パァァァァァァァンッ
払いのけられた手を。竜也は信じられないという様な目で見つめていた。
大金の重力魔法により、瑞穂坂陣営は完全に束縛されていた。
それは藤崎による探知魔法、そしてその認識同期によって、竜也自身その目で確認している。
そこへ、自身の転移魔法による死角からの奇襲。
転移した瞬間には、勝利を確信していた。
3人はそれぞれの場所で地面にひれ伏していたし、音もなく一撃で終わらせられる。
はずだった。
「っ」
ぎろりと目の前に立ちはだかる人物を見据える。
吉田小百合。瑞穂坂学園2年。
標的の中では、竜也から一番離れた場所で捕らわれていたはず。
にも関わらず、小百合は竜也の転移魔法行使で生じる、わずかな魔力の揺らぎに反応した。
一瞬で束縛を解き、間合いを詰め、バルーンを破壊すべく伸ばした竜也の手を払いのけた。
「――――貴様、一体どうやって」
心の底から出た竜也の疑問に対して。
「先輩からの忠告を、聞かないからよ」
答えにならないセリフで応えた小百合の脚が、竜也の無防備な脇腹を捉えた。
ドォォォォォォォォォォォンッ!!
巨大な音が、鳴り響いた。
Happiness story「小日向雄真と七校対抗魔法大会」
Magic27.“はずだった”
めきめきめきっ
大木が音を立てて、ゆっくりと地面へと倒れた。
身体強化によって想像を絶する威力を得た小百合の脚は、竜也を容易に吹き飛ばしていた。
常人なら、一撃で戦闘不能に陥るであろう一撃。
常人なら、間違いなく緩衝魔法が発動して然るべき一撃。
しかし、試合アナウンスは響かなかった。
それを予想していた小百合は、特に驚いた表情を作ることもなく。
ゆっくりと自身の掌を地面へと置き、光属性を纏った魔力を放出した。
静香と幸平が立ち上がる。
「ふぅ。久しぶりに呼吸ができた気がするわ」
伸びをしながら静香がそう軽口をたたく。
「本当だ。にしても、流石は吉田さんだね。あのタイミングで間に合っちゃうんだから」
「そうよそうよ。見事よね、流暢な身体強化の発現。どう? 貴方生徒会に入らない?」
「あ、あはは。私はそんなキャラじゃないので」
相も変わらずマイペースな2人に、小百合は苦笑しつつその申し出を断った。
「にしても…。来たのは目黒竜也君だったか」
吹き飛ばされた方角を見据えながら、幸平が表情を引き締めつつそうぼやく。
「ええ。転移魔法……。フィールドを森林に指定したのは、どうやら失敗だったみたいね」
「そのようだね。森林は、死角が多すぎるから」
そこまで言って、幸平は言葉を切った。
障壁を展開する幸平に続き、静香も上乗せするかのように障壁を展開する。
突如静香を襲った魔法球は、2人が発現した計7枚の障壁によって全て遮られた。
それを確認することもなく。
小百合は魔法球の軌跡を辿り、発信源へと駆ける。
その場所へは、身体強化によって速度を増した足で、直ぐに辿り着いた。
突進して来る小百合を見て、竜也は肩に付いた草を払った。
「来たのはお前1人か」
「はぁぁっ!!」
小百合が空中で右拳を振りかぶる。
それを横目で捉えながら、竜也はおもむろに左の掌を小百合へと向けた。
「お転婆な女だな」
ぐんっ
「!?」
飛び掛かっていた小百合の体の速度が、突如“増した”。
それ以外に、表現のしようがない。まるで、見えない何かに引き寄せられるかのように。
小百合の体は、竜也が突き出している掌に吸い寄せられた。
「くっ!!」
正面で待ち構える竜也の右手が、握り拳を作る。明らかに、カウンターの構えだ。
まずい、と。小百合は瞬時に判断した。
殴りかかろうとしていた体勢を、わざと崩す。
ぐらりと体は傾くが、それでも竜也へと吸い込まれる感覚は消えない。
この時点で。小百合は、竜也の行使する魔法が「引力」に類するものであると理解した。
小百合の体と竜也の掌が触れ合う瞬間、竜也の右拳が小百合を狙う。
小百合は自身を吸い寄せた竜也の左腕を掴み、それを軸に体を回転させた。
右拳が、対象を失い空を切る。
竜也の顔に驚きの表情が浮かんだ時には、小百合の体は逆立ちをする様な体勢で宙にいた。
「あぁぁぁっ!!!!」
ドォォォォォォンッ!!!!
