「七賢人の、器の底が見えたかと聞いたんだ」
どくんっ
突如。雄真の体に、戦慄奔る。
「―――っ!?」
全身が硬直。思考も停止。内外一切の動きが取れなくなった。
心臓を、鷲掴みにされたかのような感覚。
信から発せられる言いようのないプレッシャーに、雄真の心は完全に屈していた。
「おや? いけると思ったんだが………。
身動きすら取れず、か。お前に“これ”はきつ過ぎたか?」
「〜〜〜〜っ!!」
どしゃっと音を立て、四つん這いの体勢から地面へと崩れ落ちる。
声を出そうにも、声が出せない。体だけが、不自然なほど震えていた。
怖い。
それだけが、停止した思考に残された感情。
地面にひれ伏した雄真が、襲いくる恐怖に包まれ全てが闇に帰そうとしたとき。
『雄真さん!!』
闇の中に、一筋の光が差す。
「っっっはぁっ!!!!! ――――ごほっごほっ!! おえっ!!」
クリスの叫びが、雄真を現実世界へと引き戻した。
止まっていた時が再び動き出したかのように。雄真はむせ返るように呼吸を再開した。
止められていたわけではない。“呼吸すら、できなかった”。
時間にして、わずか10秒足らず。しかし、それでも。
信から発せられたプレッシャーは、雄真の生命活動そのものを、容易に抑え込んでいたのだ。
『大丈夫ですか!? 雄真さん!!』
「はぁ…はぁ…。あぁ。さんきゅーな、クリス。軽くいっちまってたみたいだ」
口調こそ軽口だが。雄真は言い様のない恐怖に苛まれていた。
(…なんだったんだ? 今のは……。魔法じゃ、ない。けど…)
もし、あと少しでもままだったら――――。
そこまで考えたところで、雄真はその考えを断ち切った。
荒い息を繰り返しながら。若干涙目になりながらも、ようやく立ちあがる。
「ほう? 俺の『プレス』に耐えたか」
感心したかのような声色でそう告げると、信は目を細めた。
「そうこなくてはな」
『プレス』とは何なのか、その言葉の意味を聞く暇もなく。
信の体は、言葉を切るのと同時に炎を纏った。
「………これはっ」
「火の身体強化が、お前の専売特許だと思うなよ」
信の体に、火のフル・アーマーが発現していた。
立ち上る陽炎が、周囲の空気を揺らめかせ、焦がす。
明らかに。目で見て雄真のものと“違い”が分かるほど、洗練されたものだった。
「俺は“炎の加護を受けし一族”。この土俵で、右に出る者などいない。
いや、少し違うか。“いてはならない”んだよ、雄真」
「くぅっ!?」
その熱気にあてられ、まだ攻撃も受けてないのに一歩後ろへと下る。
既に満身創痍となっていた雄真に、この展開はきつ過ぎた。
「限界か?」
「………くっ」
雄真が苦虫を噛み潰したかのような顔をする。
それを見て、信は目を細めた。
「あれが全力なら、お前の実力の底が見えたということだ。
それが何を意味するか、分かるか?」
肩で息をし、やっとの思いで信と向き合っている雄真を一瞥して。
信はさも当然のように、こう言い放った。
「お前は、俺に勝てないってことだ」
Happiness story「小日向雄真と七校対抗魔法大会」
Magic20.“想定外”
眩いばかりの勢いを放った炎が、観客の目に映った。
それは、大きな音を立てて周囲のものを焼き払う。
ゆっくりと。
雄真の体が後方へと傾いた。
どさっ………。
軽い音が響く。
あれほどまでに白熱し、長引いていた戦いは――――――。
ビ――――――――ッ
『緩衝魔法の発動を確認。瑞穂坂学園2年・小日向雄真、退場』
予めセットされていた自動音声の元、拍子抜けするほど呆気なく幕を閉じた。
観客が気づいたときには、全てが終わっていた。
誰1人として、身動きする者はいない。
沈黙が誰の胸にも下りる中、信はゆっくりと口を開いた。
「審判、終了だ」
「あ? …あ、ああ」
既にフィールドに雄真はいない。緩衝魔法発動により、外へと追いやられている。
今頃は医務室へと運び込まれていることだろう。
審判は、右手を空へと掲げた。
『試合終了!! 瑞穂坂学園、神坂春姫・小日向雄真の両名を戦闘不能と認定!!
