「失礼します。
 小日向雄真を連れてまいりました」

 そう言って理事長室に入る鈴莉に続き、雄真も扉をくぐる。
中には―――――――――。

 来客用のソファーには、男女含め計7人が皆起立してこちらを見ていた。
式守家当主・式守護国。次期当主・式守伊吹。
瑞穂坂学園理事長・高峰ゆずは。その娘・高峰小雪。

 そして、対面に立っている人たちが神威家の者なのだろう。
見た目はかなり若く見える。40に満たない位だろう。
その長い黒髪にスーツを着込んだ、とても厳格そうな男性を中心として、
左右に顔立ちの整った綺麗な男女が並んでいる。

 二人とも年は同じくらいなのだろうか? 二人とも黒髪にスーツ。
男性の方は、自分より若干大人びて見える。
中央の男性と違うのは、髪が長髪ではなく短いところくらいだ。
顔立ちもどこか似ているところがあり、
成長すればいずれは中央の男性のようになるのだろう、ということを伺わせる。
女性の方は、中央の男性と同じく長髪。流れるような黒髪を腰付近まで伸ばしている。
スタイルも良く、艶やかという言葉がしっくりくる。

 そんな風に考えながら、その三人を見つめていた雄真に、向こうから声がかかった。

「初めまして。私は神威家の現当主・神威玄だ。
 こちらは私の子。信と空だ。
 よろしくね、小日向君」

「神威信です。よろしく」

「神威空と申します。よろしくお願い致します」

「あ、こちらこそ。
 小日向雄真といいます。
 よろしくお願いします」

 少し声が震えてしまったが、向こうは特に気に留めなかった。






Happiness story『小日向雄真の夏休み戦争』

Magic16.信と空







「では、雄真君。こちらへどうぞ?」

 ゆずはが近くに寄るように示す。
それに乗じて、伊吹と小雪がソファーから離れ、席を譲った。

「え?」

「そなたが主役なのだ。そのような隅にいてどうする」

「どうぞ? 雄真さん」

「し、失礼します」

 伊吹と小雪に促され、雄真は来客用ソファーに近づいた。

「雄真君、ここへ」

 護国に招かれ、隣に立つ。その後ろに鈴莉が付いた。
構図としては、扉に近い側から雄真、護国、ゆずは。
それぞれの後ろに、鈴莉、伊吹、小雪が付いた形となる。

「信さん、空さん。お下がりにならなくて結構ですよ?
 これは公式の場ではないのです。
 どうか玄さんと共に御着席下さい」

 伊吹と小雪が席の後ろに回ったのを見て、
それに倣おうとしていた神威兄妹を、ゆずはが引き止める。

「お心遣いありがとうございます。
 しかし、公式の場でないからこそ、ですよ。
 信。空」

 兄妹はゆずはに一礼して、席の後ろに回り込んだ。

「ふふふ。相変わらず厳格なのですね?」

「そちらの次期当主たちがお立ちになっているのに、
 こちらが倣わないはずはありませんよ。
 特に、今回は客として招かれているわけではないのですから」

 そう言って、玄は笑みを浮かべていた顔を正した。

「では、御着席下さい」

 ゆずはの声で、後ろに立つ者以外が席に着く。
(雄真はワンテンポ遅れた)
皆が着席したことを確認し、さっそく玄が切り出した。

「この度は、私どもの地方から、このような狼藉を働く輩が出てしまった事に対して、
 深くお詫び申し上げる。大変失礼をした」

 その言葉に倣って、後ろに控えていた兄妹も頭を下げた。

「顔をお上げ下さい。
 大事には至りませんでしたし、
 秘石の件も公にならずに済んだのは、幸いと言えるでしょう。
 事実上、実害はなしです」

「秘石の封印は既に完了した。
 今後このような事はもうあるまい。
 龍脈から直接魔力を抽出して紡がれた封印魔法だ。
 二度と目覚めることはないだろう」

 玄の言葉に、ゆずはと護国が答える。

「感謝する。
 君にもだ。小日向雄真君。
 今回の主犯を止めてくれたそうじゃないか」

「いえ、きょ、恐縮です」

 自分でも何が言いたいのか分からなかった。
おろおろした声で絞り出せたのは、それだけだった。

「そんなに固くならないで欲しい。
 こちらはお礼がしたいだけだからね。
 小日向君は、御薙さんのご子息だとか?」

「は、はい」

「流石は御薙さんと言ったところか。
 良い青年に成長されていますな」

「ありがとうございます」

 雄真に代わり、鈴莉がお礼を述べた。

「それにしても、あの男を止めたというのは素晴らしい。
 君のClassはいくつなのかな?」

「も、持ってません」

「………なんだって?」

「彼はClass試験を受けたことがございません。
 よって、彼の魔法使いとしての公式記録は未だ0です」

 横からゆずはが助け船を出してくれた。

「ふふふふふ。
 なるほど、それは面白い。
 ますます興味をそそられる魔法使いだね。
 今回の騒動が、式守家による決着と報道された真意が、
 何となく見えた気がするよ」

