「―――改めまして、自己紹介をさせて頂きます」
開始ブザーと共に地面を蹴ろうとしていた雄真は、
思わずつんのめりそうになりながらその言葉を聞いた。
「私の名前は児玉白。七賢人が一角。由緒正しき神威家の従者です」
そう告げながら、白が背中からロッドを抜く。
「貴方たちお2人は、僭越ながら私がお相手させていただきます」
「……なんだって?」
雄真が訝しげな視線を白に送る。
白はそれを冷笑することで応え、
「シャイノス」
身体強化を掛けた足で、一瞬にして雄真の正面に躍り出た。
「雄真くんっ!?」
ガンッ!!
鈍い音が鳴り響く。
瑞穂坂vs京帝。
現トップ校と、2連覇中の王者。
今後の展開を左右するであろう戦い。
運命の一戦が幕を開けた。
Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』
Magic16.“神威家従者”児玉白
互いの得物が十字で交わる。
ぎりぎりという音を鳴らしながら、両者は息が掛かるほどの距離でにらみ合った。
「今の一撃、よくぞ防ぎましたね? 一般人にしては上出来です」
「……そりゃどうも」
白の賞賛に、雄真が顔をしかめる。
極端に腕っぷしが上がったわけではない。
単純に、移動速度が増しただけ。つまりこれは―――。
「足の身体強化か」
「ええ―――」
白の身が翻り、円を描くように雄真の背後をとる。
「光の身体強化です」
「っ!?」
「アダファルスっ!!」
「うっ!?」
ボウン!!
雄真の背後からロッドを振りかぶった白に、春姫の火球が迫る。
寸前のところで衝突を回避した白は、バック転をしながら距離を空けた。
「助かったっ、ウィンズ!!」
雄真は春姫にそれだけ告げて地面を蹴る。
風の身体強化が掛かった足は、瞬く間に白との距離を詰めた。
「ふっ!!」
「はぁぁっ!!」
ガガガガガガガガガガガガガッ!!!!
ワンドとロッドが幾重にも交錯する。
「武道を嗜むのですかっ!? この動き、一介の学生とは思えませんねっ!!」
「それは君も同じだろっ!!」
ドカッ!!
「ぐっ!?」
一瞬の隙を突かれた。白の肘が、雄真の脇腹にめり込む。
「シャイノス・プロテクタ!!」
「ごほっ!! ウィンズ・プロテクタ!!」
ふらついた雄真に追撃を掛けるべく、白がロッドに状態強化を纏わせる。
同時に雄真も同系統の魔法を発現した。お互いが地面を蹴ろうとしたところで―――。
「ディア・ダ・オル・アムギア!!」
春姫が光の拘束魔法を発動した。
今まさに、地面を蹴ろうとしていた白の足を絡め取る。
「っく!? ちょこざいな真似をっ!!」
パァンッ!!
状態強化を纏ったロッドで、拘束を強引に振り払う。
しかし、身体強化を用いたスピード戦において、それは致命的なタイムロスを生んだ。
「はっ!!」
「きゃっ!?」
キィィィィンッ!!
雄真のワンドが、白の手からロッドを弾き飛ばす。
この瞬間。白は完全に丸腰になった。
「―――ゴメン」
雄真がワンドを振り上げる。
確実に討ち取れるであろうと、思い込んでいたからこそ出た言葉だったが。
―――それは全くもって不要なものだった。
「謝罪には及びません」
「へ?」
雄真の、文字通り風の様なスピードで振るうワンドを軽やかに避け、
白はダンスを踊るように回りながら雄真の懐へと潜りこんだ。
「謝らねばならぬのは、こちらの方ですね?」
「しまっ―――」
ドコッ
身体強化を施された白の足が、雄真の腹部を抉った。
「かはっ」
雄真は面白いように吹っ飛ばされ、フィールドの壁に激突する。
コンクリートが割れるような派手な音が鳴り響き、砂煙が上がる。
「雄真くんっ!!」
「人の心配をしている暇はないのでは?」
「っ!?」
雄真を目で追っていた春姫が、完全に不意を突かれる。
視線を前に戻した時には、既に白は足を振りぬこうとしていた。
「さようならっ」
「させるかっ!!」
「っ!?」
ガッ!!
