夏休みが終わった。
生徒が襲われるという異例の事態によって臨時休校となっていた瑞穂坂学園。
一時騒然となった出来事であったが、その後のメディア報道により、
その主犯逮捕と報じられて夏休み後は通常授業に戻った。

『ミタカ・コーポレーション社員・新橋恭介、学園への不法侵入及び無差別暴行の容疑で逮捕』

 どの記事もニュースも、その言葉で埋め尽くされていたが、それも一時のこと。
時間という波にのまれ、徐々にその事件自体が薄れていく結果となった。

 いや、時間というよりも、さらに大きな波が起こったから、と言った方がいいかもしれない。

 世界共通の魔法使いのライセンス。その名はClass。
日本では年に3回、その昇格試験が行われる。
最近あったのは8月の始め。夏休み後半に行われていた。

 結果が発表されたのはつい先日。
そこで日本中から注目を集めていた学生の結果が明らかになった。


『小日向雄真  瑞穂坂学園2年(高校)  合格』


 この国初となる、Class初受験によるA合格だったが、メディアの反応は大人しかった。
それは、大魔法使い・御薙鈴莉に続いて、式守家が事態の鎮静化に着手したからに他ならない。
そうしていなければ、今頃小日向家の門前では取材陣が殺到していただろう。

 ともあれ、小日向雄真はそういった世間からの波を未然に防がれ、
今日も瑞穂坂学園魔法科にて、いつも通りの生活を送っていた。

 そう。送って“いた”。






Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』

Magic1.魔法科限定のお祭りごと






 それは、昼休みに唐突に始まった。

ピンポンパンポーン

『皆さんこんにちは!! 魔法科教師の九条陽菜です!!!!』

キ――――――――ンッ!!!!

ぶはっ!!!

「きゃあ!!」

「うぉっ!! 何飛ばしてんだよ!! 雄真!!」

「ごほっ!! ごほっ!!! ご、ごめん!!!」

 突然の爆音にハウリング。ここはOasis。
Aランチをもぐもぐ平らげていた雄真は、その不意を突かれて吹き出してしまった。
対面に座っていた準とハチが、慌てて席を離れる。

「ゆ、雄真くん。大丈夫?」

「あ、ありがと」

 隣に座っていた春姫から紙ナプキンを渡され、後始末をしていると放送が再開された。

『ごめんごめん!! つい、教卓で喋ってるのと同じくらいの声出しちゃった!!』

 …あの声でマイク使ったのか。そりゃそうなる、と雄真は思った。
雄真の担任である陽菜の声は、とにかく大きい。
どのくらいかと言うと、隣のクラスで陽菜の授業を受けられるくらい。
陽菜も自分の声が大きかったことに気付いたのか、“若干”ボリュームを落して話し始めた。

『生徒のお呼び出しです!
 え―――――、っと?
 1年・式守伊吹さん。
 2年・雄真君、神坂春姫さん、柊杏璃さん、上条信哉君、上条沙耶さん、吉田小百合さん
 それからぁ〜』

 ………なんで俺だけ苗字無いの?

『3年・高峰小雪さん、藍本静香(あいもとしずか)さん、東山幸平(ひがしやまこうへい)君。
 以上の〜。………。ん――――?
 いちにいさんしぃごぉろくななはちきゅー10人は、放課後理事長室まで来るように!!
 以上!!!!』

キ――――――――ンッ!!!

『や、やばっ―――』

ブチッ!!!!

ピンポンパンポーン

 ………………。

 無言で春姫を見る。曖昧な頷きが返ってきた。
なんだ、今のメンバーは? 知らない人も混じっていたし、
何の目的で呼ばれるのかが全く理解できない。

 そう考えながら、雄真が訝しげに首を捻っていると、

「と、とにかく。放課後の予定は決まったね」

 そう言って春姫は、恐る恐る顔を前に向けた。
雄真もそれに倣う。

 そこには、

「………」

「………」

 今の今まで、放課後何処に遊びに行くか考えていた準とハチが、
今にも飛び掛からんばかりで怒っていた。

「雄真ぁぁぁぁぁ!!!!」「ゆーまぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「今のは俺のせいじゃないだろ!?」

 その日の昼食代は、雄真のおごりになった。






 放課後。
雄真が理事長室に行こうと準備をしていると、後ろから声が掛かった。

「小日向君」

「? 吉田さんか」

 後ろを振り向くと、吉田小百合が立っていた。

「これから理事長室でしょう? 一緒に行っても構わないかしら」

「もちろん」

 そう言って、鞄を手にした。

「ありがとう。私、理事長室に行くの初めてなのよ。
 だから少し緊張しちゃって」

「あれ、吉田さんでも緊張する事ってあるんだ?」

「あらぁ? 私。君にどういう女だと思われているのかしら。
 すごく興味が出てきたわ」

「いやいやいや!? 別に悪い意味じゃないから!!
 その身体強化した腕下ろして!?」

 高密度に圧縮された魔力がキンキンと音を立てるのを目にして、雄真は慌てて抑えに掛かった。
教室であんなものをぶっ放されたらたまったものじゃない。
翌日からは、屋根のないところで授業を受ける羽目になるだろう。

