属性付加という技法がある。
それは読んで字の如く、属性を付加するということだ。
無属性魔法(何の属性も持たぬ魔法の総称)よりも難度の高い技だが、
それ故に付与された属性に準ずる、独自の強さを発揮する。
一般的に、付与できると言われている属性は以下の7つ。
『火』『水』『雷』『土』『風』『光』『闇』である。
他にもいくつか確認されてはいるが、
それは魔法使いの中でもある特別な血族たちにしか扱えておらず、そのメカニズムは不明である。
よって、ここでは先に挙げた上記7つについての説明だけに留めたい。
下記に記すのが各々の特徴、そして強弱についてである。
『火』(『風』に強いが、『水』に弱い)
攻撃系の魔法に特化する。
回復、防御、操作、移動、視覚、回帰、重力、捕縛に優れない。
『水』(『火』に強いが、『土』に弱い)
回復系の魔法を得意とする。
操作、移動、視覚、回帰、重力に優れない。
『土』(『水』に強いが、『雷』に弱い)
防御系の魔法を得意とする。
また、攻撃にも優れる。
移動、視覚、回帰、重力に優れない。
『雷』(『土』に強いが、『風』に弱い)
操作系の魔法を得意とする。
また、攻撃、移動にも優れる。
防御、視覚、回帰、重力に優れない。
『風』(『雷』に強いが、『火』に弱い)
移動系の魔法を得意とする。
また、攻撃にも優れる。
回復、回帰に優れない。
『光』(『闇』に弱い。『闇』を除く全ての属性に強弱関係は生じない)
視覚系・回帰系の魔法を得意とする。
闇との合成ができない(無属性へと戻ってしまう為)
『闇』(『光』に弱い。『光』を除く全ての属性に強弱関係は生じない)
重力系・捕縛系の魔法を得意とする。
光との合成ができない(無属性へと戻ってしまう為)
もちろん、優れないと記されてはいるものの、絶対に扱えないというわけではない。
例えば火属性で回復、防御、操作、移動、視覚、回帰、重力が絶対に使えないとは言い切れない。
但し、それはその属性の限りなく極みまで上り詰めた者でなければ実用はできないだろう。
特に『火』の「特化」とは、そういう意味合いも込めて使用されている。
全ての属性には、それぞれの長所・欠点があるというわけだ。
Happiness story『小日向雄真の夏休み戦争』
Magic5.忍び寄る脅威
「…と、いうわけだ。分かったか?」
「全然」
杏璃の気持ちがいいほどの即答ぶりに、雄真は脱力した。
ここはカフェテリアOasisの一角。
既に放課後を迎えていたものの、雄真と杏璃、そして春姫は
Oasisのテーブル席に居座って試験勉強に励んでいた。
今の課題は魔法理論の一つ、魔法の属性付加について。
実戦に直結できるこの部分は、雄真にとって何の苦痛もなく進めた場所だったが、
杏璃はそうではないらしい。早くもグロッキー状態だった。
「杏璃ちゃん? 私が教えてあげてもいいんだよ?」
「さぁ、雄真!! しっかり教えなさいよ!!
まだまだこれからなんだから!!!」
春姫の言葉に、杏璃が覚醒する。
よほど春姫に教えを乞うのが嫌らしい。
先ほど、春姫が席を外した時に理由を聞いてみたところ、
春姫の教え方が“スパルタ”過ぎて耐えられないとのこと。
「俺は転科試験勉強のときそう感じなかったけどなぁ」と呟くと、
雄真は後頭部を掴まれ、そのままテーブルに叩き付けられた。
「アンタはそのスパルタに気付かないほど勉強できるからよ!!」だそうだ。
まだ顔がヒリヒリするが、文句を言おうものなら今度は魔法球が飛んでくるだろう。
雄真はため息をつきながら、もう一度説明を繰り返した。
「属性付加って知ってるな?」
「ええ、魔法に火とか雷の能力を与えるやつでしょ」
「そう。それには当然高い技術が必要になるが。その分魔法の性能もよくなる。
但し、属性によって長所短所があるから、うまく使い分けないといけないわけだ」
うんうんと頷いている杏璃を確認して、雄真は続ける。
「属性付加の方法は、主に2つ。
自分のオリジナル始動キーによる勝手な発現か、
もしくは世界魔法協議会が認定するオフィシャル・キーを
自分のオリジナルに付け加えるかのどっちかだ」
「なんで最初の、自分の始動キーでの発現だけじゃ駄目なの?」
(…こ、ここから躓いてたのか)
雄真はがっくりと項垂れてから、説明を再開した。
「そうだな。
例えば俺は『エル・アムダルト・リ・エルス』という魔法の始動キーがある。
そもそも、始動キーとは何かってのは分かってるよな?」
「もちろん! 自分の魔力を循環・放出するため、でしょ」