白は、瞬時に春姫を蹴り飛ばそうとしていた足の行先を変える。
真横から突如振るわれたワンドを迎え撃つべく、その軌道に合わせる。
うまく迎撃できたものの勢い負けをした白は、そのまま後方へと投げ出された。
それを深追いすることなく、雄真は春姫の元に着地する。
春姫はその様子を驚いたような顔で見つめた。
「ゆ、雄真くん。無事なの?」
「ああ、危なかった。術式が間に合わなかったら、一発KOだったな」
そう言う雄真の体には、風の魔法が“全身”を包み込んでいた。
そう。風の身体強化の全身版。信哉の得意とする技法の1つ。
風のフル・アーマーが、雄真に発現していた。
「一撃一撃が、重くて鋭いな。
児玉白さん、思っていたよりもずっと強い」
「…う、うん」
雄真と春姫が、同じ方向に視線を向ける。
そこには、何食わぬ顔で先ほど弾き飛ばされたロッドを拾う、白の姿があった。
その横には、試合開始から一歩も動かぬ信の姿がある。
腕を組んだまま試合を傍観していた信は、雄真の視線に気づくとにやりと口を歪めた。
そのまま雄真を見据えながら、どかりとフィールドに腰を下ろす。
「安心しろ。俺は手を出さん」
「―――っ!?」
「ゆ、雄真くん!!」
信のあまりに挑発的な言動に、雄真が顔をしかめる。
春姫が慌てて雄真を押しとどめようとしたが、それは杞憂に終わった。
「………大丈夫だから。槍術に体術。
悔しいけど、児玉さんは信と同時に相手できるようなレベルじゃない」
「…雄真くん」
「完全に信じるわけじゃないけど…。信がああ言ってるんだ。まずは2人で児玉さんを倒そう」
「うんっ」
雄真の言葉に、力強く春姫が頷く。
「お話は済みましたか?」
タイミングを見計らったかのように、白が会話に割り込んできた。
いきなり飛び掛かってきたりはしてこない。
どうやら、雄真と春姫の会話が終わるのを待っていたらしい。
「待っていてくれたのか? ありがとう」
「礼などいりません。不意を突かねばならぬほどの相手でもなかったようですので」
「む」
春姫がピクリと眉を上げる。
「それにしても…」
白はそれをさして気にした様子もなく、雄真を一瞥した。
「貴方、フル・アーマーを扱えるほどの技術があったのですね?」
「………どれだけ俺は過小評価をされてるんだ?」
「褒めているのですよ、これでも」
カッ!!
白の体を纏うオーラが輝きを放つ。それを見た雄真と春姫の表情が変わった。
「ならば、私もフル・アーマー“は”使っていいということですね」
「……うそ」
春姫が驚きの声を上げる。
たった今白が発現したのは、雄真と同じフル・アーマー。
光の全身強化を纏った白を、春姫は信じられないというような顔で見つめた。
「………どういうつもりだ?」
対して、雄真の顔に驚きはなかった。内心、驚いてはいるが顔には出ない。
「フル・アーマーが使えるのなら、なぜ最初から使ってこないんだ」
「なぜって…」
白が首を傾げる。
答える前から、雄真には分かっていた。白は自分たちを対等な相手として見ていない。
「必要ない、と思っていたからですよ」
―――そう、ただ試しているだけなのだ。
「舐めるな!!」
雄真が吼える。同時に地面を蹴った。その姿を見て、白が目を細める。
「舐めてませんよ。そこそこ警戒してます」
ガガガガガガガガガガガガガッ!!!!
