「はぁっ!! 風神の太刀ぃ!!」
「レス・ピーサ・アファルト!!」
ガキィィィィィッ!!!
信哉のワンドを、フードを被った男の障壁が受け止める。
「ははは!!
隙だらけだぞ!!
オル・アダレンス!!」
「幻想詩・第一楽章・混迷の森」
シュウンッ!!
「な、なに?!」
もう一人の男が放った攻撃呪文は、
沙耶の流れるようにして紡がれた魔法によって、異次元へ吸い込まれていった。
「この、ガキがぁ!!」
「おい、あぶねぇぞ?!」
「うっ?! サンズ・ヘイト・サンデスト!!」
バシィィィィ!!
寸前のところで障壁が間に合う。
仲間から声を掛けられていなかったら、終わっていただろう。
それほどまでに一瞬にして、信哉はもう一人の男に斬りかかっていた。
「沙耶には指一本触れさせん!!」
「あん?!」
「幻想詩・第二楽章・明鏡の宮殿」
ヴン! ヴン! ヴヴン!!
沙耶の周りに、相手魔法を打ち返す鏡が幾重にも張り巡らされる。
沙耶にしては珍しく、相手方に啖呵を切って出た。
「このフィールドは既に、私と兄様が掌握しております。
あまり無駄な抵抗はなさらぬよう」
瑞穂坂学園が敵の侵攻を受けて、ものの数十分。
既に戦局は学園側に向いていた。
Happiness story『小日向雄真の夏休み戦争』
Magic11.式守伊吹&小日向雄真vs新橋恭介
ズズゥゥゥン…
遠くから爆音が聞こえる。
どうやら各地では、人目を気にせぬまでの戦闘が繰り広げられているようだ。
新橋恭介は耳にかざしていた手を下し、改めて雄真と伊吹に向き合った。
「予想以上に早い展開だ。
もう少しはこう着状態が続くと踏んでいたのだが…」
「ほう。一介の会社員であるお前に、戦局が予想できると申すか」
伊吹がビサイムをふらふらさせながら、挑発的に言い放った。
その声色に顔をしかめるわけでもなく、新橋恭介は髪を掻き揚げながらゆっくりと振り返る。
「くく、それにしても面白い。
鍵の守護に重点を置いた陣営だとは踏んでいたが…。
まさかこの転移魔法陣を守る最後の砦が、
ピンクの傘をお持ちのご令嬢に、理事長のお使い坊やだとは。
ははっ…。本当に人の神経を逆なでするのが好きな奴らだ」
「…見た目で実力を判断するな。
痛い目を見ることになる」
「あん?」
やたらと低い声で話す雄真に、新橋は不審な目を向ける。
「お前は、俺の友達を傷つけ、この学園の無関係な生徒にまで手を出した」
「………何の話だ?」
「なに?」
「お前らの学園で何があったかは知らねぇが、それを俺がやったって証拠はあるのか?」
「そ、それは…!!」
「落ち着け雄真。あ奴が信哉に手を出したという証拠はない」
「そ、それでもっ…!!」
「そうだぜ。そこのご令嬢の方がよっぽど冷静じゃないか」
伊吹が雄真を制した言葉を聞いて、嘲笑うかのように新橋は相槌を打った。
「…とは言え、そんな事実の有無はどうでもいい」
「……ほう?」
伊吹の纏うオーラが変わり、新橋は目を細めた。
「これから私が貴様を叩き潰す!!
その事実には、何の変りもないのだからな!!」
ズアアアアアアアアアアアッ!!!!!
伊吹から魔力が吹き荒れる。
それが戦闘開始の合図だった。
「ア・グナ・ギザ・ラ・デライド」
「デルタス」
伊吹の詠唱開始と同時に、新橋は自身の体に雷の身体強化を纏った。
バチッという音と共に、瞬時に伊吹の正面に移動する。
「詠唱なんかさせるか」
そう言って拳を振り上げた所で、
「ウィンズ」
ズンッ!!
「ぐっ?!」
雄真の足が、新橋の懐を抉った。
そのまま蹴り飛ばす。
「…? この感触…。まぁいいか。
伊吹の邪魔はさせないぞ」
新橋は空中で体勢を整え、地を削りながら着地した。
「お前も身体強化が使えたか、油断したぜ」
「ラ・ディーエ!!!」
新橋のセリフも余所に、伊吹は呪文を唱えきった。
その高らかに放たれた詠唱と共に、伊吹の頭上を魔法陣が覆う。
ClassAの高等技法。天蓋魔法だ。
「下がれ!! 雄真!!」
雄真が瞬時に伊吹の横へと移動する。
――――――瞬間。
ドガガガガガガガガガガガガガッ!!!!
