選手召集のアナウンスにより、
控え室で思い思いに過ごしていた面々が、それぞれのタイミングで退室を始める。
小雪と静香も、それに倣って退室しようとしていた所で。
「高峰さん」
後ろから、声が掛かった。
「はい、何でしょう?」
小雪が振り返る。
呼びかけた声の主であるももかは、澄ました顔で小雪を見据えていた。
「ターゲットアタックでは、貴方に1つ借りを作っちゃったから。
ここで返しておこうと思って」
「? どういう意味でしょう」
小雪が首を傾げる。
「これは忠告よ。これから行われるフライングキャッチ。
とにかく最初から、“気を抜かない”ことね」
「………試合中、私はいつでも真剣ですが」
「そう? なら余計なお世話だったかしら」
小雪の返答に気を悪くするでもなく、
ももかは「言うことは言った」といった表情で、小雪と静香の横をすり抜けるように歩いて行った。
退室する前に、一度だけ振り返る。
「この競技、舞浜が頂くわ」
Happiness story「小日向雄真と七校対抗魔法大会」
Magic21.波乱の予感!!
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
会場は、これ以上ない熱気に包まれていた。
七賢人・次期当主の2人が参戦するフライングキャッチ。
今大会において、七賢人同士が激突する最初の試合だ。
フライングキャッチは14人の参加者から、予選にて7名の決勝進出者を決める。
よって、現実的な話をするならば、この予選において強者同士が蹴落としあいをするとは思えない。
が。それでも。
先ほどまで行われていた小日向雄真vs神威信の予想外の激戦によって、
高揚している観客の期待は高まる一方だった。
「さて。まずはあやつらがどう出るか、だが」
観客席中段より少し前。
空中戦が繰り広げられるフライングキャッチ観戦としては、
まずまずのところに席を構えたところで、伊吹がそう切り出した。
「式守さん、君はこのフライングキャッチ。本命は誰だと睨んでるんだい?」
その隣に腰かけていた幸平が、伊吹にそう問う。
対して伊吹は、何の躊躇もなくこの答えを口にした。
「まぁ。十中八九、八乙女咲夜であろうな」
「? 何よ、アンタなら100パーセントあの娘だって断言するかと思ってたのに」
そのやり取りを聞いていた杏璃が口を挟む。
「100パーセントではないな。唯一の不安要素は、浅草舞だ」
「…ああ、なるほど」
伊吹の答えを聞いて、杏璃が投げやりに答える。
「結局七賢人ってわけね」
「当たり前だ」
ぴしゃりと言い放つ。
「そなたら、少し雄真の試合を見て緩んでいるのではないか?
七賢人の力は絶対。昔も今も、それは変わらぬ」
ビ―――――――――ッ
『選手入場です』
伊吹の断言に。
杏璃たちの息を呑む音は、歓声によって掻き消された。
『仙台魔法学園、飯田剛・浜エイジ』
まずフィールドに姿を現したのは、仙台魔法学園の2人。
2人ともびっちりと魔法服を着込み、ワンドを片手に中央フィールドへと歩み寄る。
しかし観客の歓声は、2人が登場した時点で。既に別の人物へと意識が向いていた。
『舞浜学園、八乙女咲夜・安藤ももか』
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
会場全体を揺るがさんばかりの歓声が鳴り響く。
昨年度、高校1年にしてフライングキャッチ優勝者。
2連覇を狙う女王。七賢人が一角・“風の加護を受けし一族”。その次期当主・八乙女咲夜。
じゃららららっ
薄い緑をしたツインテールをなびかせながら、悠々とフィールを闊歩する。
そのはつらつとした風情の女の子には不釣り合いの、鈍い音がフィールド内に響き渡った。
その正体は、鎖。
咲夜の腰には、両サイドに扇が畳んで刺さっている。
その持ち手からは太い鎖が伸びており、これが2つの扇を繋いでいた。
表情は、満面の笑み。
今、この瞬間を。極限まで楽しんでいるかのような表情だった。
その直ぐ後ろには、安藤ももかが続く。
終始穏やかな表情を絶やさない彼女も、この時ばかりは少し顔が強張っている。
圧倒的な音量で浴びせられる声援に慣れてないせいかもしれない。