勝者は京帝高校、神威信・児玉白!!』
高らかに宣言された勝敗とは裏腹に、観客席のリアクションは皆無だった。
信はそのことに関して特に気にした様子もなく、もと来た入口へと足を向けた。
無言の会場に、信の足音のみが響く。
結局。
観客も信も。何も発さないまま、信はフィールドから姿を消した。
大会3日目。バルーンクラッシュ・ダブルス第2回戦の工程が全て終了した。
勝敗は、以下のとおりである。
≪ダブルス 2回戦結果≫
Aブロック
第1試合
鳳健吾・谷保みどり(東京) × 対 ○ 上条信哉・上条沙耶(瑞穂坂)
第2試合
蔵屋敷美紀・大原千恵(舞浜) × 対 ○ 星城聡・向井正春(京帝)
Aブロック1・2位決定戦は、瑞穂坂 対 京帝 に決定。
Bブロック
第1試合
日立ニオ・菅野宮重次(静岡) ○ 対 × 静本綾香・西山あゆ(名古屋)
第2試合
神坂春姫・小日向雄真(瑞穂坂) × 対 ○ 神威信・児玉白(京帝)
Bブロック1・2位決定戦は、静岡 対 京帝 に決定。
○現在の学校順位
5位:仙台魔法学園(宮城)30P
5位:東京都立魔法学園(東京)30P
1位:瑞穂坂学園(神奈川)100P
7位:舞浜学園(千葉)20P
3位:静岡魔法学園(静岡)50P
4位:名古屋魔法高校(愛知)40P
2位:京帝高校(京都)90P
「雄真!!」
「雄真っ!!」
「兄さんっ」
準・ハチ・すももの3人が駆け込んでくる。
その後に、伊吹・小雪・杏璃・小百合・静香・幸平が続いた。
医務室。
真っ白な部屋の角に据えられたベッドにて、雄真は目を閉じて眠っていた。
既に到着していた春姫・信哉・沙耶が、今来たメンバーを迎え入れる。
「して、容態はどうか?」
「はっ。緩衝魔法の発動故、外傷はほぼございません。
ただ、雄真殿は相当な魔力を使われたようで…。
極度の疲労によるものだと、医務の者は申しておりました」
伊吹の問いに、信哉が頭を下げながらそう答える。
「ふむ、ならばそう問題はなかろう」
「………いえ、それが」
沙耶が横から、申し訳無さそうな声色で口を挟む。
「尋常ではない魔力の消費量が検出されております。
この状態は“あの件”に近いものがあるかと。
雄真さんが目を御覚ましになられるのが、いつ頃になるのか。
現段階では目途が立っておりません」
「………なんだと?」
「待って。小日向君は一度、『アムンマルサス』を使って時間回帰したんじゃないの?
