会場は静まり返っている。誰1人として声を出すものはいない。

 だからこそ、杏璃の呟きは瑞穂坂の面々の耳へとすんなりと届いた。

「………ゆ、雄真?」

 壁に激突し、ピクリとも動かなくなった雄真を見て、杏璃は呆然と彼の名を口にした。

 対・七賢人次期当主戦。絶対に勝つことのできない試合。
普通に考えればこの試合とはそういうもので、現にこれまでの大会でも、誰1人七賢人・次期当主に勝てた者はいない。
この試合の結末は、むしろ当然のものであるといえる。

 しかし、瑞穂坂の面々は、きっと心の奥底で期待していたのだ。


 ―――――小日向雄真なら、やってくれるのではないかと。


 だから、この光景に頭の処理が追いつくのに多少の時間を要した。

「雄真っ!!」

 誰よりも先に我に返った準が叫ぶ。
一目散に駆けだした。会場中央のフィールドへ。

 準が、前で観戦していた他の観客を押しのけて進む。
それを見て事態を把握したハチとすももが続く。

「雄真!!」

「兄さん!!」

「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!! 私も行くわっ」

「ひ、柊さん!! 観客席最前列へ行っても、中には入れないのですよ!!
 防護結界が張り巡らされているのですから!!」

「知ってるわよ!!」

 杏璃が駆け出しながら振り返る。そして、敬語を使うことすら忘れて、叫んだ。

「だからって!! じっとしてられないじゃないっ!!」

「―――っ!!」

 その叫びに顔を歪めた小雪が、そのまま杏璃たちに続いた。






Happiness story「小日向雄真と七対抗魔法大会」

Magic18.“インビジブル・バレット”






「雄真くんっ!!」

「ちょっと、お待ちください!! まだ試合は終わってないのですよ!?
 今フィールドに出ることは許されません!!」

 春姫が白に羽交い絞めにされる。
ここはフィールドから出てすぐの、会場内に設置されている医務室。
治療を受けつつ待機をしていた春姫は、モニターから映し出された光景に動転し、
今にもフィールドへ乗り込まんばかりに暴れていた。

「放してっ!!」

「だから、まだ、試合は、終わって、ません!!」

「雄真くんが倒れたまま動かないのっ!! あそこへ行かせてよ!!」

「試合が終わってないんです!! 今行けば、失格になってしまいますよ!?」

「試合なんて関係ないっ!! 失格なんてどうでもいい!! だから行かせて!!」

「―――っ!? このっ!!!!」

ズダンッ!!!

 春姫の言葉が癪に障った白は、一本背負いの要領で春姫を投げ飛ばした。
いきなりの攻撃に、春姫は受け身も取れぬまま地面へと叩きつけられる。

 そこへすかさず白が固め技に転じる。春姫は一切の身動きが取れなくなった。

「けほっ!! 何で邪魔するの!?」

「…言ったはずです。まだ試合は終わってません」

「だから試合なんて―――」

「お黙りなさいっ!!!!」

「っ!?」

 白が大声で怒鳴る。春姫は急な怒声に、目を白黒させた。

「小日向雄真様は、まだ負けを認めていらっしゃいません」

「それは!! 雄真くんが―――」

「黙れと言った!!!!」

 白が春姫の発言を遮る。

「貴方の言う通り、小日向雄真様は気を失っておいででしょう。
 ですが、関係ありません。負けを認めていないのは事実です」

 春姫が再び口を開きかけるも、白が目で抑止する。2人は至近距離でにらみ合った。

「心配する気持ちは分かります。ですが、貴方は彼に言ったではないですか」

「………なにをよ」

「“がんばって”って」

「っ!!」

 春姫が言葉に詰まる。

「私は小日向雄真様の人柄を存じません。
 第一印象だけで言わせて頂ければ、最悪の一言でしたが。
 それでも、試合に対してまっすぐに向かおうとする姿勢は尊敬に値します」