『東京都立魔法高校、巣鴨真司・秋田義男』
後ろから、東京都立魔法高校の生徒2人が入場するも、未だ観客の視線は咲夜のまま。
巣鴨はその様子を見て軽く舌打ちしたが、当然のことながら誰の耳にも届かない。
『瑞穂坂学園、高峰小雪・藍本静香』
「小雪さーん!!」
「会長ー!!」
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
瑞穂坂の入場アナウンスが響くのと同時に、会場の一角から猛烈な声援が上がる。
小雪と静香は、揃ってそちらの方へと目を向けた。
そこには瑞穂坂学園より観戦に来ていた生徒たちが集まっている。
どうやら七賢人への声援を意識して、いつもより声を張り上げているらしい。
その光景に、小雪と静香はくすりと笑いあった。
「これは…負けられない理由が1つ増えましたね」
「ほんと。その通りだわ」
『静岡魔法学園、浅草舞・外堀卓郎』
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
再び大音量の歓声が響く。
この試合に出場する、2人目の七賢人・次期当主。
今大会初出場。“雷の加護を受けし一族”浅草舞。
浅草色の魔法服に身を包んだ、小柄な女の子が入場してくる。
その背には自身の身長をゆうに越す太刀が取り付けられていた。
至ってシンプルな作りのそれは、赤色の夕日を浴びキラキラと輝いている。
少女の後ろには、同学園3年の外堀卓郎が続いて歩いていた。
『名古屋魔法高校、黒川アゲハ・桑田雄二』
続いて名古屋魔法高校の2人が入場する。
しかし、先ほどと同じく観客の視線は2人の前を歩く人物に固定されたままだ。
この試合に対して、観客が何を求めているのかが直ぐに分かってしまう程の待遇格差だった。
が。それもここまで。
『京帝高校、渡辺正和・平井司』
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
歓声が高まる。
「京帝!! 京帝!!」
「王者!! 王者!!」
入場において、唯一七賢人以外に観客の関心が向いた瞬間だった。
今大会3連覇を狙う京帝高校。
トップを走る瑞穂坂を抜き、他校を抑え勝利を手にするには、
七賢人・次期当主2人が参戦するこの試合とて気は抜けない。
1位・2位が奪われたとしても、3位は掴め。
それが今この会場で声を張り上げる観客の気持ちだった。
今、フライングキャッチ参加選手一同が、フィールドに介した。
そこへ審判を先頭に、大きな木箱を抱えた2人の係員が歩み寄る。
選手の視線全てが向いたことを確認し、審判が口を開いた。
『これより、フライングキャッチ予選を開始します』
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
その宣言に、会場の歓声ボリュームが更に一段階上がった。
審判の目配せを受け、係員が地面へ置いた木箱に手をかけ、蓋を開ける。
瞬間。
箱からは、多量の“なにか”が凄まじい勢いで弾き飛んだ。
それは、フライングキャッチに必須となるマジックアイテム。
『ただ今、フィールドへ金のボール7個。白のボール43個。計50個のボールを放ちました。
フィールドを縦横無尽に駆け巡るボールから、金ボールを手にした7人を決勝進出者とします』
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
審判の説明に、観客が色めきだす。試合開始は、直前まで迫っていた。
選手もそれを肌で感じ取っている。
ピリピリとした空気が、会場中心から徐々に広がっていった。
『準備はいいな?』
選手を一瞥した審判の声が、マイクに入る。
選手たちはそれぞれ自身の持ち場から頷き合う。
フィールド中央に審判。
それを円状に囲うように、選手それぞれがマジックアイテムを構えている。
審判は、係員がフィールドから退出するのを横目で見届け、手を空へとかざした。
『試合を開始します』
ビ―――――――――ッ
開始ブザーが鳴り響いた。
ズバババババババババババババッ!!!!!!!!!