踵落とし。それも光の身体強化を纏った、痛烈なる一撃。
小百合の踵は竜也の頭を正確に捉え、地面へと叩きつけた。
「終わりね!!」
キュゥゥゥゥゥゥンッ!!!!
再び振りかぶる、小百合の拳。
それに呼応するかのように、拳に光の魔力が収束した。
「っ…ちぃ」
地面からのそりと顔を上げた竜也が、右の掌を小百合へと向ける。
「引力の魔法なら無駄よ!! この距離から吸い寄せても、私の攻撃は揺るがない!!」
マウントポジションに立った小百合が、そう叫びながら拳を振り下ろす。
はずだった。
どんっ!!
「かはっ!?」
見えない衝撃に打ち付けられたかのように。
小百合の体が、何の前触れもなく吹っ飛ばされた。
突然の衝撃に、小百合の右手に纏っていた魔力が弾けて消える。
咄嗟に防御の構えを取ろうとした小百合だったが、間に合わなかった。
どごっ!!!!
「ぐっ!?」
空に放り出された小百合を追ってきた竜也の膝が、小百合の腹を捉える。
「お返しだ、馬鹿」
蹴りで体が「く」の字に曲がったところで、竜也の踵が小百合の頭を襲った。
鈍い音を立てて。小百合の体は、地面へと叩きつけられた。
「まだ、終わらねぇぜ?」
竜也が、宙で左掌を差し出す。
ぐんっと。地面に伏していた小百合の体が浮き上がる。
再び、竜也の方へと吸い寄せられる。
「けほっ!! くそぅ!!」
痛みに耐えながら。小百合は体を反転させ、応戦の構えを取った。
それを見た竜也が、感心したかのような声を上げる。
「へぇ…? お前、武道かなんかやってんのか」
「ふっ!!」
頭を狙ったはずの掌底は、突き出した瞬間に、竜也の右掌によっていなされた。
竜也の髪を数本持って行ったか。そのくらいぎりぎりのところを、通過した。
「残念だったな」
どんっ
「っつっっ!?」
再び訪れる、衝撃。
小百合はそのまま吹っ飛ばされ、大木へと激突した。
それを冷めた目で見据えながら、やや離れた場所で竜也が着地する。
「動きは、悪くねぇ。身体強化魔法による魔力伝達が、思いの外スムーズだ。
必要に応じて、手・腕・膝・脚に移動させられる技術はすげぇよ。
俺の攻撃を受ける際は、防御としても利用しているようだしなぁ」
「……貴方の、けほっ。魔法も、面白いわ」
「あん?」
ふらふらと立ち上がりながら、小百合が不敵な笑みを浮かべる。
その予想外の表情に、竜也の片眉が吊り上った。
「貴方の左手と右手………左右で違う魔法を発現しているようね。
左は引力で右は斥力。対象を引き寄せ、弾き飛ばす魔法。
近接を主流とする私には苦手なタイプだわ」
「ふーん。ただの運動馬鹿ではねぇみてぇだな」
Yesとは言わなかったものの。
否定をしなかった竜也を見て、小百合は肯定のセリフと受け取った。
「んじゃ、どうすんだ? 諦めるか。その方がこっちもめんどくなくていいんだが」
「そんなわけないでしょ」
カッ!!
その言葉と同時に、小百合の体から強烈な光が発せられる。
「光と闇は反発しあい、無へと帰す。
貴方の魔法は、私のフル・アーマーが消し去ってくれる」
「消し去るってのは語弊があるだろ。正確には打ち消し合う、だ。
俺の闇属性が消される時。それはお前のフル・アーマーが消える時でもある」
竜也の言葉を聞き終える前に、小百合は走り出していた。
光属性を付与された足は、容易に自身の体を竜也の背後へと導く。
竜也がそれを感知するよりも先に、小百合は拳を振りかぶった。
「はぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ふん」
それに合わせ、竜也が左手を向ける。
(……左、つまり引力。望むところっ!!)
