エンディング.小日向雄真が世間に知られた日






 そのニュースは瞬く間に広がった。
魔法を使える者なら、誰しもが驚愕するであろうニュース。


 MoLの称号を持つ、偉大なる魔法使い・御薙鈴莉には、実の息子がいた。

 そして、その息子は、あろうことか最初のClass試験でAを受けるらしい。


 日本魔法協議会に提出するClass試験受験願い。
そこには、自身の家柄について、詳しく記載する必要がある。
これは、魔法犯罪抑止の為の一環だ。
受験希望者だけでなく、親の経歴や周囲の人間の情報まで、徹底的に協議会は洗い出す。
Classとは、世界共通の魔法資格。凶悪な国際犯罪を未然に食い止める為にも、厳正な管理が必要となるのだ。
(もっとも魔法犯罪者の多くは、資格取得後に染まってしまう事が多いため、未然にとはなかなかいかないのだが)

 雄真は、その記載事項欄にて、自身の魔法使いとしてのルーツもしっかりと記載した。
母親の欄へ小日向音羽という記載をするだけでは、協議会は誤魔化せない。
そうなれば音羽の出産記録まで遡り、「小日向雄真とは?」という疑問に発展してしまうだろう。
その為、音羽が義母である事。そして実母は鈴莉である事まで、正確に記した。

 ClassAから上の階級は、原則として協議会のホームページで、
受験者の氏名と現在の所属(学校名や会社等)、そして現所有資格が発表される。
これは、各企業が優秀な人材を獲得する為の手段の一つとして、協議会が用意したものだ。
もちろん、住所や電話番号などのプライバシーまでは公開されない。
注目する人材を見つけた企業は、協議会にある人材採用課に申し出る。
そこでその企業情報をチェックされ、許可を得た企業だけが、個別にスカウトできるという仕組みだ。
チェック項目も、企業規模から始まり、経歴や今後の活動展開についてなど、詳しく審査される。

 この手続きには面倒さを感じるかもしれないが、これは企業にとってもプラスになり得る作業だ。
なぜならこのルートを辿り、正式な手続きを踏んでスカウトにくる企業は、
事実上協議会のお墨付きを受けている優良企業という扱いになる。
ClassAから上の階級とは、大学卒業過程で取得を目指すClassBとは違い、まさしく魔法使いのエリートたちが集う試験。
そういった者たちが入社を目指す企業は、ほぼすべてがその優良企業扱いとなっている会社。
このシステムに乗っ取ってスカウトするということは、もはや暗黙の了解になりつつあった。

 そんなClassAの受験名簿に、異質の興味を引く人材が1名。
七賢人の一族である式守伊吹や神威空と同じように記載されていた人物に、全ての人間が注目を集めた。




 『小日向雄真  瑞穂坂学園2年(高校)  現在の所得資格無し』




 Class試験は、原則として飛び級が可能だ。
それができなくなるのはClassAのさらに上に控えるClassSから。
しかし、これまでのこの国における魔法歴史上ClassAから受ける人間は皆無だった。
(この国において、これまでの過去記録ではClassBが最高だった。
 海外では数件記録されているが、ここでは割愛する)

『現在の所得資格無し』

 その言葉は日本中を驚かせることとなった。一番最初に飛びついたのはマスメディア。
しかし、小日向雄真の情報については、御薙鈴莉の名のもとに厳重なロックが掛かっており、
本人の元へ訪問することはもとより、プライバシー情報の一切の検索をも禁止されていた。

 例外として、一つだけ開示が許されていたのが、鈴莉の実の息子であるということだけ。
(これも、情報をロックするための抑止力としての意味合いが強く、本来は開示したくはなかった)

 この『御薙鈴莉には実の息子がいた』『資格未所持のClassA挑戦』の二つは、瞬く間に日本中を駆け巡った。






 こうして。
雄真は自分のあずかり知らぬところで一気に知名度を上げていたのだが、
幸い鈴莉のおかげで特に日常生活に支障はなく、今日もいつも通りに朝練の為公園を訪れていた。

『そこまでにしておきましょう』

 クリスの声に従い、上空に待機させていた天蓋魔法を解く。
魔法陣はゆっくりと大気に気散していった。

「ふぅ」

『良い魔力の流れです。
 これなら試験は頂きですね』

「はは、お前がそう言ってくれると心強いな」

 雄真が笑いながら返す。

『ClassAの合格条件は3つ。
 天蓋魔法が扱える事を示す。
 ClassAの魔法が使える事を示す。
 そして、魔法模擬実戦によって、ClassA相当の魔法戦闘ができることを示す、です。
 雄真さんには、今のところどれを見ても問題はなさそうですね』

「ああ」

『それで、魔法模擬実戦の件。よろしいんですね?』

「もちろんだ」

 雄真は力強く頷いた。

「試験では“チャージ”は使わない。
 俺の魔法使いとしての技量が、お前に頼りっぱなしのものだって皆から思われたくないからな」

『いい心掛けです。任せてください。それ以外の面で、全力でサポート致しましょう』

「おう。期待してるぜ。クリス」

パッパー!!

 静かな公園に、クラクションの音が鳴る。
そうやら伊吹たちが着いたようだ。
雄真は駆け足でそちらへ近づいた。

 後部座席のドアを開けると、三列席の一番後ろでは上条兄妹が座っていて、雄真に声をかけてきた。

「おはよう、雄真殿」

「おはようございます、小日向さん」

「おはよう、二人とも。朝から悪いね」

「気にするな。これは私の用でもあるのだ。
 ………それにしても。本当に当日も朝練をしておるとはな」

 中央の座席には、伊吹が一人でちょこんと座っている。

「はは、まぁね。
 お世話になります」

 雄真は前に座る運転士に声を掛けてから伊吹の隣に乗り込んだ。

ブオッ!!

 車が走り出す。

「して、首尾はどうだ? 雄真よ」

 伊吹の不敵な笑みに、雄真は強気に返した。

「任せとけ。今日で俺とお前のClassは同格だ」




 行先は、ClassAの試験会場。
雄真が正式に魔法使いの世界にデビューする、運命の一日が幕を開けた。




Happiness story『小日向雄真の夏休み戦争』・完


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