「………あやつ、本当にやりおった」

 伊吹が呻くようにそう呟く。
その横では、瑞穂坂の面々が文字通り絶句していた。

 自ら3人ルールを決め、それを実行する。

 自身と同格である七賢人・次期当主と相対しながらも、他の選手への追撃を忘れない。

 同士討ちとゲームクリア、コンマ1秒すら狂わない精密なゲームコントロール。

 人間業ではない。
雄真によって緩みかけていた七賢人像が、再び改められた結果となった。

 結局。
瑞穂坂代表である藍本静香と高峰小雪も、両者共に予選にて敗退。



 7人が決勝に進めるフライングキャッチで、予選を突破できたのは以下の3人である。

舞浜学園、八乙女咲夜。
名古屋魔法高校、黒川アゲハ。
京帝高校、渡辺和正。

 長らく続いてきた七校対抗魔法大会。
その中でも、この予選突破数の少なさは、前例が無い。
そしてなにより、七賢人次期当主・浅草舞の予選脱落。

 今大会のフライングキャッチは、誰しもが想像し得なかった異常な事態となった。



○現在の学校順位

5位:仙台魔法学園(宮城)30P

5位:東京都立魔法学園(東京)30P

1位:瑞穂坂学園(神奈川)100P

5位:舞浜学園(千葉)30P

3位:静岡魔法学園(静岡)50P

4位:名古屋魔法高校(愛知)50P

1位:京帝高校(京都)100P




 ――――そして遂に。王者・京帝が、瑞穂坂に並んだ。






Happiness story「小日向雄真と七校対抗魔法大会」

Magic24.波乱の3日目、終わる。






「………さて、行くとするか」

 日も落ち。
既にライトによって光を得ている観客席にて。
伊吹はゆっくりとその腰を上げた。

「…式守君」

 それを見た幸平が、声をかける。

「正直、負けた人間がこう言ってしまうのはまずい気がするのだが…」

「良い、言わずとも分かっておる」

 若干、話づらそうに言葉を紡ぐ幸平を、伊吹が遮った。

「安心しろ。私は負けん」



≪シングルス 1回戦(18:00〜20:00)≫
備考:昨年度優勝校の京手高校は、1回戦シード。

Aブロック
第1試合
 乃木鉄平(仙台) 対 三戸部三郎(東京)
第2試合
 菅野宮重次(静岡) 対 蔵屋敷美紀(舞浜)

Bブロック
第3試合
 式守伊吹(瑞穂坂) 対 黒川アゲハ(名古屋)
シード校
 神威空(京帝)

 ――――――本日最後の種目が幕を開けた。






『選手入場です』

 モニターから流れる音声を聞きながら、
鈴莉と陽菜は雄真が眠り込んでいるベッドの横に座っていた。

「…小雪ちゃん、負けちゃいましたね」

「そうね」

 鈴莉は雄真から目を離さず、そう告げた。

「…心配、ですよね。やっぱ」

「そりゃそうよ」

 鈴莉はため息を吐きながらそう答えた。

 雄真は、健闘した。
対・七賢人戦相手にこれほど善戦できた魔法使いなど、そうはいない。

 同じ七賢人を除けば、雄真。
そして、九条陽菜含む瑞穂坂の英雄たち「フィギュアズ」だけだろう。

 よくやった。しかし、やりすぎた。まさかここまで魔力を酷使するとは。

 普通の魔法使いならば、ここまで来る前に魔力が尽きて終わる。
しかし、雄真はそうならない。なぜなら、“魔力が尽きた”わけではないから。

 対・新橋恭介戦と同じく、自身が持て余していた領域まで踏み込んだ。
それに体がついて行っていない。膨大過ぎる魔力は、自身にも非をもたらす。

 完全に覚醒し、操れるようになれば。また扱いも変わってくるのかもしれない。
ともかく現段階では、雄真の体は無茶をする毎に魔力が活性化するようになっているらしい。

 それはつまり。
毎度こういった状態になるかもしれないということで。

「はぁ…。憂鬱だわ。まさか魔法使いの道を再び歩ませることが、
 こんな事態を生んじゃうなんてね…」

 髪を掻き揚げながら、鈴莉が呻く。

「鈴莉さんのせいじゃないですよ、これは」

「いえ、私よ。でも今は、責任の有無なんてどうでもいい。
 問題なのは、雄真くん症状を見た、ゆずはの反応」

「…ああ、確かに。なんか不安を煽るようなセリフでしたね。
 近い症状を知ってるから、文献を漁ってみるとか」

「…ええ」

 鈴莉は、眠っている我が子の顔を覗き込みながら呟いた。

「雄真くん。貴方の体に、一体なにが起こってるの…?」






わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 会場では、滞りなく試合が進行していた。

 シングルスは言うまでもなく、参加人数が少ない。
その為、A・Bブロックの試合はフライングキャッチと同じくC会場で行われていた。

 この競技に参加する七賢人は3人。乃木鉄平・神威空・式守伊吹である。
しかし、空はシード校の選手ということで1回戦は不戦勝。
そして鉄平はAブロック、伊吹はBブロックと完全に分かれている。

