「信」

 信が選手控室に向かい、それを空が見送ろうとしていたところで後ろから声が掛かる。

「…父上、いらしてたので?」

「…お父様」

 声の主は、日本が誇る七大名家。七賢人が一角・神威玄だった。
白い半被を肩にかけ、気難しそうな顔で立っている。

 予想外の人物の来訪に、信と空は驚きの声を上げた。

「うむ。ちと気になってな。案の定、事態は例年と異にしているようだが」

 信は、それが雄真のことを指していることが直ぐに分かった。
メディアも、大々的に報じていることだ。玄の耳にも当然入るだろう。

『小日向雄真、七賢人相手に堂々の宣戦布告』

 今朝の一面記事を見て、信は頭を抱えたくなったほどだ。
ここまで騒ぎ立てられてしまえば、こちらも“相応の対応”をしなくてはならなくなる。

「小日向君には、借りがある。だが、遺憾なことにそれとこれとは話が別だ」

「お、お父様? 何をおっしゃっているのですか?」

 唯一気づいていない空が首を傾げる。
信は、空の疑問を無視して玄の言葉を促した。

「彼を倒せ。完膚なきまでに叩き潰せ」

「分かっています」

「なっ!?」

 空が驚きの声を上げる。

「どういうおつもりです!? 雄真さんを潰せなどと!!」

「黙りなさい空。お前に言っているわけではない」

「そういう問題では―――」

「よすんだ、空」

 玄に食ってかかろうとする空を、信が押しとどめる。

「七賢人としての立場は、重々承知しております。彼の存在は、看過できない」

「分かっているならよい。分かっているのならな」

 玄は鋭い目つきで信を一瞥した後、用は済んだとばかりに背を向けて歩き出した。

「どういうことですっ、お兄様!!」

 空が信に詰め寄る。

「どうもこうもない」

 それを払うように、信は答えた。


「七賢人の後継者として、成すべきことを成すだけだ」






Happiness story「小日向雄真と七校対抗魔法大会」

Magic19.“誤算”






「手がある、だと?」

 信は雄真の発言に、眉を吊り上げた。

「身体強化も、状態強化も。そしてお前のClassA魔法も。
 その全てを凌いだ俺のフル・アーマーを、破る術があると?」

「そうだ」

 信の疑問に、雄真は力強く頷いた。その様を見て、信が笑う。

「ははははは。流石に強がりにしか聞こえんな。
 あれだけ満身創痍になっておきながら、まだ隠し玉があるとでもいうつもりか」

「ああ」

 はっきりと雄真が答える。その姿勢に嘘偽りはないと感じた信は、表情から笑みを消した。

「良いだろう。見せてみろ。
 但し、そこまで断言したからには、相応のものは見せてくれよ?
 大したものでもなければ拍子抜けだぞ」

 信が挑発的に雄真を促す。

「分かってるさ」

 雄真のワンドを握る手に、力が篭る。

『よろしいのですね?』

 クリスが問う。

『あれは、まだ完全な制御ができていないんですよ?』

「だけど、あれ以外に信のフル・アーマーを打ち破る手が無い。やるしかないさ」

『………ですが』

「それにあれだ。こんなのいつも通りじゃないか。身の丈に合わない魔法を使うなんてのはさ」


 秘宝事件の際、魔法を使用した時も。

 転科試験の際、遅延呪文を用いた時も。

 信哉との模擬実践の際、ClassAの『ウェンペティア』を用いた時も。

 新橋恭介との決戦の際、天蓋魔法を使った時も。

 全ては準備不足のものから、勝利をもぎ取ったんだ。


『………わかりました』

 クリスが渋々と納得する。
それを見計らって、雄真は自身の体から、風のフル・アーマーを解いた。

「エル・アムダルト・リ・エルス」

 朗々と詠唱する。信はそれを止める素振りを見せない。
どうやら雄真の準備が整うまでは、傍観を決め込むらしい。

(その余裕を、打ち砕いてやるっ!!)

 雄真はそう心の中で叫んでから、最後のキーを詠唱した。

「ファイン!!!!」

ゴッ!!!!

