「くそっ!? 何なんだよ、この魔力!!」
「……こいつぁ予想外だった」
京帝・三井良平が叫ぶ。対してあまり感情を表に出す事無く、桜井誠は呟いた。
既に向井正春は退場させられており、この場にはいない。
凄まじい魔力の奔流を身に受けながら、それでも障壁を展開できるその精神力は流石王者と言ったところか。
ただ。結局。
それだけの話だった。
「アダファルス!!」
1音。そう、たったの1音。
その1音に対抗するために、2人は全力で障壁を展開せざるを得ない。
轟音。衝撃。振動。爆音。
その1つひとつの全てが、王者京帝たる2人を追い詰める。
「まるで雨じゃねぇか!!」
上空に展開されし天蓋魔法から降り注ぐ、無慈悲の魔法球の軍勢。
それを障壁で必死に食い止めながら、良平が悲痛な声を上げる。
が、その状況は直ぐに幕を下ろす。
「っ!? 良平、後ろだ!!」
誠がフォローを入れるよりも、既に後方で拳を振りかぶっていた雄真の方が速かった。
「――っ、このヤロ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
炎を纏った雄真の拳が、良平の腹へと突き刺さる。
オレンジ色の閃光が煌めいた。
「ぐあああああああっ!!??」
良平の体が、映画のスタントマンのように豪快に吹っ飛ぶ。
それを目で追う事無く、雄真は誠の方へと体ごと振り返った。
手には、相も変わらず身体強化『火』の力が纏われている。
「フル・アーマーの火は、昨日のぶっつけ本番技術じゃなかったのか?
シャレになってねぇよ」
頬を引くつかせながら、誠が応戦の構えを取る。
同時に、雄真は自身の拳を引いた。その行動を見て、誠の思考が一瞬止まる。
バシュッ!!!!
それが命取りとなった。
自身の頭上から鳴り響いた音に、驚いたように誠が目線を上げる。
そこには、春姫の魔法球によって背後から打ち抜かれたバルーンの残骸だけが舞っていた。
Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』
Magic29.正座
「正座」
「……はい」
ここは瑞穂坂のホームである簡易テント。
試合を終えて戻って来た雄真にかけられた第一声は、鈴莉からのこの一言だった。
「雄真君」
「はい」
「私が試合前に言った事、憶えてる?」
「……はい」
有無を言わせぬ圧力に、雄真は神妙に口を開く。
「何て言ってた?」
「……。ク、クリスの独自詠唱禁止」
「確かに言ってたわね」
「ま、守りました」
「他は?」
「……」
間髪入れずに次の問いが来る。
「……。し、試合時間は15分間」
「確かに言ってたわね」
「ま、守りました」
「……ほ、か、は?」
「……」
この時点で、雄真はもはや逃げ場などない事を悟った。
「……」
「……。……ClassA以上の魔法使用禁止」
「そうね。言ってたわね。……で?」
鈴莉の鋭い視線に、雄真が肩を震わせる。
「私も年かしら。魔法に対するClassの振り分けが曖昧になってるわ。
雄真君、1つ教えてちょうだい? 貴方がこの試合で乱用した天蓋魔法は、
いったいClassはいくつだったかしら」
「……」
「……」
「……です」
「聞こえないわ、もう一度」
「……エーです」
「聞こえないわねぇ」
「Aです!」
「何か言い分はある?」
「……し、試合時間は5分だったし、セ、セーフ?」
「んなわけあるかいっ!!!!」
「へぶしっ!?」
横からにゅっと顔を出した陽菜から、雄真は顔面に正拳突きを叩きこまれた。
「ふあああああああああっ!?」
「ゆ、雄真くん!?」
「雄真っ!?」
鈴莉の威圧に負け、後ろで控えていた春姫と杏璃が駆け寄る。
雄真は鼻頭を両手で押さえながら地面をのた打ち回った。
「まさか試合開始早々から約束を破ってくれるとは思わなかったわ。
おかげでこっちは不意をつかれちゃって……。
誇っていいわよ、雄真くん。貴方はこのMoL・御薙鈴莉にここまでの動揺を与えたんだからね。
世界でもそういないわよ」
「いやぁ、気付いたら試合終わってましたもんねぇ。
まさか破るわけないだろうと本部のテントにいたのが間違い間違い大間違い。
駆け付けた頃には神坂さんがとどめさしてたしね」
「……とどめって」
陽菜の物騒な物言いに、春姫がぼそりと反論する。
「私たちが試合を止める前に終わらせてしまえばいいと思って試合に臨んだのなら、褒めてあげるわ。
大成功よ。ご褒美にこのまま縄で縛りあげて病院に搬送したいくらいにね」
「も、もう少し穏便にいきません?」
「誰のせいだと思ってるのよ!!!!」
「すみませんでした!?」
鈴莉の怒声に、雄真は条件反射で頭を下げた。
その、“いつもと変わらない雄真の姿”に安心したのか、鈴莉はそっと息を吐く。
それを隠す様に雄真の背中、つまりクリスの方へと目を向けた。
「……それで、クリス。雄真君の体調はどう?」
言うまでも無く、魔法関連の意味で。
クリスもそれが分かっているからこそ、特に質問の意味を問う事は無かった。
『体内の魔力生成器官がかなり活性化しています。同時に魔力回路に流れる魔力量も増加。
推定では……。おそらく、今なら全体量の80%に近い魔力が引き出せるかと』
「……これでもまだ8割。それも“近く”って事は達してはいないという事」
鈴莉が呻くように呟く。
「……雄真くん」
「雄真、アンタ人間じゃなかったのね」
「春姫!! そんな心配そうな声色で俺の名前を呼ばないで!!
