「………流れを変える必要がありますね」

『? どないするんでっか? 姐さん』

 小雪は、荒れ狂う風の嵐の中、冷静な瞳でタマちゃんを見据えた。

「タマちゃん。1つ、頼まれごとをしてくれますか?」

『もちろん、姐さんの望みなら構わへんで!』

「ふふふ。そう言ってくれると思ってました」

 そうタマちゃんに答えながら、小雪の目はももかの方へと向いていた。
ももかの周囲には、常に七賢人・次期当主の八乙女咲夜が放つ風の刃が舞い踊っている。

 名古屋・黒川アゲハと京帝・渡辺正和も、その攻撃には苦戦しているようだ。
なにせ、未だ一度たりとも彼らの攻撃は、ももかの元へと届いていない。

 しかし。解せない点がある。
それは、ももか自身が、まだ一度たりとも魔法攻撃を使ってきてないということ。

 確かにももかは、先の戦い(ターゲットアタック、対小雪戦)で魔力を消費している。
だがそれは小雪も同じこと。それにももかは棄権することにより、魔力を温存できたはずだった。

 出し惜しみするとは考えにくいし、できる状態ではない。
七賢人の加護があるとは言え、当の七賢人は同格の魔法使いと相対中であり、いつ加護が消えてもおかしくはない。
なによりももか自身も複数の魔法使いに囲まれ、決して安全な状態とは言えないのだ。

 だとするならば。

「魔法が、“使える状態に無い”と考えるのが妥当」

 小雪はそう結論づけた。

 魔法が使えない。
その要因については、いくつか候補が挙げられる。

 例えば――――――。

「今、私たちが相対している安藤ももかさんは、“本体ではない”とかですね」

 そう言いつつ。

 小雪は彼女の師直伝の魔法、“映力強化”を発動した。






Happiness story「小日向雄真と七校対抗魔法大会」

Magic23.“七賢人・浅草家次期当主”浅草舞






「…ゆきゆきさん」

「…高峰先輩」

 爆風によって巻き起こった埃を払いながら、
七賢人・次期当主たちは揃ってその発信源へと目を向けた。

「ふふふ。楽しそうじゃあないですか、私も混ぜて下さいよ」

 その刺すような視線を物ともせず、小雪は笑みを浮かべている。
小雪の背後には、既にいつでも起爆できる状態にあるタマちゃんが5つ浮いていた。

「高峰先輩」

 小雪の言葉を聞き、舞が今一度小雪の名を呼ぶ。

「先輩ならご存じでしょうが、私たちの手にしている物は“本物ではありません”。
 ですが………それでも、一介の補助具の性能を遥かに凌駕していることはお分かりのはず」

 ガシャリと音を立てながら、舞が柄を強く握り直した。

「ですから、ここは私に任せてください。
 咲夜先輩の笑えない冗談は、この私が叩き切りますから」

「あははははは。まいまいのジョークは本当に面白いねぇ」

 けらけら笑いながら、咲夜は扇を自身の前に掲げた。

「アムンマルサス」

ピカ―――――――――ッ

 咲夜はまるで呼吸をするかの如く、自身のワンドの状態を回復させた。
無論、先ほど舞によって断ち切られた鎖の部分である。
眩い光が収束するころには、既にワンドは元通りの姿へと戻っていた。

「自身の得意属性ではないにも関わらず、光の回帰魔法を詠唱破棄ですか。
 流石七賢人です。その程度の魔法ならば造作もないということでしょうか」

「もち。そんな難しい魔法じゃないしね」

 小雪の賞賛を、事も何気に受け取る。
咲夜は扇を一振りすると、舞へと一瞥をくれて口を開いた。

「1人ずつなんて野暮なことは言わないよ。まとめて相手したげる。
 ついでに、どっちの“レプリカ”の方が優秀かも、試してみる? まいまい」

 咲夜の無邪気な笑みに、威圧的な色が混ざる。


 ――――――3人がほぼ同時に地面を蹴ろうとした時。


「金のボール、キャッチしたわ!!」

「なっ!?」

「何だと!?」

 上空より、ももかの声が響く。
当人であるももかに相対していた、名古屋・アゲハと京帝・渡辺が驚きの声を上げた。

「いつの間に空に!?」

「馬鹿な! だって舞浜は―――」

「いつ、私が本体だって言ったかしら?」

「なに!?」

 真上へと向けていた視線を、先ほどまで相対していた方のももかへと戻す。

ピシッ!!

