プルルルルルルルルル
プルルルルルルルルル
プルルッ ピッ

「もしもし」

『僕です。三島誠司です』

「あら、誠司君。お疲れ様。
 どうしたの?」

『用件はお判りでしょう?
 本日、ミタカ・コーポレーション社長の三鷹康則を逮捕しました。
 そのご報告です』

「あら、流石ね。早い対応だわ」

『…まったく、これっきりにして下さいよ?
 日本魔法協議会にだって領分というものがあるんです。
 西日本は僕のところの管轄じゃないんですから』

「仕方ないでしょ?
 あんな曖昧な情報だけで協議会そのものに働きかけなんてできっこないんだから。
 あるコネは使わないと。それにそちらにもメリットはあったはずよ?
 なにせお宅のデータバンクがハッキングされていたんだから」

『……まぁ、その通りなのですが』

「ふふ。というわけで、ちゃんと約束通りの時間にこちらに来て頂戴ね?
 封印の件は、まだ片付いていないんだから」

『……本当に人使い荒いですね』

「あらぁ? ちょっとよく聞こえなかったわ。
 そもそもそっちが情報を漏えいするような失態を犯さなければ、
 こんな大事にはならなかったのよ?
 それを踏まえて、もう一度良く考え、返答なさい?
 時間通りに、来て頂戴ね?」

『もちろんです。鈴莉先生』

「よろしい」

 即答する元教え子に対して、鈴莉は満足そうに頷いた。
受話器越しに苦笑する声と「変わらないですね」という言葉が聞こえたが、
向こうも直ぐに話題を切り替えた。

『あと、一点。お話ししておきたいことが』

「何かしら?」

『三鷹康則から聞き出した情報なのですが、
 新橋恭介はもともとミタカ・コーポレーションの
 社員では無かったようなのです』

「でしょうね。禁呪、魔法レベル含め並大抵の術者ではなかったのだから」

『その男を倒したという貴方の息子さんとは、
 ぜひ一度、ゆっくりとお話しさせて頂きたいものです』

「ふふふ。自慢の息子ですから。
 で? その新橋恭介という男は、いったいどこの誰だったの?」

『はい。これはまだ不確かな情報なのですが、
 おそらくその男は――――――』

 三島誠司の言った言葉に、鈴莉は思わず声を失った。






Happiness story『小日向雄真の夏休み戦争』

Magic15.神威一族の訪問






「……ここは」

 目が覚めると、白い天井が見えた。
しかし、病院というわけではなさそうだ。
片付けが悪いわけではないが、少し乱雑そうに置かれた部屋の物たちが、
病院ではなく、個人のプライベートな空間であると伝えてくれた。
ぎこちない動きで起き上がろうとしていると、頭元から声が掛かった。

『お目覚めですか? 雄真さん』

「クリスか…?」

『そうです。貴方のワンド。クリスです』

 雄真はまだ覚醒しきれていない頭のまま、
ベッドに座り、クリスを持ち上げた。

「ここはどこ?」

『……記憶喪失、ではないですよね。私の名を呼びましたし。
 ここは鈴莉さんの研究室の奥。鈴莉さんの簡易居住スペースです』

「母さんの? それって――――――」

ガチャリ

 雄真の言葉を遮るかのように扉が開く。
そちらに目をやると、花瓶の水を代えて来たところだったのか、
花瓶を持って入室してくる春姫と目が合った。
お互いに硬直する。

「えと」

「…………」

 何か言葉を探そうとするものの、何を言ったらいいのかが分からない。
春姫は花瓶を持ったままピクリとも動こうとしない。
いや、徐々に目が見開かれていってはいるのだが。

「お、おはよう?」

「雄真くん!!!!」

ガシャンッ!!!

