わああああああああああ

 歓声鳴り響く会場の最奥。
観客席の後ろを円状に囲うように広がる通路にて。
高峰小雪はただ1人、遠くのフィールドにて戦う選手を何をするでもなくぼーっと眺めていた。

「……何だ、随分と覇気の無い面構えじゃないか」

「……?」

 突然声を掛けられた小雪は、ゆるりとそちらに視線を向ける。

「信さんでしたか」

「おう」

 神威信。白き魔法服に身を包む信が、ゆっくりと近づいてくる。
周囲の人間はその領域に足を踏み入れる事すら恐れ多いのか、信の周囲だけぽっかりと人ごみが無い。
ただ、1人の例外を除いて。

「児玉、白さん……」

 神威家が従者、児玉白。
ダブルスにおいて、雄真と春姫を相手に1人で遣り合った強者である。
少し灰色がかったショートカットが、風にふわりと揺れた。

「お初に。神威家が従者、児玉白と申します。以後お見知りおきを」

 ペコリと頭を下げられる。つられて小雪も頭を下げた。

「瑞穂坂学園の3年、高峰小雪です。
 試合は拝見させて頂きました。素晴らしい魔法技能、格闘術をお持ちですね」

「……い、いえ。高峰様こそ、フライングキャッチでの魔法は感服致しました。
 七賢人相手にあそこまで戦える人間は、そういません」

「何だ何だ、謙遜のし合いっこなら俺も混ぜてくれよ」

「……どの口がおっしゃるのでしょうね」

 横から口を挟んできた信に、小雪がジト目で軽く睨んだ。
信は笑いながら頬を掻く。

「ははは。いきなり空気にされたもんだから、ついな」

「そ、そんなっ。私は信様にそのような事など――」

「落ち着け、白。冗談だ」

「じょ、冗談!?」

 急におろおろし出す白を、信が宥める。
小雪はそれを見てため息を吐いた。

「性格悪いですね、信さん」

「おっと。こりゃきつい」

 信はおどける様にそう答える。
小雪はもう一度だけため息を吐いた。

「明日は決勝ですね」

「ん? ……ああ」

 小雪からの突然の話題変換に、信の目が少しだけ細められる。

「貴方がたの明日の相手は、伊吹さんの一番信頼する従者です」

「……」

 その言葉に、白の眉がピクリと動いた。

「勝算のほどは?」

「聞くまでも無いだろう」

 小雪の質問は、信によって真っ向から叩き潰された。



「我ら七賢人に求められるのは、勝利のみだ」






Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』

Magic34.5日目は淡々と……。






≪ターゲットアタック≫
5日目 3,4位決定戦
 桜井誠(京帝)○ 対 × 毛利哲也(静岡)
配点内容:3位20点。4位10点。

○現在の学校順位
4位:仙台魔法学園(宮城)50P
7位:東京都立魔法学園(東京)40P
1位:瑞穂坂学園(神奈川)150P
4位:舞浜学園(千葉)50P
3位:静岡魔法学園(静岡)60P
3位:名古屋魔法高校(愛知)60P
1位:京帝高校(京都)150P

 小雪と陽菜の読み通り、ここは順当に京帝高校・桜井誠が勝利し、20点を獲得。
再びトップの瑞穂坂に並び同率1位となる。

 さらに――。

『会場の皆様にお知らせ致します。
 本日予定されておりましたバルーンクラッシュの3,4位決定戦ですが、
 瑞穂坂学園が怪我により棄権となります。その為、対戦相手京帝高校の不戦勝とし、試合は行われません。
 繰り返し、会場の皆様に――』

 会場に響き渡る事務的なアナウンス。
瑞穂坂の不戦敗の知らせである。これによる会場のざわつきは、特に起こらなかった。

 と、言うのも。
先日のダブルスにおいて起こった東京都立魔法学園の棄権とは種類が違う為だ。
あれは、突発的に起こった原因不明の棄権であった事。
加えて、小日向雄真という今大会注目株の試合がいきなり無くなった事による不満の爆発だったのだ。