 不敵な笑みを浮かべるももかの表情に、“亀裂”が入った。

「―――まさか」

 アゲハの顔に驚きの色が浮かぶ。

「“夢現回廊(むげんかいろう)”」

ピシシッ

ガシャ―――――――ンッ!!

 大きな音を立てて、ももかが砕け散った。

 次いで、空よりワンドに乗ったももか“本人”が降りてくる。
手には金色をしたボールが握られていた。

「そのまさか、よ。私の能力がリフレクターだけだと思った?」

 軽やかに着地しながら、ももかが話す。

「光の真髄は“視覚”と回帰。幻術こそが、私の魔法の本領ってことよ」

「じゃあ…。先の試合、対高峰小雪戦での敗北は………」

「………この試合への布石だった、ってことか」

 アゲハの言葉を、渡辺が引き継ぐ。ももかはそれに頷いた。

「し、しかし金のボールをキャッチするために上空で動き回っていたのなら、
 私たちが気付かないわけが………」

「そこも含めて幻術だったってことだろ。
 俺たちと相対している偶像を作り出す幻術と、
 空を飛びまわる自身の姿を見えなくさせる幻術。
 夢現回廊も鏡花水月と同じく、常駐型広域掌握魔法だったということだ」

「当たりよ」

「高峰戦の敗因、リフレクターの自動展開も幻術を使えば誤魔化せたはずだ。
 そこで使わなかったってことは、やはりこっちの試合が本命だったってことか」

「ふふふ。そこまで見破られるなんてね。流石は王者・京帝。
 ええ、そう…。とは言え、あの時はあれだけで勝てると思てたんだけどね。
 高峰さんが予想外の魔法を身につけていたせいで―――」

 そこまで喋ったところで、ももかはピタリと動きを止めた。
急激に、嫌な予感に襲われる。

 手にしたボールを見てみる。
言うまでもなく、それは金色に輝いていた。

 しかし。おかしなことが1つある。
ももかが金のボールをキャッチしたにも関わらず、


 ―――――――――未だ決勝進出へのアナウンスが流れてこない。


「…まさか」

 ももかがガバッという音を立てながら、ある人物へと振り返る。
七賢人・次期当主と相対していた“彼女”は、その視線に気づきももかへと振り向いた。

「おめでとうございます、そのボールは“大当たり”ですよ?」

カッ!!

 その言葉と共に、ももかの手に握られていたボールが眩い光を放った。
ボール自らが発する光によって確信は持てなかったが、ももかはその色に、ほぼ予測を付けていた。

 金ではない。


 ――――“緑”だ。


「高峰さんっ!!」

「光の真髄は、“視覚”と回帰。ですよね?」

ドォォォォォォォォンッ!!!!

 ゼロ距離で爆発されれば、鏡花水月を起動しても障壁は意味を成さない。
ももかは成す術なく、爆発に巻き込まれた。

ビ――――――――ッ

『緩衝魔法の発動を確認。舞浜学園・安藤ももか、退場』

「えぇ!? ウソっ!! リーダー!?」

「余所見とは余裕ですね!!」

「うわわわっ!?」

ドドドドドドドドッ!!!!

 舞の放った無詠唱の魔法球たちが、咲夜を襲う。
咲夜は扇を一振りして巻き起こした風に乗り、遥か後方へと退避することでやり過ごした。

 しかし。それを舞は逃がさなかった。

「浅草流・奥義―――――」

 ふっ…と。

 舞が、その場から“消えた”。


「“撫雷(なでいかずち)”」


リィィィィィィィィィンッ

 その早すぎる挙動。

 宙を裂く稲妻を纏った太刀から、特有の甲高い音が鳴り響く。

「うっ!?」

 咲夜が息詰まったかのような声をあげる。

 瞬間。

ズバァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

 咲夜の握る扇ごと、舞の切っ先は咲夜の体を斜め一直線に切り裂いた。

うおぉっ!?