「――――え」
小雪が間の抜けた声を出す。何が起こっているのか、頭が追いつかない。
それだけ一瞬のうちに、“それ”は起こった。
出場選手たちが宙に舞っている。
当たり前だ。フライングキャッチは空中戦。
それ自体は問題ではない。
問題なのは。
自分の意志で飛んでいるわけではないということ―――――。
誰もがこの光景を見て、唖然としている。
観客も誰1人として声をあげる者はいない。
そんな中。
「――――かまいたちの舞い」
この事態を巻き起こしたであろう張本人の口から、そう告げられた。
そして、ほぼ時を同じくして。
ビ―――――――――ッ
『緩衝魔法の発動を確認。緩衝魔法の発動を確認。
飯田剛、浜エイジ、巣鴨真司、秋田義男、藍本静香、外堀卓郎、桑田雄二。退場』
退場コールが鳴り響いた。
「藍本会長!?」
それでやっと我に返った小雪が、静香の方へと振り返る。
小雪自身の前には、水で作られた障壁。
ほぼ間違いなく、小雪はこれに助けられている。
“自分で張ったわけでもない障壁”に。
水は静香の得意とする魔法。
張った本人である静香は退場を宣告されている。
つまり。
静香は自分を犠牲にして、小雪を守ったのだ。
足元に展開する転移魔法陣に照らされながら、静香は苦笑した。
「ごめんなさい。あのタイミングで2枚は張れなかったわ」
「なら! なぜ私を庇うような真似を!!」
「貴方ならって、そう思うからよ」
「―――え?」
静香の予想外の答えに、小雪は思わず問い返す。
「私よりも、貴方の方がこのサドンデスを勝ち抜ける可能性が高い。
だから、この選択は間違ってないはず」
「そんなっ」
「後はお願いね? 大将さん」
キィィィィィィンッ!!
静香がウィンクするのとほぼ同時に、転移魔法が発動した。
フィールドから丁度半分の数の選手が姿を消す。
「…藍本会長」
小雪が顔を俯かせる。
『貴方ならって、そう思うからよ』
たった今告げられた、静香の言葉がリフレインする。
過剰評価だ、と小雪は思う。
小雪の扱う魔法は、戦闘には向いてないものが多い。
そもそも、小雪自身も運動神経が良い方ではないのだ。
小雪と静香。1対1で戦ったのなら、おそらく小雪が負ける。
それは、何よりも小雪自身がよく分かっていた。
それでも。静香は、小雪に全てを託した。
久しぶりに。本当に久しぶりに。
自身の。魔法使いとしての、核が疼く感覚を味わう。
俯いていた顔を上げる。その表情からは、いつもの小雪のポーカーフェイスはない。
のらりくらりと立ちまわっていた小雪からは本来放たれるはずもない、闘志の炎がその瞳に輝いていた。
そして、その目の前の光景には―――――。
「どういうおつもりでしょうか、咲夜先輩」
七賢人が一角・浅草舞は、未だその背に控える太刀に手を伸ばすこともなく。
あくまでも自然体のままで、同じく七賢人である八乙女咲夜と相対していた。
舞の表情は、少しばかり固く強張っている。
咲夜の強襲にカチンと来ている証拠だ。
対する咲夜は既にマジックワンドを抜いており、
その両手には色鮮やかな扇が握られている。
左右の扇を繋ぐ鎖は、夕日の光を反射しながらも、
威圧感を放つかのように地面へと力なく垂れ下がっていた。
舞とは正反対に、咲夜の表情は笑みでいっぱいだ。
「開始早々いきなり不意打ちとは…。何の真似ですかと聞いているのです」
「んぅ? 問題ないでしょ、開始したんだから」
心底不思議そうな顔で、咲夜が首を傾げる。
「そういう問題ではありませんっ!!」
舞の声のトーンが少し上がった。
しかし、咲夜は表情を何1つ変えることなく、
「だって、いつもと一緒じゃつまんないじゃん」
と。堂々と言い放った。
舞は、口を開けてぽかんとした表情になる。
が、すぐに表情を作り直した。
「一緒、とは?」
「そのまんまの意味だよ。だって去年とおんなじようにやっても、どうせ私が勝つもん。
なら少し遊ぼうかな〜って」
「………」
思わず、絶句する。
無垢な表情、口調からは想像できぬほどの絶対的な自信。
咲夜は「月曜日の次は火曜日だよっ」と告げるかのような、当たり前な口調で勝利宣言した。
「だから、決めたんだ」
「………何をです?」
舞が、訝しげな表情で問う。
対して咲夜は、怪しげな笑みを浮かべながら、
「決勝に進めるのは、3人まで。ここでのルールは、私だよ」
そうのたまった。
励みになります。
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