大歓声の中、選手陣が姿を現した。
瑞穂坂vs東京都立。
今大会の最注目株・小日向雄真vs七賢人次期当主・目黒竜也。
会場の誰もがその試合を待ち望んでいた。
瑞穂坂の優勝が懸っているという事実すら霞んで見える。
この試合に注目する大観衆からすれば、それ程の気持ちだった。
が、関係者からすれば一概にそうとも言い切れない。
「雄真ァ、負けんじゃねぇぞ!!」
「雄真ぁ〜頑張って〜!!」
「兄さん!! 姫ちゃん!! 柊さん!! 頑張ってください〜!!」
ハチ・準・すももが負けじと声を張り上げる。
「みっずほっざか!! みっずほっざか!!」
バックからは瑞穂坂の生徒からの応援が。そして、対面の応援席からは。
「東京!! 東京!! 東京!!」
「東京!! 東京!! 東京!!」
東京都立魔法高校の全校生徒がフィールドの半分近くを占めている。
七校対抗魔法大会の全日程において高校を臨時休校に。
そして全生徒に応援を義務付けている高校の圧力は伊達ではない。
お互いがアウェイの環境であるにも関わらず、
東京都立のホームグラウンドを思わせる程の重圧が、フィールドを試合する。
会場は万単位の人数が詰めかけており、席は満席、通路にも立ち見が居る状態。
とてもじゃないが、フィールドから観客席の一個人を見つけられる環境ではない。
それでも。
「あっ」
すももが思わず声を上げる。
雄真は。
すももたちの姿を捉えて。
確かに微笑んだ。
Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』
Magic39.対決!! “七賢人・目黒家次期当主”目黒竜也!!
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
大歓声の中、両チームがフィールド中央にて向かい合った。
バルーンクラッシュ決勝戦。
敵を殲滅するか、もしくは大将が身に付けるバルーンを破壊するか。それがチームの勝利条件だ。
そして。
瑞穂坂のバルーンは雄真が。
東京都立のバルーンは竜也が。
つまり。
この試合は、2人の直接対決が不可避である事を意味していた。
「初出場上で、本当にここまで来るとはな。褒めてやるよ」
「……」
小馬鹿にしたような賞賛に、雄真は沈黙で以て応えた。
「くくっ。そう邪険にするなよ。これでも本気で驚いてんだぜ?」
竜也は両手を挙げて、おどけるような仕草でこう言い放った。
「お前みたいな身の程知らずが、まさか決勝まで残るなんてな」
「っ!?」
「な、なんですってぇ〜!?」
春姫と杏璃が、その言葉に過剰に反応する。
春姫と違い、今にも飛び掛かりそうな杏璃を、雄真は手で制した。
「落ち着け、杏璃」
「なっ、落ち着けるわけないでしょ!?
馬鹿にされてんのよ、アンタ!! 何でアンタが一番冷静なのよ!!」
「試合前に手は出すな。失格になりたいのか?」
「うっ」
雄真の、予想外の冷静な言葉で。杏璃はなんとか冷静さを取り戻した。
「ご、ごめん」
「いや、俺の為に怒ってくれたってのは分かってる。ありがとな」
雄真がしゅんとなった杏璃の肩をぽんぽんと叩く。
それを見た竜也が鼻で嗤った。
「くはは。何だ、意外と冷静なんだな」
「黙れ」
どくんっ
「!?」
雄真のその一言に。竜也の両サイドに控える藤崎と大金はおろか、春姫と杏璃も息を呑む。
七賢人・次期当主に対する言葉遣いに驚いたのではない。
ほんの一瞬。
だが、確かに雄真から発せられた、その威圧とも言うべき圧力に当てられたが故だ。
冷静と言うのは、ただの勘違い。
おそらう今フィールドに集まった6人の中で、一番熱くなっているのはおそらく雄真だ。
「……へぇ」
ただ1人。
その威圧を正面から受けた竜也だけが、感心したとばかりに頷いた。
「お前は、俺が殴る」
「ははっ」
雄真の宣言に、竜也が笑う。
「無理だね。それに今この場で必要なのは、そんな陳腐な宣言じゃねぇだろ?」
右手は拳。左手は掌。
お互いを打ちつけ合い小気味の良い音を鳴らしながら、竜也はにやりと顔を歪めた。
「言いたいことがあんなら、力づくで分からせてみろ。魔法ってのは“そういうもんだ”」
「試合、始めるぞ」
キリが無い、と悟ったが故か。
竜也のその言葉に、雄真が答える前に。審判が2人の間に割って入った。
同時にオフにしていたマイクの電源を入れる。
『両チーム、フィールドの選択を』
「森林」
「平原」
見事に。割れた。
『では、コイントスで決定します』
審判がコインを取り出す。
そのコインを中心に、雄真と竜也が睨み合った。