「………」

「彼なら、諦めないでしょう。“最後”まで。この言葉が意味することは分かりますね?」

「………それは」

「貴方は、彼の気持ちを裏切るのですか?」

「なっ!? 私はそんなことっ!!」

「なら、見届けて下さい。この試合の結末を。
 それがパートナーである貴方の義務ですよ、神坂春姫様」

「―――――くっ!!」

 春姫の顔が悔しげに歪められる。声にならない声が漏れた。

 目を固くつむる。

 徐々に体の力が抜けていった。

「そしてそれは―――」

「貴方と相打った私の義務でもある、ですね」

「………そうです」

 急に自分のセリフを奪われた白は、拍子抜けするように頷いた。

「もう、大丈夫です」

「………そうですか」

 白が春姫を羽交い絞めにしていた腕を解き、その場を離れる。
春姫がゆっくりと立ち上がった。

「ありがとうございます」

「…何の話ですか?」

 春姫からお礼を言われ、白が訝しげな顔をする。

「貴方のおかげで、私は雄真くんへの信頼を壊さずに済みました」

「…そ、そんなつもりは!? あ、ああ〜…ええと、そう。あれです!!
 ただ、小日向雄真様に七賢人の偉大さを知らしめようとしていただけです!!」

 白が頬を染めてそっぽを向く。春姫は、その様子を見て確信した。

「それでも、ありがとう」

 きっと。この子とは、良い友達になれると。

 2人は無言でモニターに目を戻す。
そこでは丁度、審判が安否を確かめるために、雄真に駆け寄るところだった。

(雄真くん……)

 その様子を、じっと見守る。
この言葉を再び言うことは、無責任であることを春姫も分かっている。
自分は早々にリタイアし、全てを雄真に委ねたのだ。その雄真が、既に満身創痍で地に伏している。

 それでも、思わずにはいられなかった。

(がんばって!! 雄真くん!!)






「待て!!」

 呼び止める声に、準・ハチ・すもも・杏璃・小百合・小雪が振り向く。
声の主は、観客席にぽつんと1人で腰かける伊吹だった。

「い、伊吹ちゃん!!」

 伊吹に気づいたすももが駆け寄る。

「そなたら、何をするつもりだ?」

「何って、雄真のところへ行くに決まってるじゃない!!」

「ならぬ」

 杏璃の叫びを、伊吹は首を横に振りながら払った。

「なんでよ!!」

「試合終了までは待て」

「なっ!? どうしてそんな―――」

「…雄真さんが、まだ試合を諦めていないからですね?」

「そういうことだ」

 小雪の結論に、伊吹が肯定する。

「でも、雄真は気を失っちゃってるじゃない!!」

 伊吹と小雪のやりとりに、準が怒って叫ぶ。

「その通りだ。だからこそ、“そなたら”は止めん。
 行きたければ行くがいい。どうせフィールド障壁によって阻まれるだろうからな。
 だが―――――」

 伊吹の鋭い視線が、杏璃・小雪を貫いた。

「貴様ら2人が行くことは許さん。ここへ残れ」

「だからなんで―――」

「チームメイトならば、最後まで雄真を信じる度量くらい見せんかっ!!!!」

「っ!?」

 伊吹の一喝に、杏璃が口を噤む。

「雄真なら、最後まで試合は諦めん。試合終了までは、それを見届けろ」

 その言葉に、普通科の面々も足を止めた。
それを確認した伊吹がフィールドへと目を戻す。皆もそれに続いた。

 そこでは、審判が屈んで雄真の容態を伺っているところだった。

(………雄真。何なのだ、その様は)

 試合結果など、最初から想像できたはずだった。

 それでも。

(いつものように、立ち上がらぬか)

 ―――――私と戦った時は、そんな腑抜けではなかったろう。

 どんなに圧倒的な力を見せつけても、立ち上がる。

 ―――――魔法が使えなかったあの時は、最後まで私に立ちはだかったではないか。

 今までがそうだったように。

 ―――――不可能なことなどないと、私に教えたのは誰だ。

 これからも、きっとそうなのだと。

 伊吹は、自分の立場も忘れて心の中で叫んだ。

(立たんか、雄真!!)






 ふと、誰かの声が聞こえた気がした。

 ゆっくりと意識が浮上する感覚に包まれる。
次いで、全身に激痛が走った。顔をしかめる。
何が起こっているのかまったく分からない。

 頬に、手に、腹に、膝に。痛み以外の固い感触が宿る。
そこでようやく、自分が地に伏していることを悟った。

 頭の中は、真っ白だった。自分の隣に、人の気配を感じる。

 なんとなく知らない人だと思った。

 その人が、横でゆっくりと立ち上がるのを感じた。



『試合、終了』



 声が聞こえる。
シアイシュウリョウ。しあい、試合? 何のことだ。
何が終わった? 試合ってなんだ。



『小日向雄真の、戦闘不能を確認いたしました』



 戦闘不能? 何だよ、それ。俺、誰かと戦ってたのか。

 じわじわと、記憶が蘇る。

 そうだ。試合、七校対抗魔法大会だ。俺は、信と戦ってたんだ。

 あいつから、よく分からない攻撃を受けて―――――。


 不意に、覚醒する。


 試合終了?