だったら多少は魔力回復をしているはずじゃあ………」
「時間回帰というものを分かってないな、吉田小百合」
小百合の疑問を、一刀両断するかのように伊吹が口を挟んだ。
「光の時間回帰魔法『アムンマルサス』。術者の任意の状態まで時間を回帰する強力な魔法。
雄真はこの術を使い、自身が怪我をする前に、
信からの攻撃を受ける前に、ClassA『ウェンペティア』を発動する前に戻した。
そなたの、その認識は正しい。“おおまかには”…な。だが、この術も万能ではない」
そこまで言って一度切る。伊吹は息を吸い、再度話し始めた。
「欠点を挙げるとすれば、だ。
それは、現状と指定した時間との誤差が大きければ、大きいほど使用する魔力も増えるということだ。
まず間違いなく、その誤差の間に使用した魔力量よりは多い。これは魔力回復魔法ではないのだ」
「じゃ、じゃあ雄真がいつ目を覚ますか分からないってことっ!?」
「そういうことよ」
杏璃の動揺に答えたのは鈴莉だった。
ゆずは・陽菜と共に、ゆっくりとした足取りで医務室へと入ってくる。
ゆずはは後ろ手でしっかりとドアを閉めた。
「雄真君の魔力放出量は、尋常じゃなかったわ。医務の先生も驚いていたくらいよ。
おそらく、“あの件”を上回る量を使用したはず」
沙耶や鈴莉の言う“あの件”が何を指すか。ここにいるメンバーなら(静香・幸平・小百合を除いてだが)、
言われるまでもなく分かっている。対MC社員・新橋恭介のことだ。普通科の準・ハチ・すももですら、
詳細は知らぬものの雄真の無茶っぷりは聞かされていた。
あの時は、雄真は魔力の使い過ぎで3日も寝込んでいた。
そして、今回はあの時を上回る魔力使用量だという。
「………そんな」
ならば、雄真はどうなってしまうのか。
春姫は、震える声でそう呟くことしかできなかった。
「そして、それを裏付ける証拠としてもう1つ」
鈴莉が後ろ手にある物を取り出す。
「―――――それ」
クリスだった。雄真の相棒。
“自我持ち”であった彼女(?)も、今や一言も話さぬ魔力補助具となっていた。
「全くと言っていいほど、雄真君から魔力供給がなされていない。
雄真くんの体が、自分を支えるので精一杯になっている証拠よ」
「信のやつめ、厄介なことをしてくれたものだ」
伊吹が吐き捨てるようにそう言う。
そこで、今まで傍観を決め込んでいたゆずはが初めて口を開く。
「完全に想定外の展開となりました。
最悪、明日のバルーンクラッシュ。Bブロックは棄権せねばなりません」
「なっ!? こんな時になんで試合の話なんてするんですかっ!?」
杏璃が信じられないというような顔で叫ぶ。
「雄真がそれどころじゃないのは分かってるでしょ!!」
「もちろん」
しかし、ゆずははその怒気をさらっと受け流して、
「雄真君は、自分の立場がしっかりと分かってなかったようですね」
「なっ!?」
ゆずはのあんまりな口ぶりに、春姫の頭に血が上った。
「そんな言い方っ!!」
「? 私が何か間違ったことを言いましたか? これは生死をかけた決闘ではない、試合です。
そして雄真君は、その中でも試合を掛け持ちする重要な選手だった。
自己管理くらいはしっかりとやって欲しかった、というのが理事長としての本音です」
「なんですって!?」
「ちょ、ちょっと春姫、落ち着きなさいよ!!」
今にも飛び掛からんばかりの春姫を、杏璃が押さえつける。
完全に、いつものとは真逆の立ち位置となっていた。
「今大会は、ただのレクリエーションでは済まされない。それは皆が重々承知することであるはずです。
七賢人・次期当主たちが全員参戦する、大会の結果はそのまま今後の力関係にも影響を及ぼすでしょう。
負けるわけにはいかないのです。その考えが、間違っていますか?」
「そういう問題じゃないです!! だって雄真くんはっ」
「別に死ぬわけじゃ無い、そうでしょう? 鈴莉」
「…ええ、そうね」
「今にも死にそうだ、なんて事態なら流石の私でもこんなことは言いません。
ですが今回の件はそうじゃない。ただ単に、魔力の使い過ぎで寝込んでいるだけです。
“あの件”のように命を賭してまですべきことではなかった。
目先の勝敗に囚われ、全体が見えて―――――」
「それ以上口を開くな、高峰ゆずは」
どくんっ
ゆずはの口上を、伊吹の発言と共に怒気が塞ぐ。
七賢人が一角・式守家次期当主としての威圧が、部屋全体を包み込んだ。
「そなたとて、多少なりともこやつには期待していたのではないか?