 春姫が花瓶を取り落とし、雄真に飛びついた。

「ぐはっ!!」

 無抵抗のままタックルを受け、二人で布団へと沈む。

「ちょ、ちょっと?! 春姫さん?!」

「雄真くん!! 良かったよ――――――!!!」

ぎゅうううううううううううううう

「ぐるじい…。ぐるじいでず…。たすけ―――――――――」

「雄真くん!! 雄真く――――――」

「あ――――――っ!!!!
 何抱き着いてんのよ!! 春姫!!!」

 杏璃を先頭にして、慌ただしくあの時共に戦ったメンバーが入ってくる。

「ち、違うの?! 杏璃ちゃん、これはね…?!」

「違わないわよ!! アンタ、雄真の転科試験の時も抱き付いてたらしいじゃない!!」

「雄真殿!! 目が覚めたか!!」

「小日向さん、お体は大丈夫ですか?!」

「ふふふ。流石は私の雄真さんですね」

「おい、小雪。何時から雄真がそなたの物になった」

 わいわいがやがやと、雄真の隣でおっぱじめる。

(う、うるせー)

 と思ったところで、

パンパンッ

 と手の鳴る音がした。

「皆? 雄真君を心配してくれるのは嬉しいけど、
 あまり騒がないで頂戴ね?」

 鈴莉がゆっくりと姿を現した。
しかも何時の間に魔法を発動したのか、
春姫が取り落した花瓶は完全に修復され、机の上に置いてあった。

「母さん」

「おはよう、雄真君。
 とは言えもう夕方なのだけれど」

「………夕方?
 俺は今まで…………。
 あっ?! し、式守の秘宝は?!」

「無事よ。貴方のおかげだわ。
 秘宝の封印は無事に終了しています」

「よ、良かった。そうか。
 俺、半日くらい寝ちゃってたんだな」

「違うわ」

「ん?」

「貴方が式守の秘宝の場で気絶したのは3日前。
 秘宝の封印に着手したのは2日前。
 完了したのが昨日。
 で、貴方が目を覚ましたのが今日よ」

「…………へ?」

『流石に心配しました。
 ずっと眠りっぱなしでしたので』

「うそぉ……」

 雄真が驚きの声を上げていると、春姫がおずおずと口を挟んだ。

「……えっとね?
 すももちゃん、すっごく怒ってたみたいだから、あとで電話してあげてね?」

「………すももが? なんで?」

「アンタ、何も言わずに3泊も外泊してんのよ?
 心配するに決まってるじゃない」

「不可抗力でしょ?!」

 雄真が叫ぶ。すると鈴莉が笑いながらこうのたまった。

「雄真君がどうしても私と一緒に寝たいって言うから、
 仕方なく泊めることにしたって伝えといたわ。音羽に」

「ちょっと?!」

コンコン

「盛り上がってるところ、失礼するわね?」

 ぎゃーぎゃー騒いでいるところへ、ゆずはが入ってきた。

「鈴莉。今、相手方が瑞穂坂に入ったって連絡があったわ。
 そして、やっぱり本当だったみたいよ。
 相手方は雄真君の同席を望んでる」

「………そう」

 鈴莉はその言葉に対して、一言で答えた。

「…同席? 何の話ですか?」

 雄真の代わりに春姫が問う。
ゆずはは春姫ではなく、雄真を見つめてこう言った。

「七賢人が一角。神威家当主・神威玄並びに、
 次期当主・神威信(かむいしん)。その妹・神威空(そら)。
 その三方が、今回の事件の謝罪にと、貴方の同席を望んでいます。
 いいタイミングで目を覚ましましたね」

「…………」

「し、しちけんじんって………。
 あの七賢人?! 伊吹と同格の超名家じゃない!!!」

 呆然とする雄真の代わりに、杏璃が叫んだ。

「そう。日本七大名家の一つ。
 あの七賢人です。そしてその中の“炎の加護を受けし一族”。
 お会いしたいと言っているのは、その神威一族のトップ3ですね」

「…………」

『ゆ、雄真さん?』

「俺?! 俺に会いたいの?! なんで?!」

 クリスの声で急に現実に呼び戻されたらしい雄真が叫ぶ。
その質問に対して、鈴莉が苦笑しながら答えた。

「なんでって…。
 今回の騒動の主犯・新橋恭介が名乗ったミタカ・コーポレーションの本社が、
 その神威一族の統治する京都にあるの。だから、この騒動の結末もしっかりと知っている。
 “貴方が”新橋恭介の野望を打ち砕いたこともね」

