『私の、私にしかできない。もう1つの特異能力についてです』
その言葉を聞いて、雄真は固まった。
「もう1つ? 得意属性が違うだけじゃなくて?」
『はい。そしてそれを遥かに凌ぐと自負しています。
それは――――――』
「それは?」
『魔法の“チャージ”ができるということです』
「チャージ? 溜めるってことか?」
『そうです。予め雄真さんに呪文詠唱してもらい、
その発現前に、私の……。そうですね“魔法格納庫”とでも呼びましょうか。
そこに魔法を溜めこみ、必要に応じて解放します。
解放時に詠唱は必要ありません。
ただ、解放は私の意志によるものなので、
詠唱の最後のキーくらいは詠んでもらわねば分かりませんが』
「え? じゃあ、例えば俺が『ファイナス』をチャージすれば、
後は好きなタイミングで俺が頼めば、お前が発現してくれるのか?」
『そうです。雄真さんが『ファイナス』を発現したいとき、
『雄真炎弾!!』と叫んでくれれば、発現しましょう』
「いや、そこは普通に『ファイナス』でいこう」
『そうですか。残念です』
「へ?」
『いえ、冗談です。これは云わば“魔法発現の前払い”です。
発現を後回しにするというだけで、詠唱段階で魔力はもう消費されます。
これは後に発現しようがしまいが絶対です。
ですので、別に魔力なしでできる技というわけではありません。
また、一回の“チャージ”につき、当然発現も一回までです。
ですから、『ファイナス』を二回この方法で扱いたければ、二発分“チャージ”する必要があります』
「なるほどな。でも、それでもこの能力は凄い。
先に“チャージ”さえしておけば、実戦の最中ではほぼ詠唱なしで発現できるということだ」
『そうです。これは雄真さんが今鍛えている『遅延呪文』の強化版ともいえるでしょう。
ですから、まだお教えしたくはなかったのです。
こちらの能力に、頼り過ぎないようにと』
「そっか。でも大丈夫さ。この能力を知ったからって、自分の鍛錬を疎かにしたりはしない」
『…そう言ってくれるとは思ってました。
ですが気を付けてくださいね。
先ほども言いましたが、魔力は前払いです。
実戦でやっぱり使わない、となっても、一度“チャージ”した魔力はお返しできません』
「何でもかんでも“チャージ”すればいいってわけでもないんだな」
『その通り。そして、私が“魔法格納庫”に魔法を待機させておけるのは、約15分です。
この数字は今後、私が成長したとしても伸びないでしょう。
魔法を発現一歩手前の状態で待機させておくのは、意外と大変なのです。
しかし、どれほどの威力の魔法を、どれだけの数“チャージ”するかによって、
維持時間は当然変動します。こちらの変動値については、成長によって多少マシにはできるでしょうが』
「じゃあ、ClassAの攻撃魔法2発。身体強化2回。障壁9枚と結界1回なら?」
『ふふふ。今の雄真さんの魔法なら、その程度は余裕ですよ。
何せ私は秘宝を媒体としてますからね』
「じゃあ、ClassAを4発に―――」
『駄目です』
「なんで?」
『言ったはずです。“前払い”だと。
既に一戦交えている今の貴方がそれ程の魔力をここで消費してしまうと、
肝心の実戦でガス欠になってしまうでしょう』
「3発なら?」
『………いいでしょう。その代わり、
“チャージ”魔法で倒せないと判断したら、私は結界を勝手に発動させます。
ビサイムさんの緊急信号によって、直に皆が秘宝の元へと集まってくるでしょう。
それまで待機してもらいますからね』
「わかった。で、どうすればいい?」
『“チャージ”処理はこちらで行います。順番に詠唱を始めて下さい』
「オッケー。いくぞ…」
Happiness story『小日向雄真の夏休み戦争』
Magic14.“チャージ”
「アダファルス!!」
ドガガガガガガガガガガガッ!!!