再びワンドとロッドによる打ち合いが始まった。しかし、先ほどまでとは次元が違う。
お互いがフル・アーマーを纏い、常人には不可能な速さで動き回る。
手にした得物は状態強化によって、こちらも常人には到底真似のできない程の威力で交わっている。
もはや、一介の高校生が行える試合のレベルを超えていた。
「貴方がある程度の近接術をお持ちになっていることは、賞賛に値します。ですが―――」
「ぐっ!?」
白の足が、雄真の腹を蹴りつける。
ガードが間に合わなかった雄真は、成す術なく吹っ飛ばされた。
「日が浅い。幼少よりひたすら鍛錬を積んできた私の敵ではございません。―――む…?」
春姫より射出された複数の火球が白を襲う。
しかし、白はそれに動じることなく、ロッドを振るうことでそのすべてを叩き落とした。
「うそっ!?」
「いちいち驚かないでください」
「――っ!?」
春姫が気づいた時には、既に白は春姫の後ろを取っていた。
「終わりです」
白が躊躇いなくロッドを振り下ろす。
が。
「ふふ。掛かったね、児玉さん」
バシィンッ!!
「な、なにっ!?」
白の足元が、突如輝きを放つ。
姿を現した魔法陣から光のツタが幾重にも生まれ、白の体を拘束した。
「捕縛魔法陣っ!? い、いつの間に!!」
「全体強化を纏った貴方なら、絶対に隙を突いて私の後ろをとるって思ってた」
ソプラノに炎を纏わせながら、春姫が話す。
「エル・アムダルト・リ・エルス」
「―――トラップでしたか………条件起動型魔法陣」
春姫の詠唱を聞きながら、苦々しげに白が呻く。
「当たりです、アダファルスっ!!」
ボゥンッ!!
超至近距離にて、春姫の火球がさく裂する。
勢いに耐えきれなかった捕縛魔法陣が破れ、火球の直撃を喰らった白の体が後方へと吹き飛ぶ。
しかし、審判から退場のアナウンスは流れない。
つまり―――。
「この、程度でっ!!」
白は黒煙の中から叫ぶ。
「エル・アムダルト・リ・エルス」
「詠唱なんて―――」
白が地面に着地し、
「―――させませんよっ!!」
咆哮する。が。
「周囲には、ちゃんと気を配った方がいい」
「んな!?」
瞬く間に背後を取った雄真の忠告に、白が目を見開く。
ガッ!!
互いのワンドとロッドを打ちつけ合う。
「…カルティエ・ディ…」
春姫の詠唱は止まらない。白はそれを横目で睨みつけた。
「俺に集中しなくていいのか?」
「周囲に気を配れと言ったのは貴方でしょう!?」
ガガガガガガガガガガッ!!
またしても、高速の打ち合いが始まる。
「うっ!? とぉっ!?」
しかし。白が先ほど言っていたように、積んできた鍛錬の差は歴然だった。
白の要所を得た鋭い一撃一撃が、確実に雄真を後退させている。
長引けば長引くほど不利。
クリスは、打ち合いの中でそう判断した。
『エル・アムダルト・ウェンテ!!』
「きゃっ!?」
打ち合っていた相手のワンドから、突風が吹き荒れる。
完全に不意を突かれた白は、その風に後方へと吹き飛ばされた。
「よくやった、クリス!!」
雄真が追撃を掛けるべく、地面を蹴る。
「ホワイト・ライト・ワイレスト!!」
「障壁かっ!?」
白の詠唱と共に、雄真と白の間に光属性の障壁が6枚展開される。
「はぁぁぁぁっ!!」
駆ける勢いは殺さない。
雄真は状態強化を纏ったワンドで、障壁を叩き割った。
しかし、白はその隙に体勢を整えて、既に跳躍していた。
―――――雄真ではなく、春姫の元へ。
「なっ!? 春姫っ!!」
「貰いましたっ!!」
白が瞬時に春姫を射程圏に捉える。
「くそっ!!」
半歩遅れて雄真が後を追う。
が、もう間に合わないことは明白だった。
「無駄です!!」
白が雄真の前方で叫ぶ。
そして、ロッドを振りぬこうとした瞬間。
春姫の掌が、白の方へと向いた。
「何の真似っ!!」
「―――“オープン”!!」
「―――っ!? 遅延呪文っ!?」
春姫の詠唱に驚愕の色を浮かべた白は。
ターゲットに少しでも早く届かせるべく、ロッドを握る手に必要以上の力を込めた。
「あぁぁぁぁっ!!!」
「ファイナスっ!!!」
ドォォォォォォン!!!!