 怪我を原因とする危険である事。
前日から前以て告知されていた事。
七賢人の選手等、特に注目された試合では無かった事から、
それほどの混乱も無く、淡々と次の試合へと移行する。

≪バルーンクラッシュ≫
5日目 3,4位決定戦
 三井良平・桜井誠・向井正春(京帝)○ 対 × 藍本静香・東山幸平・吉田小百合(瑞穂坂)【怪我により棄権】
配点内容:3位20点。4位10点。

○現在の学校順位
4位:仙台魔法学園(宮城)50P
7位:東京都立魔法学園(東京)40P
1位:瑞穂坂学園(神奈川)160P
4位:舞浜学園(千葉)50P
4位:静岡魔法学園(静岡)60P
3位:名古屋魔法高校(愛知)60P
1位:京帝高校(京都)170P

 ――遂に、瑞穂坂が京帝にトップの座を明け渡した。






『ダブルス3,4位決定戦。
 京帝高校、星城聡・向井正春 対 静岡魔法学園、日立ニオ・菅野宮重次の試合を開始します』

わああああああああああああ

「……ふぅ、今日はわざわざ出向く必要は無かったのかもしれませんね」

 汐留渚は、扇子で仰ぎながらそう口にした。

「今からホテルに戻って休まれますか?」

「……そうねぇ。けれど、折角来たのだし、空さんの試合くらい見ていこうかしら」

 暗に今日はどんでん返しなど起こり得ないと断言しているようなものだったが、
その受け答えをしているアゲハ自身もそう考えていたので、特段驚くような事では無かった。

「七校対抗魔法大会。
 最後は優勝で飾りたかったのだけれど、やっぱり世の中そう上手くは運ばないものね」

「……すみません。私の力至らず」

「あらあら、アゲハさんは良くやってくれていてよ?」

 項垂れるアゲハに、渚は目を丸くしてそう答えた。

「もちろん、名古屋の皆もね。今年は他の高校も逸材揃いだったわ。
 運営陣もさぞかし驚いておいででしょうね。既に高校レベルの大会では無いですわよ」






≪ダブルス≫
5日目 3,4位決定戦
 星城聡・向井正春(京帝)○ 対 × 日立ニオ・菅野宮重次(静岡)
配点内容:3位20点。4位10点。

○現在の学校順位
5位:仙台魔法学園(宮城)50P
7位:東京都立魔法学園(東京)40P
1位:瑞穂坂学園(神奈川)160P
5位:舞浜学園(千葉)50P
3位:静岡魔法学園(静岡)70P
4位:名古屋魔法高校(愛知)60P
1位:京帝高校(京都)190P

 勝てる試合を、京帝高校は淡々と勝利していく。
5日目の七校対抗魔法大会は、京帝の独壇場だった。
初めは2位だった京帝が、今やトップを走っていた瑞穂坂にどんどんと差を空けていく。
王者の貫録は、遺憾なく発揮されていた。

 そして、本日最後の試合、シングルスにおいても。

『緩衝魔法の発動を確認!! 勝者、京帝高校の神威空!!』

わああああああああああああ

 歓声を耳に、空は踵を返した。
その表情に笑みは無い。ただ、自分のやるべき事をこなした。そんな顔だ。

 今日唯一の七賢人戦は、呆気無く幕を閉じる。

≪シングルス≫
5日目 3,4位決定戦
 蔵屋敷美紀(舞浜)× 対 ○ 神威空(京帝)
配点内容:3位30点。4位20点。

○現在の学校順位
5位:仙台魔法学園(宮城)50P
7位:東京都立魔法学園(東京)40P
1位:瑞穂坂学園(神奈川)160P
5位:舞浜学園(千葉)70P
3位:静岡魔法学園(静岡)70P
4位:名古屋魔法高校(愛知)60P
1位:京帝高校(京都)220P