 試合終了ってなんだ。


 戦闘不能?

 戦闘不能ってなんだよ。


 おれは。


 まだ。


 戦える。


 戦えるぞ。


 ――――――雄真の目が、力強く開かれた。






『試合、終了。小日向雄真の戦闘不能を確認いたしました』
 審判が立ち上がり、事務的な口調で雄真の容態を告げる。
歓声は起こらない。皆が黙ってそれを聞いていた。

『よって、勝者は―――――』

ガッ

 審判の足が、何者かによって掴まれる。
誰なのかは言うまでもない。雄真だ。

 掴まれたことで、不意を突かれた審判のアナウンスが中断する。

どよっ

 審判のアナウンスが突如途切れたことで、会場がざわめいた。

「あっ」

 誰かが驚きの声を上げる。皆の視線が、一点へと集中していた。

『お、おい。君…』

 審判は、マイクに自分の声が入っていることすら忘れて雄真の方を伺い見る。
雄真は、審判の足を掴みながら、声も絶え絶えに言った。

「俺は、まだ。…負けてねぇ」

『し、しかしだねぇ…』

「俺はまだ、負けてねぇ!!!!!」

 体が軋む。それすら厭わずに、雄真が咆哮した。
ふらつきながらも立ち上がる。遠目でも、信の目がわずかに見開かれているのを雄真は視界の端に捉えた。






わぁぁぁぁぁぁぁぁ

「雄真っ!!」

 会場の歓声と共に、準が叫ぶ。

「み、見てくださいっ。兄さんが立ちました!! 立ちましたよ!!」

「わ、分かっておる。すもも、離れぬか!!」

 抱きついてくるすももを引き剥がしながら、伊吹は信じられないという表情で雄真を見据えた。
信の“あの魔法”の直撃をもらって立っていられる人間を、伊吹は七賢人以外知らない。
しかし、おそらく全身ずたぼろ。満身創痍であることは間違いない。

 それでも、立った。

 同時に、先ほど心の中とはいえ雄真に叫んでしまった恥ずかしいセリフを思い出し、伊吹は顔を赤らめた。






「………まさか、本当に立ち上がるとは」

 白がモニターから視線を外さずに驚愕している。
春姫はその隣で、じっと雄真の姿を見守っていた。

 おそらく、重症。

 それでも、雄真には“あれ”がある。

「………雄真くん、がんばって」

 今度は、しっかりと口に出して。春姫は画面の中の雄真に向かって、そう呟いた。






「………まだ立ち上がる気力が残っていたか」

 信がゆっくりと口を開く。しかし、雄真の今にも倒れそうな姿を見て、頬を掻いた。

「しかし。ふらふらだな。立つのがやっとだろう。もうお前は戦えねぇよ」

 その通りだった。

 信からの謎の魔法攻撃を何度も喰らい。地面に、壁に。何度も激突した。
間違いなく、動かしていい体じゃない。

 本来ならば緩衝魔法が発動して然るべき症状だ。
緩衝魔法は、対象者の総魔力量から受けた魔法攻撃の魔力容量によるダメージを導きだし、発動する仕組みになっている。

 それはつまり、雄真の魔力容量に対して、雄真自身の実力が追いついていないことを意味する。

(…思わぬところで、安全設備の穴が露呈したもんだ)

 滅多にない、異例な事態とはいえども。
これは、今後の大会運営における重要な課題となるだろう。信は冷静にそう結論づけた。

「負けを認めろ。これ以上は無理だ」

 信が雄真に向かってそう告げる。
しかし、雄真はあろうことか首を横に振るった。

「………問題ない」

「何だと?」

 雄真の言葉に、信の目つきが鋭くなる。

「ワンドも持たぬ今のお前になにが―――」

「ウェンテ!!」

ゴウッ!!