 その光景に、観客席からどよめきの声があがる。
しかし、動揺したのは観客だけではなかった。

「ちょっ――それ、真剣なのでは!?」

「し、死んだんじゃねぇのか!? あれ!!」

 アゲハと渡辺が、焦ったような声色で叫ぶ。

 しかし。

「何を、世迷言をっ!!」

 舞がそう発した直後。


「―――――かざきりの舞い」


 凍てつくような声色で、その技名は呟かれた。

「皆さんっ!! 障壁、全力展開っ!!!!」

 舞がすぐさま反応し、皆に指示を与える。


 が。


 その声が皆の耳に届くより先に。


 その獰猛なまでの風の嵐は。


 フィールドを縦横無尽に蹂躙した。






 問答無用で全てを切り裂いた風の嵐が止む。
フィールド含め、会場は完全なる沈黙が支配していた。

 そんな中、咲夜のお気楽な声だけが響く。

「さぁーって、残ったのは何人かなぁ〜」

 砂煙が、晴れる。

 その光景を見て、咲夜の顔から笑みが消えた。

「ふぅ〜。危ないところでした」

 少しも危なそうな表情は見せず、
小雪は額を拭う素振りをしながらそうのたまった。

「うそ」

「高峰先輩、今の…一体」

「ま、まじかよ。あれを防ぎきったのか…?」

 小雪の後ろには、何が起こったのか分からないといった顔の、
舞・アゲハ・渡辺が立っていた。全員が不思議そうな表情で小雪を見ている。

 その視線には目もくれず、小雪はこちらの様子を伺う咲夜ににっこりと笑みを向けた。

「うそ、いったいどうやって…。だって障壁展開は間に合わなかったはず」

「さぁて、どうしてでしょうか?」

 咲夜の疑問をあしらうかのように、小雪がとぼける。
その態度に、咲夜の表情がピクリと動いた。

「どうやったの? 今の」

 先ほどまでとは似ても似つかない、冷たい声をした咲夜が小雪に向けて問う。

「絶対に、間に合わないと思ったのに」

「ふふ。不思議で仕方ないですか?」

「…どういう意味?」

 小雪のクスクス笑いも意に介さず、咲夜は冷徹な目で小雪を睨みつけた。

「何事も、貴方の思い通りにはならないってことですよ」

「へぇ…」

どくんっ

 小雪の言葉に、平坦な回答を返した咲夜の体から。
普段の咲夜からは想像も付かないほどの威圧が発せられる。

「―――っ」

 びくりと。小雪の肩が震える。
その一瞬の硬直を、咲夜は見逃さなかった。

 咲夜の体が、その場から消える。

「じゃ、これも防いでみてよ」

 その声は、小雪の背後から届いた。

「っ!?」

 息を呑んだ小雪が、咄嗟に振り返る。

 その時には既に、咲夜は自身の扇を振りかぶっていた。

 明らかに間に合わない。

(………くっ!?)

 小雪がこれから来るであろう衝撃に耐えようと、腕を自らの体の前でクロスさせたところで。

ギィィィィィィィィィンッ!!!!

「っ!?」

「む」

 横から割り込んできた太刀が、小雪を襲わんとする扇を受け止めた。

ギチギチギチッ!!!

 お互いが、遠慮の欠片もない力でせめぎ合っているのがわかる。
金属の交わる鈍い音が、小雪の耳にもはっきりと届いた。

「あ、浅草舞さん………」

「まいまいぃ………。アンタ、私のジャマするの?」

 ギロリと視線を突如乱入してきた舞へと向け、咲夜が凄む。
対して舞は、その威圧をものともせずに柄にかける拳に力を込めた。

「邪魔もなにも………先輩のお相手は、最初から私でしょうっ!!!」

ギィィィィィィィィィンッ!!!!

 舞が強引に太刀を振り払ったことにより、咲夜が後方へと吹っ飛ぶ。
それに追い打ちを掛けんと、舞は体勢屈めて足に魔力を込めた。

「浅草流・奥義―――」

「かまいた―――」

「“撫雷”」

パァァァァァンッ!!!!!

