「警備、ですか。森の」

「ええ、そうです。
 雄真君も知ってのとおり、あそこには転移魔法陣のゲートがありますからね」

 秘宝事件の時、そのゲートを使用している雄真には隠す必要はないと、
ゆずははしれっと答えた。

「転移魔法陣起動には、鍵となる呪文が必要。
 あれ単体では役目を果たせませんが、あくまで念には念をです」

「…鍵がなければゲートは開かない。ゲートの場所が特定されても意味はない。
 つまり俺たちはあくまで時間稼ぎであり、破られてしまうようなら無理して戦う必要はない、と」

「そういうことです。
 鍵を保管しているこちらの魔法科校舎は、わたしと鈴莉で固めます」

「なるほど、わかりました」

「ちょ、ちょっと雄真君」

 即答する雄真に、鈴莉は待ったを掛けた。

「確かに、これは表立ってできる仕事じゃない。
 極力、三家の中で片付けたいのも事実。
 それでも、学生の貴方には荷が重すぎるわ。
 危険なのよ? それなのに、そんな簡単に引き受けていいの?」

「愚問だよ。母さん」

 雄真は真っ直ぐに鈴莉を見据えた。

「俺は小日向雄真だけど、同時に御薙雄真でもあるんだ。
 三家が関わる事情に知らん顔をする気はない。
 それに俺はあの時と違い、今度は魔法が使えるからね」

 そう言ってニッと笑った。

「…雄真君」

「皆には俺から伝えておきます。
 それで、いつから警備に入ればいいですか? 今日からでしょうか」

「なにを言ってるのですか?
 貴方たちには先にやってもらわなければならないことがあります。
 警備はその後です」

「……はい?」

 首を傾げた雄真に、ゆずはは呆れながら“今やるべきこと”を口にした。






Happiness story『小日向雄真の夏休み戦争』

Magic6.上条信哉vs新橋恭介






「えええええええええ?!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!
 何よそれ!! またひほぅモガモガモガ!!!」

「馬鹿野郎!! その単語を叫ぶんじゃねぇ!!」

 結局、理事長室の一件を根掘り葉掘り聞かれた雄真は、
いきなり禁止ワードを叫ぼうとした杏璃の口を、力ずくで黙らせた。

 場所はOasis。放課後で人は疎らだが、居ないわけじゃない。
あまり大声で口にすべきでないことは重々承知の上だったので、杏璃はすぐに大人しくなった。

「ちょっと、なんでそんな大事な事黙ってたのよ!!
 何よ、だったら直ぐにでも警備しなくちゃ!!」

「ちょ、ちょっと待て!!」

 有言実行。席から立ちあがり森に直行しようとした杏璃を、どうにか食い止める。

「俺たちは、それよりも先にやるべきことがある」

「何よ?!」

「期末試験だ」

「ふざけてんじゃないわよ!!
 試験どころじゃないでしょ?!」

「いや、俺もそう思ったんだがな。
 とにかく一回座ってくれ」

 なんとか杏璃を宥めることに成功した雄真は、改めて春姫と杏璃の対面に座りなおした。

「理事長は、奴らが強引な手段に出るとしたら、それは夏休みに入ってからだと言っていた。
 理由はもっとも。学園で授業がある時は魔法生徒に魔法先生がうじゃうじゃいるからな。
 敵も事を起こしづらいはず、だからだそうだ」

「でも、夏休みに入ってからだって、緊急事態なら魔法先生くらい呼べるでしょ?」

「さっき言ったろ? これはなるべく身内で済ませてしまいたい事柄なんだ。
 授業がある日に事を起こされれば、先生たちは学園にいるんだから、
 ただ不審者が暴れてるとでも言えば協力を仰げる。
 でも、長期休暇に入ってしまえばそうはいかない。
 先生たちはここにはいないからな。呼び出す理由が必要になる。
 その理由が話せないんだよ」