それと杏璃!! お前何言ってくれてんだよ!!」
後ろでそれぞれの反応を見せるチームメイトに、雄真は思わず抗議の声を上げた。
その光景に皆が苦笑する。ひと段落ついたところで、クリスが再度口を開いた。
『但し、夏休みの対・新橋戦の時とは違い、この状態が維持される可能性は少ないでしょう。
現段階ではイレギュラーな活性化であり、時間と共にまた引き出せる魔力も減っていくものと思われます』
「神威信との魔法戦が、それだけの負荷を雄真君に与えていたという事ね。
それで、どれくらいの時間? これまで引き出せていた分は、今後も大丈夫なのかな?」
『……そうですね』
陽菜の問いに、クリスが少し間を空ける。
『正直、前例がない事案なので明言できないのが本音です。
ただ推察するに、現状は雄真さんの体が一種の興奮状態であるが故の活性化である為、
それが解けた場合でも、今まで使えていた魔力量が極端に減るという事態にはならないでしょう。
時間については、申し訳ございませんが予想できません』
「ふぅむ……」
陽菜が、普段お目に掛かれない複雑な表情を浮かべて椅子に座りこむ。
その仕草に、雄真は言いようのない違和感を感じた。
「……母さんも、九条先生も。どうかしたんですか?」
「えっ!? ……別に、どうもしないけど?」
雄真の問いかけに、一瞬怯んだ陽菜だったが直ぐに否定の言葉を入れる。
鈴莉に至っては微動だにしなかった。
「約束を破った貴方への罰ゲームを、どれだけ重いものにしようか悩んでいてね。
何か提案が有るのなら参考にするわよ?」
「結構です!?」
鈴莉のドスが利いた声により、雄真が震えあがる。
それによって、雄真が抱いていた疑念も恐怖によって払拭された。
「ふぅ……。念の為、確認しておくわ。体調は大丈夫なのね?」
「うん、平気だよ。まったく問題ない」
鈴莉の問いかけに、雄真は即答した。
その返事を聞いて、鈴莉は少し悩んでからため息を付いた。
「分かったわ。今回の件は不問にしてあげる。
ただ、今日の貴方の試合はもう終わった。
後は体力・魔力回復に努め、大人しくしている事」
「え? えーと。し、試合見ちゃ……だめ?」
「……」
「な、何でだんまりなの?」
「はぁ〜」
殊更大きいため息を付かれた。
鈴莉がジト目で雄真に向き直る。
「……熱くなるなって方が無理なんでしょうねぇ」
「どういう事?」
「あ」
鈴莉の発言に首を傾げる雄真。
対して、後ろで口を閉じていた春姫が何かに思い至ったのか声を上げた。
「……今日のシングルスって」
「そういう事よ」
春姫の言葉に、鈴莉が頷く。
「瑞穂坂学園vs京帝高校。
式守家次期当主・式守伊吹vs神威家長女・神威空。
今大会2度目……とはいうものの。
実質的には、七賢人同士初の一騎打ちよ」
≪バルーンクラッシュ 3回戦・結果≫
Aブロック
藍本静香・東山幸平・吉田小百合(瑞穂坂)× 対 ○目黒竜也・藤原友則・大金利通(東京)
Bブロック
神坂春姫・小日向雄真・柊杏璃(瑞穂坂)○ 対 ×三井良平・桜井誠・向井正春(京帝)
≪ダブルス 3回戦・結果≫
Aブロック
上条信哉・上条沙耶(瑞穂坂)○ 対 ×星城聡・向井正春(京帝)
Bブロック
日立ニオ・菅野宮重次(静岡)× 対 ○神威信・児玉白(京帝)
○現在の学校順位
4位:仙台魔法学園(宮城)50P
7位:東京都立魔法学園(東京)40P
1位:瑞穂坂学園(神奈川)150P
4位:舞浜学園(千葉)50P
4位:静岡魔法学園(静岡)50P
3位:名古屋魔法高校(愛知)60P
2位:京帝高校(京都)130P
バルーンクラッシュAブロックにて、瑞穂坂は目黒竜也に大敗を喫したものの、
