わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 歓声が鳴り響く中で、瑞穂坂選手の面々はみな選手控室に篭っていた。
バルーンクラッシュは、その特性上転移魔法によって選手は一度会場から消える。
よって。会場の人間も肉眼で観戦するのではなく、フィールド中央のスクリーンにて動向を確認することになる。

 ならば。関係者以外立ち入り禁止の選手控室にて、ゆっくりと専用のモニターで観戦した方がいいだろう。
という結論に達した瑞穂坂選手一同は、雄真を中心としてモニター前に集まっていた。

 尚、この試合の後には雄真たちの試合が控えているため。既に雄真は魔法服を身につけている。

「そういや、吉田さんや会長たちの試合を見るのは初めてだな」

 決戦間近の映像を見据えながら、雄真が口を開いた。それに伊吹が頷く。

「そうか、そうだったな。昨日までなら、そなたたちは別の会場で試合をしていたのだから当たり前か。
 4日目からは全体の試合数が減る為、1つの大会場にて集約されるのだ。それがこのC会場というわけだな」

「ん。AとB以外に会場があるってのも気づかなかったよ」

『選手のみなさんには、ちゃんと会場案内図を含むパンフレットが渡されているんですけどね』

「…さて、なんのことやら」

 クリスの厳しい指摘にすっ呆けながら、雄真は大きな欠伸をした。

「余裕ですね、雄真さん」

「っ!? いえ、そういうわけでは」

 すっと背後から掛けられた小雪の声に、雄真がびくっと肩を震わせる。

「あまりからかってやるな、小雪。眠気が消えないのは、体に魔力が十分戻っていない証だ。
 そなた、本当にこの後の試合は大丈夫なのか?」

「愚問だぜ、伊吹」

 伊吹の心配をありがたいと思いつつも、雄真はすっぱりと切り捨てた。

「俺は瑞穂坂の代表として、ここに来たんだ。棄権なんてみっともない真似できるかよ」

 尚も口を開こうと伊吹が顔をしかめたところで。

『バルーンクラッシュ。第3回戦第1試合。
 東京都立魔法高校、目黒竜也・藤崎友則・大金利通 対
 瑞穂坂学園、藍本静香・東山幸平・吉田小百合の試合を開始します』

 試合開始を告げるアナウンスが鳴り響いた。






Happiness story「小日向雄真と七校対抗魔法大会」

Magic26.森の中の奇襲






≪バルーンクラッシュ 3回戦≫
第1試合
 藍本静香・東山幸平・吉田小百合(瑞穂坂) 対 目黒竜也・藤原友則・大金利通(東京)
第2試合
神坂春姫・小日向雄真・柊杏璃(瑞穂坂) 対  三井良平・桜井誠・向井正春(京帝)






『両チーム、フィールドの選択を』

 審判がフィールド中央にて相対する、選手一同に向かってそう告げる。

「森林」

「森林でお願いします」

 前者は竜也。後者は静香から発せられた声だ。

『フィールドは森林に決定』

 審判の声に、観客が沸く。そんな中、竜也が目の前に立つ瑞穂坂3人に向けてにやりと口角を歪めた。

「森林、ね。アンタらが考えてることなんて容易に想像が付くが……。無駄な足掻きは見苦しいだけだぜ」

「それはどうかな」

「あん?」

 返事が返ってくるとは思わなかったのだろう。竜也は声の発信源へと目を向けた。

「あまり油断はしない方がいい。足元を掬われるよ。東京都立魔法高校1年・目黒竜也君」

 幸平は竜也の目線を物ともせずに、そう告げる。
竜也の両サイドに立っていた、藤崎と大金が「何を馬鹿な事を」と嗤った。
それに反論しようとした小百合を、静香がそっと手で制する。

「……藍本会長」

「……」

 「どうして止めるんだ」と、小百合が非難めいた目で静香を見やる。
しかし、静香の視線は小百合ではなく、前を向いたまま固定されていた。
その視線を辿って、小百合はなぜ自分が止められたのかを悟った。

 竜也の顔から、笑みが消えていた。

「先輩」

 幸平に、ではない。

 竜也は、両サイドに控える3年生2人に声をかけた。

「折角の好フィールドですし、“隠し事”は無しでいきましょう」

 その発言に、藤崎と大金はぴくりと眉を吊り上げる。

「いいのか? “あれ”は小日向雄真を潰すために、決勝までは使わないって話だったが」

「構いませんよ」

 そう告げて、竜也は踵を返した。転移魔法が発動する場所へと、歩き始める。藤崎・大金もその後に続いた。

「先の試合を見てましたが、小日向雄真に警戒すべき点は特にありませんでした。
 あんなちゃちな“火遊び”は、まったくもって話になりません」

「なっ!?」

 声に出したのは小百合だけだったが、静香と幸平もその発言にはイラッときた。

「それに―――」

 背を向けたまま、顔だけ振り返った竜也は。

「あのネジの抜けた馬鹿共に、現実ってやつを見せてやりましょう」

 そう、付け加えた。






 転移魔法が発動するまでは、各選手に張り付く魔法式の小型カメラは作動しない。
よって、今のフィールド中央にて行われたやり取りは、本人たちと審判を除けば誰の耳にも入っていない。

