信哉は自身のワンド、風神雷神に雷の属性を込めながら雄真の様子を伺った。
彼はまだ、防護結界を解こうとしない。おそらく、雷神の太刀をあれで防ぎきるつもりなのだろう。
しかし、腑に落ちない。
雷神の太刀は溜めこそ長い時間を必要とするものの、
風神の太刀と同じく、こちらが魔力供給を絶つまではひたすらにワンドに纏い続けられる。
秘宝事件以降も何度も見せてきたはず。それを知らないはずがない。
防護結界が使えたことも、その強度も見事だったが、あくまで抑えられるのは風神まで。
雷神では、仮に一撃もったとしても二撃目で破壊できる。
防護結界は外からの防御に優れるが、当然張られている間は中から攻撃を仕掛けることもできない。
つまり、反撃のタイミングは結界が破られた直後のカウンター狙いのみ。
相手が通常の魔法使いであるなら、それでも十分見込みがあるかもしれないが、
接近戦を主体とする魔法剣士にそれは通用しない。
…それでも。
(間に合うと思っているのか? 雄真殿)
もし、最初に身体強化で抜け出したとしても逃しはしない。
詠唱の隙など与ない。その前に、雷が全てを飲み込む。
バチバチバチッ!!!
供給が完了したようだ。それを確認して信哉は叫んだ。
「行くぞ!!雄真殿!!!」
地面を、蹴った。
Happiness story『小日向雄真の夏休み戦争』
Magic3.小日向雄真vs上条信哉(後編)
「…カルティエ・ディ・ルテ…」
「行くぞ!!雄真殿!!」
信哉がそう叫ぶのを、雄真は頭の片隅で聞き取った。
術式は余裕で間に合うだろう。後はタイミングだ。
「…エル・アダファリア・リース…」
「雷神の太刀ぃぃぃぃ!!!」
バチチチチチチチ!!!
雄真の結界と雷が拮抗する。
それを確認しつつ、雄真は術式詠唱を完了させた。
「“クローズ”。…よし、クリス。準備はいいか?」
『もちろんです。これ以上マスターの足を引っ張りたくはないですからね』
「はは、何言ってんだ。お前は俺の最高のパートナーだよ」
『ありがとうございます。
………マスター』
「ん?」
『この試合、勝ちましょう』
クリスの強気な発言に一瞬驚いた顔を見せた雄真だったが、
「もちろん、当たり前だ」
すぐに笑顔になり、同じく断言する。
ちょうどそのタイミングで、
バキンッ!!!
「終わりだ!!! 雄真殿!!!」
雄真の結界は信哉の雷神の太刀を前に破れ去った。
信哉は既に雄真を倒さんと風神雷神を構えなおしている。
ワンドには雷の力が宿ったままだ。
絶体絶命の中、雄真の心は不思議なくらい穏やかだった。
なぜなら。
『終わらせませんよ!! ウィンズ!!!』
頼もしすぎる相棒がいるから。
クリスの放った身体強化の呪文により、雄真の足に再び風の力が宿る。
雄真は迷わず地面を蹴った。
ドンッ!!
バチィ!!!
寸前のところで、信哉の雷神を回避する。
雄真は信哉の懐に潜り込んだ。
「むぅ?!」
「“オープン”!!!」
己の掌を信哉の胸に当てると、雄真は遅延呪文を解放した。
「ウェンペティア!!!!」
「ちょっ…」
…叫んだ瞬間、鈴莉の声が聞こえた気がした。
ズドォォォォォォォォォォォン!!!!
「はぁ、はぁ…。や、やったか…?」
魔法と魔法の衝突にとって生じる靄のせいでうまく前が見えない。
大量の魔力を消費した雄真は、息も絶え絶えにそう言った。
「…きちんと発現はできたよな?」
『はい。練習でも、あれほど見事な魔力の練り込みはなかったです。
大成功ですね、マスター。しかし、1点だけ問題が…』
「はぁ、はぁ…な、なに?」
『あれほどの純度の魔法を、しかもゼロ距離で当てたとなると…。
勝ち負け云々ではなく、信哉さんが消し飛んでしまったかもしれません』
「………げっ?! ウソだろ?」
雄真は慌てて目を凝らした。そこには…。
「二人とも無茶しすぎよ」
鈴莉と信哉が立っていた。
もっとも信哉は風神雷神にしがみつき、辛うじて立っている状態だったが。
「よ、よかった!! 無事か!!
