『では、集合して頂戴!!』
魔法の力が付与された鈴莉の声が、ドームに響き渡った。
「あれれ? もうなの? 早くないかな」
雄真から可能な限りのアドバイスを受け、
同じくクラスメイトの吉田小百合から障壁強度のテストを受けたいた美砂が首を傾げた。
「確かに、あと20分くらいあるわね。
いつもは10分前にお呼びがかかるのに」
体に掛けていた身体強化魔法を解いた小百合がそれに相槌をうつ。
「とりあえずいこっか」
「そうね」
お互い疑問に思いながらも、二人は揃ってドーム中央へと向かうのだった。
Happiness story『小日向雄真と夏休み戦争』
Magic2.小日向雄真vs上条信哉(前編)
「お疲れ様でした。皆さん少しは先に進めたかしら?」
皆が集まり終えたところを見計らって、鈴莉が話し始めた。
「障壁や魔法球は、発現したら終わりではない。
そのあと、どれだけの力を発揮できるかが重要になります。
各々それをよく理解して、さらに質の高い発現ができることを期待します」
そう言い切り、一旦鈴莉は口を閉じた。
そしてぐるっと自分を取り囲む生徒を見渡して――――――。
「じゃ、雄真君。前へ出てきて頂戴」
我が子を見つけるや否や、そう口にした。
「ははは! また小日向か! 頑張れよ!」
「小日向君、またカッコいいとこみせてねー!」
「…か、勘弁してくれ」
周りのクラスメイトに理不尽に囃し立てられながら、雄真は中央の鈴莉の所まで歩み出た。
「…えと。な、何でしょう」
めちゃめちゃ敬語になってしまったが、しょうがない。
今日はどんな無理難題が押し付けられるのかと思うと、少し腰が引けてしまっていた。
「今日は、その魔法球や障壁がどのようにして実践で活用されているかを、
再現してもらおうと思います」
「…は?」
「さて、ではもう一人。雄真君の模擬実践相手役を募集します。
誰か立候補はいないかしら?」
し――――ん。
誰の手も挙がらなかった。ちょっとショック、とは思うものの。
今の自分の実力は、このクラスの中でも頭一つ抜き出ている。
これは奢りではなく、ただの事実。流石にいないかと思っていると、
杏璃と目が合った。それはもうバチッと。
手を挙げようとしてた所だったのか、半分近くまで手が浮いた所で固まっていた。
あ、うずうずしてると思ったところで―――――――――。
「じゃあ、私がや――――――」
「俺がやろう」
信哉が名乗りを上げた。
「ちょっと?!」
「じゃあ、上条君にお願いしちゃおうかしら」
「そんなぁぁぁぁぁぁ!!」
「あ、杏璃ちゃん、落ち着いて!!」
「む? 柊殿はなぜあんなに騒いでおるのだ?」
「…いや、お前は何も気にしないでいいから。
とりあえずこっちこいよ」
「うむ。心得た」
理由を説明してやる気にもならず、呻くように信哉を呼び寄せた。
多分、後で荒れるんだろうなぁ杏璃の奴、と雄真は心の中でため息をついた。
「それじゃ、フィールドを張るから。
他の子たちは外に出ててね?」
それを丸ごと無視した鈴莉は、雄真と信哉以外の生徒にそう告げると、
ヴゥン!!!
1音も詠唱することなく、魔法攻撃による怪我防止のフィールドを発現した。
「…すげ」
『流石鈴莉様です。一切の無駄をなくした魔法発現。
美しい魔力伝達でした』
「さぁ、二人とも。準備ができたら構えて頂戴」
「まさかこんなにも早く、この時が来ようとはな」
好戦的な光を目に宿し、信哉は風神雷神を構えた。
「………そうだな」
それに倣い雄真もクリスを手に取り、構える。
『マスター、今の実力では信哉さんには敵いません』
「知ってるさ。だから、この試合で一つでも多くの事を学ばせてもらう」
『良い心がけです。私も全力でサポートします』
「ああ、一秒でも長く足掻いてやる!!!」
「用意はいいかしら?」
鈴莉の言葉に雄真は無言でうなずく。
信哉もそれに倣った。
「それでは、始めっ!!!」
ズンッ!!!
「行くぞ雄真殿!!!」
信哉の足に、無詠唱で風の身体強化が掛かる。
長年に渡る鍛錬によって鍛え抜かれたそれは、周囲の空気すらも揺るがした。
ドンッ!!!
その足で力強く地面を蹴った信哉は、
目にも止まらぬ速さで雄真の後ろをとる。
「ふっ!!」
「ウィンズ!!」
信哉が風神雷神を横に薙ぎ払う。
雄真目掛けたその攻撃は、ほんのわずかな差で空を切る。
1音の詠唱によって、同じく足に身体強化を掛けた雄真は、
後ろをとった信哉のさらに後ろへ回り込んだ。
「ディ・ラティル・プロテクタ!!」
続けて唱えられた呪文により、クリスに無属性の状態強化が掛かる。
それを目で確認することなく、雄真は信哉に振り下ろした。
ガキィ!!!
