≪バルーンクラッシュ 3回戦≫
備考:勝利した者が1・2位決定戦、敗北した者が3・4位決定戦へ。
Aブロック
藍本静香・東山幸平・吉田小百合(瑞穂坂)× 対 ○目黒竜也・藤原友則・大金利通(東京)
Bブロック
神坂春姫・小日向雄真・柊杏璃(瑞穂坂) 対 三井良平・桜井誠・向井正春(京帝)
フィールドに展開される映像に、勝敗が表示される。続いて現在の各校のポイントが映し出された。
○現在の学校順位
4位:仙台魔法学園(宮城)50P
7位:東京都立魔法学園(東京)40P
1位:瑞穂坂学園(神奈川)130P
4位:舞浜学園(千葉)50P
4位:静岡魔法学園(静岡)50P
3位:名古屋魔法高校(愛知)60P
2位:京帝高校(京都)120P
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
ターゲットアタック。小雪の決勝進出に伴い点数が加算された瑞穂坂が再びトップに立つ。
同じく決勝に進んだ汐留渚率いる名古屋は3位についた。
そして。次の試合。
「さぁて、行くとするか」
「ここで逃がすわけにゃーいかんなぁ」
「ぜ、全力を尽くします」
順に、三井良平・桜井誠・向井正春。
3連覇を狙う覇者・京帝高校におけるバルーンクラッシュ・ベストメンバーは、
実はAブロックにて目黒竜也率いる東京都立魔法学園に粉砕されている。
が、それでも王者の次席。実力は申し分無い者ばかりだ。
「任せたぞ」
昨年度MVP。京帝2連覇の立役者・神威信が声を掛ける。3人は何も言わず、頷くだけ。
それでいい、と信は思う。己の力に過信せず、ただ自信を持って全力を尽くす。
その堅実で、誠実な姿勢が。この3人をここまで押し上げてきた。
「……さて。傷は癒えたのかな? 雄真」
選手入場前のフィールド。転移魔法陣のみが展開されるそれへ目を向けながら。
信は、にやりと口を歪めた。
Happiness story『小日向雄真と七対抗魔法大会』
Magic28.胎動
「吉田さん!!」
「よっち!!」
「東山先輩!!」
「藍本会長!!」
救護室へ運ばれてきた少年少女へ、瑞穂坂の面々が集まる。
医師は診察の邪魔だとその全てを払いのけた。
「当然だが命に別状はない。が、体はかなり痛めつけられている。
それなりの治療は必要だろう。緩衝魔法が働いているはずなのに、これ程のダメージが蓄積するとは」
緩衝魔法が発動しないギリギリのラインを沿う形で、
攻撃が断続的に繰り返されていたみたいだね、と医者は言った。
3人ともほぼ魔力は尽きており、体にも痣や切り傷が無数に見られる。
大会の緩衝魔法の性能を疑ってしまいたくなるような惨状だった。
「くそっ!! あいつが――!!」
「それ以上はよせ、雄真」
「なっ!? お前は悔しくないのかよ!! ここまでやる必要無かったろ!!
それなのに、あいつがこんないたぶる様な真似を――」
「も、う……、いいから」
「っ」
雄真が出かかった言葉を飲み込む。
痛みをかみ殺しながら発せられた言葉は、小百合の口から漏れ出た。
「別に、目黒竜也は、反則、をした、わけじゃない。
……だか、……ら。貴方が怒る、よう、なことなんて、何もないわ」
弱々しげに小百合はほほ笑む。
口は開かなかったが、静香も幸平も笑って頷いた。
「後悔が、あるとすれば、1つだけ」
「?」
小百合は雄真から自身の顔を隠す様に腕で覆いながら。
「決勝で、貴方と戦いたかったなぁ」
「――――っ」
その、涙を押し殺して。震えるような声色で紡がれた本音。
雄真の口からは、声にならないうめき声が漏れた。
「雄真、お前はもう行け」
「なっ!? チームメイトが苦しんでるんだぞ!?」
「お前の試合はもう直ぐなのだぞ!! よもや棄権すると言い出すわけでなあるまいな!!」
「っ!? そんな事はっ」
「行こう、雄真くん」
「は、春姫?」
袖を引かれ、そちらを見ると春姫がそう言った。
杏璃は既に救護室の扉に手を掛けている。
「私たちが今できる事は、決勝への出場権を手に入れる事だけだよ」
「……春姫」
「何情けない顔してんのよ」
杏璃が、苛立ちを隠す事無くそう口にする。
「決勝であのムカつく奴の顔を殴り飛ばしたければ、私たちがここで勝つしかないじゃない」
春姫と杏璃の声は、震えていた。
雄真からは表情が見えなかったが、もしかすると――。
顔を隠す様に話していたのだという事に、雄真は遅れて気が付いた。
『選手、入場です』
わあああああああああああ!!!!
