ピピピピピピピピピピピッ
カチッ

「……」

 けたたましいアラームによって目が覚める。
雄真は手さぐりにスイッチを探し、止めた。

「……ここは」

『目が覚めましたか、雄真さん』

「クリス?」

 ベッドに立て掛けてあったクリスに目を向ける。
ぼんやりとした思考が、徐々に昨日の出来事を思い起こす。

「……そうか、俺。伊吹に……」

『伊吹さんを責めるのはお門違いですよ』

「分かってる」

 クリスからの言葉に、雄真は正直に答えた。

「少し、熱くなり過ぎてたよ。皆の気持ちも考えず、1人で先走ってた」

『どうやら、頭は冷えたようですね』

 ほっとした様子で、クリスがそう述べる。雄真は苦笑した。

「皆には、ちゃんと謝らないとなぁ……」

『そうですね』

「シャワーでも浴びて、目を覚ますか」

 ベッドから起き上がる。
が、雄真は浴室へ向かう足を止めて振り返った。

「クリス」

『はい?』

「――頑張ろう」



 ――――七校対抗魔法大会、決勝。






Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』

Magic45.氷の城壁と緑色の弾丸





わあああああああああああああああああ

『お聞き下さい!! この大歓声!!

 まだ最初の試合開始まで30分以上ありますが、ご覧ください!!

 見回してみても人!! 人!! 人!!

 空いている席は愚か通路すら立ち見の人で溢れかえっております!!』

 C会場。

 七校対抗魔法大会開催地にて、最も広い会場。
試合開始時間の1時間前にも関わらず、既に満員御礼。
当日券など、3時間前に売り切れてしまっていた。

 当然だ。

 今日は、注目する選手が多過ぎる。

『汐留様、神威様、八乙女様、式守様、そして乃木様!!
 各地方からお出でになった七賢人次期当主たちの晴れ舞台!!
 会場のボルテージは既に最高潮であると言えるでしょう!!』

 リポーターが歓声に負けじと喚く。

『注目の決勝戦、第1陣は名古屋大将の汐留渚さんと、瑞穂坂大将の高峰小雪さんです!!
 奇しくも昨年度と同じカードとなりました、ターゲットアタック決勝戦!!
 しかし、だからこそ結果は去年と変わらないと予想する専門家が多く――』






「……いよいよか」

 会場が地鳴りを上げるほどの歓声の中で、雄真がポツリと呟いた。
彼の両頬は綺麗なもみじマークがいくつも重なっており、
彼の謝罪がどのような結果をもたらしたのかはここで語るまでもなく明らかだった。

「小雪さん、大丈夫かしら」

「無論だろう」

 杏璃の言葉に、伊吹は即答した。

「あ奴が狼狽えているところなど、見た事が無いしこれからも見たくないものだからな」






 小雪は1人、選手控室に居た。
本来ならば、瑞穂坂の選手なら一緒に入ることが出来る場所。
試合開始直前で檄を飛ばしたり出来るわけだ。
しかし、小雪はその申し出をすべて断り、ただ1人控室にて瞑想をしていた。

「ふーっ」

 どれくらい、こうしていただろうか。
無言のまま正座していた小雪が、肩の力を抜くようにゆっくりと息を吐いた。

『……』

 邪魔にならぬ場所でふわふわと漂っていたタマちゃんが、頃合いと見たのか近付いていく。

『姐さん?』

「……ええ、大丈夫ですよ」

 目を閉じたままで。小雪はそう答えた。

「この試合、瑞穂坂の大将。その名に懸けて落とすわけにはいきません」

 仮に相手が、七賢人であろうとも。
そう考えたところで、自身の後輩である雄真の“あの”健闘が、いかに今の自分の支えになっているかに気付く。

 笑みが零れた。

『……姐さん?』

 タマちゃんの怪訝そうな声が控え室に響く。
小雪はにこりと笑って一言。

「もしかすると、今日……。歴史が動くかもしれませんね」

 そう、言った。






わあああああああああああああああ
「すーげーすげー。ったく、わらわらご苦労な事だぜ。足の置き場すら見失いそうだ」

「……今日は1日こうだと思うわよ。嫌ならホテルにでも帰れば?」

 会場に着くなり愚痴を零す男相手に、安藤ももかはため息交じりにそう非難した。

 今から始まるのは七校対抗魔法大会、その決勝。
注目されない方が可笑しいに決まってる。

「ふぁ……」

「……ホント、帰りなさいよ。貴方」

 大欠伸をかます男に、ももかはジト目を向ける。

「……お前こそ、やたらと肩に力入ってるじゃねぇーの。
 ああ、そういや今から戦うのはお前が2回も負けた相手だっけか」

「デリカシーの欠片も無い男ね」

「事実だろ」

 ぴしゃりと言われ、ももかは口を噤む。
不機嫌そうなももかの顔色など気にも留めず、男は続ける。

「俺からすりゃ、他は全てお飾りでしかねぇーんだけどよ」

「……」

 ももかの眉が吊り上った。

「貴方、本当に誘う気なの? 彼、MoLの息子さんなのよ」

「素質は十分」

 男は、答えにならない答えで返す。そして、にやりと笑った。

「……あとはこの世界の“闇”を、どれだけ知ってるかってだけだ」






 京帝高校の面々は、会場観客席の最前列を陣取っていた。
選手は、一般客へ会場が解放されるよりも先に会場入り出来る。
しかし、会場が開くのは最初の試合開始1時間前だ。
つまり、京帝の面々はそれよりも前からこの場所に坐していた事になる。