すごいな、母さんが止めてくれたのか?」
「いえ、割って入ろうとしたら、上条君に止められたの。
だから貴方の魔法を防いだのは、信哉君だけの力よ。
もっとも、フィールド効果もあったからこそ、だけどね」
『そうですよ、マスター。鈴莉さんが張ったフィールドの中で、
消し飛ぶはずなんてないじゃないですか』
「…クリス、後で覚えてろよ」
『すみません。つい、嬉しくて』
「ぜぇ、ぜぇ…。や、やるな雄真殿。
決めで得意属性を外してくるとは…。
なぜ攻撃特化の火でこなかった?」
信哉が問う。
それに対して、雄真は呆れながら答えた。
「属性魔法対決になったら、相手属性の弱点をつけ。
魔法使いの鉄則だ。…もっとも、お前には火の時も風の時も効かなかったわけだが」
信哉の風神は火に弱く、雷神は風に弱い。
今回の対決では、弱点をつく作戦で攻めていたのだが、互角以上に争われてしまった。
つまり、魔法レベル全体が、まだ信哉に追い付いていないことに他ならない。
「…はは、どおりで。戦いづらかったわけだ」
ドサッ!!
そう言うと、信哉は崩れ落ちた。
「し、信哉?!」
「大丈夫よ、フィールドを張っていたんだもの。
これは魔力の使い過ぎ。後遺症になるようなことなんて一つもないわ」
「そっか、良かった」
「…と、言うわけで…」
「?」
「この勝負、小日向雄真君の勝ちとします!」
「…あ」
(…勝った? 信哉に俺が?)
『おめでとうございます、マスター』
「や、やっ――――――」
「まあ、教師としては素直に喜べないのだけれどね」
「な、なんで?」
「…なんでですって?」
ギロッと鈴莉が睨む。
「私は、障壁と魔法球の模擬実践をお願いしたの!
それなのに2人とも、最初から身体強化に状態強化で近接バトル始めるわ!
魔法球には属性付加をかけるわ! 障壁張ったと思えば結界も張るわ!
あげくに遅延呪文!! そして貴方のこの試合で投入した
火属性『ファイナス』と風属性『ウェンペティア』は、正真正銘ClassAに登録されている攻撃魔法よ!!!」
「ごめんなさい?!」
「クラスメイト見て御覧なさい。皆びっくりしちゃってるじゃないの」
「…う」
確かに周りを見渡してみると、皆固まってしまっていた。
まぁ、例外はいるのだが。顔を真っ赤にしてる杏璃だとか、それを抑えてる春姫や沙耶だとか、
なぜかウケてるミサだとか、笑顔で拍手してる小百合だとか。
そういえば、模擬実践を授業でやったのって初めてだったか、と今さらながらに雄真は思った。
「ふぅ…。まぁ生徒であり息子である貴方がすくすくと成長していくのは嬉しいんだけどね」
「ごめん」
「いいのよ、罰として貴方は信哉君を保健室へ連れて行くこと」
「分かった。手を貸す、立てるか? 信哉」
「す、すまぬ」
雄真が信哉に手を貸して立ち上がらせるのを見届けると、鈴莉は手を叩いて皆の注目を集めた。
「さて、皆さんにはいい刺激になったかしら?
障壁や魔法球を極めていけば、あのような魔法戦闘も可能になるわけです。
皆さんも見習って、これからの授業に励んでください」
(…ちょっと熱くなっちゃったな)
((ちょっとじゃありませんでしたけどね))
クリスと念話で会話しながら、信哉を連れてドームを出る。
最後の締めで、うまく授業と暴れすぎた実践を絡めた説明をしてくれる鈴莉に、雄真と信哉は感謝するのだった。
「あっはははははは!!!
