知らないはずはない。
それなのに、あなたは“無理矢理”春姫に押し付けた」
「その通りです」
「母さんも、それを黙認した」
「…その通りよ、雄真君」
「…では、そこまでして春姫にさせたかった理由はなんですか?」
「…ここからは式守家が関わってくるのだけど」
やっぱりか、と雄真とソプラノは思った。
しかし、式守家は転科について不介入を宣言したはず。
一体どう関わってくるというのか…。
「式守家からお願いされたのです。
対戦者は、神坂春姫にして欲しいと」
「ちょ、ちょっと待ってください。
式守家は転科試験に介入することはできないはずでは…?」
「ええ、その通りです。介入はしてません。
これはあくまで“お願い”でした。
もちろん、私たち学園側はそれを拒否することもできた。
式守家も自分たちの要求が通ろうが通るまいが、転科試験の結果を左右することはない。
神坂春姫を対戦者に指定したのは、結果的には学園側の意志だったということです。
よって。これは、介入とは呼びません」
「…。もっともらしい理由には聞こえますが。
それで春姫に無理強いさせたことには繋がりませんね。
強制力が無かったのなら、なおさらです」
「ええ、おっしゃる通り。
どうしても神坂さんにやってもらいたかった理由は別にあります」
「…それは?」
「申し訳ないけれど、式守家が不在のここでは話せないわ」
「理事長!!」
「ちょっと落ち着きなさい。雄真君」
熱くなり始めた雄真を鈴莉が抑える。
「こちらの言い分も少しは聞いてちょうだい」
「…ごめん。それで?」
「神坂さんに協力を申し出た時、ちゃんと理由は説明しようとしたのよ?
その時にはここに式守の者がいたから。それも式守家当主・式守護国が直々にね。
それなのに神坂さんは、それを断るから」
「…へ?」
予想外の展開に、素っ頓狂な声を出してしまった。
隣の春姫も呆然としている。ソプラノも言葉に詰まっているかのような雰囲気だった。
「あのとき、護国さんから理由を聞いていてくれたら、
こっちの方法はとらなくてすんだのだけれど…」
鈴莉が頭に手を当てて呻く。
「そうなのよ。それなのにあの時の神坂さんときたら…。
『申し訳ございませんがが、そのも――――――」
「きゃーーーーーーーーー?!」
ゆずはの声を春姫が思いっきり遮った。
耳元で突然叫ばれた雄真は、耳を押さえている。
「きゃーーーーーーーー!!! きゃーーーーーーーーーーー!!!」
「お、落ち着け春姫?!」
「若いっていいわぁ…」
「ぼやいてないで止めてください!!
あなたのせいですよ?!」
≪しばらくそのままでお待ち下さい≫
「さて、お疲れのところ申し訳ないですが。
雄真君、貴方にはこれから式守家へと向かって頂きます」
なんとか春姫を宥め、落ち着いた雰囲気を取り戻すのにかなりの時間を要したが、
そこは流石小雪の母というところか。ゆずはは何もなかったかのように切り出した。
「式守家に?」
「はい。そこで貴方が疑問に思う全てが解決するでしょう」
「…。わかりました」
「それからもう一つ。今回、神坂さんに対戦者をお願いする際の強引な手法に、
式守家は一切携わっておりません。ですので、あちらでは口にしないようお願い致します」
「はい」
「ですから、もう一度こちらにて謝罪を。
神坂春姫さん。この度は誠に申し訳ございませんでした」
ゆずは、鈴莉が立ち上がり頭を下げる。
ぼーっとしていた陽菜は、二人につられるように慌てて立ち上がり、