「おしい、ちょっと先まで読み過ぎたな。
始動キーはあくまで体内魔力の循環・活性化まで。
その後に続く詠唱が放出の役割を果たしている。
だから、俺は始動キーの後に『カルティエ・ディ・ルテ・エル・アダファルス』
という放出用の詠唱を唱えてから魔力を体外へ出しているわけだが…」
雄真は紙にカタカナでなぞった自身の詠唱キーを書く。
「魔力がうまくコントロールできるようになってくると、
その放出した魔力を球体に留めておくことができるようになる。
これが魔法球だ。魔法の形態変化とも呼ばれる、初心者卒業基準だな。
確かClassEの合格条件だったはずだ」
チラッと春姫を見ると、笑顔で頷いてくれた。
雄真はその試験を受けていないので、知識だけしかない。
「そしてそれが体に馴染んでくると、直に自分の得意属性が勝手に付与されるようになる。
これがさっきの前者のやり方だ。だけど、それはあくまで放出までの話。
例えば拘束や結界になってくると、また違う詠唱が必要となる。
いちいち自分のオリジナルの詠唱を考えていたら、キリがないと思わないか?」
「う、うん。正直、もう詠唱は1から考えたくないかも…」
「まぁ、全部をオリジナルで作るってのはほぼ無理だけどな。
それができるやつは、順番に世界魔法協議会で披露するといい。
新術開発だからな。ClassLが授与されるだろう」
「は、はは」
「話を戻すか。だから、既に開発済みのキーを貰って、自分のオリジナルに付け足すんだ。
例えば、俺が今日実技で使った『ファイナス』という火系攻撃呪文でいうと…」
雄真は先ほど書いた詠唱キーに、別のキーを書き加えた。
(オリジナルの放出キー)
| 始動キー | 放出キー |→ ・アダファルス
エル・アムダルト・リ・エルス・カルティエ・ディ・ルテ・エル
|→ ・アダファリア・リース・ファイナス
(火属性のオフィシャル・キー)
「こうなるわけだ。『エル・アムダルト・リ・エルス』は始動キーだからそのまま。
『カルティエ・ディ・ルテ・エル』の部分は放出キーだから、こちらもそのまま。
そして最後の『アダファルス』という無属性を『ファイナス』という火属性に変えたい。
しかし、この『ファイナス』は俺ではない別の誰かが開発し、世界魔法協議会に登録したものだ。
俺の詠唱キーに乗せるには、魔力伝達の“波長”を合わせる必要がある。
その為の帳尻合わせとして、『アダファリア・リース』という音を加えた、というわけだ」
「ふむふむ」
「うんうん」
見れば春姫も熱心に紙を覗き込んでいる。確かに雄真と春姫の始動・放出キーは一緒。
そして得意属性も一緒となれば、春姫も十分『ファイナス』を使える素質があることになる。
故に興味が出てきたのだろう。『ファイナス』はClassAの火属性攻撃呪文。
春姫が次に資格取得を目指すClassAには、もってこいの練習台かもしれない。
「あれ? でも雄真や春姫って、障壁もオリジナルでしょ?
でも得意属性が発現していないじゃない」
杏璃がふと思いついたように、雄真に尋ねた。
「よく気付いたな、杏璃。だが、発現していないんじゃなく“させてない”んだ。
『ディ・ラティル・アムレスト』は、『ラティル』の音で属性付与をキャンセルしている。
そうしないと、俺や春姫は火の障壁になってしまう」
「なんで? 火になったっていいじゃない」
「さっき言ったろ?
属性魔法には長所短所があるって。
火は攻撃に特化するが故に、その他ほとんどの技法に対して不得手だ。
今の俺や春姫が張っても、只の平べったい火にしかならない。
相手の攻撃は、何の抵抗もなく貫通するだろう」
「な、なるほど」
「母さんですら、『ディ・ラティル・アムレスト』はそのままで使ってるぐらいだからね。
単に障壁を張るだけなら、火の力はむしろ邪魔なだけということだ。
ClassSの『アエギル』とかまでくると、話は変わってくるけどな。
まぁ、それはいい。どうだ、なんとなくわかったか?」
「うん」
「よし。これがさっき言ったもう一つのやり方だ。
自分でオリジナルキーを1から模索するのではなく、
既に存在しているキーを自分の詠唱に合わせて使用する。
なぜ、そうするかについては、さっき自分で分かってたな?
最大限にぶっちゃけて言えば、簡単だからだ」
「簡単て…」
杏璃がジト目を向けたが、雄真は軽くいなした。
「…で、だ。ここからは少し実技の話にもなってくるが、
杏璃、お前の得意属性は光だったはずだが…」
「ええ、そうよ」
「攻撃魔法以外を極めるという選択肢はないのか?」
「あったりまえでしょ!!