 無言で護国は、頭を下げた。

「いや、済まない。悪い意味で言ったわけじゃないんだ。
 誤解はしないでくれよ?
 ところで小日向君」

「は、はい」

「こちらとしては、君に是非お礼がしたい。
 何かないかな?」

「お、お礼………ですか」

「そう。今回の騒動が君のおかげで収まったという事は知っている。
 だから、何でも言ってくれたまえ。
 こちらも可能な限り、君の願いを実現しよう」

 真っ直ぐな目で見つめてくる玄に対して、雄真はおずおずと告げた。

「え、えと…。結構です」

「ほう?」

「おれ―――いや、私は、そういった事のために戦ったわけではありませんから」

 玄は雄真の回答に興味を示したかのように重ねて問うた。

「では、何のために?」

「伊吹の為に。母さん、いや御薙の為に。
 友達や実の親が苦しんでいるのを見れば、助けたくなるのは当然だと思います。
 だから、私は。自分にできることをやりました。
 それがたまたまこの結果となっただけです」

 真っ直ぐに、そう返した。
それを聞いて、玄はとても穏やかな顔をした。

「ははは。とても真っ直ぐな男だね。君は。
 とてもいい。私は君が気に入ったよ。
 お礼の件は保留という事にしておこうか。
 何かあれば、我々神威家に言うといい。
 力になれるだろう」

「あ、ありがとうございます」

 その雄真からの言葉に頷くと、玄はゆずはに目を向けた。
ゆずははその意味するところを理解し、立ち上がる。

「では、ここまでといたしましょうか。
 雄真君、ちょっとここからは大人同士での話し合いがありますので。
 小雪に伊吹さん。それから信さん、空さんも。少し席を外して頂けるかしら」

「わかりました」

「うむ、雄真。行くぞ」

「し、失礼します」

 そう言って、雄真は伊吹に引かれながら、小雪と共に理事長室を出る。
それに神威兄妹が続いた。

「少し時間を潰さなければなりませんね。
 Oasisにでも行きましょうか」

「そうだな。雄真は、まぁ当然として。
 信、空。そなたたちも行かぬか?
 少し茶でもしよう」

「と、当然なのか」

「そうだな。お供させて貰おう」

「ご一緒させて頂きます」

 こうして、空いた5人はOasisへと足を向けた。






「さて、行ったようですね」

 ゆずはは外の気配を伺うのを止めて、ソファーに戻った。

「それで、彼らには話さないので?」

 玄の言葉に、ゆずは含め鈴莉も護国も頷いた。

「世間一般には、今回の事件の全貌は伝わりません。3日前より報道されている、
 『ミタカ・コーポレーション社員・新橋恭介、学園への不法侵入及び無差別暴行により逮捕』
 以上の事は流れないでしょう。これは日本魔法協議会が圧力を加えている事なので、絶対です。
 そして、その指揮を執ったのが式守家である、というところまで知ることができても、それ以上は闇の中。
 あの子たちは、知らなくてもいい事です」

「…そちらの方針に口出しできる立場ではないので、無理強いはできない。
 が、知っておいた方がいい事でもある。
 新橋恭介が何者かであることくらいは」

「本当に知りたければ、自分たちで調べるでしょう。
 あの子たちの手には、公に知らされていないピースがいくつか握られているのです。
 日本魔法協議会の中枢へアクセスできてしまうハッキングツール。
 及び禁呪『エレクトリック・ダイブ』を扱う術者。そして、その発動を補佐する専用のマジックアイテム。
 そんな門外不出なものをいとも簡単に手にし、使用できる組織はただ1つしかない」