「その通りだ。雄真。
 今回は醜態を晒してしまったな。
 式守家次期当主として情けない結果となってしまった。
 そなたには本当に感謝してもしきれぬ恩が、また一つ増えてしまったということだ」

「礼を言う。雄真殿。
 俺の不祥事から始まったこの事件。
 雄真殿のお蔭で大事には至らずに済んだ。
 ありがとう」

「私からもお礼を言わせて下さい。
 秘宝を守護して下さったこと。
 そして伊吹様をお守り頂いたことを。
 本当にありがとうございました」

「いやいや、別に大したことしてないって!!」

 いきなり頭を下げだす面々に、雄真は逆に恐縮してしまった。

「流石だな!! 雄真殿!!
 広い、広すぎる心を持っている!!
 あれだけの偉業を成し遂げておいて、それに慢心せぬとは!!
 流石はいぶk――――――ぶぼぉ!!!」

「お静かに願います。兄様」

 音も無く、沙耶のサンバッハが信哉の顔面を捉えた。

(……沙耶ちゃんがあの場にいれば、新橋も瞬殺できたんじゃないだろうか)

 不吉な考えが頭を過ぎったが、すぐに打ち消した。
それ以上に大事な事を聞いたからだ。

「………で。その神威さんたちが来るのはいつなの?」

「そろそろよ」

「は?」

「さっき瑞穂坂に入ったって連絡があったから」

「ちょっと!! まずいでしょ!!
 まだ何の準備もできてないけど!!」

「大丈夫よ。音羽から貴方の制服を預かってるから。
 こういった場の正装なら、学校の制服で十分よ。
 まだ、もう少しだけ時間があるから、着替えたら軽く口に入れておきなさい。
 ほぼ3日、何も食べてないんだから」

「わ、わかった」

「じゃあ、神坂さんに柊さんは悪いんだけどここまでね。
 雄真君には、また明日以降、会いに来てもらって構わないから」

「わかりました。それじゃあね、雄真くん」

「じゃあね、雄真。しっかりやりなさいよ」

「おぉ……」

 春姫と杏璃が部屋から出ていく。それに弱々しく答えた。

「では、我々も外に出ているとしようか。
 着替えるのだろうからな」

「そうしましょうか」

「……あれ? 伊吹や小雪さんは一緒に来るんですか?」

「無論だ。私は神威と同じく七賢人の一族。
 小雪は戦場になったこの学園の理事長の娘。
 同席しても不思議ではないだろう?」

「た、確かに」

「雄真さん。軽く体を動かしておいた方がいいですよ?
 3日も寝ていたのです。固まってしまっているでしょう」

「そうですね。ありがとうございます」

「では、失礼する」

「失礼しました」

 伊吹、小雪、信哉、沙耶が退出したところで、
鈴莉とゆずはが改めて雄真に向き直った。

「雄真君。よく頑張ってくれたわね。
 肝心な時に助けてあげられなくてごめんなさい。
 貴方には、本当に感謝してるわ」

「雄真君、本当にありがとうございました。
 式守の秘宝が公になる事なく、無事に封印ができたのは貴方のおかげです」

 二人揃って頭を下げる。

「………いえ。俺一人の力じゃないですから。
 皆がそれぞれの立場で頑張っていたんです。
 だから俺も、俺にしかできない事をした。それだけですから。
 誰のおかげかと言えば、皆のおかげですよ」

