小雪の元から発せられる砲撃に、渚の城壁はみるみる内に削られていく。
緑色の球体は、氷の壁に抉りこみ爆ぜる。
今のところ貫通はしていないが、それも時間の問題。
そう思わせるには十分過ぎる威力だった。
しかし。
汐留渚は、動じない。
頭上を打ち抜かれ、背後で爆発が起きようとも。指一本動かさない。
ガシャアンッ!!
また1つ。
渚の近くでタマちゃんが爆ぜた。砕けた氷の粒が吹き荒れる。
そう。
魔力によって生成された、氷の粒が。
「……まさか」
砲撃を放っていた小雪の手が、止まる。ふと、周りを見渡してみた。
白い霧、靄の様なものが辺り一面に広がりつつある。
小雪の表情から察したのか、渚が魅惑的な笑みを浮かべた。
「気付かれましたか?」
しゃらん
錫杖を軽く鳴らしながら、言う。
「フィールド全域を掌握するには、未だ少々足りないのですが。
……まあ、良しとしましょうか」
白い靄は徐々に広がりをみせ、今まさに小雪の足元に届かんとしていた。
「“ダイヤモンドダスト”。さて、今度はこちらの番ですね?」
Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』
Magic36.幻血属性の脅威
「っ!?」
理由は無い。何か前触れがあった訳でもない。
ただ単純に。小雪は自身の足元に迫りくる“それ”を危険と判断した。
「レム・ラダス・アガナトス!!」
ゴウッ!!!!
小雪の詠唱に呼応し、足元から魔法の竜巻が吹き荒れる。
じわじわと地面を侵食していた白い靄は、突如発生した暴風に成す術無く巻き上げられていく。
そう。
遥か上空へ。フィールド全体を空から覆うように。
「“これ”を瞬時に危険と判断し、遠ざけようとしたその行動は正解ですわ」
しゃらん
上空へと渦を描きながら舞い上がるそれを見つめながら、渚は言葉を紡ぐ。
「但し、それでは50点。これは、打ち消すべきでしたね」
ピピピピピピピピピッ!!!!
「しまっ――」
小雪の行動は、責められない。
脅威を感じたものを自身から遠ざけようと身体が動くのは、自然の成り行きだ。
しかし、責められないからとはいえ悔やまれないわけではない。
結果として魔力を纏う靄を自身の陣地にて拡散させてしまった小雪は、
その小さな粒による攻撃により得点を許す事となる。
「私の勝ち、ですわね」
無数の、不可避の攻撃。
東山幸平の際に使用したフリージアの様に、氷の粒は止める事無く得点板に触れ続ける。
「っ!! タマちゃん!!」
『はいな〜!!』
ドカァァァァァンッ!!!!
「あら」
その一瞬の出来事に、渚は驚いたような声を上げた。
小雪はタマちゃんの名を呼んだ。
それがあのスフィアタムの起爆の合図である事は、去年立ち会った経験もあり渚は重々承知している。
小雪がその名を呼んだ時、渚は小雪の最後の悪あがきが来ると踏んだ。
しかし、実際は違った。
タマちゃんは、小雪の陣地で。しかも小雪の超至近距離で起爆した。
「……まさか、焦り過ぎて起爆操作を誤ったのですか?
そのようなミスを犯す方では無いと思っていたのですが」
小雪の陣営は黒煙が辺り一帯を占め、動向を窺う事は出来ない。
(……こうなってしまうと、煙が晴れるまでは結果待ちですか。
……。……結果待ち?)
自身の考えに、違和感を覚える。
結果待ち? それはおかしい。
ダイヤモンドダストの支配する空間で、魔力を感知しカウントする得点板は、
本来であれば待つ暇も無く結果が提示されるはずだ。
にも関わらず、結果は表れない。理由など、1つしかない。
小雪は、白き靄を全て払う事に成功したのだ。
(……そんな、どうやって。
自身の魔力の渦により、私の魔力を纏った靄は四方八方に散布されていたはず。
それら全てを打ち消す事など――)
そこまで考えが至ったところで、気付く。
先程の小雪の失態。いや、失態であると思っていたその行動の真意に。
「……まさか、起爆で――」
ガシャアアアアアアアアアアンッ!!!!
そこまで言い掛けたところで。
渚の頬を掠めるほどギリギリの軌道で、緑色の弾丸が後方の城壁に突き刺さった。
爆ぜる。
その攻撃の正体を、渚は知っている。
「……高峰、小雪様」
「はい、呼びましたか?」
黒煙を払い、小雪が何時も通りのミステリアスな笑みで応える。
しかし幾分か余裕そうな表情とは裏腹に、着ている魔法服はボロボロだった。
どころどころが割け、破れ、焦げている。
咄嗟の起爆には、流石に障壁の展開が間に合わなかったのだろう。
「無茶をなさいますね」
「無茶?」
「私のダイヤモンドダストは、小さな氷の礫。
魔力の渦では吹き飛ばす事は出来ても、掻き消す事は出来ない。
だからこそ、火力で溶かし切る選択をなさいましたか」
「はい。そうです。50点と採点されてしまいましたからね。折角ですので満点狙いでやりました」
立派な胸を張りながら、小雪は答えた。
その仕草を見て、渚は1つため息を吐く。
「貴方らしからぬ選択です。そのような捨て身のスタイル。
昨年度の貴方を知る私では、想像も出来ませんでした」
「……捨て身にだって、なりますよ」
「はい?」
小雪の呟くようなセリフに、渚は首を傾げる。
それに対して、小雪はロッドを振り上げた。
「貴方を倒すためなら、形振り構わず戦いますっ!!」
シュドドドドドドドドドドドドッ!!!!