 ゆずはが言葉を切ったのを見て、玄は頷いた。

「国際指名手配犯が集う、悪魔の組織『toy box』。
 まさか新橋恭介と名乗る男が、そこの構成員だということには驚かされたがな」

 玄は頷きながら、そう答えた。






「雄真くん!! よかった、目が覚めたのね!!!」

 Oasisに着くなり、開口一番音羽はそう叫んだ。
そのまま雄真にガシッと抱き着く。

「ほう」

「まぁ」

 音羽の人となりを知っている伊吹と小雪は何も言わなかったが、
音羽と初対面の神威兄妹は、物珍しそうな目で見つめていた。

「く、苦しい! 苦しいから!!」

「あ、あら、ごめんね、雄真くん」

 少し慌てた様子で音羽が離れる。

「いや、こっちこそ心配かけてごめん。
 もう大丈夫だから」

「そう。本当に良かったわ。
 で、それで?
 こちらのお二人は?」

 音羽が今気付きました! とばかりに雄真の後ろに目をやる。

「初めまして。神威信と申します。
 本日はよろしくお願いします」

「神威空と申します。
 兄共々、よろしくお願い致します」

「あ、あらあらこれはご丁寧に。
 私はここのOasisチーフ、小日向音羽よ。
 よろしくね」

「? 小日向? ということは…」

「こ、小日向様は既に籍をお入れになっていたのですか」

 せき? 席? 別に予約とってないけど…?
みたいなことを考えていると、先に真意に気付いた音羽が雄真に再度抱き着いた。

ガシッ!!

「え? な、なに?」

「そうなの!! 私たち既に結婚してるのよ!!!」

「………へ?」

 けっこん? 血痕。…………結婚?!

「ちょっと?! 何でたらめ言ってんの?!」

「ひ、ひどいわ雄真くん!!
 あの日の事を忘れちゃったの?!」

「意味深なセリフやめろ―――!!!!」






「なるほど、義理の母君であったか。
 済まない」

「大変失礼致しました」

「いえ、こっちの方にも問題があったので…」

 というより、こっちに“しか”問題は無かったしね。

 ひとまず神威兄妹の誤解を解いた後、席に案内されて飲み物を注文。
音羽が厨房へ姿を消してから、二人が頭を下げてきた。
そんな二人を制しながら、雄真は辺りを見回した。

「そうか。もうOasisの営業は再開したんだな」

 今のところ利用している学生こそいないものの、
音羽が居るということはそういうことなのだろう。

「再開したのは今日からだ。学園の立ち入り禁止が解かれたのも今日だからな」

「秘宝の封印には二日を要しました。
 ですので、完了したのが昨日。
 今日からは、夏季休暇としての学園再開になります」

 雄真のふとした疑問に伊吹と小雪が答えていると、
音羽が飲み物を持って戻ってきた。

「はい、ストレートティーにレモンティーね」

かちゃ

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 差し出された紅茶を優雅に口に運ぶ。
飲み物を飲む姿すら様になっていた。

「小雪ちゃんと伊吹ちゃんもどうぞ〜」

「ありがとうございます」

「うむ」

かちゃ

 こちらも流石に様になっている。
やはり場数を踏んでいるという事なのだろう。
しかし――――――。

しゅわわわわわわわわわわ

「はい、雄真くんもどうぞ〜」

どんっ

「なんで俺だけクリームソーダなの?!」

「だって、疲れた時には甘いものが一番なのよ?」

 そうだとしてもいやだよ!!
何でこのメンツの中、一人でクリームソーダ飲まにゃいかんのだ!!
と、言えるはずもなく、(というより、言う前に音羽は「ごゆっくり〜」と厨房に戻ってしまった)
雄真は渋々とクリームソーダの攻略に取り掛かった。

ちゅ―――――。

 ストローで吸っている際に、チラッと目線を上げると空とばっちり目が合った。

「……………」

「…………にこっ」

ぶほっ!!!