選手たちの登場を、今か今かと待ち侘びていた観客の声援が爆発した。
C会場を揺るがさんばかりのボリュームは、澄んだ晴天へと消えゆく。
『バルーンクラッシュ・Bブロック。3回戦第2試合。
瑞穂坂学園、神坂春姫・小日向雄真・柊杏璃 対
京帝高校、三井良平・桜井誠・向井正春の試合を開始します』
「京帝!! 京帝!!」
「王者!! 王者!!」
圧倒的なまでの京帝へのラブコール。
が、今回はその中で異質なものも交じっていた。
「小日向ー!!」
「雄真!! 雄真!!」
その声援を聞いて、杏璃が呆れたようにため息を付く。
「瑞穂坂そっちのけでアンタの声援とか。どれだけ身の程知らずなのよ」
「俺のせいじゃなくない!?」
杏璃のジト目を受け、心外だとばかりに雄真が叫ぶ。
明らかにお互いが空元気だったが、そうでもしないとやっていけそうになかった。
「あはは、でも凄いかも。七賢人の人たち以外で名前の声援なんて、そうそう無いと思うよ?」
「……だからどうしたのって情報なんですが、春姫さん」
「いやいや〜。こちらからすると、けっこー羨ましいものだったりするわけよ」
京帝3年。桜井誠が口を挟んできた。
「こっちは信と空以外は、皆王者・京帝で一括りだからな。
さしずめ俺たちは『王者A』『王者B』『王者C』ってわけだ」
「……王者のABCって、凄いんじゃないですか?」
村人ABCとは格が違いそうですけど……、と。
京帝3年・三井良平の発言に、京帝1年の向井正春が弱々しく反論する。
締まらなくなった会話に見切りをつけ、誠が咳払いをする。
「初めまして、だな。小日向雄真。
俺は京帝3年の桜井誠。順に3年の三井良平と1年の向井正春だ」
「こちらこそ。瑞穂坂学園の2年。小日向雄真です」
「同じく2年。神坂春姫です」
「同じく。柊杏璃よ」
それぞれが固い握手を交わす。声援が一層高まるが、当の6名は気にした素振りも無い。
『選択フィールドは?』
「平原でお願いします」
「密林、だな」
前者が春姫。後者が誠だ。意見が分かれた。
その事実に誠が目を丸くする。
「あれ? あー、お前。大丈夫なわけ?」
「何の話です?」
誠からの疑問に、雄真が首を傾げる。
誠は、雄真はまだ万全な状態ではないだろうと踏んでいた。
だからこそ、密林というフィールドで少しでも傷を癒そうとするだろう、と考えていたのだ。
平原は障害が無い分、短期決戦で決着がつきやすい。
『では、意見が分かれましたのでコイントスを――』
「あ、ちょっといいですか?」
審判の言葉を、誠がぶった切る。
『はい?』
「やっぱ僕らも平原で良いです、はい」
『何だって?』
審判が訝しげな視線で誠を見やる。
当の本人はそれを特に気にした様子も無く。
「さ、転移だ転移。とっとと行こうぜー」
既に審判や雄真たちに背を向けて歩き出していた。
「ちょっと……」
「ん?」
それを、雄真が呼び止める。
「どういうつもりです? こちらの意思を優先する為に意見を代えたのなら――」
「あー、違う違う」
雄真のセリフを上書きするかのように、誠は手を振った。
「信相手にあれだけの試合をやってのけるお前さんに、んなナメた真似しやせんよ。
俺が場所を代えた理由は、逆さ」
「逆?」
「俺たちも平原の方がやりやすい。
お前が全快してるってんならそれでいい。
これは、俺たちの為なのさ」
「目黒竜也」
「あん?」
呼び掛けに、振り返る。
声の発信源が誰なのかを視界に捉えると、竜也は露骨に顔をしかめた。
「んだよ、てめぇか。良いのか? 試合を見なくてよ。
てめぇらのお気に入りが頑張ってんじゃねぇのか」
「見ずとも分かる。あ奴は負けんよ。お前に勝つまではな」
「……へぇ」
その言葉に、竜也が目を細める。
「式守ィ、お前。自分が何を言ってるのか、自覚しているか?」
「しているさ。だからこそ、私は今ここで貴様に襲い掛かることなく冷静を保てている」
「くははっ……。襲う? お前が、俺をか? 勝てるわきゃねぇだろ。
俺の能力、知らねぇわけじゃあるまい」
「七賢人としての矜持を傷付けた貴様に、遅れを取るとは思っておらんわ」
「矜持ィ?」
竜也が鼻で嗤う。
「俺がいつ、そんな大層なモンを傷付けたんだ?」
「貴様、先の試合に思う事が無いのか?」
「力を見せ付けて何が悪い」
「……よもや本気で言っているわけではあるまいな?」
「だとしたら、どうする?」
伊吹の手がピクリと動く。
それを視界の端に捉え、竜也はにやりと顔を歪めた。
「第一、それをお前に言う権利があるのかよ」
「……どういう意味だ?」
「分かっててすっ呆けているなら、大したタマだよお前」
「だから、何の話だと聞いている」
「式守の秘宝」
「っ!?」
どくんっ
伊吹の鼓動が、跳ね上がった。
傍から見てもはっきり分かる表情の強張りに、竜也は満足そうな笑みを浮かべる。
「相当好き放題暴れたらしいじゃないか。七賢人たる力を見せ付けて、な。
気付かれていないとでも思ったか? 馬鹿言っちゃいけねぇよ。
“龍脈の秘石”ってのは、それ単体で七つの魔法領域のバランスを、根本的に崩しかねない力を持ってた。
それに監視を集中させるのは当然の事だ。どこも知ってる事だぜ? 世間知らずの箱入りお嬢様」
「……ぐっ」
「もう一度、問おうかねぇ? 力を見せ付けて、何が悪い?」
「き、貴様ァ」
「おやおや、こんなところで密談ですか? 何なら私も混ぜて頂きたいものだ」
「っ!?」
「……アンタは」
まさに、一触即発の状態に足を踏み入れて来たのは――――。
「大森、零……」
大森零。日本魔法協議会副議長。
黒の長髪に知的な眼鏡。明らかにやり手のオーラを醸し出しているその男は、
七賢人次期当主が今まさに魔法戦を始めようとするその場に、堂々と割り込んだ。
「ふふふ。貴方がたの身分は存じているつもりですがね。
それでも、年上に対して呼び捨てはいただけませんよ?
