「それでは、失礼する」

「失礼します」

「失礼致します」

 三者三様の言葉を発し、神威家の面々が車に乗り込む。
三人を乗せた車は、ゆっくりと瑞穂坂学園の敷居を出て行った。

「なんか、すげーいい人たちだったな」

 それを見送っていた雄真はそう呟いた。

「だろう。式守家にとっても、
 神威一族の者たちは、七賢人の中でも特に親交が深い。
 皆、良い者ばかりだ」

 雄真の隣に立っていた伊吹が答える。

「また、会えるかな」

「会えますよ、きっと。
 それに信さんの思わせぶりなセリフも気になりますしね」

 小雪の声に、雄真は頷く。
その頭は、別れ際に言われた信の言葉を思い出していた。






Happiness story『小日向雄真の夏休み戦争』

Magic17.決意






ピリリリリリリリリリ

「失礼。
 ………父上からだ。どうやら終わったらしい」

 Oasisにて会話に花を咲かせていたところで、信の携帯電話が鳴った。
どうやら向こうの“大人の会話”は終わりを告げたらしい。

「では、これでお開きということになるか」

 伊吹が立ち上がる。
他の面々もそれに続いた。

「伊吹、小雪、雄真。
 楽しかったよ。どうもありがとう」

「伊吹さん、小雪さん、雄真さん。
 ありがとうございました。とても楽しかったです」

「うむ。こちらも十分楽しめたぞ」

「こちらこそ、信さん。空さん。ありがとうございました」

「今日はありがとう。信、空。また会えるかな?」

 雄真の言葉に、信と空は同時に雄真に振り返った。

「もちろん、また会う時が来るだろう。
 その時までに、ClassAはとっておけよ」

「ははは、頑張ってみるさ」

「雄真さん。私は雄真さんのこと応援してます。
 頑張ってくださいね。
 そしてまた一緒にお話ししましょう!」

「あ、ありがとう」

 面と向かって笑顔で応援され、雄真は顔が熱くなるのを感じた。
瞬間――――――。

ぐりぃ

「あいたぁっ!!!」

「お? すまん雄真。足をどうやら踏みにじってしまったようだ」

「せめて踏むまでに留めろよ!!!」

「まぁまぁ。雄真さんは踏まれるのがお好きだったのですね?」

「違う!!!!」

「ははははは。本当に面白い奴だ。
 雄真っ」

「ん?」

 力強く名を呼ばれ、信の方へ向き直る。

「父上にも言われていたようだが。
 俺もお前には興味が出てきた。
 お前と魔法で競える日を楽しみにしているぞ」

「お、おいおい。俺はまだまだ全然敵わないぞ。
 それに、そんな機会あるのか?」

 信は、その整った顔をニヤッと歪めながらこう言った。

「ふふ。直に分かるさ。直にね」






 日はもう沈んでしまった。
シンとした車内には、車のモーター音のみが響く。
そんな中、玄が急に声を掛けてきた。

「それで? 小日向君はどうだった?」

 抽象的な疑問だったが、信は躊躇いなく答えた。

「予想以上の男だ。
 あれは逸材だよ。父上。
 魔法を初めてから、まだ二ヶ月しか経っていないらしい」

「ほう? 二ヶ月で既に魔法実戦をこなし、戦力となるか。
 確かに計り知れないまでの才能だな」

「それに、もう天蓋魔法まで使えるそうですよ、お父様。
 雄真さんは凄いです!!」

 空が身を乗り出すように話し出した。

「それにとても優しい人でした。
 私たちの事も、身分を気にせずに接して頂けましたし」

「ふむ。空は随分と小日向君が気に入ったようだね?」

「は、はい……。…………そうですね」

 少しはしゃぎ過ぎたと思ったのか、徐々に声が尻すぼみになっていく。
顔も暗い車内ではっきりと分かるくらい真っ赤だ。

「空がここまで異性に興味を示すのも珍しい。
 自分から名を呼び捨てるように頼んでいたしな」

「お、お兄様?!」

「ほうほう。次に小日向君と会うときは、別の用件になりそうだな」

「お父様まで!!」

「兄の立場としては、雄真は悪くない選択だと思うがな。
 目黒(めぐろ)一族の者と縁談を進めるくらいなら――――――」

「信。余所を悪く言うものではないぞ」

「……失礼しました」

「別に無理矢理縁談を進めようというわけではない。
 それは心配するな。私とて、空には極力自分が選んだ者と結ばれて欲しいと思っている。
 それは信もだぞ。だから二人とも。なるべく早く好きな人でも連れてきなさい」