訳も分からぬまま頭を下げた。…首を傾げながら。
「いえ、気にしないでください! 平気ですから!!」
春姫は逆に恐縮しながらそれに答えた。
(…それで許しちゃうんだから。…春姫は優しいよな)
そう思っていた雄真に、
「じゃあ、行こう。雄真くん!」
と、春姫は手を差し出した。
「行くって、どこへ?」
「式守家に決まってるじゃない!!」
「…? 春姫も呼ばれたのか?」
「へ?! あ、うん!! そうだよ!! だから行こっ!!」
春姫は慌てるように雄真の手を引くと、そのまま駆け出して理事長室の扉を開けた。
「それじゃあ、失礼します!!!」
「あ、ありがとうございました。…って、春姫、引っ張らないで!」
嵐のように出た行った二人を見つめて、三人の教師はクスクスと笑った。
「さて、と」
鈴莉がソファーから立つ。
「そういえばこれからパーティでしたっけ?」
陽菜の問いに鈴莉は頷く。
今頃、式守家では急ピッチで準備が進められているはずだ。
転移魔法で雄真たちを式守家に送ってやらなかったのはそういうわけだ。
「あら、どこへ行くのかしら。
待ちなさい? 鈴莉」
ルンルン気分で理事長室を退出しようとしていた鈴莉に、ゆずはの声が掛かった…。
「…何度来ても緊張するよな」
「そうだね」
式守家の大きすぎる門を前に、二人はそう呟いた。
「お待たせいたしました」
ギィィッ
音を立てて門が開く。式守家のお手伝いさんが顔をだした。
「どうぞ、こちらへ」
話は既に通っているらしく、訪問の内容を尋ねることなく雄真たちを中へ招き入れた。
広い庭を通り抜け、屋敷の中へと入る。やがて、一つの大部屋であろう襖の前で立ち止まった。
「こちらです。御ゆるりとお寛ぎ下さい」
「…? 寛ぐ?」
「雄真くん、襖を開けてみて?」
「な、なんなんだ?」
そう言って襖を開けた瞬間―――――――――。
パンッ! パンッ! パパンッ!
「 「 「 「 「 おめでとう!!!!!!!! 」 」 」 」 」
クラッカーと共に、何時ものメンバーの声が轟いた。
「こ、これって…」
口をパクパクさせながら、横の春姫を見る。
「ふふ、驚いた? 雄真くんに内緒で、皆準備してたんだよ?」
『祝・魔法科転科!!小日向雄真!!!』と書かれた垂れ幕が壁に貼ってある。
部屋の中には、ハチ、準、伊吹、信哉、沙耶、小雪、すもも…。そして。
「ようこそ、そしておめでとう。小日向雄真君」
穏やかな空気を身にまとった、式守家当主・式守護国の姿があった。
「…あ。護国さん。あ――――――」
「おっめでとーーーーーー!!」
雄真のセリフをぶった切るように準が乱入してきた。
「雄真ならやると思ってたわ!!
さぁさぁ、何を突っ立ってるのよ!!」
「雄真ぁ!! てめぇうらやましいぞちきしょー!!!!」
「兄さん、おめでとうございます!!!!」
「ふん!! やるじゃない、雄真!!!」
続いてわらわらと皆が集まり出す。
「お、おい。貴様ら今は――――――」
「よい、伊吹」
「…は、はい」
我が式守家当主の話を中断させるなど何事かと、
伊吹が一喝しようとした所で張本人の護国から止められた。
「今日は宴だ。難しいことなど後でよかろうて」
そういって護国はニコッと笑い、視線を雄真へと向けた。
ちょうど雄真は部屋に連れ込まれ、友人から頭を引っぱたかれた所だった。
「宴じゃーーーーーーーーーーー!!!!」
教員室では、ガリガリと紙を削るかの勢いでペンを走らせる鈴莉の姿があった。
「…もう。今日はそこまでにしてあがったらどうです?