もうむっちゃくちゃね!!
きゃははははははは!!
ま、魔法使えすぎて、お、怒られてる人…くく…は、初めて見た…。
きゃははははははは!!」
「そろそろ落ち着きなさいよ、ミサ!!
アンタいつまで笑ってんのよ!!」
「ひ、柊さんも少し落ち着かれては…」
「あん?!」
「ひっ?! も、申し訳ありません!!」
「おい、杏璃。人様に迷惑かけるなよ…」
「だから、保護者ぶってんじゃないわよ!!」
雄真が信哉を保健室に連れて行ったその後。
授業は終了し、解散。信哉は少しの間安静とのことなので、雄真は一人で着替えて教室に戻ってきた。
そうしたら捕まったのだ。
沙耶ちゃんを威嚇する杏璃を宥めていると、後ろから小百合に声を掛けられた。
「でも、本当に凄かったわ。さっきの試合は。
二人とも、身体強化魔法はこの学園ではトップレベルの使い手ね。
とくに上条君の『フル・アーマー』には驚かされたわよ」
「…俺もあの技法は初めて見たよ。
あいつ、いつもは俺みたいに足にしか掛けないからさ」
「凄いのは雄真くんもだよ?
御薙先生言ってたじゃない。ClassAの呪文を二つ投入してたって。
雄真君、Class試験はいきなりAを受けるのかな?」
「いや、今の俺じゃAは受からないだろう」
「な、何でよ?!」
「天蓋魔法が使えないからだ」
「あ、そっか」
食ってかかる杏璃に、雄真は即答した。
天蓋魔法。魔法陣を発現させ、空中で維持。そこから魔法を発現させる高等技術。
攻撃魔法とは次元が違うほどに、維持という面でのテクニックが要求される。
自身の魔力容量や発現能力に、魔法伝達の効率化が追い付いていない今の雄真では、少し厳しい技術である。
ClassAの試験では、天蓋魔法は必須項目。仮に他のClassAの魔法が使えても、それだけでは合格できないのだ。
「どちらにせよ、Class昇格試験はもう少し先の話だ。
それよりも先にやるべきことがあるだろう?」
「なによ、それ?」
本気で首を傾げる杏璃に、雄真はため息をついた。
「期末試験。忘れてないだろうな?」
あと、二日で試験一週間前だ。
それが終われば夏休みとなるのだが、期末の成績が悪い者は補習がある。
文字通り天国と地獄を分かつ、最後の門番だ。
「ゆ」
「ゆ?」
「ゆうまぁ〜!! 勉強教えて〜!!!!」
「ばっ?! だから抱き着くなー!!!」
「ひー、ひー!!…くくっ! くふふ…」
「ミサ、お前まだ笑ってたの?!」
ピンポンパンポーン
「ん?」
『御薙鈴莉教諭、御薙鈴莉教諭。
至急理事長室までお越しください。
繰り返します――――――』
「ちょ、ちょっとちょっと。アンタのせいで御薙先生怒られるんじゃないの?」
雄真の体にぶら下がったまま、杏璃はそう尋ねた。
「いや、流石に…。まさかね?」
「で、でもちょっとタイミングよすぎかも…」
春姫も心配そうに呟いた。杏璃に同意のようだ。
「うそぉ…」
『マスター、念の為様子を見てきた方がよろしいのでは?