 魔法によって風が生まれる。
フィールドに転がっていたクリスが、その風によって雄真の元へと飛ばされてきた。

「馬鹿野郎が!!」

 それに気づいた信が、地面を蹴る。
これ以上やると、シャレでは済まなくなるだろう。
そう考えた信は、迷わず雄真との間合いを詰めた。一撃で終わらせる為に。

 ―――――しかし。

『アムンマルサス!!!!』

 突如、2人の元へと飛んできたクリスが“独自詠唱”を行った。

「何っ!?」

 眩い光が、雄真の体を包み込む。

 その光景に、信が不意を突かれる。

 その一瞬の躊躇いが、形勢を逆転させた。

「ウェンペティアっ!!!!」

 雄真の掌から、“呪文詠唱を必要としない”ClassA・風系攻撃呪文が発現する。

「くっ!?」

 信が咄嗟に手をクロスさせて防御の構えを取る。
問答無用の風は、瞬く間に信を呑みこんだ。

ドォォォォォォォンッ!!!!

 会場に爆音が轟いた。






「っちぃ。まさか遅延呪文によるストックがあったとは。
 いつの間に詠唱を―――いや、違うな、これは……」

 信が後退しながら吐き捨てる。
舞い上がる砂煙から姿を現した彼は、驚くべきことに外傷1つ見当たらなかった。

 バックステップによって離脱を図っていた信が、前方を見てさらに目を見開く。

 ――――雄真が、既にその場から消えていた。

「まさかっ!? あいつどこへ行った!?」

「後ろだ」

「っ!?」

 信が振り返った時には、既に雄真はワンドを振りかぶっていた。

 見れば、雄真の体には“全身強化魔法がかかっている”。“ワンドには、状態強化”もだ。
おまけに、この動作。怪我人ができるものではない。明らかに、“怪我などしていなかった”かのような動きだった。

 立て直すまでの動作が、早すぎる。もはや異常だ。

 が。

ガカカカカカカカカカカカカッ

 信にワンドが到達するよりも先に、再び耳障りな音が鳴り響く。
ワンドが“なにか”によって遮られた。当然、信には届かない。

 それを見た雄真は顔をしかめ、地面を蹴って一度信から距離を置いた。






「今度はむやみやたらに向かって来ないのか?」

 慎重とも言える雄真の動きに、信が告げる。
雄真はそれに対して何も答えなかった。再び信が口を開く。

「体の傷は、癒えたようだな。いや、少し違うか。“無かった”と言った方が正しいのか?」

 その発言に、雄真はピクリと眉を上げる。

「ネタが分かったのか?」

「ああ。『アムンマルサス』は時間回帰魔法だったはずだ。
 その名の通り、時間を戻す。治癒呪文じゃない」

『その通りです、神威様。私は時間回帰によって雄真さんの体を戻しました。
 壁に激突し、負傷する前。そして神威様の攻撃を受ける前。つまり――――』

「雄真がフル・アーマーを纏っていた頃まで“戻した”。
 あの一連の出来事は“無かった”ことになった。そうだな? 道理で立て直しが早いはずだ。
 怪我の回復に、全身強化。そして状態強化。挙句にClassA『ウェンペティア』だ。瞬く間にやってのけるから、流石に焦った」

 クリスの言葉を引き継いで、信が話す。

「凄いな。あの少しのやりとりで、そこまで読めたのか」

「はは。凄いってのは俺のセリフだ。まさかこんなことができるとはな…。
 時間回帰はどのくらいできるんだ?」

『現段階では5分が限度です。また回帰する際、
 現時点での状態と、過去の状態に誤差があればあるほど魔力を消費する為、連用はできません』

「素直だな? 敵である俺に、そこまで教えてしまっていいのか?」

『ご謙遜を。神威様ほどの術者ならば、勘付いておいででしょう』

「ふふ、ふふふ。ははははっ!!」

 信が声を出して笑う。

「なるほど? 『アムンマルサス』は、光の魔法だったはずだ。
 つまり、“得異属性”か。術者とは異なる属性を得意とするワンド。
 “自我持ち”に“独自詠唱”、そして“得異属性”。
 お前のワンド、クリスと言ったか? なかなかに優秀だな」