ストレス溜めちゃ良くないですよ?」
「…仕事は仕事。きちんとするわ」
そう言い、再びペンを動かし始める。
しかし、一瞬腰が席から浮きかけたのを陽菜は見逃さなかった。
今日は雄真君の転科を祝って、みんなでパーティを開くと聞いていた。
鈴莉は、参加したかったに決まっているのだ。
(…意地になっちゃって)
鈴莉がスキップするかのように帰路につこうとした時、
ゆずはは鈴莉に書類と共に現実を突きつけた。
転科願いを受理し、責任者となっていた鈴莉は合格後の書類作りの義務がある。
流石に今日は可哀想だと思い、代わってあげる旨を鈴莉に陽菜が申し出ると、
「あらあら。息子の雄真君は“自分で”道を切り開いたのに、
その母である貴方ときたら…。いえ、何でもないわ。それじゃあね〜」
と言って去って行ったのだ。
取り残されたのは、書類を受け取ろうとしていた陽菜と、
体をプルプルさせた鈴莉…。
「やってやるわ!! やってやろうじゃない!!!」
…こうして、鈴莉の不参加が決まったのであった。
「雄真君、ちょっといいかな?」
どんちゃん騒ぎでもみくちゃにされていたところを護国から声を掛けられた。
「あ。は、はい」
「…伊吹もこちらへ」
「はい」
伊吹が護国の隣へ並ぶと、雄真含め周りの面々は騒ぐのをやめ、皆姿勢を正した。
「いや、そんなに畏まらないでくれ。
あまり時間はとらせんよ」
パチンッ
護国が指を鳴らすと、使いの者がスッと部屋へ入ってきた。
「これを、受け取ってもらいたくてね」
そう言って護国が使いの者から受け取り、雄真に見せたのは。
「…式守の、秘宝」
「そう。とは言っても、これは欠片にすぎない」
護国は小指ほどの大きさの欠片をテーブルに置いた。
「ただし。小さいとは言っても、
そこらの魔法具とは比べ物にならんほどの力を秘めている」
「…そうでしょうね。
触ってもいないのに、この欠片から力を感じます」
緊張した面持ちで頷く雄真を見て、護国は続けた。
「これを君に受け取ってもらいたい。
秘宝事件では、伊吹が迷惑を掛けたね。
君がいなければ、伊吹は死んでいただろう。
そのお詫びも込めているのだが」
「そなたにはとても迷惑を掛けた。すまぬ」
伊吹は頭を下げて謝罪した。
「伊吹、俺はお前に謝って欲しくて助けたわけじゃないぜ?」
雄真の言葉に伊吹は目をパチクリとさせたが、すぐに笑みを浮かべた。
「…ありがとう。そなたのおかげで、今私はここにいる」
その言葉に雄真もニッと笑った。
「その言葉だけで、俺としては十分なのですが」
「うむ。本当に立派な少年に成長したものだ。
鈴莉殿もさぞかし鼻が高かろう。
しかし、これは式守家の本家と分家の話し合いによって決定されたのでな。
どうか、受け取ってほしい」
「あの時、伊吹を助けようとしたのは俺だけじゃないはずです。
それなのに、いったいどうして俺に…」
「試させてもらっていたのだよ。
君がどれほど“やれる”魔法使いなのかを、の」
「…試すって、いったい―――いや?!
そうか、これが春姫を対戦者にしたかった理由…」
「その通り。同じ学年でも神坂君の能力は頭一つ抜き出ているようだったからね。
他の者が対戦者に選ばれるよりも、君の資質の高さを見切れると踏んだ」
周りの皆も真剣に聞き入っている。
…杏璃が若干プルプルしていることは、気にしないでおいた。
「そのために…。
…ん? ちょ、ちょっと待ってください!
さっき本家と分家で話し合いをって。
…もしかして伊吹。あの時の会合って…」
「ほう。察しが良いな雄真。その通りだ」
伊吹が感心したようにそう答えた。
あの時から既にこの話は進められていたのか。
雄真は、この話に式守の本気を感じ取った。
「式守家は、これを正式にそなたへ託すことに決定した」
「お、おいおい。それで俺はこれを使ってどうしろと――――――」
「これは、あくまで提案なんだが…」
そう言って護国は一度言葉を切った。
雄真がこちらに改めて向き直ったのを認めて、こう告げた。
「この欠片を使って、君のマジックワンドを作ったらどうかと思ってね」
励みになります。
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