本来ならば、雄真が信相手に啖呵を切ったあの時点で、そなたは対応すべきだったのだ。
下の者の不始末は、そなたに片づける責任がある。それをしなかったのは、多少なりとも願望があったからであろう」
「………」
ゆずはは答えない。伊吹をじろっと見据えるのみだ。
ただ、答えに窮している雰囲気でもない。『預言者』の異名を持つ大魔法使いは伊達ではない。
七賢人の一族とはいえど、伊吹のような年の若い娘に心情を悟らせるようなことはしなかった。
「まぁ、いい。ともあれ、心配は無用だ。わざわざ理事長が苦言を呈しにくるまでのことじゃあない」
伊吹は、やや大仰に背中からビサイムを抜きながら、
「こやつの尻拭いは、我らで受け持とう。そうであろう、小雪」
小雪の顔を伺う。それに強く頷いた小雪は、実の母の前でこう言い切った。
「今日より開始される、フライングキャッチとシングルス。
瑞穂坂は必ず勝ちあがります。たとえ、明日の試合に雄真さんが間に合わなかったとしても問題ありません」
小雪は一度死んだように眠っている雄真に目を向けてから、また母へと戻した。
「雄真さんのあの頑張りは、瑞穂坂にとって無くてはならないものでした。
負けはしましたが、あの健闘は間違いなく、王者・京帝を。そして今大会参加者全てを揺るがしたはずです。
それを崩すのは、私たちの役目です」
2人が先陣を切って医務室から退室する。
「ちょ、ちょっと待ちなさよ」
それに杏璃が。
次いで大会メンバー・観戦に来ていた普通科メンバーも続く。
春姫も。一度だけ雄真へと振り返ってから、直ぐに退室した。
それを見届けたゆずはは。
「はぁ〜」
脱力するかのように大きくため息を付いた。
「…何よ。その悲壮感たっぷりなため息」
「何よって何よ!!!」
「その言い方も何よって感じですね…」
陽菜が苦笑する。
「何でいっつもわたしばかりこんな恨まれる役割!!」
「それが上に立つ者の宿命、ってやつなのかしら」
鈴莉が悩ましげな表情を作りながら、頬に手を添える。
「わっ。鈴莉さん、それ恰好良いですっ」
「そお?」
「『そお?』、じゃないわよ!!」
和やかに談笑する鈴莉と陽菜に、ゆずはが涙目で訴えた。
「私だって心配よっ!! でも、立場としてはああ言うしかないじゃない!!」
「はいはい、分かったから」
肩で息をするゆずはを、鈴莉が投げやりに慰める。
「………雄真君の」
ゆずはがぽつりと。
声のトーンを変えて漏らしたことで、鈴莉と陽菜の顔つきが鋭くなった。
「この症状……。憶えがあるわ、少し調べてみる」
「症状? ただ、魔力の使い過ぎで寝込んでいるだけじゃないんですか?」
ゆずはの言葉に、陽菜が首を傾げながら尋ねる。
「…うぅーん」
「憶えがあるっていうのは、何かの文献で?」
唸るゆずはに、鈴莉が問いかける。
「それも思い出せないのよねぇ。ちょっと時間を頂戴」
「え? ゆずはさん、試合見ていかないんですか?
