「お、おいお前! しっかりしろ!!」

 信哉を探し始めてしばらく。
人気のない学園の駐輪場付近で、
伊吹と沙耶はそこに倒れている見知らぬ男子生徒を発見した。

「外傷はない。気絶しているだけか。
 しかし、このままにもしておけん。
 沙耶、誰でもいい。人を呼んできてくれ」

「はっ!!」

 伊吹に一礼し、沙耶は駆け出した。
こういう事態の時、まずは保健室、若しくは教員室へ行くのが定石。
しかし、沙耶は――――――。

(…確か小日向さんは、放課後Oasisで勉強をすると言っていたはずっ)

 放課後、雄真から言っていた予定を思い出し、
何の躊躇いもなくOasisへと足を向けた。

無意識のうちに、一番頼りになるのは雄真だと。
そう考えた事実に気付かぬまま、沙耶は校庭を駆け抜けた。






Happiness story『小日向雄真の夏休み戦争』

Magic7.それは、決してやってはいけないこと






ドサッ!!

 新橋は信哉の頭から手を放し、自分の足元に転がした。
殺してはいない、が。しばらくは目覚めないであろう信哉を見つめ、新橋はニヤリと笑った。

「くく、とんだ収穫だったな。
 まさか式守家の護衛だったとは…」

 上条信哉。本人が名乗ったわけではない。
当然、禁呪により脳から強制的に引き出した情報の一つだ。

(…こいつのおかげで、必要な情報は大体揃ったな)

 秘石が眠る場所へ飛ぶための転移魔法陣の場所。
その場所に仕掛けられているトラップの種類。
転移魔法陣には鍵が掛けられているということ。
そして、その鍵の記された場所。

 鍵となる詠唱は、学園に隠されている。御薙鈴莉の研究室だ。
おそらく、これから一番の防衛ポイントとなるだろう。
一筋縄ではいかないはずだ。腐っても式守家。
そして予言者の高峰にMoLの御薙…。
一丸となって守られれば苦戦を強いられるし、時間のロスだ。

 ただ、鍵を知っている人物も把握できた。
高峰ゆずは・高峰小雪・御薙鈴莉・式守伊吹の4人。
あとは、状況に応じて、鍵をどこで手に入れるかは変えていくしかない。

「さて、今日はここまでとしておくか。
 あまり深追いしすぎてもまずいしな」

 新橋はそう呟くと、気絶している信哉に背を向けて歩き出した。
振り返らずに一言だけ告げる。

「じゃあな、役に立ったぜ」






「小日向さん!!」

「ん?」

 Oasisで杏璃に勉強を教えながら、自分も魔法史の教科書を開いていた雄真は、
声がした方向に顔を向けた。そちらからは、ちょうど沙耶がOasisに入ってくるところだった。
春姫も杏璃も驚いてそちらを見る。沙耶がこんなに大声を出すのは珍しいからだ。

「はぁ、はぁ…」

「どうした? 沙耶ちゃん」

 雄真たちのテーブルに辿り着くなり、荒い呼吸を繰り返す沙耶に雄真は尋ねた。

「た、助けてください…。はぁ、い、伊吹様が…」

 息も絶え絶えに沙耶は語り出した。

「気を失った生徒を、…は、発見されて…はぁ、今、保護を…」

 直ぐに異常を察知した雄真が立ち上がった。

「わかった。場所は?」

「ちゅ、駐輪場です…」

「…雄真くん」

 春姫に声を掛けられ、雄真は頷いた。

「杏璃は理事長室。春姫は母さんの研究室へ向かってくれ。
 俺は先に現場に向かってる」

「ゆ、雄真。保健室じゃなく、御薙先生の所って…」

「可能性があるってだけだ。説明は後。
 頼む、急いでくれ」

「わかった!」

「わかったわ!」

 詳しい説明は省き、二人をそれぞれの場所へ走らせる。

「沙耶ちゃんは落ち着いたら、駐輪場の方へ戻って来てくれ」

「わ、わかりました」

ダッ!!

 沙耶にそう告げ、雄真も走り出した。
向かう場所は駐輪場。嫌な予感がしていた。

 この時、信哉の名が出ていなかったことを、雄真はすっかり聞き流していた。






「こっちから行った方が早いな」

 駐輪場へ行くなら、校舎裏の抜け道を使った方が早い。
雄真が迷わずそちらの道を選んだところで、

「なっ?!」

 倒れている男子生徒を発見した。
場所が違い伊吹もいないことから、沙耶が言っていた生徒とは別人だ。

(…これは、まずい。手当たり次第か!)