式守家次期当主・伊吹様」
「……失礼致しました」
伊吹が、表情を歪めながら頭を下げる。
いいんですよと手を振りながら、零は竜也の方へと振り返った。
「アンタも、俺に文句言いに来たのか?」
「文句? はて、何のことでしょうか」
零は当たり障りの無い笑みを浮かべながら、頬を撫でた。
「ただ、魔法式の荒は目立ちましたね。感情が高ぶっていた証拠でしょう。
発現されていた魔法も、力任せのものばかりでした。前半は良かったのですがねぇ」
「ちっ」
零の評価を受けて、竜也が舌打ちする。同時に踵を返した。
「興が殺がれた。じゃあな」
「ま、待――」
伊吹が呼び止めようとしたところで、肩に手が置かれる。
伊吹がその手の持ち主である零に目を向けると、無言で首を振られた。
その仕草を見て、伊吹が無意識の内に込めていた力を抜く。
竜也が去ったのを確認し、零は口を開いた。
「良くありませんよ。非公式の乱闘騒ぎは。
名誉に傷が付くのは貴方だけではないという事を、自覚せねばなりません」
「……はい」
伊吹がそう答えた瞬間――――。
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
大歓声がその場を包み込んだ。
「な、何だ!?」
突然の声援に、伊吹が驚いたようにそう叫ぶ。
対して零はさして驚いた様子も無く答えを口にした。
「そろそろ試合がフィナーレを迎える頃だからじゃないですか?」
「フィナーレ? 何を馬鹿な。試合が始まってから、まだ5分程しか――」
言いながら、伊吹は走り出していた。隣にいた零を置いて、全力で走る。
薄暗い廊下を抜け、試合会場へと舞い戻る。フィールドから一番離れた観客席。
その後方の出入り口から、伊吹はその光景を見て唖然とした。
会場に浮かび上がる、いくつものスクリーン。
そこには、今行われている試合が忠実に映し出されている。
即ち、瑞穂坂vs京帝。雄真たちが戦っている試合だ。
雄真が、圧倒的な魔力で京帝を追い詰めている光景が映し出されていた。
「……これは」
雄真の潜在能力が、普通では考えられぬほどのものを秘めている事は知っている。
だが、雄真はそれを操る事ができなかったはずだ。少なくとも、伊吹はできる様になったとは聞いていないし、
vs信の試合を見ていてもできているとは思えなかった。
しかし、これは。
「凄いですね、今年の瑞穂坂は。いや、彼。小日向雄真君は、と言うべきなのですかね」
愕然として固まっている伊吹の背後から、零が口にする。
「あれだけの逸材をこれまでひた隠しにしていたとは。
MoL御薙もなかなかものです。そこに“どんな理由があったのか”は存じませんがね」
その言葉に、伊吹がピクリと反応する。
「貴様、何処まで知っている」
「さて、ね。魔法協議会はそこまで無能ではない、とだけ申しておきましょうか」
零は隙の無いスマイルで、そう答えた。
「お兄様、これは……」
「ああ」
その光景を、神威兄妹は京帝メンバーと揃って見届けていた。
雄真の力は圧倒的だった。
王者京帝のレギュラーを勝ち取ったあの3人相手に、ほとんど1人で応戦している。
雄真の放つただの魔法球ですら、3人では太刀打ちできないようだ。
そして。雄真の頭上で展開される天蓋魔法。
あれはまるで。
「お兄様の、『アルカディア』です」
「……そうだな」
信は唸るように肯定した。
(……まさか、あの一戦であの技術を盗んだのか?
しかし、ファイナスの詠唱破棄は神威家一族の秘伝だぞ。
それに……昨日で奴は魔力の全てを使い果たしたんじゃなかったのか……?)
信の中で。
漠然とした不安が、確信に変わった瞬間だった。
「……本当に、七賢人たる俺たちの領域に足を踏み入れて来るとはな」
信のその言葉に。
空は隣で、小さく息を呑んだ。
励みになります。
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Leica
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