伊吹の闇属性の矢の雨が、新橋目掛けて発射された。
「…すっげ」
『伊吹さんの天蓋魔法は凄まじいまでの威力ですね』
雄真とクリスが賞賛していると…。
「気を抜いてちゃ、まずいんじゃない?」
既に雄真と丁度正反対。伊吹の横を取っていた新橋が伊吹に迫っていた。
「?!」
「ディ・ラティル・アムレスト!!」
バチチチチチチチッ!!
咄嗟の事で反応できなかった伊吹を、雄真の9枚の障壁が守る。
新橋の身体強化は、信哉がしていた時と同じく、全身を纏うタイプらしい。
風ではなく、雷だが。
(…どうりでさっき蹴り飛ばした時、違和感を感じたはずだ)
そう思いつつ雄真は風の力を得た足で跳躍した。
伊吹の真上を越えて、新橋との間合いを詰める。
「ウィンズ・プロテクタ!!」
クリスに風の状態強化を掛ける。
新橋に雷のフル・アーマーが纏ってある以上、素手での戦いは避けなければならない。
おそらく、触れるだけで痺れてしまうはずだ。
先ほどの蹴りは、風の身体強化が掛かった足だったからこそ、違和感程度で済んでいたのだろう。
そう考えて雄真は、状態強化の掛かったワンドを振り下ろした。
バチチチチチチッ!!
ワンドを受け止めた新橋の腕が耳障りな音を鳴らす。
「…へぇ? 状態強化か。
俺のフル・アーマーの効果を実感することなく種明かしに気付くとはな」
『エル・アムダルト・ウェンテ!!!』
「は?!」
初めて新橋の表情に驚きが浮かぶ。
本来放たれるはずのないところで詠唱が響いた。
ゴウッ!!
突如吹き荒れた突風によって、新橋は後方に吹っ飛ばされた。
「エル・アムダルト・リ・エルス」
その後を、詠唱しながら雄真が追う。
「舐めんな! この程度で!!」
「ラ・ディバス!!」
バシィッ!!
新橋が吹っ飛ばされたまま放った無詠唱の魔法球は、
雄真に当たることなく、伊吹の呪文によって掻き消された。
「…カルティエ・ディ・ルテ・エル・アダファリア…」
「真正面から打ってくる魔法なんて当たるか――――――」
『ヴォルグ』
新橋のセリフを遮るように、ビサイムが魔法を発動した。
ビサイムが唱えた妨害呪文によって、ほんの一瞬だけ新橋の視界が遮られる。
ほんの一瞬。
その一瞬が、雄真の魔法を完成させた。
「いけ! 雄真!」
「リース・ファイナス!!」
ドガァァァァァァァァン!!!
雄真必殺の業火球が、新橋に直撃した。
ゴォォォォォォォォッ!!
タンッ
燃え盛る森を目にしながら、
軽やかな音を立てて、雄真は伊吹の横に着地した。
「間違いなく、当てたぞ。ゼロ距離だ」
「うむ。見事な手並みだった」
『想像以上に良い連携だったかと』
『そうですね。ここまで伊吹様と息を合わせられるとは』
互いが互いを褒めあう。
確かに、ある程度の打ち合わせをしていたとはいえ、ここまで息が合うとは思ってもみなかった。
それに――――――。
「こっちのワンドの『独自詠唱』は、あいつにとって完全に想定外だったようだな」
「そのようだ。おかげで隙を突くのも容易かったと言えるが……」
そう言って、新橋が吹っ飛んだ方向に伊吹が目をやった瞬間。
「ア・ダルス・ディ・ラム・ディネイド!!」
「ディ・ラティル・アムレスト!!」
バチチチチチチチチチッ!!!!!