「クリス、探知魔法を使え!
 探すのは、不自然に魔力の流れが沈静化してる奴だ!」

『了解。サーチ開始します』

キィィィン

 クリスが探知魔法を発動する。

 魔力が沈静化しているということは、その者が最低限の活動しかしていないということ。
つまり、大雑把に言ってしまえば、寝てるか気絶しているかだ。
魔法使いのみならず、例え魔法が使えない者で合っても、体内に魔力は存在する。
起きて活動していれば、大なり小なり魔力は体内を循環する。

 それが沈静化し、ほとんど循環していないとなれば、
それは今この時間では明らかにイレギュラーな存在であることを意味する。

 当たり前だ。放課後の学園で居眠りや気絶している者はそう居てたまるか。

『…こ、これは』

「どうだ? まだ他にも居たのか?」

 探知が終わったのを見計らい、クリスに尋ねる。

『完全に、してやられたようです。
 半径1kmの範囲でサーチを行いましたが、既に10人該当者がいます』

「…10人」

 つまり、それだけの人数が、この学園のどこかで同じように倒れているということ。

「…っ! なんだよっ…それ!」

『落ち着いて下さい。これからそれぞれの座標をお伝えしますから、鈴莉さんに連絡を』

「………わかった」

 雄真は震える手で携帯電話を取り出した。

『そしてもう一点、ご報告が』

「…なに?」

『該当者の中に、信哉さんがいます』

 雄真は、携帯電話を取り落した。






「…お飲みなさい」

 理事長室へ通された雄真、春姫、杏璃、沙耶は、
ゆずはから紅茶を差し出された。

「…今は、ちょっと」

 悔しげに歪む雄真の顔を見て、春姫が代表して断ろうとすると、

「ええ。今の心境は大体分かっています。
 別におもてなしの精神でお茶を勧めているわけではありません。
 リラックスできますから」

「………」

 その言葉に従い、雄真を除く三人はティーカップに口を付ける。
雄真だけは、俯いたまま顔を上げようとはしなかった。

 ゆずははそれを咎めることなく、切り出した。

「まずは、各々が迅速かつ的確な対応を取って頂いたおかげです。
 今現在、瑞穂坂学園はパニックに陥るという事態には至っていません。
 代表として、お礼申し上げます。
 皆さん、ありがとうございました」

「い、いえ」

「そんな」

「…私は、何もできませんでしたので」

 女生徒3人が恐縮する中、ゆずはは雄真に目を向けた。

「雄真君もありがとうございます。
 貴方の探知魔法のおかげで、被害にあった生徒は速やかに保護することができました」

「………」

 雄真は答えない。
ゆずはがどうしたものかと考えていると、

バタンッ

「失礼するわね」

「失礼する」

 鈴莉と伊吹が理事長室に入ってきた。

「二人ともお疲れ様でした。
 それで、どうでした?」

「皆、命に別状はないわ。
 気絶しているだけのようだし、意識が戻り次第、家へ帰して大丈夫でしょう」

「目立った外傷も見られん。
 うちの上条信哉に、一か所殴られたような後があったが、それだけだ。
 おそらく、抵抗したのであろうな」

ギリッ

 雄真が歯軋りした。

「……ごめん。俺が信哉に模擬実践で無茶させなければ、
 こんなことには―――――――――」

「雄真。その謝罪、間違っても信哉にはくれてやるなよ」

「……え?」

 半ば魂の抜けたような顔で、雄真は伊吹を見た。

「それを聞けば、あ奴は気に病むだろう。
 己の不甲斐無さに腹が立ってしまうだろう。
 今のそなたのように、な。
 信哉は、負けた。それだけだ」

「ア、アンタねぇ。そんな言い方…」

「いえ、正論です。伊吹様のおっしゃる通りです」

 心配そうな顔で雄真と沙耶を見た杏璃が、伊吹を止めようとしたが、
それを逆に沙耶に止められてしまった。

「それよりも、一般生徒の方に怪我がなくてなによりです」

 気丈に振る舞う沙耶に伊吹は頷くと、

「ああ、“外傷は”なかった。
 …が、どうにも不穏な魔力を該当者全員から感知した」

「………不穏な魔力?」

 春姫の疑問に、鈴莉が頷いた。

「どうやら襲われた生徒全員が、
 日本魔法協議会から禁呪と指定されている魔法に掛かった可能性が高いわ」

「……っ?!」

「そ、そんなっ?!」

「嘘でしょ?!」

「…まさか、そんなこと」

「……それで? その禁呪が何なのか見当はついているのかしら?」

 絶句する生徒四人とは違い、冷静さを保った声でゆずはが問う。

「無論だ。魔力の残滓を感じ取ったのは、該当者皆、決まって頭だった。
 そして目立った外傷がなく、意識もない。
 そして、“我が一族の秘宝が一部の者にリークされていた”この時期。
 …高峰ゆずは、そなたも想像が付いておろう?」