 それでも。

 信は、竜也が何を言っているのかについてはおおよそ当たりを付けていた。

「何やら険悪な様子でしたね」

 隣でそう告げる空に、信は無言で頷いた。

 この試合、信は結果を見るまでもなく分かっていた。

 確実に、東京都立魔法高校に軍配が上がる。

 瑞穂坂の面々は、去年とは随分とメンバーを替えてきている。
大半が2年生というオーダーに驚きはしたが、これまでの試合経過を見る限りでは妥当な判断だったと言える。

 そして、今フィールドに立つ3人。2人は去年も七校対抗魔法大会に参戦した経験者。
そして、もう1人は初出場のはずだが、前の試合を見る限りでは見事な身体強化を操っているのを信は見ていた。

 おそらく、雄真率いるチームよりもこちらが本命なのだろう。信はこのように考えていた。

 だからこそ。

(…くじ運が悪かったな。間違いなく、決勝までは残れる実力を持っているのだが)

 竜也の表情からほぼ手加減は無いなと捉えた信は、隣の空に聞こえぬようそっとため息を付いた。






ビ―――――――ッ!!!!

 転移魔法が発動し、それぞれのチームが森林へと飛ばされた直後。開始ブザーが森林全体に響き渡った。

「さて、始めますか」

 竜也はぽきりと首の骨を鳴らしつつ、そう告げる。
藤崎がそれに頷いて、探知魔法を発動した。

「見つけた」

 発動して間もなく、藤崎が告げる。

「早い。流石です」

 そう言いながら、竜也が藤崎の肩へと手を置く。大金もそれに倣って反対側の肩に手を掛けた。

キィィィィィィィィィンッ

 それを確認して、藤崎が第2の魔法を発動する。

「…向こうも探知魔法を使っているようだな」

 大金が目を閉じたままそう告げた。
藤崎が行使しているのは魔法イメージの共有化。
今はまさに探知魔法にて引っかかっている瑞穂坂チームの位置情報を共有していた。

「おそらく、こちらの位置は掴んだでしょう。じっくり近寄ってくるはずです」

 竜也の言葉に、藤崎と大金が頷く。

「射程内に入ってしまえば、こちらの勝ちです。大金先輩、準備だけお願いします」






「見つけた、北西約2km」

 幸平がその方向を向きながら、告げる。

「様子は?」

「動きは無いね。こちらと同じく探知魔法で伺ってる感じだ」

 静香の問いに、幸平が即答する。

「七賢人とて、お互いが視認できない位置では手も足もでないということでは?
 まずは距離を縮めて様子を伺いましょう」

 小百合の意見に、静香が頷いた。

「そうね。正面突破では、十中八九負けるわ。相手の隙をうまく突く必要がある。
 こちらから動き、奇襲をかけられるポジションを探す。これがベスト」

 静香のこれからの方向性に、賛成の意を示した2人は、ゆっくりと足を動かした。






 七賢人有するチームが出場しているにも関わらず。
この試合は先までとは違い、思いの外静かな開戦となった。

 東京都立魔法高校の面々には、まったくといっていいほど動きが無い。
藤崎が探知魔法を展開するも、相手の動向を確認したのみでそれ以上の反応は見られない。

 そうとも知らず、対する瑞穂坂陣営は突然の奇襲に備えつつ、徐々に徐々に歩を進めている。
変わり映えのしない試合展開。いや、瑞穂坂の面々がゆっくりと前進しているだけで、展開らしい展開など無い。

「…まだ戦わないのかよ」

 観客席からぼそりと呟かれたその一言は、他の観衆の気持ち全てを代弁しているかのようだった。
そうした沈黙の時間が20分ほど経過した頃。

 事態は、一気に急変した。







ズンッ!!

 突如。

 瑞穂坂の3人は、不可視の重圧によって成す術無く崩れ落ちた。

「っ!? …こほっ! こ、これは…重力魔法?」

 圧迫する感覚に咽ながら、静香が喋る。
気付いたときには、もう遅かった。自身の体が、思うように動かない。
静香・幸平・小百合の3人は、誰1人助かることなくまとめて捕えられてしまった。

「くっ!!」

 力任せで何とかなる類の魔法ではない。
また。体に圧し掛かる重圧により、魔力が上手く練れない。
咄嗟に対抗魔法を発動しようとした幸平だったが、不完全なまま術式は消え去った。