 詠唱終了と同時に、雄真の周りに炎が巻き上がる。その光景に、信が目を見開いた。

「まさか、その詠唱は………」

 信の呟きと同時に、雄真の体は炎で包まれた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!

 包み込む炎によって目で見ることはできないが、何が起こっているかは分かる。
今雄真が唱えたのは、火系の身体強化魔法だ。火は攻撃特化の属性。纏うには相応のレベルが必要となる。

「おい、よせっ!! 火はそう簡単に扱えるもんじゃない!!
 体を焼き尽くされるぞ!! ―――むっ!?」

ドドドドッ!!!!

 信がセリフを言い切らぬうちに、雄真の元から複数の火球が襲来する。
それを、信の無属性のフル・アーマーが打ち消した。

 風を纏っていた先ほどまでとは違い。

 今、雄真が体に纏っているものは。

 見紛うことなく火、そのものだった。






「これは………流石にたまげたな…」

 攻撃特化の火。その属性付加に伴い得られる能力は言うまでもない。

 ―――――問答無用の力。それ以外に無い。

 雄真が右手で握り拳を作る。それに火は直ぐに応えた。
直視できぬほどの濃密な炎が、拳に纏わりつく。その破壊力は、試さずとも分かる。

 信は、それを見て無意識の内に喉を鳴らした。そこで、ふと気づく。

(………まさか、恐怖しているわけじゃないだろうな、この俺が)

 思わず苦笑する。雄真は、未だ動かぬままだ。

 動かないんじゃない。おそらく、“動けない”。
まだ体に火が馴染んでいない。現段階では、維持するだけで精一杯だろう。

 体に火属性を纏っただけでも、十分賞賛に値する。

 しかし。

(それを俺にどう当てる? 鈍重な動きでは、俺は捕えられないぞ)

 今までの雄真は、風の付加能力によってスピードを極限まで高めていた。
だからこそ、信との遣り合いでも優位に立てていたと言える。

 だが。攻撃に比重を置く火に変えたことで、スピードを捨てることとなった今。
先ほどまでの。問答無用なまでの速攻は、もう使えない。

 それを雄真に伝えようと、口を開きかけたところで。

 ―――――会場を揺るがさんばかりの音量で、雄真が咆哮した。






(あ、熱いっ………。体が、焼き尽くされてしまいそうだっ)

 信に魔法球を放ったところまでは良かったが。
既に雄真は、一杯いっぱいになっていた。

(少しでも気を抜けば、自分の魔法で退場になっちまう)

 視界は自分の魔法でオレンジ色に染まっている。
言うまでもない、火の色だ。おまけに、その熱のせいで景色が揺らめいて見える。

 明らかに、制御しきれていない。

『雄真さん、大丈夫ですか…? いえ、大丈夫ではないのでしょうね。
 表現を変えます。戦えますか…?』

 クリスが話しかけてくる。一言返せばいいだけなのに。それすら難しい。

 大会開催までの練習期間で。
信哉との猛特訓により、何とかモノにしたフル・アーマー。
しかしそれはあくまで“風”に限ってのこと。
“火”は、どれだけやってもうまくいかなかった。


『雄真殿は魔法を初めてまだ日が浅い。精進されよ』


 あのときの。信哉の言葉がフラッシュバックする。
その言葉を聞いたとき、雄真は何よりもまず悔しかった。


 魔法を初めて、日が浅い。

 だから、しょうがないのか。

 今、俺ができないのは仕方のないことなのか。


 ―――――そんなの、ただの言い訳だ。


 魔法を初めて日が浅いのは、俺が魔法を捨てたからだ。

 あの日あの時の出来事を、全て魔法のせいにして。

 自分が逃げたかったからだ。


 もし、あの日に戻れるなら。

 たぶん。俺は、あの時の俺を殴る。

 この後、俺がどれだけ後悔するのか。

 知らないから逃げられるのだと。


 それと同時に、思ってしまう。

 もしあの時、魔法を捨てずに、これまでを歩んでこれたのなら。






 俺は今、どれだけ魔法を使いこなせるのだろう、と。






 ――――――意味なんてない。

 ――――――そんなことを考えても、今はもう変わらない。

 ――――――そう。意味なんてないんだ。

 ――――――今、意味を持つことは、ただ1つ。


 ――――――――――――俺が今、何ができるかだ。






「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!」

 その咆哮と同時に。雄真を纏っていた火が拡散した。

「ほう?」

シュドドドドドッ!!!