再び緑色の弾丸が、渚陣営を襲う。
但し、今度は先ほどと違う点が1つ。
拡散ではなく、集中。
緑色の球体は、一列に並び一点突破を図る。
「む」
今大会において、初めて渚が“動いた”。
しゃらん
錫杖を振い、一列に突き刺さっていくタマちゃんへと向ける。
ガガガガガガガガガガガガガッ
そこでは、次々に飛んでくるタマちゃんが氷の城壁に抉りこんだ前のタマちゃんを押し合い、
城壁の深部へと突き進んでいる。
「タマちゃん、爆破!!」
本当ならば、もう少し掘り進めておきたかった。それが本音。
しかし、汐留渚が動いた以上、時間に猶予は無い。
そう考えた小雪が、特攻を掛けたタマちゃんへ指示を出す。
1つの起爆から連鎖し、氷の城壁を内側から破る作戦。
だが。小雪の決断は。
僅かに遅かった。
「“アイス・エイジ”」
『やで――』
ビシシシシシシシシシシシシシッ!!!!
起爆する直前、タマちゃんの表情が比喩では無く本当に“固まった”。
ビシッ パキ ペキキッ
城壁の側面から伸びる様に形成された、一本の太い氷柱。
無論、その中にはタマちゃんが詰まっている。
渚は自身の魔力で、起爆前の爆弾を強制的に押し留めたのだ。
「なっ!?」
これは、流石に予想できなかった。
小雪も、この単純明快な作戦が簡単に成功するとは思っていなかった。
亀裂程度なら入るかもしれない。その程度の考えで行った作戦。
しかし。実際には、起爆すらさせてもらえない。
渚の圧倒的な魔力の前では、行動に移す前に全ての可能性が絶たれてしまう。
「くっ!? タマちゃん!!」
手元に発現させた新たなタマちゃんを飛ばす。
圧倒的力量を見せられて動転した小雪にとって、それは一度体勢を立て直すための牽制に過ぎなかった。
なのに。
ガァァァァァァンッ!!!!
凄まじい音が響く。小雪の放ったタマちゃんが、渚の背後にある氷の城壁に突き刺さった音だった。
そう。汐留渚本人の身体を“通過して”。
「……幻、術?」
渚の身体を貫いた様に見えたその一撃。
しかし、そんな事はあり得ない。
音も、手ごたえも、何もない。本当に、ただすり抜けた様に見えた光景。
そして、それは正解だった。
「ダイヤモンドダスト。
もしや、この発現目的が貴方の得点板を攻撃する為のものだと勘違いされてました?」
「っ!?」
耳元で聞こえる声に、思わず振り返る。
そこに、居た。
汐留渚が。
咄嗟に身を翻し、タマちゃんを放つ。
ドカンッ!!
ピ―――――ン
『名古屋魔法高校。10ポイント』
「うっ!?」
放たれたタマちゃんは、先ほどと同じように渚の身体をすり抜ける。
そして、その背後にあった小雪の得点板へと突き刺さってしまった。
自殺点。気が動転しているのが分かる。しかし、抑えられない。
「ダイヤモンドダスト。私の魔力を氷の礫に具現化し、周囲に散布する事で条件が整う。
それは、物理的な攻撃や防御、加えて精神面を掌握する幻術としても効果を発揮致します」
渚は、先ほどまでと同じ位置に立っていた。幾分か、がっかりとした表情で。
「高峰小雪様」
ガァンッ!!
小雪の放つ攻撃は、渚の身体を素通りする。
渚は最早、その攻撃には目もくれずに口を開く。
「貴方の試合は全て拝見しておりました。
だからこそ、残念でなりません。
貴方の持つ技法・“映力強化”を使えば、この技の真意とて直ぐに気付けたでしょう」
そっと、タマちゃんを氷漬けにする事によって生成された巨大な氷柱に手を添える。
バガンッ!!!!
瞬間。氷の氷柱の半分が勢いよく城壁から飛び出した。
まるでミサイルの様な一撃が、瞬く間に小雪の元へと迫りくる。
「くっ!?」
避けられない。
そう判断した小雪は、慌ててお得意のエプロンを取り出した。
渚の手元から発射された氷柱は、どのような作用が働いたのか、
小雪の手元に握られるエプロンのポケットへと吸い込まれていく。
その光景を見て、渚は眉を吊り上げた。
「なるほど。フライングキャッチの際、咲夜様からの猛攻を受けきったのはそれのお蔭でしたか」
「……良く気付きましたね」
「ですが」
残った半分の氷柱に再び手を添える。
バカンッ!!!!
再び射出される氷柱のミサイル。
同じように構える小雪に、渚はため息を1つ吐いた。
パチンッ
渚の指が鳴る。
「爆弾を手元に抱え込むのは、得策とは言えませんね」
エプロンのポケットへと吸い込まれる直前、
渚の魔法が解け起爆寸前だったタマちゃんが再び活動を開始する。
「え」
そんな言葉しか、出なかった。
ドカアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!
幾重にも重なった爆発が、小雪を襲った。
誰もが待ち望んだ決勝戦、その第1試合。
決着は、一瞬だった。
励みになります。
個人情報登録等は一切ございませんので、
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Leica
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