 崩れた体勢から風の刃を発現しようとした咲夜。
それを舞の太刀筋が邪魔した。左の扇が弾き飛ばされる。

「もらいました!!」

「何をさっ!!」

 咲夜の背後、瞬時に発現された風の魔法球30発が。
詠唱の1つも無しに、舞をロックオンした。

「――――くっ」

 それを、舞の太刀が受け止める。
切っ先で円を描くように操られし太刀は、舞を襲う魔法球全てを斬り捨てた。

「はあああっ!!」

 そのままの動きで、振りかぶる。
それを見た咲夜が冷笑しながら口を開いた。

「だめだよー、まいまい。“前ばっか見てちゃ”」

「っ!?」

 風を切る音が聞こえる。
咲夜の忠告に殺気を感じた舞が、右へと視線を向ける。

 そこからは。
先ほど舞が弾き飛ばした、咲夜の扇が迫ってきていた。

「何のために鎖で繋がってると思ってんのさ!!」

「うっ…!!」

 舞がガードの体勢を取ったところで。
飛来したタマちゃんが、咲夜の扇に衝突し爆発した。

「なっ!?」

 咲夜が驚きの声を上げる。

「助かりましたっ!!」

 小雪への礼を述べながら、攻撃から逃れた舞の体が深く沈む。

「“結結陽炎(ゆいむすびかげろう)”!!」

ボッ!!

 ゆらりと。舞の刀の刀身が“ぶれる”。
足元から潜り込むような軌道で、舞の太刀筋が咲夜を襲った。

「やぁっ!!」

キィィィィィィンッ

 その攻撃を、咲夜は残った右の扇で弾き返す。
そのまま空いた掌を、舞の方へと向けて叫んだ。

「ルー・ルーブラ・ラインマック・ウェンペティア!!」

「障壁っ!!」

 小雪の叫び声を聞き、攻撃呪文を唱えていたアゲハと渡辺が、
瞬時に障壁展開へと切り替える。舞と小雪も各々がガードの体勢に入った。

 直後。

 咲夜のClassA風系攻撃呪文・ウェンペティアがフィールド全体を襲った。






バチッ

 吹き荒れる砂塵の中、舞は太刀を構えたまま探知魔法を発動していた。
無論、先手をとり咲夜を仕留める為である。

 が。それは向こうも同じ考えだったらしい。

「ふうじんの舞い!!」

「―――っ!?」

「タマちゃん!!」

 背後からアタックを仕掛けた咲夜に、舞の体が一瞬硬直する。
しかし、その隙を突くより先に、小雪のタマちゃんが咲夜の元へと到達した。

 かに見えたが。

ズバァァァァンッ!!!!

「なっ!?」

 タマちゃんが爆発するよりも先に。

 真っ二つに割れた。

 否、斬られた。

ヒュン ヒュン ヒュン

 見れば、咲夜の周囲を先ほど弾き飛ばされていた扇が、回転しながら舞っている。
どうやらこれによって、タマちゃんは無効化されたらしい。

 それを小雪が目で追っていると。

「ゆきゆきさん、そこ“突風注意報”ね」

「え? きゃっ!?」

ズバァァァァァァンッ!!!!

『緩衝魔法の発動を確認。瑞穂坂学園・高峰小雪、退場』

 突如足元より発現した風の刃によって、襲われる。
小雪は成す術無く、その攻撃の餌食となった。

「高峰先輩っ!?」

「余所見は無しだよっ、まいまい!!!!!!」

「っ! “神雷(じんらい)”!!!!!」

「つじかぜの舞い!!」

ぱしっ

 宙を舞っていたもう1つの扇を左手に収める。衝撃は同時に奔った。

ズバァァァァァァァァァァァンッ!!!!

 互いの体が交錯する。

 雷と風。

 その一瞬の交わりが、結果をもたらした。






「ど、どっちが勝ったんだ?」

ざわざわ

 観客のざわめきは、フィールド内の選手の耳にも届いていた。
しかし、誰もそれには応えず、全ての視線は七賢人・次期当主の2人へと向いている。

 退場させられた小雪の姿は既にフィールドにはなく。
お互いに背を向けあう咲夜と舞。そしてそれを遠巻きに見据えるアゲハと渡辺だけが、
フィールドに残されている。砂塵はいつの間にやら晴れており、静寂だけが残っていた。

 その時。

ビ―――――――ッ

『緩衝魔法の発動を確認。舞浜学園・八乙女咲夜、静岡魔法学園・浅草舞、退場』

ざわっ

 一瞬のざわめき。

 そして――――――――。

わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

「うわぁ――――――っ!! 七賢人が2人とも脱落しちまったっ!?」

「うそだろ!? じゃあこの試合、どうなるんだよ!?」

「どうもこうも、七賢人の2人はここで終わりってことかよ!!」

 観客が次々に叫ぶ。
退場を宣言された2人の足元に、転移魔法陣が展開されたところで。

 それは起こった。

「異議ありっ!!」

っ!!