 暴走したわけではない。
拡散した火は槍状となり、四方八方から信を狙い撃ちにする。

 信はそれを冷静にフル・アーマーで受けきった。

ギシッ!!

 最後の一発を受けた際、信の体に纏う魔力が嫌な音を立てる。

(………やはり、一撃一撃が“重い”な。
 あまり長引かせると、こっちのフル・アーマーも持たないかもしれん)

 信は雄真へと再び目を向けた。

 表情で分かる。どうやら制御には成功したらしい。
先ほどまでの苦しそうな顔とは違い、今にも射殺しそうな目つきで信を睨みつけていた。

「さて、準備はいいのか?」

 信の問いに、雄真は右手を挙げることで応えた。

「ん?」

 その所作に、信が違和感を覚える。雄真の体から、魔力が溢れだしていた。

「―――まさか」

 信がそう漏らしたのとほぼ同時に、

「“オープン”!!」

 雄真が叫ぶ。

ヴゥゥゥゥゥン!!!!

 それに倣うかのように、魔法発現特有の音が響く。
雄真の頭上には、信の懸念通りに大型の魔法陣が展開された。


 ClassAの高等魔法。天蓋魔法だ。


「………ウソだろ?」

 思わず信がそう呟く。

 先ほどまで、自身のフル・アーマーを制御するだけで精一杯だった男が。

 天蓋魔法を同時併用しようとしている。

(………もう火が体に馴染んだってのか?
 いや、それよりも。いつの間に遅延呪文の詠唱を―――)

 信の考えがまとまるのを、雄真が待つはずもなく。

「アダファルス!!!!」

 無慈悲の魔法球の軍勢が、振り下ろされた雄真の手に従って。

 フィールドを蹂躙した。






 魔法球が、雨のように降り注ぐ中で。

 信の無属性のフル・アーマーは、最大限に機能している。
直撃する寸前に、飛来する魔法球を掻き消していく。

 ただ、身動きが取れない。
信が直撃を免れた魔法球は、瞬く間にフィールドの地面を割り、地形を変えていく。

 おそらく。これが狙い。
初めから雄真は、天蓋魔法が信のフル・アーマーを破れるとは思っていない。

 これは、あくまで足止めだ。
この後に控える。もっと強力な一撃を、確実に叩き込むために。

 信の目が、前方で自身の元へと跳躍してくる雄真を捉えた。
魔法の雨を縫うように向かってくる。

(これだけの魔法球を、一撃も喰らわずに接近してくるとは……。
 無差別に落としてはいないのか? だとしたら―――)

 どれほど精密なコントロールを施しているのか。

 それも。

 慣れもしないフル・アーマーを纏ったその体で。

 そこまで考えが至ったところで。




 信の直感が告げる。



 ――――――この男は、危険だ。




 雄真が、信の姿を目で捉える。足に力を込めた瞬間、信が前方へと掌を突きだした。

「“インビジブル・バレット”!!」

 雄真の接近を、信の不可視の弾丸が迎え撃つ。
信へとピンポイントで突っ込んできた雄真は、その前方で膨大な魔力に押しつぶされた。

 轟音が響き渡る。地面が抉れる。しかし。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

「何っ!?」

 雄真は、頭上から圧力をかけてくる魔力を、身体強化された手で受け止めていた。
風のフル・アーマーでは不可能だっただろう。攻撃特化の火があってこその拮抗といえる。

「らぁぁぁぁっ!!」

パァァァァンッ!!