 その為、試合結果は火を見るまでもなく明らかだった。

 Aブロック第1試合の勝者は、当然乃木鉄平。
唯一予測がつかなかった第2試合は、舞浜・蔵屋敷美紀が勝利した。

 そして、本日最後の試合。式守伊吹vs黒川アゲハの試合も終盤を迎えていた。

 試合は完全なるワンサイドゲーム。
フライングキャッチではこれといった活躍はなかったものの。
(それは単に七賢人次期当主2人と小雪が好き放題暴れまわったからだが)
咲夜の猛撃の嵐を掻い潜るのは、並大抵の魔法使いではできない。

 よって防戦一方の試合でありながら、アゲハの魔力は相当量を失われてしまっていた。
そして、この七賢人戦である。もはや悲運としか言いようがない。

 だからこそ。諦めず最後まで向かってくる姿勢に、伊吹は感心していた。

「健闘した。先刻のフライングキャッチから間もない今。
 この私に対し、ここまでやれるとは。賛辞を贈ろう」

「はぁ……はぁ…くっ」

 伊吹が涼しげにそう話すのに対し、アゲハは肩で息をしながら唇をかんだ。

「だが、ここまでだ。私も瑞穂坂代表としての義務がある。
 それに。そなたの様な魔法使いに、同情は失礼だからな」

 伊吹が手を掲げるのと同時に、空で待機していた魔法陣が唸りをあげる。
アゲハが、震える手でワンドである箒を構えた。

 それを見て、伊吹がほほ笑む。

「見事」

 手を振り下ろす。

 試合は、拍手と歓声と共に幕を閉じた。






Aブロック
第1試合
 乃木鉄平(仙台) ○ 対 × 三戸部三郎(東京)
第2試合
 菅野宮重次(静岡) × 対 ○ 蔵屋敷美紀(舞浜)

 Aブロック第2回戦は、仙台 対 舞浜に決定。

Bブロック
第3試合
 式守伊吹(瑞穂坂) ○ 対 × 黒川アゲハ(名古屋)
シード校
 神威空(京帝)