「や、やられたわね」

 幸平の隣で地面に押さえつけられている静香が呻く。
その少し先では、同じような体勢で小百合が倒れていた。

「見事に一網打尽よ。相当な使い手ね。目黒竜也かしら?」

「……いや、先ほど正面から受けた彼の魔力とは違うな。おそらく、残り2人のどちらかだろう」

「でも、まだお互いを視認できない距離からの遠距離魔法よ?
 こうもピンポイントに狙い撃ちできるものなのかしら」

「並みの使い手じゃない。それか…。
 こちらの動向を精密に把握できる魔法を、別の人間が並行して使用しているか、だね」

「……後者の可能性が高いわね。だからこそ、目黒竜也はその2人をメンバーに選んだ」

「うん。その考え方が妥当だと思うよ。良い相性だ」

「……動揺とか、しないんですね」

 罠に掛かっているにも関わらず、この落ち着きっぷり。
流石は瑞穂坂学園生徒会魔法執行部のツートップということなのだろうか。
小百合は、まだまだ修行が足りないと心から思った。
(もっとも。パニックにならずそういった考え方ができる時点で、小百合も十分に次第点なわけだが)

「……それで、どうされますか?」

 気を取り直した小百合が、先輩2人に問う。

「吉田君、属性変化させた魔力は放出できそうかい?」

「魔法として展開するのではなく、魔力としてただ放つだけなら可能です」

「十分だよ。君の得意属性は光。ちょっとでも放出できるなら、この魔法は無に帰するからね」

「あぁ……そうね」

 重力魔法は、闇属性の魔法。
闇は特殊な属性で、光属性の魔力が少しでも加わってしまうと瞬時に効力を失う。
これは光と闇、それぞれ正反対の特質を持つ属性が反発しあい、無属性に戻ってしまうからである。

 幸平の発言に、静香が納得したとばかりに頷く素振りを見せた。
(実際は上からの重圧により、頭は動かせない)

「では、さっそく……」

「ちょっと待った」

 小百合が魔力を解放しようとしたところで、幸平が待ったをかける。

「どうされたんですか?」

「……いや、どうせならこれを奇襲として利用しよう」

「どういうこと?」

 幸平の真意が掴めず、静香が問いかける。

「あくまで仮説の域をでないが、相手にこちらの状況を常に把握できる魔法使いがいたとする。
 そうなると、こちらはどこに隠れようが瞬時に見つかってしまうだろう」

「そうね。そういった魔法使いがいないと、この重力魔法は説明がつかないわ」

「そうなると、ここで解除しても奇襲はできない。
 むしろ、こちらに対抗手段があると相手に知らせるだけだ。
 ならば、このまま坐して待つ方がいい」

「坐すっていうより、ひれ伏している感じだけどね」

「それは言わないお約束だよ、静香」

「うふふ。ごめんなさい」

「……はぁ」

 ここまで余裕でいられると、多少なりとも焦っている自分が恥ずかしくなってくる。
小百合は、やるせない気持ちをため息に変えて吐き出した。

「相手は、まだ僕たちがこの魔法を解けることを知らない。
 おそらく油断してくるだろう。こちらの射程に入った瞬間、仕留める」

「……仮に仕掛けてくるのが目黒竜也だった場合はどうされるのです?」

「問題ないだろう?」

 小百合の懸念を、幸平は一蹴した。

「君のフル・アーマーならば、1人では倒せないまでも問題なくこなせるはずだ」

 予想以上の信頼に、小百合は苦笑するほか無かった。






「では、行ってきます」

 大金の術式が瑞穂坂陣営を束縛したところを“視て”、竜也がそう口にした。

「ああ、位置は大丈夫だな?」

「貴方の“認識同期”のおかげで、誤差は1mmたりともありません。
 転移してしまえば一瞬です。しかし、念のためバルーンには気を配っておいて下さいよ?」

 竜也が押した念に、藤崎はにやりと笑いながら頷いた。

「心配すんな。あっちのバルーンは、藍本静香ってやつだ。標的を誤るなよ」

「了解です」

 そこまで告げると、竜也は右手を地面へと“沈めた”。

ずぶりっ

 何の抵抗もなく、竜也の右腕が地面へと沈んでいく。
それに続いて。足も膝も徐々に地面へと潜りこんでいく。

「藤崎の探知魔法と認識同期による、視認できない位置からの俺の重力魔法コンボ。
 そして、七賢人・目黒竜也による影からの転移魔法での奇襲。嵌っちまえば一瞬だ」

 竜也が地面へと消えていく間に、大金がそう呟く。
そのセリフを言い終わった頃には、竜也の姿は既に2人の眼前から消えていた。

 そして、その次の瞬間には。

ドォォォォォンッ!!!!



 木々により死角となる遥か向こう側で。巨大な音が鳴り響いていた。



会社の研修と言う名の合宿に行ってきます。
次回の更新は、早くても12月になりますので、ご承知おき下さい。
                      Leica

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