「ディア・ダ・オル・アムレギウス!!」
それは一瞬の出来事だった。
小雪・春姫・杏璃と戦っていた魔法使い三人は、
どこからともなく現れた炎の矢の嵐によって強襲され、
次の瞬間には光の拘束魔法で戦闘不能に陥っていた。
「御薙先生!!」
「た、助かったー」
既に満身創痍で戦っていた為、戦いが早めに終わったのは救いだった。
このまま現状維持が続いていれば、押し切られていたであろう。
鈴莉が援軍に来てくれたことに、春姫と杏璃が安堵の吐息を漏らす。
対して小雪の顔は、険しいままだった。
「……作戦が違うようですが、何かあったのですか?」
「ええ。緊急事態よ。もしかすると、新橋恭介は既に転移魔法の近くにいるのかも…」
「ええ?!」
「み、御薙先生の研究室にある鍵が必要なんじゃないんですか?!」
驚きの声を上げる杏璃の横で、春姫はそう問うた。
対して鈴莉は首を横に振る。
「……いいえ。こちらのミスよ。
私の研究所に来なくても、鍵を手に入れる方法がある」
「……私か、伊吹さん。というわけですね?」
「そうよ」
「ちょ、ちょっとどういうこと?」
首を傾げた杏璃に、小雪が答えた。
「今回の主犯、新橋恭介は相手の思考を読むという能力を持っています。
つまり、直接御薙先生の研究室へ行かなくても鍵を手に入れられたということ。
知っているのは私の母・ゆずはと御薙先生。それから私と伊吹さんです」
「じゃ、じゃあ…それって」
パン!!!
「?!」
遠くで魔法の花火が上がった。
その付近には転移魔法陣の祠がある。
「…急ぎましょう!!」
それは、転移魔法陣が発動された時に上げるとしていた、
伊吹のワンド・ビサイムからによるものだった。
「レム・ラダス・アガナトス!!」
ズァァァァァァッ!!
突如発生した魔力の渦にのみ込まれた魔法使いたちが、
何の抵抗もなく地面に叩き付けられる。
「ゆずは殿!!」
「助かりました」
苦戦を強いられていた上条兄妹が、ゆずはに駆け寄った。
「しかしどうされたのです?
御薙先生の研究室の守護は…?」
「私たちは新橋恭介に嵌められた可能性があります。
彼は研究室の方には顔を出しませんでした」
「? なぜだ? 転移魔法を諦めたという事か?」
「違います。おそらく、私たちとの対決を避け、
直接情報を抜き取ることにしたのでしょう」
「…抜き取る?」
沙耶の疑問に信哉の顔が強張った。
「い、伊吹様か!!」
「そう、もしくはうちの小雪か…。ともかく――――――」
パンッ
ゆずはの言葉を遮るかのように、ビサイムからの緊急信号が上がった。
「?! まずい!! いくぞ沙耶!!」
「はい、兄様!! それではゆずは様、失礼します!!」
上条兄妹は合図と同時に駆け出した。
一人取り残されたゆずはは―――――――――。
「ちょっと?! 私も行きますよ!!」
慌ててその後に続いた。
『…天蓋魔法、ですか。
一度も成功していないあの魔法を、
この場で使うというのはあまりお勧めできませんが…』
「…止めるのか?」
『止めても無駄なんでしょう?』
「はは、分かってるじゃないか」
「何笑ってやがる!!!」
雄真とクリスとの会話に、新橋が割り込んできた。
「てめぇ、いったいどんな手を使いやがった!!
あれだけの魔力を消費して、なぜまだこれほどの余力がある?!」
雄真は新橋に向き直りながら、クリスに話しかけた。
「詠唱中、あいつが襲ってきたら“チャージ”から障壁を発動してくれ。
たぶんお前の独自詠唱による障壁じゃあ耐えられない」
『分かりました。後は必要に応じてこちらで身体強化を掛けましょう。
確認しておきますが“チャージ”に残っているのは、
『ウェンペティア』『ウィンズ』が一回に『アムレスト』9枚ですからね』
「ああ。分かってる。勝つぞ、クリス!!」
『分かりました。いつでもどうぞ』
「てめぇら!! 俺の質問に――――――」
「エル・アムダルト・リ・エルス」
雄真は新橋を完全に無視して詠唱を開始した。
「この野郎!! させるか!!」
バチィッ!!!
それを見た新橋が、掛かっていた身体強化で跳躍し雄真に襲い掛かる。
あと少しで手が届く、というところで、
『アムレスト!!!』
クリスによって、“チャージ”されていた障壁9枚が瞬時に形成される。
バチチチチチチチチチチィッ!!!
バキンッ バキンッ バキンッ!!!
「…カルティエ・ディ・ルテ・エル…」
「くそっ!!」
3枚は破壊できたものの、残り6枚の障壁によって阻まれ、
新橋の攻撃が止まる。その間に雄真の詠唱が完了した。
「アダファルス!!!」
高く。高く。
天へと向けて手のひらを伸ばす。
詠唱キーは、初めに習った魔法球のもの。
春姫との思い出のもの。
温かい光をもたらすもの。
それでも。
膨大な魔力が練り込む事ができれば。
操り方を覚えれば。
継続的な供給ができるようになれば。
――――――全く別の魔法を発現する事ができるようになる。
ヴゥゥゥゥゥゥン!!!!!