凄まじい音と共に、黒煙が2人を包み込んだ。
痛いほどの沈黙が会場を包む。
「ど、どっちが勝ったんだ…?」
ハチが皆の気持ちを代弁するかのようにそう呟く。
「分かりません。遠目から見る限り、ほぼ同時に相手に接触していたようですが…」
小雪が、会場から目を逸らさずに告げる。
「は、春姫…」
杏璃が心配そうな声色で、春姫の名を呼ぶ。
ビ――――――――ッ
直後。会場の沈黙を打ち破るかのように、ブザーが鳴り響いた。
ビ――――――――ッ
『緩衝魔法の発動を確認。京帝学園1年・児玉白、退場』
「や、やった」
足を止めた雄真が、思わずそう漏らす。
次いで会場が歓声に包まれた。
「凄いぞ、春姫!!」
その歓声に掻き消されながらも、雄真が叫ぶ。
しかし、春姫は立ったまま目を閉じて答えない。
相対する白も、苦々しげに俯いたままだ。
「は、春姫?」
雄真が疑問に思ったところで、
ビ――――――――ッ
『同じく、緩衝魔法の発動を確認。瑞穂坂学園2年・神坂春姫、退場』
ぴたっと歓声が止む。
春姫の退場アナウンス。つまり―――。
「ひ、引き分け…」
春姫がゆっくりと目を開ける。
「ごめんね、雄真くん」
「………春姫」
「力になれなくて、ごめん」
「………謝らなきゃいけないのはこっちだ。
前衛が後衛を守れなかった、悪いのは―――」
「なにを謝るのです」
白が割り込む。
「本来なら、私が貴方たち2人を倒して終わりだったのに…。
1人残ったのです。本望でしょう!!」
「………本望って」
春姫が苦笑する。
春姫に構うことなく、白の鋭い眼光が雄真を貫く。
「…まさか本当に信様の手を煩わせることになってしまうとは…。
それもこんな男にっ!! この児玉白、一生の不覚です」
「ひどい言われようだ」
「ふんっ」
白がそっぽを向く。同時に、春姫と白の足元に魔法陣が生まれる。
「…転移魔法陣」
「別名、強制退去魔法陣です」
「ぷっ」
白の軽口に、雄真が軽く噴き出す。
白は、一旦顔を染めた後、再び雄真を睨みつけた。
「せいぜい七賢人の偉大さでも味わうことです。泣かないように注意してくださいね」
「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ」
「な!? し、心配しているわけではっ!!」
「雄真くん」
白が狼狽える中、春姫が口を開く。
「がんばって」
「ああ」
短いやりとりが終わった瞬間、2人の姿がフィールドから消えた。
心は、驚くほど穏やかだった。
360度から降り注ぐ歓声が、遠いもののように聞こえる。
もう、目に見えるのは、1人だけだった。
「立てよ、信」
雄真が静かに口を開く。
信はにやりと口角を上げると、ゆっくりと膝に手を付いて立ち上がった。
ひときわ歓声が大きくなる。
「さて」
信も観衆の様子など、さして気にした風でもなく。
まるで、昼食でも誘うかのような口調でこう言った。
「やるか?」
励みになります。
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Leica
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