Bブロックでは雄真の予想外の活躍によりポイントをゲット。
次いで行われたダブルスの試合では、信哉・沙耶が京帝の2人を下して決勝へと駒を進めた。
(これは、先の試合で雄真によって星城聡と向井正春の魔力が削られていたというのも大きい)
しかし、次点についていた京帝を一気に突き放す、とまではいかなかった。
ダブルスBブロックには、この競技の大本命である信・白ペアがいる。
順当に静岡を下し、決勝へと勝ち上がった。
つまり。
ダブルス決勝戦は、上条信哉・上条沙耶(瑞穂坂)vs神威信・児玉白(京帝)。
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
歓声が響く会場、その中央のフィールドで。
悠然と闊歩する人物に信哉は目を向けた。
神威家次期当主・神威信。
白い魔法服を纏ったその男は、灰色の髪をした小柄な女性を従えて、振り返る事無く会場を後にする。
無意識の内に力が入ったのだろう。信哉の握りしめていた風神雷神が、カチャリと音を立てた。
そんな兄の様を、心配そうに見ていた沙耶が口を開く。
「……どうされるのですか?」
「質問の意味が分からんな、沙耶」
信哉にしては珍しい。
沙耶からの問いを、目線すら合わせる事無く切り捨てた。
視線は未だフィールドへと注がれたままだ。無論、もう信の姿はそこにはない。
過剰に意識している。
口に出さずとも態度を見れば一目瞭然だった。
そもそも、沙耶も信哉と“同じ立場”なのだ。
敢えて問わずとも、自身の胸中を察すれば聞く必要の無い事柄だった。
しかし、だからこそ問わねばならなかった。
「私たちの決勝戦。相手はあの七賢人。それも神威家の次期当主様です」
「今の試合を見ていたのだ。口に出さずとも分かる」
「……本当に分かっているのですか?」
沙耶の声色に、少しだけ苛立ちの色が混ざった。
「私たちの相手は、七賢人なのですよ」
「だからどうした」
「っ」
その信哉の答えに。沙耶は信じられないという顔つきで息を呑んだ。
次の言葉は、漏れ出る様に発せられた。
「……“戦うのですか”?」
その問いを聞いて。
信哉はやっと沙耶の方へと視線を向けた。
「沙耶。俺たちの立場、はき違えるなよ」
「……兄様?」
いつもより険しい表情で放たれた言葉に、沙耶は訝しげな表情になる。
「俺たちが仕えるのは、伊吹様だ。
式守家次期当主たるあの方こそが絶対なのだ。
それは絶対に忘れてはならぬ」
「忘れた覚えはありません。だからこそ、問うているのです」
「駄目だな。沙耶、お前は何1つ理解してはいない」
信哉は首を振り、視線を外した。再びフィールドへ、既に無き人物の影を追って。
「お前の言い分では、仕えるべき相手が違うように聞こえてならん。
俺たちは、七賢人に仕えているわけではないのだ」
「……。……まさか、兄様」
そこまで言われて。沙耶はようやく思い至った。
信哉の抱く、その意志に。
「伊吹様に恥じをかかせるわけにはいかん。ならば、やるべき事は1つのみ」
フィールドでは、シングルスの試合の為に整備が行われていた。
Aブロックには七賢人・乃木家次期当主たる乃木鉄平が。
そして、Bブロックには主・式守伊吹が。
信哉の胸中は、信哉にしか分からない。
だからこそ。信哉から放たれた次の一言の重さは、沙耶の小さな身体に強く響いた。
「沙耶。俺は明後日、決勝にて七賢人を討つ」
励みになります。
個人情報登録等は一切ございませんので、
作品が気に入って頂けましたらお願いします。
Leica
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