場所は理事長室と言ってました。ゆずはさんとも知らぬ仲ではないのですから』
「…そうだな」
「じゃ、雄真は次の授業サボるって言っとくわね!!」
「せめて、調子が悪いから保健室に行ってるって言ってくれ!!」
そう言って杏璃を引きはがすと、雄真はダッシュで教室を出て行った。
コンコン
「ゆずは、私よ」
「入って頂戴」
ギィッ
ゆずはに入室を許可された鈴莉が、理事長室のドアをくぐる。
「何の用かしら、私は次の授業が―――――――――」
そこで言葉を止めた。
ゆずは以外にもう一人、その場に居たことに気付いたからだ。
「…こちらは?」
「ええ、こちらは――――――」
ゆずはの言葉を遮り、男が前に出た。
「御薙鈴莉さんですね。
私、ミタカ・コーポレーションの新橋恭介(しんばしきょうすけ)と申します」
「これはご丁寧に。それで、私に用件なのかしら?」
「はい。どうにもこちらの理事長とはお話が合わないようでして」
ピクッと鈴莉の眉が動く。見ればゆずはは拳を握りしめていた。
どうやら良い客ではないらしい。
「その用件をお聞かせ願えるかしら」
「いやなに、実に簡単な事だと思うのですがね…」
そう言って新橋は一度言葉を切った。
ニヤッとしたその笑いに、鈴莉は第一印象でこの男が嫌いになっていた。
どんな用件でやろうが断ってやろうと考えたところで――――――
「あなた方学園が所有する秘宝を、わが社に提供して頂きたいのです」
頭が真っ白になった。
おそらく、ポーカーフェイスが崩れてしまったのだろう。
相手の笑みがますます濃くなった。
「なぜ、貴方のような一会社の社員がそのような情報を…。
いったいどこから――――――」
「御薙さん、御薙さん。
それは本題には関係の無い事でしょう?
わが社は日本トップクラスの魔法会社なのです。
そのような情報くらい、仕入れるのは簡単なのですよ。
あなた方がその秘宝をあろうことか封印しようとしている事もね」
「…っ?!」
今度は間違いなく表情を崩してしまった自信がある。
まさか、そこまでリアルタイムに情報を入手していたとは。
流石の鈴莉も、ここまでは予想できなかった。
いや、ここまで状況が悪くなるとは思ってなかった、と言った方が正しいかもしれない。
「貴方ねぇ――――――」
パンパン!!
鬱陶しいとばかりに新橋は手を叩いた。
「ビジネスの話をしましょう。
私は遥々こんな辺境の地まで、わが社の情報ソースを教えに来たわけではないのです」
「…ビジネス?」
「その通りです。何もタダで寄越してくれなんて無粋な真似をする気はありませんよ。
こちらに記載されている金額で宜しければ、今日中に指定の口座に振り込みましょう」
そう言って新橋は、真新しい預金通帳を差し出したが、
「結構よ」
それを受け取ることなく、鈴莉は一蹴した。
「貴方、さっきうちの理事長と話が合わないとおっしゃってたわね?
なら、私が出した答え。理事長と一緒なんじゃないかしら。
答えは、ノーよ」
「………」
「悪いけど、さっさとお引き取り願えるかしら?
こちらは貴方と違って暇じゃないの」
「…まったく、理解に苦しむ」
通帳を持った手をそのままに、俯いた新橋はそう呟いた。
「…何ですって?」
「アンタたちは、“龍脈の秘石”を使いこなせなかったんだろう?
悪い提案じゃないと思うが…。
金額は決して少なくないのだぞ」
持った通帳をヒラヒラさせながら喋る。
「あのまま安置しとくというのは、只の宝の持ち腐れだ。
ここらで有用に使うことを考えたらどうだ?」
「あれは、もう人が扱える物じゃない。
龍脈からのエネルギーを吸い出し過ぎてしまった」
「それは、アンタ等の管理が悪かったからだろう?
天災みたいな言い方をするな」
「…なるほど、確かに否定できないわね」
「ふん、なら――――――」
「それでも断るわ」
通帳を再び差し出そうとした新橋を、鈴莉は即座に制した。
「現にエネルギーを吸い出し過ぎてしまった秘石が手元にある以上、
その後始末は私たちの仕事よ」
「……ホント、イラつく女だな」
「…っ?!」
ユラリ、と。新橋が殺気を込めたところで、
コンコン
―――――――――新たな来訪者がドアをノックした。
励みになります。
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Leica
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