「雷の操作系禁断魔法。『エレクトリック・ダイブ』よ」

「……なるほど。そうきましたか」

「エレ…? なに?」

「『エレクトリック・ダイブ』。
 相手の脳波に雷の属性魔法で干渉して、他者の思考を読み取る禁呪だ。
 まだ禁止されてない国外でならともかく。まさかこの国の、
 しかも七賢人の一角が統治するこの地で、堂々と使ってこようとは…。
 …式守家も舐められたものだな」

「それも高峰・御薙が近くに居ながら、その横暴を許してしまうとは。
 無様なものね」

 伊吹と鈴莉の顔が歪む。

「……待てよ。思考を読み取る?
 じゃあ、この騒動を起こしたのは。
 やっぱり――――――」

「新橋恭介。おそらく間違いないでしょう」

ダンッ!!

 雄真は、堪らず理事長室のテーブルを拳で叩いた。
本来、生徒がこのような事をしようものなら停学処分も辞さないゆずはだが、
この時ばかりは何も言わなかった。

「完全に先手を取られてしまったようです。
 上条信哉君が該当者に含まれてしまっている事から、
 少なくとも転移魔法陣の隠し場所、
 そして鍵の存在とその在り処はばれてしまったと見た方がいいでしょう」

「うむ」

「そうね」

 ゆずはの言葉に、鈴莉と伊吹が頷く。

「さらに、相手方は秘宝封印に後れを取らぬように動いたのでしょうね。
 まんまとやられました。明日から、瑞穂坂学園は臨時休校です」

「な?!」

「え?!」

「はぁ?!」

「そんな?!」

 ソファーに座る4人が驚愕するのを見て、伊吹は当然だとばかりに告げた。

「学園に不審者が侵入。被害者の合計が11人。
 未だ犯人は捕まっておらず、その見当がつく動機は表に出せない。
 『エレクトリック・ダイブ』は気こそ失うものの、記憶を失う類のものではない。
 うちの信哉だけならまだしも、一般生徒が10人も襲われてしまっては、
 もう事実の隠ぺいは不可能だ」

「そう言うことよ。明日からは公共の警察機関の立ち入りもあるでしょう。
 こちらも表に出したくない事柄を抱えている以上、目立った動きは制限されることになる」

「…仕方ありません」

 そう告げてゆずはが立ち上がった。

「相手がここまで好戦的な手段を取る以上、こちらも相応の対策を取る必要があります。
 狙われているのが式守の秘宝ならば、それは絶対に守らなければならない。
 確実に封印し、使えなくすること。それが式守を筆頭とした高峰、御薙の責任であり、義務です」

「うむ」

「そうね」

 伊吹と鈴莉が頷く。

「それで、貴方たちはどうするのかしら?
 雄真君と上条沙耶さんの意見は聞いているのだけれど」

「参加させて下さい。上条君や学園の人たちが酷い事をされているのに、
 黙って見過ごす事なんてできません」

「ここまで首をつっこんどいて、逃げるなんてありえないわ」

 春姫と杏璃が即答するのを見て、ゆずはは頷いた。

「協力に感謝します。これから、私たちは臨時休校への手続きを執り行います。
 鈴莉、教員は待機させてありますね? 教員会議を行います。連絡を」

「わかったわ」

「伊吹さん、昼休みに説明した事は覚えていらっしゃいますね?
 雄真君たちにその事についてお話願います」

「わかった。雄真、場所を移す。お前たちも来い」

「………わかった」

 おそらく、昼のうちに今後の対策について、伊吹を交えて話していたんだろう。
思いのほかスムーズに話が進むので、雄真はそれに合わせて頷いた。






バタン

「…結局、また巻き込むことになっちゃうのね」

 慌ただしく出て行った生徒の面々を思い浮かべ、鈴莉はため息をついた。

「式守の秘宝。昔はどうだったかは知らないけれど、
 少なくとも今は、災厄をもたらすだけの代物よ。
 この機会にケリをつけておくべきだわ」

 ゆずはは苦々しげに答えた。

「封印のメンバー召集は、おそらく間に合わない。
 あの子たちにもそれぞれやるべき事がある」

「私たちがあの人たちを叩き潰せばいいだけの事よ」

「あら、珍しいじゃない? そんな好戦的な性格だったかしら?」

 首を傾げた鈴莉に、ゆずはは自信満々に答えた。




「秘宝事件ではお酒に目が眩んでふらついてたけど。
 今回は、私も前線に出るわ。
 これ以上、あの男の好きになんかさせるもんですか」


…間に合った。
PCがバクるとか勘弁して欲しいです。
バグにも負けずきっちり公開できた私を褒めて頂ける方、
拍手ボタンをぽちっとお願いします(笑)。
(…あれ? ここの定型文代えたの始めてじゃない?)
                      Leica

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