「ふぅ。しょうがないわね」

 そう言いながら、小百合は魔法を解いた。

「悪い意味じゃないって。拳闘同好会では一番目立ってるからさ。
 そういったことには耐性が強いのかなって思っただけだ」

「そういうことにしといてあげるわ」

「……はい。お願いします」

 思わず、敬語になってしまった。

「雄真くん。そろそろ行こう?」

 会話に一区切りが付いたと踏んだのか、春姫が横から声を掛けてきた。
杏璃・信哉・沙耶は既に教室の扉の前で待っている。
どうやら少し話し過ぎたらしい。

「ああ。そうだな。行こう」

 小百合を目で促し、教室を出る。

「うわーん!! 仲間外れは地獄に落ちるんだぞー!!」

 教室を出ていくとき、後ろから真白美砂が物騒な事を叫んでいたが、聞き流した。






コンコン

「魔法科2年・小日向雄真です」

「入って頂戴?」

 直ぐに返事が返ってくる。

 その一般生徒には触れることすら躊躇われるであろう理事長室の重厚な扉を、
雄真は躊躇いなく開いた。

ギィィィ

「失礼します」

 扉をくぐる。
春姫たちもそれに続いた。

「遅いぞ。お前たち」

「こんにちは、皆さん」

 第一声は伊吹と小雪さん。既に到着していたようだ。
理事長のデスクの前で待機していた。
その隣には、見たことのない学生が2人立っている。
おそらくは放送で呼ばれた3年生なのだろう。
目が合うと2人とも会釈を返してくれた。
雄真もそれに倣って、軽く頭を下げる。

「どうぞ? そんな入り口付近に固まらず、中へとお入り下さい」

 ゆずはに促され、先に到着していたメンバーの隣に並ぶ。
理事長のデスクを前から囲うような構図になった。
対面には、ゆずは・鈴莉・陽菜が立っている。

 横をちらりと見ると、小百合と知らない3年生は少し緊張しているようだった。

(………当たり前っちゃ当たり前か)

 理事長室に呼び出され、居たのはあの高峰と御薙。(そして九条。)
普通にこの学園を三年間過ごすだけならば、そうはない体験だろう。
思いの他、自分たちが非日常に慣れてしまっているのだ。
と、雄真が思いに耽っていたところで、ゆずはが切り出した。

「さて、皆さん。まずはお忙しいところわざわざ足を運んで下さり、ありがとうございます」

 ゆずはの言葉に、学生一同がばらばらに頭を下げる。

「2年の吉田小百合さん。
 ClassCに合格したそうですね。
 これで貴方は、高校過程で学ぶべき実力を、
 既に身に付けたということになります。
 おめでとうございます」

「あ、ありがとうございます」

 急に矛先が自分に向けられびくっとなった小百合は、慌てて頭を下げる。
それに頷き、ゆずはは3年生に目を向けた。

「3年の藍本静香さん、東山幸平君。
 ClassBに合格したそうですね。
 貴方たちは、一足早く大学過程で学ぶべき実力を得たことになります。
 素晴らしい成績を収めて下さいました。
 おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 2人が揃って頭を下げる。
それを見て、ゆずはは今度は雄真に目を向けた。

「そして、1年の式守伊吹さん。2年の小日向雄真君。
 ClassA合格おめでとうございます。
 既に貴方たちは大学卒業過程をも越え、
 一般魔法使いの方々よりもさらに一つ上の高みにいます。
 その力に慢心せず、これからも日々の生活を歩んで下さい」

「無論だ」

「ありがとうございます」

 伊吹と雄真も、共に一礼する。
それを確認し、ゆずはは生徒全員を見渡した。

「もちろん。今名前をお呼びしなかった生徒の皆さんも、
 日々努力されていることは重々承知しております。
 今日ここに集まって頂いたのは、
 我々魔法科教師陣が魔法科生徒から選び抜いた、
 10人の最強メンバーです」