「そ、そうか。確かにそうね」

 杏璃は感心したかのようにうんうん頷いている。

「でも、だからって今油断しちゃうのもまずいんじゃないかな。
 確実に夏休みまで来ないって断言はできないんでしょ?」

「もちろんだ。だから、Oasisで勉強会をすることにしたんだ」

「?」

 自分の質問に対する雄真の答えが予想外だったのか、春姫が首を傾げる。

「仮に何かあったとき、学園に居た方がこちらも動きやすい。
 だから俺は明日からもギリギリの時間まで学園に居座ろうと思ってる。
 試験勉強って口実もあるし、母さんたちもこれに関しては口出しできないはずだ」

「なるほど」

 春姫も納得して頷いた。

「じゃあ、私も雄真くんと一緒に残ろうかな」

「私もよ!!」

 春姫と杏璃が元気よく賛同する。

「…これが、俺が言われるまでこの件を口にしなかった理由だ。
 理由を話せば、二人なら絶対協力してくれるって思ってた。
 でも、今回の件は三家絡みの問題で本来春姫と杏璃は関係ないんだ。
 危険が伴う可能性だって十分にある。
 それでも、本当にいいのか?」

「あったりまえでしょ!!
 何水臭い事言ってんのよ!!」

「雄真くん、さっき言ってたよ。
 『これはなるべく身内で済ませてしまいたい』って。
 それでも私や杏璃ちゃんには隠さずに、ちゃんと話してくれた。
 身内だって言ってくれたんだよ?
 私たちは関係ないなんて言わないわ!」

「そうよ!! 私たちは友達で、仲間じゃない!!
 仲間は身内と一緒なのよ!!」

 気持ちの良い程断言してくれる二人に、雄真は改めて頭を下げた。

「ありがとう。俺に、俺たちに力を貸してくれ」

「うん!」

「任せなさい!!
 それならやっぱり、勉強なんてしてるヒマないわ!!
 さっそく――――――ひゃんっ?!」

「だから!!
 落ち着いてくれ!!」

 再び立ち上がった杏璃の腕を掴み、なんとか静止させる。

「な、なにすんのよ?!」

「よく考えろ、杏璃。
 補習になったら夏休み、警備できないんだぞ!!」

「?!」

がーん

 という効果音が聞こえてきそうなほど、杏璃はビシッと固まった。
そのままふらふらと体が揺らぎ、ぽすっと元の椅子に収まった。

「…やっと事の重大さに気付いてくれたか」

「でも、何もできないっていうのは、ちょっと歯痒いよね」

 春姫は杏璃の気持ちを汲むようにそう呟いた。

「…何もできないってわけじゃない」

「え?」

「へ?」

「今まで通り、魔法の修行を怠らないようにするってことさ。
 夏休みまで後2週間ちょい。それまでに各々できることをきっちりやろう」

「…そうだね」

「そうね!!」

「じゃ、杏璃は属性付加の勉強の続きな」

「………かはっ」

「あ、杏璃ちゃーん?!」






「これも外れっと」

ドサッ

 今まで自分と話していた生徒が地面に倒れるのには目もくれず、
新橋は次の情報を求めて歩き出した。

「やっぱ、一般生徒には情報が流れてねぇか。
 龍脈の存在すら知らねぇとは。
 この学園はホントに物を隠すのがうまいみたいだな」

 確かに、秘宝は秘密裏に処理されていても不思議ではない。
龍脈も。興味を持った人間じゃなければ、さほど興味を抱くものでもないだろう。
だが、“生徒が一般に立ち入りを禁止している場所”でヒットしないのも珍しい。