「難しいな……」

「お兄様は理想が高すぎるだけです」

「なるほど、では雄真はそんなに高くない理想の相手だと」

「雄真さんは十分に高い素敵な人です!!!」

「なるほどね」

「なるほどな」

「あっ?!」

「空。今度小日向君を家へ招待しなさい」

「もう知りません!!!!」

 空の声が車内に響き渡った。






 小日向雄真は重大な危機に直面していた。
それはもう、これを回避できるなら、もう一度新橋恭介と戦ってもいいと思えるほど。
既に地獄の門の前には辿り着いている。
おそらく、その門番はこの門を隔てた反対側に君臨しているだろう。
腕を組み、仁王立ちで。それほどまでに内部がリアルに想像できる。

 Oasisから信と空を送りに出ていく際、音羽が家に連絡しているところを雄真は見かけた。
おそらくは、すももに今日の夕食は三人分と伝えるためだ。
つまり、すももはそろそろ雄真が帰ってくる事を知っている。
待ち構えているに決まっているのだ。おたまという凶器を持って。

「……………」

 俺は、今日死ぬかもしれないな。正座のし過ぎで。
そんなことを考えながら、雄真は重い腕を上げた。

ぴーんぽーん

 …………。

がちゃ

「はい! どちら様ですか?」

 すももの声だ。
雄真は震える声で答えた。

「お、おれ。雄真だけど……」

 …………。

 …………。

 この間はなに?!

「鍵。開いてますから」

がちゃっ!!

 …………。

 …………。

 や。

 …………。

 …………。

 やばいだろぉ!!
なに今のトーン?!
くらっ!! こわっ!!
めちゃめちゃに怒ってる―――!!!

 髪を掻きむしりながら、天を仰ぐ。

(か、覚悟を決めろっ!!!!)

 雄真は決死の思いでドアを開いた!!!!






パンッ!!! パンパンッ!!!

「……………へ?」

 一瞬撃たれたかと思ったが、そうではなかったらしい。
紙吹雪が雄真の足元にひらひらと舞う。

「こ、これは…………」

「「「「お疲れ様―――!!!!」」」」

「うぉっ?!」

 いきなりなんだと思っていると、大声で中から掛け声がかかる。
見れば、春姫・杏璃・準・ハチがクラッカーを持ってニコニコしていた。

「これはいった――――――」

「兄さん!!!!」

どすぅっ!!!

「ぐはぁっ!!!」

 腹に思いっきりタックルを見舞われた。

「よかったですぅ〜。心配したんですよぅ〜!!」

 下を見れば泣きそうな声でそう呟くながら、胸にがっしりしがみつくすももの姿があった。

「……そっか。ごめんな、心配かけて」

 そう言ってすももの頭を撫でてやる。

「……罰を受けて貰います」

「う、うん? 俺にできることなら…」

 ゆらりとすももが顔を上げた。
そして、覚悟を決めた雄真にこう言い放った。

「今日出ているコロッケ。
 兄さんはころもだけです」

「お願い!! 中身ちょうだい?!」

 1秒もかからずに、雄真はその罰を拒否した。

「玄関で何をぎゃーぎゃー騒いでおる。
 さっさと中に入らぬか」

「ん?」

 後ろを向くと、さっき学園で別れたばかりの
伊吹・信哉・沙耶・小雪が居た。

「何しに来たの?」

「そ、そんな。雄真さんは私たちを仲間外れにしようとおっしゃるのですね?」

『おうおう! 兄ちゃん!! 小雪姐さんを仲間外れにしようなんざ、
 えー根性しとやないのぉ!!!』

「普通にこえーよ!! 分かりやすく説明してくれ!!!」

 小雪とタマちゃんによる、一方的な言葉責めを受けていると、信哉が理由を話してくれた。

「今日は雄真殿の快気祝いという事で招かれたのだが…。
 誤情報だったのだろうか?」

「そ、そなの?」

「はい。小日向さんが目を覚ましたら、小日向家に集合と伺っていましたので」

 雄真の言葉に沙耶も頷く。

「いーから入って来いって!!!」

ガシィッ!!!