「あらあら。まったく今時の青年にはない謙虚さですね。
 とてもあの鈴莉の子とは思えませんわ」

「……ゆずは? それはどういう意味かしら」

「ところで雄真君。
 貴方のワンド。クリスさんから聞きましたよ。
 どうやら天蓋魔法を発現できたようですね?」

 鈴莉からの怒気を軽く流したゆずはは、ふと思い出したかのようにそう問うた。

「え? ええ。まぁ、一応は」

「それに眠っていた魔力の一部を引き出せたそうじゃない。
 おそらく、もうClassAは合格圏内にいるわね。
 9月のClass試験はAを受けなさい」

「え? …………ええ?!」

「まぁ、駄洒落ですか?」

「違います!! Aって…。
 それに引き出せた魔力って、一部なの?」

 雄真はゆずはからの質問を瞬時に切り捨て、鈴莉を向いた。
「…雄真君、いけずです」という呟きは聞こえなかったことにする。

「ええ。そうよ。まだ全開には至ってないわね。
 秘宝事件の際に50%。今回で60%〜70%位までは引き出せるようになったかしら?
 でも、まだその程度よ。本来、貴方が自分の持つ魔力を全部引き出せたのなら、
 今回の戦闘程度で魔力が尽きて気絶、なんてありえないんだから」

「………そ、そうなんだ」

 何だその魔力容量は、と雄真は自分につっこみたくなった。

「とにかく、ここに着替えと…。
 携帯食料と飲み物置いておくから、準備して頂戴」

「わかった」

「では、雄真君。後ほど」

「はい」

パタン

 扉が閉められる。
雄真は制服に手を伸ばした。

「俺、そんなお偉いさんが来ても、話すことなんてないぞ」

『今回は相手方からの謝罪ということですので、
 基本的にこちらから話すことはないんじゃないですか?』

「そんなもんかな?」

『はい。まぁ、あっても事実確認とか、そういった類のものでしょう。
 大丈夫です。悪い事をしたわけではないんですから。
 堂々と同席すればいいのですよ』

「ん。そうだな。さんきゅ、クリス。
 ちょっと気が軽くなったよ」

『いえいえ』






 鈴莉から用意された飲み物と携帯食料を平らげ、
部屋でリハビリまがいの事をやっていると、鈴莉が部屋に入ってきた。

「調子はどうかしら?」

「ん。もう大丈夫だよ。
 若干、体が動かし辛いんだけど、その程度」

「久しぶりに動かすのだから、しょうがないかもしれないわね。
 もうお客様は理事長室に見えているの。
 雄真君さえよければ同席してもらおうと思っているのだけれど?」

「平気だよ。行く」

「ふふふ。そう言ってくれると思っていたわ。
 どうする? 重力魔法で歩きやすいようにしてあげてもいいけど」

「そこまでじゃないから平気さ」

「そう? あまり無理はしちゃ駄目よ?
 では、行きましょうか」

「わかった」






 鈴莉と並んで廊下を歩く。
鈴莉の簡易居住スペースは、魔法科校舎3階の研究室の奥。
理事長室はその一つ上の4階にある。
従って然したる苦労もなく、その扉の前に辿り着いた。

「緊張してるの?」

「そりゃあ、ね。本来ならば会うはずのない人だから」

「それもそうね。けど、大丈夫よ。
 神威家のあの三人は、とても良い人たちだから」

「会ったことあるの?」

「もちろん。魔法弁論会や研究発表の時にもお会いしてるわ」

「な、なるほど」

 よく考えてみれば、家柄としては名家には入らないが、
研究者としては凄く名を馳せている鈴莉だ。
面識があるのはある種当然かもしれない、と雄真は思った。

「いいわね?」

「う、うん」

 軽くどもりながら肯定する雄真に苦笑しながら、鈴莉は理事長室の扉を叩いた。

コンコン

「鈴莉です」

「入って頂戴?」




ガチャ

 音を立てて、理事長室の扉が開かれた。



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                      Leica

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