 ただ、それはある意味で当然の事と言えた。

「まず、ここで瑞穂坂がどう出てくるか。
 それが我が校と瑞穂坂の優勝争い、その1つの流れを作るだろう」

 腕を組み、正面のフィールドを見据えながら信は言う。

「……お兄様、高峰様が勝てるとお思いで?」

「いや?」

 空の質問に対して、信は迷う事無く首を振った。

「確率論で言えば、ほぼゼロだろう。
 ただ、ほぼゼロってだけで“ゼロ”じゃない。
 残す試合全て七賢人戦である瑞穂坂にとって、唯一ゼロと断言できない試合はここだけだからな」

「……」

 その言葉に、空は押し黙る。

 瑞穂坂の、残る試合。
ターゲットアタックで小雪vs渚。
バルーンクラッシュで雄真・春姫・杏璃vs竜也。
ダブルスで信哉・沙耶vs信。
そして、シングルスで伊吹vs鉄平。

 それを頭に巡らせた上で、空は問う。

「伊吹さんが乃木さんに勝つよりも、勝率はある……と?」

「微々たる違いだ」

 信は、空へ目もくれずそう答える。

「年の違いってのはな、やっぱり大きいんだよ。
 2年はデカい。才能が有れば、努力すれば。
 そう言う話も今回ばかりは役に立たん。
 同じ七賢人という才能。そして、妥協を許さぬ鍛錬を続けてきた2人だ。
 結局年の差が物を言うのさ」

 根も葉もない話だ、と空は思った。
しかし、同時に反論も出来ない。
瑞穂坂が窮地に立たされているという事に変わりはないのだから。

「成長著しいが、雄真はダメだ。
 来年はどうかは知らんが、今年は間に合わんだろう。
 ダブルスでは俺が戦うんだ、負けるつもりはさらさらない。
 残る試合はここだけ。つまりだ」

 信は選手入場に控え、フィールドで点検作業を行っていた人間が退場するのを視界に捉えながら。



「この試合で瑞穂坂が勝てなければ、チェックメイトだ」



 そう断言した。






『ターゲットアタック決勝戦。
 名古屋魔法高校3年・汐留渚 対 高峰小雪の試合を開始します』

わあああああああああああああああああああああ

 爆音。歓声はいよいよ絶頂を迎える。
マイクを使っているにも関わらず圧倒的ボリュームで掻き消される審判の言葉。

 それに気付いた審判は、負けじと声を張り上げた。

『選手入場!!』

わあああああああああああああああああああああ

 大歓声の中、2人の女子生徒がフィールドへと足を踏み入れる。



 片や七賢人が一角。“水の加護を受けし一族”次期当主・汐留渚。

 片や瑞穂坂の御三家が一。“預言者”の愛娘・高峰小雪。



 唯我独尊。
周りの歓声など気にも留めず、不敵な笑みを浮かべた2人の女子生徒はフィールド中央にて向かい合う。

「よくぞここまで辿り着きました。高峰小雪様」

 先に口を開いたのは、渚。

「貴方の健闘に千の賛辞を。
 こうして再び貴方と向かい合えることを、私は大変嬉しく思います」

「お褒めの言葉を頂くには、ちょっと早過ぎると思いますけど」

 最早トレードマークと言っても過言では無い、あのミステリアスな笑みを絶やさぬまま、小雪はこう返す。

「それは、私が優勝した時にゆっくりと賜る事に致します」

 その言葉に。渚の妖艶な笑みが一層濃くなった。

「ご随意に」

 彼女はそれだけ告げて、踵を返す。



 試合開始は、直前に迫っていた。






ビ――――――――――ッ!!

わああああああああああああああああああああ

 一瞬の沈黙、そして大歓声。
開始ブザーと共に、会場に激震が走る。

「ウォルタルス――」

しゃらん

 詠唱と共に、錫杖が振われる。

「リフレクト」

 渚の後方、得点板の前方。
2つの間に巨大な水の壁が発現する。更に。

「クィリスピリア」

 とんっと。渚の可憐な掌が、その水の壁に触れた。

 瞬間。

キィ――――――――――ンッ!!!!

 水が、凍った。
自身の陣営を守る、壮大なる氷の壁。
まさに、城壁とも呼べる魔法。

 その間、僅か6秒。
C会場のフィールドに突如出現した城壁に、観客は思わず声を失う。

 渚は、言う。

「さあ、どう来ますか? 高峰様」

 その言葉に、小雪は答えない。
無言のままロッドを振い、独り言のように呟いた。

「この試合――」

 小雪の掌に従い、回転するロッド。
その円を描く軌道に合わせて、緑色の球体が発現する。

「出し惜しみは、無しです!!」

 砲撃。

 そう呼ぶに相応しい攻撃が、小雪の元から放たれた。
単体ではない。数え切る事など、出来はしない。
小雪の周囲に断続的に発現する緑色の弾丸は、発現と同時に射出される。

 轟音に、爆音。凄まじい音が連続して巻き起こった。
観客席から、悲鳴が聞こえる。まるで戦争の様な光景だった。
渚の得点板を守る城壁を、小雪の砲撃が襲う。

 攻撃魔法が苦手と称する小雪の、最大出力。

「タマちゃんフェスティバル!!!!」

ドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!

 着弾し、爆ぜる。
そう、単なる運動エネルギーによる破壊だけではない。
着弾と同時に、緑色の弾丸は爆ぜるのだ。
1つ1つが、タマちゃんクラスの爆撃力を誇る。

 氷の城壁は、瞬く間に蹂躙されていく。
にも関わらず。



 その下に坐す渚は、笑っていた。
 


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