「ちょ、ちょっと!!」

 ハチに右腕を掴まれ、すももに張り付かれたまま、
雄真は強引に小日向家へ引きづり込まれる。

「さぁー!! 今日は騒ぐわよー!!!」

「「「「「お―――っ!!!」」」」」

「お前らただ騒ぎたいだけだろ―――!!!!」

 雄真の叫びは数の暴力に掻き消されるのだった。






「それで? 今年はどうするのかしら」

 日も暮れ、すっかりと静まり返った学園の理事長室で
鈴莉はゆずはに問うた。

「………式守家側からの承諾は、既に受けています」

「知っているわ。だから貴方に聞いたのよ。
 瑞穂坂学園。その理事長である貴方にね」

 ゆずはは無言で椅子から立ち上がった。
理事長室のデスクの前で立っていた鈴莉に背を向け、窓からもはや真っ暗になってしまった外を見る。

「この話が受け入れられなかったことは、過去に3回しかない」

「そうね。毎年行われる定例行事になりつつあるもの。
 表向きはね」

 ゆずはの言葉に、鈴莉が頷く。

「しかし、今年は少し事情が変わってきます。
 鈴莉、貴方も知っているでしょう?」

「ええ。もちろん」

 鈴莉は即答した。

「今年は、七賢人の次期当主たち全員に参加資格がある。
 前例のない、前代未聞の催しになるわ」

「そう。それはもう単純な勝ち負けでは済まされない。
 この国各地でのパワーバランスを崩しかねない戦いになる」

 ゆずはは鈴莉に向き直った。

「瑞穂坂に勝算があると思いますか?」

「愚問でしょう」

 ゆずはの質問を、鈴莉は即座に切り捨てた。

「勝負は勝ち負けが分からないから面白いのよ。
 勝ちが決まっている戦いだけを受けても、それは真の勝者ではない。
 それに忘れたの? 過去に一度だけあったでしょ?
 七賢人がいないメンバーで優勝を掴みとった、瑞穂坂の英雄たちが成し遂げた三連覇」

「ふふ。ありましたね。懐かしい『フィギュアズ』ですか」

「ええ。あの時は七賢人の階級を根本から覆しかねない、異例の事態となったわ。
 あのメンバーは、1年の時から全員がレギュラー入り。
 そして卒業までの3年間。誰一人として落ちる事無く、全てで優勝を飾り卒業していった」

「華々しい成績を収めて下さいました。
 今回の秘宝封印でもお世話になりましたしね」

「ええ。あの子たちが居なければ、秘宝封印もまだ済んでいなかったでしょう」

「なるほど」

 ゆずはが頷くのを見て、鈴莉は殺し文句を出した。

「今年はこちらにも七賢人次期当主・式守伊吹がいるわ。
 なにより貴方の愛娘・高峰小雪もね?」

「あら、それを言うなら、貴方の愛息子・小日向雄真もいるでしょう」

「ふふふ。確かに」

 逆に返されてしまった、と鈴莉は笑いを漏らした。

「…………いいでしょう」

 それを見て、ゆずはは顔を正した。
鈴莉も同時に笑みを消す。

「瑞穂坂学園理事長・高峰ゆずはは、これを正式に受理・承諾致します。
 式守家当主・式守護国からの承諾も既に受けています。
 よって、これを瑞穂坂の総意として、日本魔法協議会に提出します」

 そう告げた。鈴莉もそれに倣って頷く。
ゆずはは、手元にある書類に手を伸ばし、こう呟いた。

「七校対抗魔法大会、開幕ね」






「さぁさぁ、雄真くん。ぐいっといっちゃって下さい!!」

「は、春姫!! もう無理、無理!!」

「ゆぅまぁ〜、しょーぶよーぅ」

「杏璃、お前はもう飲むの止めとけ!!」

「兄さん、頭くるくるしますぅ〜」

「だ、抱き着くな〜!! すもも!! お前そこで寝てろって!!」

「雄真ぁ!!!」

「うるせぇ、消えろ!!!!」

バキィ!!!!