「きたなっ!!!!
 何をするか雄真!!!」

 雄真の口から発せられた緑色の放物線は、横に座っていた伊吹の真横を掠めた。

「ごほっ!! ごほっ!!! ず、ずまん。へ、変なところに…」

「変?! この私が変と申すか!!!」

「ごほごほっ!! 誤解だ!! そんな悲観的な捉え方をするな!!!」

「黙らんか!!!」

 相席しているメンバーを忘れてぎゃーぎゃーやっていると、

くすっ

 と笑い声が漏れた。
お互いの頬を引っ張り合っていた雄真と伊吹がそちらを向く。
そこでは、やってしまった!! という顔をして、空が真っ赤になって俯いていた。

「失礼。式守家次期当主に、このような一面があるとは知らなくてね」

 妹をフォローするかのように、信が口を開いた。

「ふん。こやつとこやつの妹くらいだ。
 我が地位を知りつつも、堂々と接してくるのはな」

 雄真との取っ組み合いを止め、伊吹は席に座りなおした。
空気が改まった気がした。信と空が雄真に向き直る。

「さて、改めて自己紹介しておこう。
 神威家・次期当主の神威信だ。
 京帝魔法学園3年。
 信と呼んでくれ」

「その妹の神威空です。
 京帝学園の2年です。
 空とお呼びください」

「小日向雄真です。
 瑞穂坂学園の2年です。
 では、雄真でお願いします」

 お互いに自己紹介しあう。

「さっき少し話が出ていたようだが、雄真。
 今まで寝込んでいたのか?」

「あー。はい。恥ずかしながら」

「申し訳ございません。
 こちらの責任で、そのような負担を押し付けてしまいまして」

「い、いや。多分そっちが考えているような理由じゃないんで」

 深々と頭を下げる空を止めて、雄真が逆に申し訳なさそうに答える。

「どういう意味だ?」

 信と空は揃って首を傾げた。

「こやつは魔法を始めてから、まだ二ヶ月弱しかたっておらん。
 普段使わぬ魔力を突然使ったせいで、体が付いて行かなかったのだ」

「………なんだって?」

「まぁ」

 信は眉を寄せ、空は口を手で覆う。

「言葉通りの意味なのです。雄真さんはまだ魔法初心者ですから。
 ClassAの魔法を平然とぶっ放す程度の初心者ですが」

「こ、小雪さん?!」

 それフォローじゃないですから?!

「………始めたばかり。
 それでClassが無いということか」

 顎に手を当てながら信が呟く。
空は雄真に興味が出てきたらしい。
少し体を乗り出しながら聞いてきた。

「あ、あの。その魔法を今まで使わなかったというのはどうし――――――」

「空。
 あまり人様の事情は詮索するものじゃない」

「あ、し、失礼しました」

 空は兄に注意され、顔を赤くしながら座りなおす。
それを見て、信が続けた。

「妹が失礼をした。
 そうか、始めて二ヶ月か。
 よく新橋恭介を倒せたものだ。
 1対1だったのだろう?」

「そうだ。秘宝への転移魔法陣を通過して、
 雄真はあの男との一騎打ちに持ち込んだ。
 その場には他に誰も居なかった。
 真実を知るのは本人のみ。
 あとは雄真のワンドくらいか」

「ワンド?」

「あ、俺のワンド。クリスって言うんです」

『初めまして。神威信さん、神威空さん。
 小日向雄真に仕えるマジックワンド・クリスと申します』

 雄真が背中から取り外し、前に出すとクリスは丁寧に自己紹介した。

「よろしく。なるほど。『自我持ち』か」

「よろしくお願いしますね。クリス様」

「あー、空…さん? できれば俺も含めて“様”はやめてくれないかな。
 ちょっとむず痒くて…」

 割って入った雄真の言葉に、空は一瞬きょとんとして、

「わかりました。私のことを空、と呼び捨てて頂けるなら」

「うっ?! え、えっと?」

 雄真はちらりと、空の横に座る信に目を向けると、笑顔で頷かれた。

「俺も呼び捨てにしてくれて構わない。
 敬語も不要だ。こういったところくらい、堅苦しいのは無しでいきたい」

 と、答えられた。

「わかった。改めてよろしく。信。空」

「ああ、雄真。よろしくな」

「よろしくお願いしますね? 雄真さん」

「ところで雄真。
 もう魔法は始めたんだろう?
 Class試験は受けないのか?」

「あ、確か9月にあったよな。一応それを受けるつもりではいるんだが」

「そうか。何を受けるつもりだ?
 アドバイス位ならできるが」

「お、それは嬉しいな。実は何を受けようかも悩んでいるんだが」

「ははは。その発言が、既に初心者のものではない気がするが…。
 一応確認なんだが、さっきClassAの魔法が扱えると聞いた。
 もしかして天蓋魔法も使えるのか?」

「い、1回だけ」

「まぁ、もうお使いになれるのですか?!
 二ヶ月でその域まで達してしまわれるとは…。
 驚きました」

「こやつは才能だけでなく、努力を怠らんからな。
 もう一か月後には、また別人のようになっておろう」

 横から伊吹が入ってくる。
ストレートな褒められ方に、雄真の顔は真っ赤になってしまった。

「ああ、雄真さん。照れてますね?」

「照れてないです!!」

 茶々をいれてくる小雪に即答する。



 こうして、待ち時間はあっという間に過ぎて行った。



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                      Leica

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