ワンドとワンドが拮抗する。
「…やるな、雄真殿! 容易く俺の後ろをとるなど!!」
「容易くねぇよ!! ただ不意を突いただけだっ!!」
ガガガガガガッ!!!!
何合か斬り結んだあと、雄真は後ろに跳躍して距離を取った。
「エル・アムダルト・リ・エルス…」
朗々と詠唱を始める。
「無駄だ!!!」
一瞬で間合いを詰めなおす信哉に、
『ディ・ラティル・アムレスト!!』
ガキィィィン!!!
クリスが“独自に”張った障壁が対抗する。
「くぅぅっ?! やるなクリス殿!!」
『マスターの詠唱の邪魔はさせません!!』
クリスの張った6枚の障壁は、雄真を取り囲むように展開された。
「…ディ・ルテ…」
その間も雄真の詠唱は続いている。
「はぁぁぁぁぁ!!」
信哉は掛け声と共に、ワンドに魔力を集中した。
『む?! 障壁前方展開!!!』
それに危険を感じたクリスは、バラバラに張っていた障壁を、
全て雄真の正面に移動させる。
「風神の太刀!!!」
風の力を極限にまで高めた一撃が、真正面から雄真を襲った。
ガギィィィィィン!!!!
バキンッ バキンッ バキンッ バキンッ バキンッ
『くぅぅぅ!!』
クリスの張った障壁が、前から順番に一枚ずつ割られていく。
「最後の一枚だっ!!」
バキンッ!!
信哉が6枚目の障壁を破ったところで、
「アダファルス!!!」
割られた障壁の後ろから、雄真が最後の1音を詠唱した。
「むぅ?!」
完全詠唱された火球が、正面から信哉に向けて飛ぶ。
この超至近距離で回避という手段はとれるはずもなく、信哉は風神雷神でガードする体制に入った。
ドガンッ!!!
雄真の魔法は、信哉に直撃した。
「きゃー」というクラスメイトの声が聞こえたが、直ぐに頭の中から消した。
信哉に限って、今のでやられてしまうなどということはありえない。
「ディア・ダ・オル・ウィルギア!!」
煙で信哉がどうなっているかは分からないが、この隙を逃す手はない。
雄真は自身の右手を地面に叩き付け、風の拘束魔法を詠唱した。
―――――――――が。
バシュウウウウウンッ!!!
「…げ?! ディ・ラティル・アムレスト!!」
突如、煙の中から襲ってきた風の鎌から身を守る為、障壁魔法へ切り替える。
ギィィィィン!!! バキンッ バキンッ
展開された9枚の障壁のうち、2枚が持っていかれた。
『マスター!! 私が煙を晴らします! 追撃を!!』
「分かった!! エル・アムダルト・リ・エルス…」
『エル・アムダルト・ウェンテ!!!』
ビュオオオオオオオッ!!!
クリスの放った突風により、煙が消し飛ばされる。
しかし、そこに既に信哉の姿は無かった。
「…カルティエ・ディ・ルテ…」
雄真はそれを理解しながらも、探知を相棒に任せ詠唱を続ける。
『っ?! 後ろです!! マスター!!』
「…エル・アダファリア・リース…」
「遅い!!」
クリスに従い、詠唱を唱えながら後ろを向く雄真に、
信哉はそう叫んで風神雷神を振り下ろした。
………が。
ガギィィィィィンッ!!