 その声に、ピタリと。観客のざわめきが収まる。
手を挙げてそのセリフを叫んだ咲夜は、左に握った扇を審判に差し出した。

『? こ、この扇が何なんだ?』

「マジック・アウト(魔法解除)」

キィィィィィィンッ

 眩い光を放ちながら、咲夜の手にする扇が“形を変えた”。

「なっ!?」

 横から様子を伺っていた舞の顔に、衝撃が走る。

 それは、見紛うことなく。

 金のボールへと変化していた。

ガシャンッ

「!?」

 遠くで大きな音が鳴る。皆が振り返った。

 そこには。
先ほどまで宙を彷徨っていた、咲夜の扇。その“本体”が地面に落下していた。

『モ、モニター班へ連絡!!
 八乙女咲夜選手の金のボールをキャッチしたタイミングと、
 ダメージを受けたタイミングを調べろ!!』

 咲夜がキャッチしたタイミングが先なら。
咲夜は決勝進出と共に、その時点でこの予選に関しては彼女のからの効力は及ばなくなる。
つまり、舞の退場もなくなるというわけだ。

 対して、咲夜がダメージを受けた方が先なら。
咲夜と舞は2人揃っての退場となることになる。

 しかし。

「その、“どちらでもない”よ、審判さん」

『ど、どういう意味だね』

「私は、“それを”同時に行った。
 ダメージはキャッチするのと同時に受けるようにした。
 言っている意味わかるでしょ? つまり―――」

『ザザ……モ、モニター班より連絡です!!
 結果なんですが………ど、同時ですっ!!
 コンマ1秒単位で…同時です!!』

ざわっ

 つまり。

『や、八乙女咲夜、決勝進出!! 浅草舞は退場!!』

「ひ、卑怯ですっ!!」

 舞が叫ぶ。対して咲夜は涼しい顔をしてこう言った。

「なーに言ってんの? フライングキャッチだよ?
 取った人間が勝ちに決まってんじゃん」

「っ!?」

 そのルールを引っ掻き回していた張本人が言っても、説得力が無い。
舞もアゲハも渡辺も。観客の皆も唖然としている。

 そして。

「おめでと、“君たち”は選ばれた」

 にやりと、咲夜は笑いながらアゲハと渡辺へ向き直る。

「…言っている意味が良く分かりませんが。選ばれた、とは?」

「またまた〜。分かってるくせにぃ〜」

 パタパタと手を振りながら、咲夜が笑う。

「最高で7人が決勝に上がれるデスマッチ。空席が6つ空いた状態で、残りは2人しかいないんだよ?
 後は見なくても結果は分かるようなものでしょ?」

「………そう、思い通りにいくと思っているのか?」

 咲夜の言葉に、渡辺が苦い顔でそう告げる。しかし、咲夜はその返しに一層笑みを深めた。

「じゃあ、戦ってどちらかが消える? そんなことしないよね、だってこれは個人競技じゃない。
 チーム戦だもん。自分の勝手な都合で、勝てる試合をみすみす逃したりはしないよね?」

「ぐ…」

 渡辺が、苦虫を噛み潰したかのような顔を作る。

 咲夜の言う通り、もはや結果は決まっていた。

「…渡辺さん」

 アゲハが絞り出すような声色で、隣に立つ京帝選手に話しかける。

「これは…。もはや私たちには金のボールをキャッチするしか方法は…」

 咲夜は既に金のボールを手に予選を突破している。
感情に任せて魔法戦を挑むようなことはできない。仮に、できたとしても。しない。できない。
咲夜の言う通り、これはチーム戦だ。勝てる試合を棒に振る行為は、選手としてあるまじき行為だ。

 2人は、悔しげな顔を隠そうともせずに、お互いのワンドに手を掛けた。
それを見届けて。もう用は済んだとばかりに、咲夜が踵を返して歩き始める。
出口へと歩きながら、咲夜は後ろ手に2人が飛翔する音を聞いた。

 クスリと、笑いが漏れる。

「ほらね、“3人”だったでしょ?」


 彼女の声は、誰に届くでもなく宙へと舞い、消えた。



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