 雄真の押し返すような素振りと同時に、信の魔力の塊がはじけ飛ぶ。
信の眼前で、雄真はにやりと笑った。

「―――やっと、ここまでこれた」

 雄真の握り拳に、炎が揺らめく。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

「ちぃっ!!」

 信が防御の構えをとる。
そこに、雄真の咆哮と共に強大な攻撃力を誇る拳が襲った。

ガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!

 雄真の攻撃特化・火の身体強化を纏った拳が、信の無属性のフル・アーマーと激突する。
凄まじい音と共に、2人の周囲の地面へ亀裂が走り、瞬く間に崩壊しだした。

 凄まじい音が鳴り響く。

 それでも、拮抗は終わらない。

 雄真の拳は、依然として信の体の手前で停滞したままだ。
もはや2人の踏みしめる地面には、地割れが起こり元の平らだった状態など見る影もない。
2人の決着が着くより先に、フィールドが吹き飛ぶことになりそうだった。

 誰もがそう思ったところで。

 雄真の、上下に細かく揺れる拳に纏わりつく炎の輝きが、一層激しさを増した。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 互いが、喉が裂けんばかりに叫ぶ。

 均衡を保っていた力関係が、ついに崩れた。



ガシャンッ



 何かが割れたような音が響く。



 その音に、両者の目が見開かれる。



 ゆっくりと、雄真の拳が、今まで到達し得なかった領域へと入り込んでいく。



 それは、とてもゆっくりと。



 あたかもスローでこの光景を見ているかのように。



 2人の目には映っていた。



「らぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



 咆哮が、空間を震わす。



 雄真の拳が。

 遂に。



 信の体へとめり込んだ。






 ………。

 ………………。

 ………………………。






「はぁ…はぁ…はぁ」

 雄真は、肩で息をしながら前方を見据える。

 そこでは、信が大の字になって地面に倒れてた。

 既に雄真の体からはフル・アーマーは消えている。

 攻撃特化の火を体に纏うには、並大抵の精神力では無理だ。
少しでも気を抜いてしまえば、瞬く間に自身の体を焼き尽くしてしまうだろう。
現段階での雄真のレベルでは、纏ったままじっとしていても3分も持たない。

 少なくとも、今日この試合ではもう使えない。

 信は微動だにしない。

 しかし、緩衝魔法が発動したわけでもない。このまま試合終了とはいかないだろう。

「……立てよ」

 雄真の声が会場に響く。誰もが唖然としてその光景を見つめていた。

 空爆でも起こったかのような、大きく抉り取られたクレーター。
地面は様々な場所で隆起し、歩くことすら困難な状態になっている。

 そして。


 ―――――――地に伏す七賢人。


 誰もが想像し得なかった光景だった。

「立て」

 雄真の声が再び響く。

「…は……はは」

 その声は、静寂が包む会場に、突然聞こえた。

「ははははは」

「………?」

 雄真が訝しげな目で、その声の発信源を見据える。
信は、大の字に寝ころんだままで急に笑い出した。

「はははははははははははははははは!!」

ざわっ

 会場がどよめきだす。
雄真が、信は変に頭を打ち付けたのではないかと心配し始めたところで。

 ゆらりと信が立ち上がった。

 そして。

「オン・メイクス・ラン・ファイナス」

 今試合において、信が初めて“詠唱を唱えた”。信の掌が、ゆっくりと雄真の方へと向けられる。

 その掌に。

 雄真は言いようのない恐怖を感じた。

 しかし。信の詠唱は止まらない。
雄真の体が硬直している間に、信は最後の一節まで唱え終えた。

「アエギル」

 刹那。

 ――――――オレンジ色の光が走った。

「っ!? ディ・ラティル・アムレスト!!」

『ディ・ラティル・アムレスト!!』

 もはや条件反射と言っても過言ではない。
雄真は己の魔法使いとしての本能に従い、ほぼ無意識で詠唱を展開した。
相棒・クリスも同時に詠唱する。瞬時に雄真の周りを計12枚の障壁が覆った。