先ほどの攻撃を耐え抜いた残り7枚の障壁が、雄真と信哉の間に割って入った。
「何?!」
『今です!! エル・アムダルト・ウェンテ!!!』
「むおぉっ!!」
再びクリスから放たれた突風により、信哉が大勢を崩したところで、
「ファイナス!!!」
雄真の業火球が発動した。
ゴォォォォォォォッ
「…やったか?!」
『…いえ、駄目ですね』
燃え盛る火炎を物ともせず、信哉はその中央に立っていた。
「…残念だったな。雄真殿」
「マジかよ。あのタイミングで防御が間に合ったのか」
『…違います。私の責任です。
私が突風で信哉さんを襲ったのがまずかったようです』
「そういうことだ、あそこは突風で俺の体勢を崩そうとするのではなく、
拘束魔法で俺の動きを禁じるべきだったな」
「…そういうことか」
見れば、信哉の体には全身に渡って風の強化魔法が掛けられていた。
風の『フル・アーマー』。移動に特化した風を足に掛けて素早さを上げるだけでなく、
周囲の風圧までも操り、攻・守・速の全てを飛躍的に上昇させる高等技法。
おそらく、クリスから繰り出された風を自分の魔法として利用したのだろう。
確かに拘束魔法とは違い、突風は起こしてしまえば後は只の風でしかない。
これは、雄真が扱う風の身体強化の強化版。
雄真が完成を目指している技法の一つが、今の信哉に発現していた。
『申し訳ありません。私の判断ミスです』
「気にすんな。あの場面であの風を利用できた、信哉が凄いのさ」
そう言うと、雄真は改めて信哉に目を向けた。
「やるな、信哉。今の攻撃は、俺の中でもトップクラスの攻撃力だったんだが…」
「うむ。見事な威力であった。
俺もクリス殿の風の力を借りなければ危なかっただろう。
雄真殿もクリス殿も素晴らしい魔法であった」
信哉は風神雷神を構えなおした。
「さて、この歩兵術『疾風の型』を出した以上。
雄真殿に勝ち目は無い、と言いたかったところではあるが…。
今の話を聞けば、まだ雄真殿も奥の手がありそうだな?」
「…なぜそう思うんだ?」
「ふふ、雄真殿。
お主は先ほどの火球を最強の技と言い切らなかったではないか。
これはまだ楽しめる、そう判断してよいのだろう?」
「はは、お前の前では気を抜いて会話もできないってことか」
「そういうことだ。
戦いの中では、相手の言葉一つが重要な攻略のヒントにもなり得る」
ズッ!!!
信哉の纏う風の音が変わった。どうやらお話しはここまでらしい。
雄真はクリスを構えなおした。
「…クリス。防護結界を張る。詠唱中はお前が抑えてくれ」
『分かりました。耐えて見せましょう』
「行くぞ!! 雄真殿!!」
信哉の咆哮を皮切りに、戦いが再開された。
「エル・アムダルト・リ・エルス」
「詠唱など、させん!!」
『ディ・ラティル・アムレスト!!』
ガキィィィン!!!
正面から斬りかかってきた信哉に、6枚の障壁が対抗する。
「クリス殿か。無駄だ!!」
ゴオッ!!!
ノータイムで風神雷神に風の力が付与される。
『まさか?!』
「ディ・ラティル・アムティレスト!!!」
「風神の太刀ぃぃぃぃ!!!」
ガシャアアアアアアアン!!!
「な、なんだと?!」
驚愕したのは信哉の方が上だった。
確かにクリスの障壁は破ったはず。それなのに。
自分の剣は雄真には届かなかった。
ヴゥゥゥゥゥゥゥゥン
「…やるな、信哉。風のフル・アーマーの付加能力か。
まさか風神の太刀をノータイムで繰り出せるとは…。
詠唱してたのが攻撃魔法だったら、今ので俺はやられてたな。
危ないところだったよ」
「…これは、防護結界か。まさか、雄真殿がこれを扱えたとは…」
「はは、風神の力なら防げたか。よかったよ」
雄真は自分を中心に、ドーム状に張られた結界の中で笑った。
「ふん、流石だ雄真殿」
そう言って信哉は距離をとった。
そして、己に纏っていた風の力を解く。
「お、解いちゃっていいのか?」
「今から使う技は、他の物とは併用できぬ」
そう言って信哉は、風神雷神を構えた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
バチッ!!!
風神雷神に新しい属性が付与され出した。
信哉が扱えるもう一つの属性魔法。雷だ。
「あれは流石に耐えきれないだろうな」
『ですね。拮抗時間はおよそ10秒ほどでしょう。
どうされますか?』
「…あれを使う」
『…あれ、ですか。
分かっているんですか?
あれはまだ練習でも完全に発現できたことがないのですよ?』
「わかってるさ。
けど、信哉には『ファイナス』も効かなかったんだ。
今あいつが発現しようとしてるのは雷。こいつしかない。
それに――――――」
『それに、なんです?』
「始まる前はああ言ったけどさ。
やっぱここまできたら勝ちたいんだ。
…だから協力してくれないか?」
『………仕方の無いマスターですね』
「はは、クリスならそう言ってくれると思ってたよ。
任せろ、絶対に成功させてみせる」
『わかりました。ただ、正面から放っても避けられるのでは?』
「ああ、だから遅延呪文に乗せるのさ」
『なるほど。
では、私は結界破壊と同時にマスターの足に身体強化を掛けなおします』
「ああ、そうしてくれ…」
シュウウウウウ
雄真は足の身体強化を解いた。
信哉と同じく、この呪文を使うには、まだ他の魔法と併用はできない。
前を見ると、信哉の風神雷神には収まりきらんばかりの雷がバチバチと音を立てていた。
まもなく準備は終わるだろう。
おそらく、次が最後の一撃となる。
「さて、どちらが上をいくか。勝負だ、信哉」
励みになります。
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Leica
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