これから小雪ちゃん出番ですよ」
陽菜が驚いた顔でそう告げる。
「…ええ、あの娘は大丈夫よ。それよりもこちら」
ゆずはは雄真の顔を見ながら。
「あれだけの悪役を張ってしまった以上、それなりの功績を収めないと皆許してくれそうにないし」
おちゃらけた発言に対して、ゆずはは真面目な顔でそう言った。
「よう」
「…貴方」
後ろ手に声を掛けられ、振り返った安藤ももかは、信じられないという顔をした。
「堂々と何の用かしら。一応、私と貴方は面識が無いってことになってるはずだけど」
「ま、そう言うな。それに、周りをマいて来てるってことは、待ってたんだろ?」
言葉に詰まる。まさにその通りだった。
対・小雪戦で敗退したももかに、チームメイトはとても気遣ってくれていた。
ももかが、「ちょっとだけ1人にして」と言わなければ、いつまでも纏わりついていただろう。
そんな皆をももかはとても好いていたが、この時ばかりは話は別だった。
だからこそ。小日向雄真と七賢人の対決を、1人でぽつんと観戦していたのだ。
「さっきの戦いじゃ、随分と気張ってたじゃねぇか」
「別に。立場上、手は抜けないでしょう」
「はっ。大将なんざやるからそうなっちまうんだよ」
「言わないで。それに比べて貴方ときたら…。一回戦敗退なんて」
「本気なんて出すはずねぇだろ。奴らが見てないとも限らねぇんだぞ」
その言葉で、ももかが周囲を伺う。
「無駄だ、やめとけ。その程度で気配を悟られるような奴らじゃねぇよ」
「………で? 本題の方は?」
少し頬を赤らめて、ももかは改めて男と向き直った。
「悪くねぇ。テマリに言って情報収集でもさせとくか」
男は満足げに頷きながら、そう答えた。
わぁぁぁぁぁぁぁぁ
会場のボルテージは、留まることを知らない。
日は傾き、夕暮れを迎えようとしている今も、熱気は一向に下がらなかった。
C会場。
A会場・B会場との違いは、何と言ってもその広さ。
2倍近くあるその観客席も、既に満員御礼となっていた。
無論、これから行われるフライングキャッチ・シングルス、その2種目の為である。
まずはフライングキャッチ。
今大会初、七賢人・次期当主同士がぶつかり合う試合だ。
≪フライングキャッチ 予選 (16:00〜17:00)≫
備考:今種目に、シード制度なし。
出場者
仙台 :飯田剛・浜エイジ
舞浜 :八乙女咲夜・安藤ももか
東京 :巣鴨真司・秋田義男
瑞穂坂:高峰小雪・藍本静香
静岡 :浅草舞・外堀卓郎
名古屋:黒川アゲハ・桑田雄二
京帝 :渡辺正和・平井司
「ふ――――――っ」
ゆっくりと、小雪が息を吐く。
いつもと変わらぬその表情も、今は幾分か強張って見えた。
ここは選手控室。
とは言っても。いるのは自分だけではない。
フライングキャッチ参加者が、一同に介していた。
計14名。
各校より選ばれし猛者たちが、思い思いの時間を過ごしている。
「珍しいわね。高峰さんが、目に見えて緊張しているなんて」
「え?」
椅子に腰かけ目を閉じていたところで、静香が小雪のもとへとやってきた。
「そうですか? いつもそれなりだとは思っていたのですが」
「あはは。それはないわ。いつもは表情からじゃ何も読み取れないもの」
「…それは褒めている、と受け取っていいんですよね?」
「もちろん。大物だと思っているわ。今もね」
静香がウィンクしながらそう告げる。
ここで小雪は、ようやう静香が自分の緊張を解きに来てくれているのだと悟った。
「小日向君の分を、1人で背負う必要はないわ。大丈夫、私も頑張るから」
「はい。おたが―――」
「なになになに? ゆーゆーがどうかしたの?」
「っ!?」
「や、八乙女さん」
「やっほ、ゆきゆきさん!!」
2人の驚きを余所に、咲夜がひょっこりと顔を出した。
突然の来訪に驚きはするが、予想外ではない。
咲夜も参加者。ならばこの控え室にいるのは当たり前だからだ。
「で? ゆーゆーがどうかしたの?」
「あ、その」
「小日向君は疲れたとのことで、一足先にホテルへとお戻りになりました。
その分も頑張らねば、と話していたところです」
言葉に詰まった小雪に代わり、静香がしれっと嘘を付く。
流石は生徒会長と言ったところか。嘘っぽさを微塵も感じさせぬほどの、隙の無い発言ぶりだった。
「なぁーんだ。折角格好いいとこ見せようと思ったのにぃ」
「咲夜先輩、そのような言い方は良くないです。
先の試合はご覧になっていたのでしょう?