『以上を持ちまして、本日のプログラムは全て終了となります。
 ご来場ありがとうございました。お忘れ物御座いませんよう――』

 遠くから、アナウンスが聞こえる。
内容を聞くに、どうやら七校対抗魔法大会5日目は無事終わりを迎えたようだ。

 日は徐々に傾き、周囲もオレンジ色に染まり始めている。

「っはぁ、はぁ……」

 小日向雄真は、地面に伏し肩で息をしていた。
それを見下すように立っていた信哉の身体から、身体強化魔法が解ける。

「ここまでにしておくか、雄真殿。流石にこの技法は1日では――」

「頼む……」

 信哉の言葉を遮り、雄真が立ち上がる。

「もう、……一回」

 ふらふらになった雄真を見据えながら、信哉は目を細めた。

「気持ちは分かる。しかし、これ以上は明日に差し支えるぞ」

「もう少しで……、もう、少しで掴めそうなんだ」

「……」

 信哉は若干困ったような表情で、視線を雄真から外した。
その視線の先にいた伊吹が、呆れてため息を吐く。

「そこまでにしておけ、雄真。お前の卓越した魔法技能は認める。
 だがな、この技法を一日で取得しようなど、己の才能を過剰に評価し過ぎだ」

「アイツを倒すためには、どうしてもこれが必要なんだ!!!!」

 雄真の叫びに、一同が口を閉じる。
周りで様子を見ていた春姫・杏璃・沙耶は、どうすればいいか分からず突っ立ったままだ。

「雄真、忘れてはおるまいな。今、お前に協力をしてくれている信哉も、明日は七賢人戦なのだぞ」

「っ」

 その言葉に、雄真が息を呑む。そして、項垂れるように頭を下げた。

「……すまん、信哉。無理、させちまったか」

「いや」

 雄真の謝罪に、信哉が首を振る。

「この程度、造作も無い事だ。
 明日には万全に回復できる程度。寧ろ心配なのは雄真殿の方だ。
 病み上がりの上に、新技法の鍛錬には余分な力も使う。無理をせず、今日は大事を取ってだな――」

「皆、先に戻っててくれ」

 信哉の労りの言葉をぶった切り、雄真はそう口にした。

「……何?」

 その言葉に、伊吹が目を吊り上げる。

『雄真さん、流石にこれ以上は――』

「俺は、まだ続ける」

「雄真!!」

 伊吹の咆哮が、雄真を貫いた、だが、雄真は微動だにしない。

「今の手持ちカードじゃ、信には勝てなかった。
 まだ、足りない。七賢人を相手取るには、まだ、足りないんだ」

「……貴様」

 伊吹は、歯を喰いしばった。
どこかで“見た事のある光景”だったからだ。

 力を欲し、周りの事が見えていない。まるで――。



 昔の、伊吹だ。



ドカンッ!!!!

 その一撃は、瞬く間に雄真の意識を刈り取った。
得意属性“光”を解放した伊吹の力は、闇のみを扱っていた頃を遥かに超越する。
七賢人が一角・式守伊吹の一撃は、雄真に回避行動を取らせるより早く、結果をもたらした。

「ゆ、雄真くん!?」

「雄真っ!!」

「雄真さん!!」

「……運べ、信哉」

「……御意」

 ぐったりと伏す雄真を、信哉が担ぎ上げる。

「伊吹、アンタ!!」

「こうでもしないと、こやつは止まらなかったろう?」

「っ。そう、だけど」

 杏璃の表情が、歪む。
春姫は何か言いたげだったが、伊吹の威圧を前に無理やり口を閉じた。
伊吹は視線を逸らして雄真を見つめる。

「お前も、本当は身に染みて分かっているはずだ」

 気を失っている雄真に、届くわけが無い。
それでも、伊吹は告げた。



「付け焼刃の魔法など、我ら七賢人には通用せぬ。
 お前は、それよりも大切なものを持っているはずだろう」



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