 Bブロック第2回戦は、瑞穂坂 対 京帝に決定。


○現在の学校順位
※シングルスのみ、勝ち点は20P。

2位:仙台魔法学園(宮城)50P

7位:東京都立魔法学園(東京)30P

1位:瑞穂坂学園(神奈川)120P

2位:舞浜学園(千葉)50P

2位:静岡魔法学園(静岡)50P

2位:名古屋魔法高校(愛知)50P

1位:京帝高校(京都)120P

 1位争いは瑞穂坂と京帝で変わらず。
2位には何と同率で仙台・舞浜・静岡・名古屋と4校がついた。
そして20Pの差を空けて、7位に東京。


 熱冷めやらぬまま、本日の試合は全て終了。会場はお開きという運びになった。






「失礼する」

「あら、みんなお疲れ様」

 医務室の扉から、伊吹を先頭に次々と瑞穂坂の面々が入室してくる。
それを鈴莉と陽菜は、雄真の寝ているベッドの横から迎えた。

「伊吹さん、貴重な勝利をありがとう。小雪ちゃんも静香さんも。
 負けはしたけど、瑞穂坂の名に恥じない立派な戦いだったわ」

「ありがとうございます」

「ふん」

「………」

 鈴莉の賞賛に、きちんと答えたのは静香だけ。
伊吹は鼻を鳴らし、小雪は無言で頭を下げることで応えた。

「して、雄真の容態は」

「変化なしよ」

 鈴莉が陽菜へと目を向ける。
それに頷いた陽菜が、鈴莉の言葉を引き継ぐように口を開いた。

「全身を、魔力は循環している。これは間違いないわ。
 ただ、量が限りなく少ない。生命維持をする最低ラインね」

「ふぅ―――。完全にあの時と同じ症状というわけか」

 伊吹の言葉に、陽菜が頷く。

「あ、あの…雄真くん、大丈夫なんですよね?」

 後ろから、春姫がおそるおそる尋ねた。
それに鈴莉は笑顔で答える。

「ええ、ゆずはも言っていたけど命に別状はないわ。
 ただ、今は魔力を回復するために寝込んでいるだけ」

「そうですか…」

 春姫が幾分かほっとした表情を作る。
それに対して鈴莉は、申し訳無さそうな顔をしながら告げた。

「でもやっぱり、このままでは明日の試合に間に合いそうもないわね。
 ダブルスは今日負けたから出番は無いけど、問題はバルーンクラッシュの方よ」

「選手出場に“例外は無い”。このまま目覚めなければ、明日は棄権をせざるを得ない」

 鈴莉に続いて陽菜もそう告げる。
その話題に、瑞穂坂の面々全員の顔が曇った。

「まぁ…後輩が倒れておきながら不謹慎な話題にはなるけど…。
 避けられない課題、だからね」

 幸平が頬を掻きながら他の面々を見渡す。
そして、最後に伊吹を見た。伊吹は目を逸らしながら渋々口を開く。

「…分かっておる。先のゆずはの意見、間違っておるわけではない。
 あやつの言っていたことは正しい。瑞穂坂が勝利するためにどうするべきか、考えることは重要だ」

「バルーンクラッシュ、私と春姫の2人で出場することはできないの?
 不戦敗になるくらいなら、1人分のハンデ背負ってでも出場した方がマシよ」

 杏璃がそう意見するも、静香が首を横に振った。

「だめよ。バルーンクラッシュは3人出場が大前提。
 1人でも欠けるなら、試合への出場権は失われる」

「…そんな。じゃあ、雄真が目を覚ます以外に方法ないじゃない!!」

「そうなる。後は他の競技で、僕たちが勝ち続けるしかない。
 これ以上の失点を防ぐためには、ね」

 杏璃の叫びに、幸平が冷静にそう告げる。痛いほどの沈黙が、医務室へと舞い降りた。

「………結局、勝ち上がれってことね」

 小百合がぽつりと呟く。伊吹がそれに頷いた。

「それしかあるまい。この状況。誰も雄真は責められまいよ。
 ならば我らが勝つ、それ以外にない」

「…そうですね。雄真さんが目を覚ました時、優勝の報告ができるようにせねばなりません」

 小雪が、尚も眠ったままの雄真に視点を合わせながら更に言葉を繋いだ。

「雄真さんの場合、優勝できなかったのは自分のせいと思い込んでしまうでしょうから」






「聞いているのですか、お兄様!!」

 宿舎として七校選手に利用されているホテルのロビーにて。
信は本日何度目か分からない叱責に、ウンザリする様に片耳を塞いだ。

「なぜあれ程のことをする必要があったのですっ!! 明らかにやり過ぎです!!!
 “アエギル”に“ファイヤー・アーマー”を出すなど!!」

「そう喚くなよ、空」

「お兄様が反省しないからでしょう!? 雄真さんは魔力の使い過ぎでお倒れになったのですよ!!」

「そりゃ倒れるだろ、あんなに魔力を使ったんだからな。
 あれでピンピンしてるようなら、あいつも七賢人に入ったらいい」

「お、に、い、さ、まぁ〜!!」

 あしらう様なセリフの連続に、いよいよ空の堪忍袋の紐が切れたようだ。
体全体をぷるぷるさせながら、空は信に掴みかかった。

「ちょ、ちょっと…」

「空さん、落ち着いて!!」

 神威兄妹がここで戦闘を始めようものなら、ホテルが倒壊してしまう。
周りで清聴していた京帝の面々が、慌てて止めに入った。

「雄真さんに、謝ってくださいっ!!」

「そ、空さんっ、暴れないでっ」

「冷静になれ、神威さん!! こんな公共の場で!!」

「貴方たちは、見てて何も思わなかったの!?
 あれじゃ雄真さんが―――――」


「憐れ過ぎて、見ていられなかったもんぁ」


「――――っ!?」

 思いもよらぬ場所から、空の言葉に合いの手が入る。