小日向先輩が疲弊するのは当たり前かと」
「っ」
「浅草さん…」
「どうも」
すっ…と。音もなく歩み寄ってきたのは、“雷の加護を受けし一族”浅草舞。
小雪は再度肩を震わせ、静香は驚きながらも、その名を口にした。
舞はそれにぺこりと頭を下げることで応じる。
「あぁー、さっきは頑張ってたもんねぇ。
しんしんさん相手にあそこまで戦う自信、私には無いなぁ」
「私もです。小日向さんがあそこまでできる殿方だとは…。
今大会の注目株であることに偽りは無かったようです」
舞が、すっと咲夜から小雪と静香へと視線を移す。そして、こう告げた。
「“お大事に”、と。小日向先輩にお伝えください」
「「―――っ!?」」
おそらく、隠しきれなかった。
それほどまでにさり気なく、2人の隙を突くかのような発言だった。
息を呑む音が重なり、嫌に響く。それを舞は事も無げに聞きとげると、
「行きましょう、咲夜先輩。試合前にお邪魔するのは、良くないです」
「そだね。じゃあ、また後で―――」
「さ・く・や・ちゃ〜ん?」
「ひうっ!?」
「………遅かったですか」
咲夜・舞の背後から、ドスの聞いた声が響く。
その声に、咲夜はびくっと肩を震わせ、舞は頭を抱えた。
「…安藤………ももかさん」
「こんにちは、藍本静香さん。そして、先ほどはどうも。高峰小雪さん」
「こんにちは」
静香の時よりも若干の鋭さを帯びた目線で、ももかが小雪を捉えた。
小雪もお得意のポーカーフェイスでそれを受け止める。
「貴方の配慮のおかげで、私は今、このフライングキャッチにも全力で参戦できる。
でも。だからといって手加減をする気はないわ」
「もちろんです。そんなつまらない事を期待して、棄権を促したわけではありません」
「ふふふ。貴方なら、そう言ってくれると思ったわ」
そう笑いながら、ももかは咲夜の頭をぽこりと叩いた。
「あうっ!!」
「貴方って人は!! 試合前、人様にちょっかい出しちゃダメってあれほど言ってるのに!!」
「ひ〜ん。だってゆーゆーが気になったんだも〜ん」
傍から見ても、そう強くは叩かれていない。
それでも、咲夜は本気で泣きそうになりながら弁明した。
それにももかがため息を付く。
「はぁ〜。それで? 小日向君は平気なのかしら?」
ももかの目線が小雪と静香に向く。
「かなり疲れたようで、既にホテルへと戻り休んでるはずですが」
静香が先ほどと同じように嘘を付く。
一瞬。ちらりと舞の方へと視線を動かしたが、舞は素知らぬ顔で立ったままだった。
どうやら、気づかれはしたが吹聴して回る気もないらしい。
「そう。それはお大事にね」
対してももかは、同じようなセリフを告げるものの、全く嘘に気づいてないようだった。
本気で心配そうな顔をしている。静香は別の意味で心に衝撃を受けた。
(もちろん、ももかが良い人過ぎる、という意味で)
そうこうしている間に。
ピ――――――――ン
『これより、フライングキャッチ、予選を開始致します。
選手の皆さんは、フィールドへとお集まりください』
控え室に選手召集の放送が鳴り響いた。
励みになります。
個人情報登録等は一切ございませんので、
作品が気に入って頂けましたらお願いします。
Leica
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