 瞬間。

 観客席の最前列で展開される防護結界を境とした内側は。

 紅蓮の炎で埋め尽くされた。






「…なんつー魔法使いやがる」

 即座に転移魔法を用い、防護結界内に一時避難した審判が呟く。
流石に七賢人・次期当主の、この規模の攻撃をフィールド内で受けきる自信は、なかった。

 選手は緩衝魔法が働くから問題ないが、審判にはそれがない。
転移魔法があと一歩遅ければ、冗談ではなく本当に死んでいたかもしれない。

 防護結界内は今や黒煙で溢れ、中の様子がまったく視認できない。
周りの観客たちも、徐々に不安の声を挙げ始めた。

 当たり前だ。攻撃特化の火系攻撃呪文・ClassS『アエギル』。
喰らえば即死級の大技。対戦者の身を案じない方がおかしい。

 が。それ以上におかしいことがある。
あれだけの大規模攻撃呪文がさく裂したにも関わらず、“緩衝魔法が発動していない”。

 それはつまり。

『ウェンテ!!』

 フィールドから呪文詠唱の声が響く。
発現した風が、立ち込める黒煙を瞬く間に上空へと押しやっていった。






「はぁ…はぁ……くそっ」

 雄真が片膝を付きながら吐き捨てる。

 展開した障壁は1枚も残っていない。ぎりぎりだった。

 展開タイミングも、耐久力も。その全てが。

 あと少しでも展開が遅れていたら。あと少しでも耐久力が弱ければ。

 あっという間に試合が終わっていただろう。

 もはや平坦だったフィールドは見る影も無くなっている。
至る所に亀裂が走り、地面でできた瓦礫の山が詰まれている。
度重なる魔法攻撃によって大きく抉り取られたクレーター。
火系攻撃呪文の名残で、まだ燃えている場所もある。

 信は、何ら表情を変えず、その中で堂々と直立していた。
雄真が信を睨みつける。息も絶え絶えに口を開いた。

「はぁ、はぁ。………よりにもよって『アエギル』かよ。
 火系攻撃呪文の中でも、トップ3に名を連ねる大規模殲滅魔法だ。
 信、お前…。ClassSの魔法が使えたのか?」

「よく知ってるじゃないか。ま、でもお前の得意属性が火だってことにも驚かされたぞ。
 もっとも、実戦で使うにはどれもお粗末な出来栄えだったがな」

 信の発言に、雄真が苦々しげな顔を作る。
それを見て、信は苦笑しながら再度口を開いた。

「だが、感心したのは本当だ。序盤は風のみで戦い、実際に白をそれのみで退けた。
 そう言えば、昨日のバルーンクラッシュで用いた魔法球は火属性だったな。
 失念していたよ。まったく、お前は本当に面白い」

 信はそこまで言って、笑みを消した。

「『魔法使いたるもの、目に見える物だけで全てを信じるな』」

「はぁ…はぁ………は?」

 いきなり何のことを言われたか分からなかった雄真が、怪訝な顔をする。
信はそれに構うことなく話し始めた。

「Class資格など、その教訓の典型例に当てはまるとは思わないか?
 皆、自分の限界を試す場としてClassを受ける。
 そして、能力を持つ者だけがそれを手にすることができる。
 その栄誉に目が眩み、人は背伸びをしたがる」

「………」

「俺はやる気になれば、ClassAより上の資格だって取れるさ。
 だが、取らない。取れないんじゃない。
 俺の限界を知っているのは、俺しかいない。
 どうだ? 雄真。お前には俺の力の底が見えたか?」

どくんっ

「―――っ!?」

 ずしりっと空気が沈む音が聞こえた。
別に魔法が発現したわけでも、天変地異が起こったわけでもない。

 信の発する威圧に、この世の全てがひれ伏したような感覚だった。
硬直する雄真に、再度信が問いかける。



「七賢人の、器の底が見えたかと聞いたんだ」



励みになります。
個人情報登録等は一切ございませんので、
作品が気に入って頂けましたらお願いします。
                      Leica

『小日向雄真と七校対抗魔法大会』に戻る

『Happiness story』に戻る

『小説置き場』に戻る

『A Fateful Encounter』のトップページに戻る