「ぐはぁ?! 俺だけ扱いひどくね?!」

「黙れ!!」

ドカンッ!!!

「ぶぼっ!!!」

「みなさん、楽しんでいらっしゃいますねぇ」

「小雪、そなた皆に何を飲ませた」

「こ、小日向さんが…」

「うむ。雄真殿はやはり器が違うという事か…」

「でしょ〜。流石雄真よね!!
 でも本妻は私なの!! だからみんなとっちゃやーよ!!」

「そこ!! 面白おかしいこと言ってないで助けて!!!!」

 既に宴はめちゃくちゃになっていた。
開始早々小雪が不思議なポケットから取り出した“緑色の液体”で、この有様だ。
春姫はひたすらに注ぎ魔に。杏璃は勝負魔に。すももは抱き着き魔に。
ひとまず、寄ってきたハチは蹴り飛ばしてしまったが。

 それに動じることなく、平静を保つ小雪・伊吹・信哉・沙耶・準は、
その騒動を肴にのんびりと寛いでいた。

 しかし、そろそろ頃合いかもしれない。
そう思ったのか、小雪がワンドを一振りした。

パァァァァァァァッ

「う〜ん…」

「むにゃ…」

「すぅ…」

「…………」

 我を忘れて騒ぎまくっていた春姫・杏璃・すももが眠りにつく。
雄真はようやく解放された。(ハチは小雪の魔法が発動する前から、別の意味で眠りについていた)

「つ、疲れた…」

「まぁ、もうお疲れになったのですか?」

「貴方のせいでしょ?!」

 そう言って雄真は足早にリビングから出ていく。

「あらあら、怒ってしまいましたかね?」

「当然だろう。貴様はふざけ過ぎだ」

 小雪の問いに伊吹がきっぱりと告げる。
それを聞いて、準は首を横に振った。

「ううん。違うと思うなー。雄真は優しいから」

 そう言ってから直ぐに、雄真が戻ってきた。
持ってきたタオルケットを三人にそれぞれ掛けてやる。
それを見た準が、「やっぱりね!!」と言いつつ雄真に抱き着いた。

「さっすが雄真!! 優しいわね!!
 ……私も温めてくれないかしら?」

「何のお話だ?! 引っ付くのやめろ!!」

 強引に引っぺがし、伊吹たちのいる場所へと移動する。

「ご苦労様でした、雄真さん。
 こちらで一杯、いかがですか?」

「…はい。じゃあ、一杯だけ」

 そう言って座る。

「はぁぁぁ。こっちは平和でいいなぁ」

「ははは。雄真殿の周りはいつも賑やかだな」

「これも小日向さんの人徳が成せる技でしょう」

「そうよ!! それが雄真なんだから!!!」

「何でお前が偉そうにしてるの?!」

 雄真に代わって胸を張る準に、雄真は思わず飲み物を吹き出しそうになってしまった。

「それで? 雄真。今日神威の兄妹と話して、何か思うところはあったか?」

 伊吹が会話の境を見計らったかのように切り出した。

「空はClassB。信はClassAだってな。
 瑞穂坂以外にも、あんなに強い魔法使いがやっぱりいるんだな」

 俺の周りが凄い人たちばっかりだからすっかり忘れてたよ、と雄真が鼻を掻く。
その言葉に、伊吹は頷いた。

「当たり前だ。あ奴らも七賢人が一族。
 この国に点在する7つの龍脈。
 それぞれの場所を統治する名家、その当主が七賢人と呼ばれる者たちだ。
 つまり式守家では式守護国、神威家では神威玄ということになる。
 そういった者があと5人おるのだ。この国もまだまだ広かろう」

「ああ、そうだな」

 雄真は知らず知らずのうちに、自身の拳を握りしめていた。

『雄真さん?』

 クリスが怪訝な声を上げる。
その様子に伊吹はクスリと笑うと、雄真に問うた。

「何か感じるところがあったようだな?」

「ああ」

 雄真は短く頷いて、こう言った。



「俺、最初のClass試験は、Aを受けるよ。
 あいつらにも、負けてられないからな」



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