「まあな」

『お褒めに預かり、光栄です』

 雄真とクリスの返答を聞いて、信が口元を正す。

「さて。まずは先ほどまでの非礼を詫びよう」

 信が雄真へと頭を下げた。
その光景を見て会場に僅かなざわめきが走るが、信は特に気にした様子もなく言葉を続ける。

「お前がなかなかにやる魔法使いであることは分かった。
 風の魔法を主体としつつも、ワンドの“得異属性”を用いた光の補佐による追撃。
 トリッキーな技・動き。実に面白い」

 一度言葉を切る。無言で聞いている雄真を一瞥し、再び口を開いた。

「だが、ここまでだろう。俺にお前は指一本触れられん。
 この現象を回避できぬお前に、勝機は―――」

「回りくどい言い方は無しにしようぜ、信」

 信の口上を、雄真が不敵な笑みと共に遮る。

「お前の、“無属性のフル・アーマー”の強度は十分に解ったよ」

「ほう?」

 雄真の発言に、信が感心した素振りを見せる。

「属性付与をせずに、フル・アーマーを発現してたとはな。
 おかげで気づくのに時間が掛かったよ。
 通常。フル・アーマーを纏うと、その纏った属性に沿った能力が同時に付与される。
 だが、無属性のフル・アーマーを纏った場合―――」

 雄真が手を薙ぐ。そこから生まれた風の刃が一目散に信へと攻撃を仕掛けるが、一歩手前で弾き飛ばされた。

「純粋なる魔力を纏った、高度の障壁となる。もちろん術者の魔力容量によって硬度は変わるだろうけどな。
 お前の魔力を考えれば、これほどまでに無敵な鎧はないな」

「その通りだ。よく気づいたな」

「感心するのはまだ早いな」

 雄真が信に向かって掌を掲げる。

 その仕草は、完全に先ほどまでの信の仕草のそれだった。

「む!?」

 信が地面を蹴り、後方へと跳躍する。

 瞬間。

ドゴォォォォォォォォッ!!!!

 信の立っていた場所が、轟音と共に“抉れた”。

ざわっ

 観客のざわめきが大きくなる。
それもそのはずだ。なぜならその技はまさに―――。

「これが、お前の不可視の攻撃の正体だ。
 呪文なんかじゃない。ただ純粋に高密度の魔力で“押しつぶしている”だけ。
 ご覧のとおり、“俺でもできる”」

「……おいおいおい、まじか」

 驚愕する信を尻目に、雄真は肩を竦めて見せた。

「どうりでクリスの感知魔法が感知しないはずだ。
 魔法じゃないから、構築のプロセスは必要ない。
 だから、“魔力は感知できても、プロセスは見当たらない”。
 トリッキーと言う言葉を用いるなら、お前の方がトリッキーだろ」

「よく解ったな?」

「クリスのおかげさ」

「? 感知魔法は感知しなかったんだろ?」

「ああ、“だから”さ。クリスはあの時、俺にこう言った。
 『神威様から魔法構築の流れの一切を感知できません。
 もはや、膨大な魔力の塊を放出しているだけにしか』ってな」

「…なるほどな。ある意味で“正確に感知していた”というわけだ」

「そういうことだ。謎解きはこれで十分だろう?」

 雄真の問いに、信が笑みで応える。

「そのとおり。俺が魔法として使っていたのは、“無属性のフル・アーマー”だけだ。
 お前の言う“高密度の魔力”による攻撃は、名を“インビジブル・バレット”という」

「不可視の弾丸か。言い得て妙だな。若干弾がデカすぎる気もするけど」

「ははは。違いない。いや、恐れ入ったよ。
 この技のカラクリを見抜けたのはこの大会、お前で2人目だ。
 もう1人である鉄平は、昨年・一昨年と、ここまで大々的に暴露はしなかったがな」

 笑いをかみ殺しながら、信がそうのたまう。しかし、信はその笑みを直ぐに消した。

「口で言うのは簡単だが、この“インビジブル・バレット”。
 そう簡単にできるものではない。魔力容量、そして放出量が多く、
 さらにそれらをコントロールする技術が無ければ使いこなせん。
 並みの魔法使いなら手も足もでない代物だ。
 実に見事。だが、ここまでじゃないか? 技を見抜けようが、お前にこれは破れないだろう」

 ネタが分かったところで、どうしようもできなければ無意味だ。信は、言外にそう言い放った。

 それに対して、雄真が不敵に笑う。



「いや、手なら“ある”」



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