今度は、いける。
先ほどとは違い、今は竜也との間合いを初めから必要以上に詰めている。
引力で引き寄せられ、多少バランスを崩したところで。拳の破壊力は変わらない。
その、はずだった。
「っ!? なっ!?」
突如、自身の体に起きた変化に気付く。
フル・アーマーが、強制的に解除されていた。
「気付いたのか? 只の格闘馬鹿ならそのまま殴ってくると思ったんだが……よっ!!」
どごっ!!!!
「かはっ!?」
無防備な小百合の腹を、竜也の拳が貫く。
魔力が篭った一撃を受け、小百合は成す術なく後方へと吹き飛ばされた。
「……な、なん……で」
大木に背を預け、へたり込んでいる小百合を見据えながら。
ゆっくりとした足取りで近づいてくる竜也に、小百合は息も絶え絶えにそう呟いた。
「お前、思ったよりやるな。確実に退場だと確信できる一撃だったんだが。
咄嗟に障壁を俺とお前の間に割り込ませるなんてな。想像以上だぜ」
竜也が純粋に感心したかのようにそう言う。
そして、にやりと笑って自身の左手を開いて見せた。
「褒美に教えてやるよ。俺の左手の能力。
お前はこれを引力と称したが、違う。
こいつの本当の能力は、“吸収”だ」
「……吸、収」
復唱する小百合に、竜也がこくりと頷く。
「引力ってのは、物体を自分の元へと引き寄せる。
だが、俺の能力・吸収は、更にその1ランク上だ」
ここから先は、言われずとも分かる。つまり、魔力も奪われてしまうという事。
だからこそ、小百合の纏いしフル・アーマーは、何の前触れも無く解かれてしまったのだ。
「お前は俺が思っていた以上のやり手だった。が、所詮はこの程度。
ここで這いつくばって、試合経過でも聞いているのがお似合いだ」
それだけ告げると、竜也の体が地面へと沈みだした。
「っ!? ごほっ……。ま、待て……」
震える手で、竜也を掴もうと小百合が腕を伸ばす。
が、もともと離れている両者の位置では、その行動は無意味なものだった。
そう。無意味な動作の、はずだった。
ずるり、と。竜也の体が再び地表へと押し戻される。
竜也の転移魔法の属性は、闇。影から影へと移る、魔法陣。
対して、弱々しくも差し出された小百合の纏いし属性は、光。
どれだけ魔力が弱くても、竜也の利用する影に少しでも触れれば、その魔法陣は脆くも崩れ去る。
ここは、密林。地面には雄々しく生え広がる草木。
距離が離れていたとしても、その影は確かに竜也と小百合を“繋いでいる”。
「往生際の悪い野郎だ」
呆れた声色半分。苛ついた声色半分。
竜也は顔をしかめながら、面倒くさそうに髪を掻き揚げながら小百合の方へと足を向けた。
「いい加減、意識を保ってるのも辛いだろ? とっとと楽に――」
そこまで言って、口を閉じた。
小百合が、足を震わせながらも、再び立ち上がったからだ。
「面倒くせぇな、お前」
竜也の体に、魔力が灯る。
「諦めろよ、こっちだって暇じゃないんだぜ」
「……嫌よ」
「あん?」
「はぁ……はぁ……。……小日向君なら、絶対に諦めない。
こほっ!! けほっ!! ……はぁ……ならば、私も、諦めないわ」
「小日向、雄真。ねぇ?」
その言葉に、竜也は嘲笑した。
「アイツはそんなにお前の中で神格化されたのか?
無惨にも神威信の前に崩れ去った、あの弱者が」
「弱者では無いわ!!」
「あ?」
竜也の死角から、水属性の魔法球が襲いかかる。
しかし、竜也はそれを躱すという素振りは見せず、ただ自身の左手をそちらにかざした。
バチュンッ!!