「今年もこの時期がやって来たわ!!」

 ゆずはの横から、陽菜が歩み出てきた。

「七校対抗魔法大会!! 開幕よ!!!」

 その言葉に、生徒一同は「やっぱりその話か」という空気を作る。
しかし。

「………なな? な、なに?」

 理事長室に集まる人間の中で、1人だけ首を傾げる人物。
小日向雄真は、周りの生徒とは異質の反応を示していた。

「雄真よ。そなたは魔法科生徒にも関わらず、そんなことも知らぬか」

「悪かったな!! まだ日が浅いんでね!!!」

「そんな方がClassAですか。
 ふふふ。世の中分からないものです」

「さらっと酷い事言うの止めてくださいよ!?」

「七校対抗魔法大会とは、日本各地に散らばる魔法学校による対抗試合の事よ。
 日本にある魔法学校は7つ。よって七校対抗魔法大会というの」

 伊吹と小雪に言葉責めにされている雄真を見て、鈴莉は助け船を出した。

「…そんな大会があったのか」

「どの学校にも参加の有無を決める権利があります。
 今年も例年通り、全ての魔法学校が参加表明をしてきました。
 瑞穂坂もそのうちの1つというわけです」

「大会は良いよ〜!!
 なにせその間学校は公欠!! ホテルはタダ!!
 おいしい食事に―――」

「九条先生?」

「皆、真剣に取り組むように」

 鈴莉の圧力に、陽菜は一瞬で屈した。
――――それよりも。

「公欠? ホテル?」

「その通りです。なにせ、計7日間をかけて行われる、盛大な催しです。
 試合のメンバーに選ばれた者は、その間学校をお休みして会場へと赴きます」

「雄真くんは、去年のこの時期は普通科に居たんだし、
 知らなくてもしょうがないんじゃないかな」

 雄真の疑問に対して小雪が答える。
続いて春姫がそれとなくフォローをしてくれた。

「じゃ、じゃあ。去年は小雪さんたちも……?」

「ええ」

「楽しかったわよー。
 仲のいいクラスメイトとかは学校休んで応援に来てくれたんだから。
 学校側も、大会の入場パスを前もって見せておけば、
 欠席扱いにはなるけど、サボりにはならないってしてくれるのよ」

「正確には『社会見学』扱いになるのだがな」

 杏璃の言葉を、伊吹が訂正した。

「へぇ…。そりゃ面白そうだ」

「こほん。話を続けても?」

「す、すみません」

 ゆずはの咳払いに、皆が姿勢を正す。

「各校、七校対抗魔法大会に登録できるメンバーは10人。
 いわばそれが各校の代表選手となります。
 貴方たちにはそれを承諾して頂きたく、この場にお呼びしたというわけです」

「な、なるほど。
 ………。
 ……………え?
 そのメンバーに俺が入っちゃっていいの?」

「馬鹿か!!」

 伊吹は、横に立っていた雄真の胸倉を掴んでグングンと揺すりながら叫んだ。

「貴様!!
 先日成し遂げた偉業を忘れたわけではあるまい!!
 ClassA!! この学園の即戦力だぞ!!
 落とすはずがなかろう!!」

「いっ!! いぶっ!!
 伊吹!! 落ち着け!!!」

「落ち着くのは貴様の頭の中を整理させてからだ!!」

「い、伊吹様!?」

「そのようにされては、余計ごちゃごちゃになってしまうのでは!?」

 相変わらず雄真の頭をシェイクする主に、側近の上条兄妹が慌てて止めに入る。

「はぁ、はぁ。くそっ!!
 ここまで魔法に無知な男がClassAだと?
 この私と同格?
 何かが間違っている!!」

 信哉と沙耶に止められ、伊吹は肩で息をしながらそう叫んだ。

「俺、泣いていいんだよね?」

「こほんこほん」

 ジト目で咳払いするゆずはに、再度生徒は姿勢を正した。

「……続けても?」

「はい、すみませんでした」

「…すまぬ」

 雄真と伊吹は揃って頭を下げた。

「さて、大まかな話はお判り頂けましたね?
 貴方たちには、この任を承諾して頂きたいのです。
 もっとも、このメンバーの中で去年参加しなかった方は5名。
 式守伊吹さん、小日向雄真君、上条信哉君に沙耶さん、そして吉田小百合さんのみなのですが」

 メンバーの半分は経験済みか、と雄真が思ったところで伊吹が先陣を切った。

「私は構わぬ」

「俺に任せて頂けるのなら、全力を尽くそう」

「喜んでお受け致します」

「私も。是非参加させて頂きたいです」

 それに信哉、沙耶、そして小百合が続く。

「雄真君はどうかしら?」

 ゆずはの問いに、雄真も答えた。

「はい。よろしくお願いします」

 5人の答えに、ゆずはたちは満足そうな笑みを浮かべた。

「皆さんはどうかしら。今年も参加してもらえる?」

 鈴莉が問う。
それぞれが肯定の意を示した。

「ありがとうございます。
 この決定は、明日、瑞穂坂学園全生徒に報告されます」

 ゆずはの言葉に、皆が頷いた。

「私が皆のチーム顧問になったよ!!
 九条陽菜だ!! よろしくね!!」

 陽菜が声を上げた。

「大会まであと1週間とちょっと!!
 明日からは放課後、魔法実習ドームで練習開始!!
 余程の用事がない限り、サボっちゃダメだぞ!!
 分かったね、雄真君!!!」

「なんで俺が名指しなんですか!?
 サボりませんよ!!!」

 雄真が抗議の声を上げるが、軽やかにスルーされた。

「そこで皆の適性を見ながら、大会での担当種目を決めていこう!
 あと、君たちの大将なんだけど、高峰小雪さんに任せようと思うんだけど、
 小雪さん、どうかな?」

「もちろん、私でよければ。断る理由はありません」

「皆はどうかしら?」

 鈴莉の問いに、皆が頷く。

「それじゃあ、決定だね!!
 皆、私たちが目指すものはただ1つ!!」

 陽菜は右手を挙げて、高らかに宣言した。



「優勝だ!!!!」



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