信・空を中心として集合していた京帝選手全員が、そちらの方へと顔を向けた。

「竜也か」

 皆が驚いた表情をしている中。
唯一顔色1つ変えなかった信が、冷静に訪問者の名を発した。

「どうも、信さん。良い戦いでした。
 必死になるあいつの顔が、今でも脳裏を過る。
 くくく…いくらやったって無駄だってのによ」

「っ!! あな―――」

「侮辱はやめろ。あいつは堂々と戦い、散った。
 その様を汚す真似は、俺が許さん」

 竜也の物言いに喰って掛かろうとした空を、信が手で制しながら口を開く。
その言葉に、竜也はわけが分からないとばかりに両手をひらひらとさせた。

「庇いますね。あんな愚民に何を肩入れするんです?」

「なっ!? ぐみっ!?」

 竜也のあんまりなセリフに、空は思わず言葉を詰まらせ、目を白黒させている。

「竜也、勘違いはするなよ。俺たち七賢人は強い権力・地位を持ちはするが…。
 あくまで民がいてこその力だ。虐げる為のものではない」

「顕示してこその力ですよ、信さん。持て余すだけでは意味を成さない。
 第一同じ民にしても、あそこまで低能な男は配下には―――」

ぱんっ

「!?」

 乾いた音が、ロビーに響く。その場にいた誰もが凍りついた。

 空が。

 竜也の頬をひっぱたいたのだ。

「雄真さんに、詫びなさい。貴方の態度・言動は、目に余る」

 美しく、流れるような黒髪に。サファイア色の瞳が映える。
そこには、憤怒とも言える激情が渦巻いていることが、誰の目にも分かった。

「………」

 叩かれたまま。見当違いの方向を向いた顔はそのままに。
竜也の目がぎょろりと空を捉えた。口角が吊り上る。

「相も変わらず、元気な女だな」

「やめておけ」

ぴくっ

 僅かに動いた竜也の指が、信の制止によって動きを止める。

「お前ら2人、揃って出場停止になりたいのか?
 これ以上事を荒げようとするのならば、相応の対応を取らざるを得ないのだが」

「だ、だって…お兄さ―――」

「黙れ。手を出した時点で、悪いのはお前だ」

「っ」

 反論しようとした空を黙らせ、信が竜也へと向き直る。

「不肖の妹が失礼をした。失礼ついでで恐縮だが、とっとと去ってもらおう。
 今は京帝の作戦会議中だったのでな」

「………はっ」

 竜也は唾を吐き捨てると、くるりと踵を返した。

「…今回の件は、無かったことにしておきます」

「感謝する」

 背中越しに竜也はそれだけ告げ、鼻を鳴らしてその場を去った。

「お、お兄様…その……」

「ん?」

 竜也が去ったことを確認し、空が恐る恐る信へと声をかける。

「さ、先ほどはすみませんでした…。その…咄嗟に……手が…」

「はぁ―――――」

 空の言葉に、信が深くため息を付く。それで場の空気が弛緩した。
周りで固まりっぱなしだった京帝メンバーも、硬直から解けたようだ。

「お前らも、すまなかったな。不毛な争いを見せた」

「ほんとだ、危うく戦争になるかと思ったぞ」

「お前たちが暴れたら今夜は野宿になるんだからな。
 このホテルは対魔法呪文の設備がない」

「はは、違いない」

 同学年、星城聡と渡辺和正の軽口に、信が苦笑いを漏らす。

「空、さっきの行動は七賢人以前に、淑女としてあるまじき行為だ」

「うっ!? …すみません」

 信の言葉に、見えない衝撃を受けた空は軽く後ろへとたじろぐ。

「だが、あいつの“友”としてはこれ以上ない働きをしてくれた。
 お前がやってなければ、俺がしていたかもしれん。平手ではなく、拳でな。
 そしたら今頃、聡と和正が言うように戦争勃発だ」

「…お兄様」

 信のフォローに、空がぎこちなく笑う。
それで事態が集結したとみた、同じく3年の桜井誠が口を開いた。

「それにしても…小日向雄真とやら。相当な使い手だったな。
 信、お前が“伝家の宝刀”を抜くとは思わなかったよ」

「そうか?」

「火系攻撃呪文・ClassA『ファイナス』。
 “その開発者の一族たる”お前は、その技を使いたがらなかったろ。
 ある意味で言えば、ClassS『アエギル』より“反則技”だからな、それは」

 意味ありげな視線で、桜井が告げる。それを星城が受け取った。

「…確かに。信、お前は『ファイナス』を“詠唱無し”で行える。
 自身の始動キーに“組み込んでいる”くらいだからな。
 去年の乃木鉄平戦でも、これだけは使わなかったろ」

「はは、良く見て分析するやつらだ」

 信は自身のチームメイトに頼もしさを覚えながら口を開いた。

「まぁ、普段は敬遠してはいるな。お前らの言う通り、反則技だ。だが…」

 信は一度言葉を切り、再び口を開いた。

「あいつには…何か……感じるものがあったんだよ。
 出し惜しみは、できないと思った。あの時の感情が何なのか、俺にも分からん」

「それが、終盤の“ファイヤー・アーマー”発現。
 そして『ファイナス』流星群の引き金となったってか。
 小日向雄真が不憫すぎるな…」

 渡辺が苦笑しながらそう話す。

 信はチームメイトと話しつつも、自身に根付いた感情は出さなかった。



 分からないはずはない。

 あの時。雄真に抱いた感情。

 “恐怖”とも呼べる、その感情は。



“あいつの牙は、いずれ俺たち七賢人の喉元にも届きうるだろう”



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