大きな音を立てて、魔法球が竜也の左手に“飲まれた”。
正確には、吸収の能力によって吸い取られたと言った方が正しいのだが。
「……静香、さん」
その魔法球の発信源には、静香と幸平が立っていた。
「どうして、こっちに……」
「もちろん、貴方が心配だったからに決まってるでしょ?」
小百合の疑問に、静香は事も何気に言い放つ。
「遅くなってすまない。なにせ、僕たちは身体強化魔法が使えないからね。
移動に結構時間が掛かってしまったよ」
「……そんな、こと」
そんな事を、聞きたいんじゃない。その言葉を、小百合は辛うじて飲み込んだ。
小百合が竜也を足止めしている間に、静香と幸平が残る2人を攻めたてていれば、
もしかすると敵のバルーンを破壊できたかもしれないのに。
けれど、そんな文句は直ぐに氷解した。
するはずがないのだ。そんな、囮のようなやり口なんて。
それは、大会までの短い期間の付き合いである小百合ですら、よく分かっていた。
この2人は、どれほど絶望的な戦いであろうが、正面から立ち向かう。
決して、逃げる事は無い。その姿勢が、瑞穂坂学園生徒会ツートップという地位を作り上げている。
「……馬鹿が」
吐き捨てる様に、竜也がそう呟いた。
「負けを覚悟の、戦いってか?」
「もちろん、負ける気もさらさらない」
幸平の断言に、竜也の顔が露骨に歪む。
「雑魚の後輩を持つ先輩も、また雑魚ってか。
小日向雄真然り、瑞穂坂の面々は無駄な努力が好きらしいな。
結局、予想通りの結末を迎え、奴の様に泣いて詫びるしか道は無いのによ」
「……小日向君なら」
「あ?」
震える足を抑えながら、小百合が口を開く。
「小日向君なら絶対、そんな事はしないわ。絶対に諦めない」
「――っ」
その言葉を聞いて、竜也の中の何かがキレた。
「……どいつも……こいつもぉ……」
一瞬の静寂。そして、咆哮。
「小日向雄真が何だってんだ!! あぁ!? あいつはどれだけエライってんだ!!
口先だけで神威信にボコボコにされ、メディアに晒されたアイツが!!」
ゴウッ!!!!
竜也の体から、夥しい量の魔力が発せられる。
足元の草木は根こそぎ吹き飛び、足を付く地面が少し抉れた。
「小日向君は、確かに負けたわ。けどね――」
その怒りを冷静な視線で受け流しながら、静香は口を開いた。
「今の君に足りないものを、持ってる」
その言葉に、竜也がピクリと顔を上げる。
「この俺に足りない、だと? 何だそれは」
静香は不敵な笑みを浮かべて。
「それが分からないようじゃあ、貴方は小日向君には勝てないわよ」
そう言った。
「潰すっ!!!!」
竜也の何の飾り気も無い、七賢人としての全開の魔力が、瑞穂坂の3人を襲う。
結果は言うまでもないだろう。
この日、藍本静香率いる瑞穂坂チームは完全敗北を喫した。
七賢人次期当主・目黒竜也、ただ1人の手によって。
奇跡とは、誰でも起こせるものではない。
だからこそ。予め、誰しもが予想していた通りの結果となった。
蹂躙。もはやそれ以外に表現すべき言葉が見つからない。
あまりに一方的すぎる展開を、モニターは忠実に観客席へと映し出す。
その光景を見て。
乃木鉄平が、目を細めても。
汐留渚が、手にする扇子をパチンと鳴らしても。
八乙女咲夜が、嫌悪感剥き出しの視線を向けても。
浅草舞が、刀を握る手に若干の力を込めても。
神威信が、重いため息を付いても。
神威空が、思わず目を逸らしても。
式守伊吹が、帽子のつばで顔を隠し歯軋りしても。
小日向雄真が、怒りのあまり咆哮しても。
何も、変わらない。
結局、七賢人の領域には、誰も届かなかった。
しばらく更新しない間に、世間では二次創作の今後について色々騒がれてますね。
TPPが今後の日本をどう変えていくのかについては、現段階では想像の域を出ないわけですが。
サイト閉める事も視野に入れないといけません。何か嫌だなぁ。
確かに二次創作ってグレーゾーンで、著作権侵害って言われるとそれまでなわけですけど。
Leica
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