攻撃は最大の防御、魔法使いの鉄則よ!!」
「…杏璃ちゃん。嘘は駄目だよ。
それ杏璃ちゃんの鉄則でしょ?」
「…ぐ。でもそうなのよ!!!」
「はぁ〜。一応光が得意なのは視覚系と回帰系なんだがな…」
「そ、そのくらい知ってるわよ!!!」
ため息をつきながら頭を抱える雄真に、杏璃は叫んだ。
「まぁ、杏璃にそういった細々した作業が向いてないことは知っているんだが…」
「雄真ぁ、アンタよっぽど殴られたいみたいねぇ…」
「はは、冗談はこれくらいにしてだな…」
「冗談じゃ済まされないわよ!!」
「本音を言えば、光の得意属性は俺が欲しかったくらいだ」
「……え?」
「ど、どうして? 雄真くん」
突然の告白にびっくりする杏璃と春姫を見て、苦笑いした。
「もし、これから先。自分の考えと反する魔法使いと出会ったとき。
俺は可能な限り敵対という手段を取りたくない。
特に暴力は避けたい。そんな時、相手の体の動きを少しでもいい。
止めることができれば、話し合えるかもしれない。
視覚系や回帰系にはそんな平和的解決の道も秘められていると思う」
「ゆ、雄真…」
「………」
「幻術の類の魔法を覚えられれば、相手の動きを止められる。
回帰系でも、高度な魔法が扱えるようになれば、それだけで十分な威嚇になる。
足だけでも、手だけでも。ちょっとでいいんだ。動きを止めることで相手に声を届けることができたなら…。
秘宝事件の時も、もう少し平和に片付いていてくれたと思う。
伊吹も最後にはちゃんと、俺たちの話を聞いてくれてたしな」
そう言いつつも、頭の中では過去ではなく未来のことが巡っていた。
理事長室で出会った男、新橋恭介。式守の秘宝。万が一のこと。ゆずはのお願い。
ふと気付けば、沈んだ様子の杏璃と春姫がいた。
これはやってしまったな、と思った雄真は無理に明るく結論を出した。
「ま、視覚やら回帰やら以前に、俺はあの時魔法なんて使えなかったからな!!」
「……雄真くん」
「ん? どうした春姫」
低い声で呼んだ春姫の次の言葉で、雄真は思わず息を飲んでしまった。
「理事長室で、何があったの?」
「っ?!」
それは、春姫と杏璃の抱える疑惑を確信に変える決め手となった。
「…ちっ、こいつも外れか」
新橋はそう吐き捨てると、掴んでいた生徒の頭から手を放した。
ドサッ
何の抵抗もなく、その男子生徒は崩れ落ちる。
殺してはいない。ただちょっと道を聞いただけだ。
言うまでもなく、秘宝までの。
この瑞穂坂学園のどこかに、転移魔法陣が隠されていることは分かっている。
当初は、龍脈の秘石自体の場所を探し当てればそれで終わりと踏んでいたが、そう簡単なことではなかったらしい。
龍脈の場所は発見したし、秘石の所在も見当を付けたのだが、近づけなかった。強力な魔法によって。
おそらく龍脈から直接魔力を引っ張ってきているのだろう。
あれでは、ClassAが何人いても破壊は不可能だった。
そうなると、残る手段は一つ。
式守が作った正規のルートで辿り着くしかない。
あそこは地上も地下も上空も。文字通り360度結界の入口がなかったのだから、
残る手段はこれしかない。転移魔法だ。
問題はその入口となるゲートがどこにあるのか。
流石に式守家に討ち入りするわけにもいかない。
そこで日本魔法協議会のデータバンクにハッキングすることにした。
社長・三鷹が率いるミタカ・コーポレーションは、
国のデータバンクに痕跡を残すことなくハッキングできる技術を秘密裏に抱え込んでいた。
そこに記された情報によると、かつて秘石は暴走したことがあることが分かった。
確か原因は、上条なんとかとかいう奴が制御に失敗したからだとか。
それにより、式守家前当主が巻き込まれて死亡していた。
アホらしい。
それにビビッて制御を諦めてしまったとしか思えない。
封印するだと? 人には扱えない物だと?
『予言者』と謳われ、国も一目置く高峰ゆずはも。
魔法使い最強の証であるClassM(マスター)と研究者最高の知恵の証であるClassL(レジェンド)。
その2つを持つ、魔法史上三人目となるMoL(Master of Legendの略称)・御薙鈴莉も。
とんだ期待外れだった。
しかし。日本魔法協議会が、まさか承諾するとは思ってもみなかった。
封印の日をいつにする気かは分からないが、あまり時間は掛けていられない。
秘石の力を封印されてしまえば、後はただの魔力が漏れ出るパワースポットにしかならない。
そんなものなら、わざわざここに来なくてもある。この国には全部で7か所に龍脈があるのだ。
ある特殊な条件下でしか生成されない、秘石にこそ意味がある。
そして。
「俺たちはそれを必ず手に入れる」
そう呟くと、新橋は学園の徘徊を再開した。
励みになります。
個人情報登録等は一切ございませんので、
作品が気に入って頂けましたらお願いします。
Leica
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