 いや、厳密に言えば1つだけある。

「森、ねぇ。まさか大自然の中なら見つからないとでも思ってんじゃねぇだろうな」

 しかし、それ以外に当てはまるような情報は1つとしてない。
どれだけ“頭の中を掻きまわしてみても”、森以外に立ち入り禁止場所は無かった。

「俺の『エレクトリック・ダイブ』に間違いはない。
 ちょっとでも可能性があるなら、そこへ行ってみるべき、か」

『エレクトリック・ダイブ』。
雷属性を持つ操作系魔法の1つ。
相手の脳波に直接干渉し、必要な情報を魔力で直接読み取る。
相手に有無も言わさず、只必要な情報だけを強制的に吸い上げる。
まさに、尋問拷問いらず。究極の自白剤替わりだった。
一昔前までは、魔法犯罪者に対して、魔法警察が頻繁に使用していたようだが、
犯罪者の人権尊重・黙秘権の観点から使用中止に。
今では禁呪扱いになっている呪文の1つだ。

 禁呪とは、日本魔法協議会及び世界魔法協議会が、
一般的に使用を禁止している呪文を指す。
認定される判断基準は様々だが、一度認定されたら最後。
その呪文はどのような形であっても日の出に出ることは許されない。
人に対して使用するのはもちろんのこと、自身のみの修行の場でも、
詠唱キーを紙媒体のものに記すだけでも、重罪となる。

 新橋が使用する『エレクトリック・ダイブ』は、まさにその1つではあったが、
本人は顔色一つ変えずに使用していた。

パチンッ

 右手に着けていたグローブを外してポケットにしまう。

「ったく。これで駄目なら出直しだな。
 あんま居ると目立っちまう」

 新橋は、今までの情報提供者が指す森へ歩き出した。






「すまんな、沙耶。少し遅くなってしまった」

「いえ。平気ですよ、伊吹様。お友達は大切になさってください」

 伊吹と沙耶は保健室に向かって、廊下を歩いていた。
用事は信哉の回収だ。結局、信哉はまるまる一日を保健室で寝て過ごしていた。
なにせClassAの魔法をゼロ距離で当てられたのだ。
フィールド魔法のおかげで外傷はなかったが、疲労が溜まらないわけではない。
魔力もその防御だけでなく、身体強化に風神に雷神にとほぼ使い切っていた。
1時間程休んだ後、フラフラのまま保健室を出て行こうとして保健の先生に止められた。
このまま教室に戻らせても勉強にならないだろうと、ドクターストップをかけられたのだ。
(その話を聞いた雄真は、昼休みに入るなり保健室へ急行し、信哉に土下座しかねない勢いで平謝りした)

 昼休み。伊吹にその旨を伝えた沙耶は、放課後共に迎えに行こうと言われそれを承諾した。
しかし、放課後になっても伊吹は待ち合わせ場所に現れなかった。
しばらくして、様子を見に行こうと沙耶が伊吹の教室を訪れると、伊吹の周りをクラスメイトの何人かが囲んでいた。
何事かと思えば、どうやら期末試験を前に、分からなかったところを聞かれていたらしい。

 伊吹からは謝られたものの、沙耶はそれを悪い事だとは少しも思っていない。
心を閉ざす傾向があった主君が、学友から好かれているのだ。悪いはずがない。
内心、沙耶は自分の事のように喜んでいた。

「信哉は大丈夫なのか?」

「おそらくは。もう歩いて帰れる程度は回復しているはずですが…」

「そうか。それにしても雄真の奴め。
 信哉をそこまで追い詰めることができようとは…。
 あ奴の潜在能力と成長速度には本当に驚かされる」

「私も驚きました。既にClassAの呪文も使いこなしているようでしたし…」

「ふむ。後は天蓋魔法さえ習得できればClassAという事だ。
 飛び級可能な制度ではあるものの、Class昇格試験でいきなりAなど取ろうものなら大ニュースだぞ」

「はい、前代未聞ですね」

「御薙鈴莉もさぞ機嫌が良かろう。
 最近は少し気味が悪いくらい浮かれておったようだからな」

「…それは、そうかもしれません」

 沙耶はそう返しながらも、目の前まで迫った保健室の扉に手を掛けた。

ガラッ

「失礼致します」

「失礼する」

「あら、いらっしゃい」

 白衣を着た保健の先生、水島薫(みずしまかおる)が二人を出迎えた。

「あの、に――――――。上条信哉を迎えに来たのですが」

「は? 上条君なら、さっき一人で出て行ったよ?
 そろそろ妹が迎えにくるからって」

「……そう、ですか」

 唖然とする沙耶の後ろで、伊吹は頭を抱えた。

(…迎えに来ると知っておるなら、大人しく待っておればよいものを)