魔法発現時、特有の音が鳴り響く。
六芒星が描かれ、周りを魔力のリングが幾重にも覆う。
式守の秘宝により空気に充満する濃い魔力が、その存在の力強さに拍車をかけている。
圧倒的な存在感が、そこにはあった。
選ばれし者にしか到達できない、ClassAへの入口。
天蓋魔法。
雄真の頭上には眩い光を放つ魔法陣が発現された。
「てっ………! 天蓋……魔法だとっ?!」
驚愕する新橋に向けて、雄真は最後の警告を放った。
「降参するなら、受け付けるが?」
「ふざけっ――――――」
「アダファルス!!!」
新橋が拒否の言葉を言い切る前に、雄真は天蓋魔法を発動させた。
「レイ・ファクタス!!!」
ドガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!
天蓋魔法から降り注ぐ火の矢を、新橋が咄嗟に詠唱した10枚の障壁が受ける。
「この程度で!! この俺が負けるかぁぁぁぁ!!!!」
「クリス!!」
ドンッ!!!
雄真の呼びかけの意図に気付いたクリスが、
“チャージ”から身体強化『ウィンズ』を発動させた。
自身の天蓋魔法からの攻撃をも掻い潜り、
雄真は正面に障壁を構えて天蓋魔法からの攻撃を耐えている、
新橋の無防備な背中へと回り込んだ。
「これで終わりだ!!!」
その声を聞き、新橋が振り返ろうとしたところで、
「ウェンペティア!!!」
雄真のClassA・風系魔法『ウェンペティア』が解き放たれた。
ドサッ!!!
音を立てて雄真が崩れ落ちる。
受け身もとれずにそのまま倒れたが、身動きが取れない。
無理な体の酷使に加え、今まで使用したことのない量の魔力を一気に消費したせいで、
体が付いていけていないらしい。
拒否する体に鞭打ち、雄真は視線を前に持っていく。
そこにはピクリとも動かない新橋恭介が、大の字に倒れている姿があった。
「………か、勝った……のか?」
『ええ。勝ちましたよ』
絞り出した声に、クリスが反応する。
『もう鈴莉さんたちも駆けつける頃です。
秘宝は、守られました』
秘宝を守れた。その事実に雄真は、体の力が抜けるのを感じた。
今回は、誰も犠牲にならずに済んだ。
雄真はその事実で胸がいっぱいになった。
「…………そっか。
……………よかっ――――――」
気を失ってしまったらしい。それ以上の言葉は紡がれなかった。
それを見て、クリスはふっと笑う。
『お疲れ様でした。雄真さん。
私は貴方が私のマスターであることを、誇りに思います』
クリスは、遠くから聞こえてくる慌ただしい足音に耳を傾けながら、
目の前でぐっすりと眠る雄真にそう呟いた。
優雅なクラッシックが流れる。
窓に目を向ければ美しい夜景が飛び込んでくる。
ここは京都。ミタカ・コーポレーション本社。
その最上階にある社長室にて、ミタカ・コーポレーション社長・三鷹康則(みたかやすのり)は
忙しげに設置してある電話を見つめた。
この最上級の部屋にはとても似合わない挙動不審ぶりだが、
本人はまったく気付いていない。むしろ、今は人の目を気にしていられるような心境ではないのだ。
ミタカ・コーポレーションが裏で結んだ契約。
その相手方である新橋恭介から結果報告の電話がある時間。
指定された時間にきちんと電話に出られるよう、決められた時間の1時間も前から社長室に閉じ籠りっぱなしだったが、
もう既に約束していた時間は過ぎてしまっていた。
おかしい。こちらからかけてみるか? と考えたところで、
コンコン
とノックの音がした。
少しドキッとさせられてしまったが、何とか平静を取り戻し、扉の外の者に声を掛けた。
「入りたまえ」
「し、失礼します」
慌てた様子で秘書が扉を開ける。何時もと違う様子に、
社長席に腰掛けていた三鷹康則は眉をしかめた。
「どうした?」
「あ、あのお客様が社長にお会いしたいと」
「……アポもなしにか?
いったい何処の誰かね」
今はそれどころじゃないんだ! と言いたい気持ちを何とか飲み込み、
あたかも無礼な輩め、という雰囲気で問うた。
そんな社長の質問に対して、秘書は恐々と答えた。
「そ、それが…。
神威家当主・神威玄(かむいげん)様と、
日本魔法協議会員の三島誠司(みしませいじ)と名乗る方なのですが…」
バササササッ
デスクから書類が崩れ落ちた。電話は沈黙を守ったままだ。
三鷹康則は理解した。
新橋恭介が失敗したのだと。
そして瞬時に理解した。
自分の決断も、間違っていたのだと。
三鷹康則は呻くように、二人の入室を許可した。
励みになります。
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Leica
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