突如襲来した雷に、伊吹と雄真が共に反応する。
伊吹の張った障壁を補うかのように、雄真の障壁が展開され、雷の到達を防いだ。
「あ〜。やれやれ…」
燃え盛る茂みから、新橋が面倒くさそうに姿を現す。
その姿に、雄真と伊吹は驚愕した。
「無傷………」
「あれほどの魔力をゼロ距離で受けて、傷一つつかんとは…」
「……お前らのワンド、『独自詠唱』ができたのか」
冷たい目で射抜かれ、雄真は一瞬体を強張らせた。
「………だったら、何なんだ?」
必死で言葉を絞り出す。
「つまんね」
雄真の言葉にそう一言だけ答えると、新橋はポケットから赤色のグローブを取り出した。
「あれは…?!」
「む!!」
「あん? お前ら、これが何だか知ってんのか?」
パチンッと右手にグローブを填めながら、新橋が問う。対して雄真も伊吹も無言だった。
確かに、あのグローブの話は聞いていた。もちろん情報源は信哉である。
新橋が填めた赤色のグローブで頭を掴まれると、禁呪『エレクトリック・ダイブ』が発動する。
一度発動してしまえば最後。新橋による脳波ジャックで、意識すら保てない、と。
つまり。
「捕まったら、終わりだ」
「うむ。今まで以上に用心しなければならぬ」
雄真と伊吹は、気を引き締め構えなおす。
それを見た新橋はニヤッと笑った。
(…何考えてんのかは想像付くが、無駄だぜ)
大方、捕まれば気絶させられる、くらいの危機意識しか持っていないだろう。
だが、それが命取りだ。俺がお前を捕まえた時点で、この戦いに決着がつくどころか、
“龍脈の秘石”が手に入ることになるんだからな。
新橋は、そう心の中で呟いた。
「さて、遊んでやるのはもうやめだ。
こっからは、待ったなしだぜ?」
新橋のその言葉と同時に、戦闘が再開された。
ダンッ!!
雄真と新橋が同時に動く。
風と雷。互いに強化した足で間合いを詰めると、
雄真はワンドで、新橋は素手で相手を連撃する。
ガガガガガガガガガッ!!!
「素人にしちゃいい動きだ」
「褒められても、嬉しくねぇ!!」
ブンッ!!
雄真が払ったワンドをしゃがんで避けた新橋は、そのまま掌を雄真に向けた。
「じゃあな」
「させるか、オルム!!」
パァンッ
完全に死角だった場所から放たれた伊吹の牽制魔法が、新橋の手をはじいた。
相手に、それも身体強化を施した者にダメージを与えられるような魔法では無い。
だが。それでも新橋の手をはじき、雄真から逸らすくらいならできる。
一度距離を取った雄真は、チラッと伊吹を一瞥した。
伊吹は瞬時に何をすべきかを察知する。
「エル・アムダルト・リ・エルス」
「させるか!!」
「ア・ダルス・ディ・ラム・ディネイド!!」
ヴゥンッ!!
バチチチチチチチチチッ!!!
「ちぃっ!!」
「…カルティエ・ディ・ルテ・エル・アダファリア…」
伊吹の強固な障壁によって、雄真への攻撃が寸前で食い止められた。
尚も続く雄真の詠唱に対して新橋は歯軋りする。
「ったく、面倒くせー」
新橋が一度髪を掻き揚げ、
「レイ・ワイナル・エキスタス」
詠唱し始めたところを、
「リース・ウェンペティア!!」
放たれた雄真の風の魔法球が直撃した。
風の魔法で辺りに強風が巻き荒れる中、雄真が伊吹に向かって叫んだ。
「どうだ?!」
「雷は風に弱い。
この距離で食らえば普通は耐えられぬだろうが――――――」
ズンッ!!
「がぁっ?!」
『マスター!!』
雄真と伊吹の会話に割り込むかのように、新橋は一瞬で雄真の腹をその拳で捉えた。
バチチチチチチチチッ!!!!
「ぐああああああああああっ?!」
身体強化された拳の衝撃と共に、
雷のフル・アーマーの付加能力である電撃が、雄真を襲った。
同時に新橋は、雄真のワンド・クリスを蹴り飛ばした。
バチィッ!!
『きゃあ!!』
「雄真?!」
ドサッ
「うざってぇガキだったぜ」
成す術なく崩れ落ちる雄真を見下ろしながら呟く。
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
ヴン!!
咆哮する伊吹に対して一瞬で距離を詰める。
いや、これは――――――。
ガッ!!
気が付けば、伊吹は新橋に正面から顔を掴まれていた。
「……ワープ?! …転移魔法まで使えたのか!!」
「読みは良いが、詰めが甘い。
咆哮するくらいなら詠唱するんだったな」
新橋が手に力を込めた。
『伊吹様!!』
「うっせぇよ、ワンドの分際で」
バチィ!!
『くぅ!!』
ビサイムが新橋の魔法で吹っ飛ぶ。
「よくも――――――」
「あぁあぁ。もう黙れ」
―――――――――『エレクトリック・ダイブ』発動―――――――――
バシィィィン!!
ダランッと伊吹の腕から力が抜ける。
干渉完了。後は欲しい情報を抜くだけだ。
(………勝った)
新橋は勝利を確信しながら、欲しい情報を口にした。
「さて、転移魔法陣の鍵を解く詠唱を教えな」
励みになります。
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Leica
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