 信哉は、想像を絶するほどの方向音痴だ。
それはもう、雄真の義妹・すもものすもも時間のように、彼の一つの特技と言ってもいい。
学校から帰宅しようとしたら、“ちょっと道を間違えて”隣町の山奥で遭難することもある。

「さて、探しに行くとしよう」

「も、申し訳ありません」

「いや、良い。私が遅れたせいでもある。
 失礼する」

「し、失礼しました」

「はぁい。気を付けてかえりなさいね〜」

 そんな声をバックに、二人は保健室を後にした。






(…ちぃ、この森は広すぎるな。おまけにトラップも用意してやがる。
 学園外からの侵入者を防ぐ為か? それとも――――――)

「そこでなにをしている?」

「…?」

 あれから学園の森へと移動し、森の前を探知魔法を使いながらウロウロしていたところで、人の気配を感じた。
後ろから声を掛けてきた相手に首を向ける。誰かと思えば、また瑞穂坂学園の学生だ。
これまでに10人近くの生徒の思考を探ったが、秘宝に関する情報は出てこなかった。 
もう学生から洗う線は捨てようと思っていたのだが…。
とりあえず尋ねてみた。

「式守の秘宝って知ってる?」

ピクッ

「なぜそれを知っている。貴様、何者だ?」

 ビンゴ。
まさか当たるとは思っていなかった。
ここにきてやっと手がかりが現れたってわけだ。

「誰でもいいでしょ。で、どこにあるの? 欲しいんだけど」

「何だと?」

「言葉通りの意味だけど。
 今の所有者、式守家じゃ扱えないんでしょ?
 だから頂くことにしたんだ」

ズアアアアッ!!!!

 そう言った瞬間、学生から魔力が溢れ出た。

「貴様の様な怪しい者に、答えてやるつもりなどないっ!!」

 そう吼え、学生はワンドを抜く。
木刀。近接タイプか。と考え、新橋は赤色のグローブを右手に装着した。

「ま、いいよ。直ぐに聞き出すから」

「ほざけっ!!!」






ドンッ!!

 信哉は足に風の身体強化を掛けて踏み出した。
なぜ秘宝の事を知っているのか。何の目的で欲しているのか。
不明な点は多々あったが、信哉にとってそれは既に二の次となっていた。

 我が主君を馬鹿にされた。

 それに尽きる。
この男を許すつもりはなかった。
誰なのか。目的は何なのか。
それは捕らえてから聞き出せば済むことだ。

 信哉は風神雷神を、男に振り下ろした。
―――――――――が。

「デルタス」

 その声と共に、男の姿が視界から消える。
信哉のワンドは、文字通り空を切った。

「何っ?!」

「遅い」

ズンッ!!

「がはっ!!」

 男の拳が信哉の脇腹を的確に捉えた。






 新橋は、1音で体全体に身体強化を掛けた。
信哉が雄真戦で用いた『フル・アーマー』の雷版。
自身の神経伝達に電気の負荷をかけ、極限まで早めたスピードに、
信哉は完全に不意を突かれた形となった。

 もし、今の信哉が仮に万全の状態であったなら。
もう少し結果は変わっていたかもしれない。
しかし、現に。信哉は一撃でKOされてしまっていた。

「が…あ」

「何だ。威勢よくほざいた割にはあっけなかったな」

ガランガランッ

 鼻で笑いながら地に伏す信哉の手からワンドを蹴り飛ばす。
万が一にも噛みつかれないようにするためだ。

 それを終えると、新橋はグローブの付いた右手を伸ばしながらこう言った。




「んじゃ、少し俺とお話ししようぜ」


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