「裏」
「じゃあ、表で」
先に選択したのは竜也。
が。コイントスにおいては先行した者が有利という条件はまったくない。
運が良いか。悪いか。ただ、それだけ。
キ―――――――ンッ
特有の甲高い音と共に、審判の指先から弾き出されたコインが宙を舞う。
おおよそ2秒にも満たないであろうその短い時間が、両チームの明暗を分かつことになる。
対・七賢人戦。前日の作戦会議にて。
雄真たちは、森林ステージにて奇襲をかけるという作戦では、勝てないという結論に達した。
理由は明白。藤崎の探知能力と大金の影縛りの魔法、そして竜也の転移魔法のコンボを恐れてのことである。
奇襲という面において。
あれほど優れた魔法コンボは無いと言っていい。
木々が生い茂り、死角の多い森林ならばほぼ無敵と言っていいだろう。
対・神威信戦で、雄真は予想以上に善戦した。
これは客観的に見た事実だ。だが、あくまで“予想以上に”というだけに過ぎない。
あと少しで勝てたかと聞けば、10人中10人が首を横に振るだろう。
雄真も、それを自覚している。
正面からぶつかれば、勝てるという見込みはほぼ無い。
もしかしたら勝てるかも、などという自惚れは持ち合わせていない。
が。もしかしたら、という要因は他にある。
竜也は、完全に雄真たちを見下している。万に一つも負けは無いと、確信している。
隙があるとすれば、そこしかない。
正面突破では勝てない。
だが、自分たちを侮っているうちに叩けば、もしかするとという展開も有り得る。
平原という見晴らしが良く、ほぼ間違いなく真っ向勝負になるであろうフィールドを選択したのはその為だ。
雄真たちは、賭けに出ることにした。
ぱしっ
審判が放たれたコインを手の甲で受け止める。
添えられた左手が、そっとその場を離れた。
『表です。よって、フィールドは瑞穂坂学園が希望した平原に決定しました』
わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
歓声の中、春姫がほっと息をつく。
圧倒的力量関係についてはなんら解決してはいないが、少なくとも相手を土俵に上がらせずに済んだ。
しかし、竜也はそうは思わなかったようだ。
「くはは、運が良いのか悪いのか」
ぽつりとそれだけ呟くと、踵を返して歩き始めた。
竜也の背に装着されたバルーンがゆらゆらと揺れる。それに藤崎と大金が続いた。
「おい、竜也……。じゃあ、俺たちは」
「ええ、先輩方は女2人をお願いします。俺は先にあの男を潰すんで」
一度だけ振り返り、にやりと笑う。
それを見て、雄真は顔をしかめた。
「……雄真君」
「ん? ああ、俺たちも移動しよう」
春姫におそるおそる声を掛けられ、直立不動で突っ立っていたことに気づいた雄真も足を動かす。
両チームが、転移魔法発動箇所まで移動した。
ヴゥゥゥゥゥゥゥン
『転移魔法を発動します』
そのアナウンスの直後。
雄真たちの姿は、順々にC会場から消えた。
パシュッ
次の瞬間。
雄真たちは平原フィールドのスタンバイ位置にいた。
前方、遥か向こうには竜也たち3人の姿がある。
遥か向こう、とはいえ。
森林フィールドのようにキロ単位で離れているわけではない。
平原フィールドは、純粋に正面激突を好むチームが選択するフィールドであり、
奇をてらい、徐々に歩を進める為のフィールドではない。
よって、両チームの距離はおおよそにして800mほど。
近・中距離を得意とする魔法使いには今一歩遠い位置ではあるが、
高校生であっても、一応魔法戦闘において不可能な距離ではない。
雄真の横に、春姫と杏璃が並んだ。
「……これがこの大会。俺たちの最後の試合になる」
2人の顔は見ずに。
あくまで前方の敵を見据えながら、雄真が口を開く。
「絶対に、勝とう」
「うんっ!!」
「もちろんよっ!!」
雄真の強気な発言に、春姫と杏璃は笑顔で答えた。
「うむ。皆落ち着いているようだな」
選手控室をそのまま陣取った瑞穂坂選手メンバー。
控え室に設置されたモニターを見据えながら、伊吹が口を開いた。
「そうね。コンディションとしては悪くない方だと思うわ。
小日向君の魔力も、大方回復していたみたいだし」
横から静香が合いの手を入れる。
「問題は、相手がどう出てくるかってことだろうけど」
「私たちの時は森林でしたからね。草原でのスタイルはまったくの未知といっていいでしょう」
幸平の発言に、小百合が頷く。
「平気よ、雄真君なら」
皆の不安を吹き飛ばすかのように、陽菜はけろりとそう告げた。
「あの雄真君が、やられっぱなしなんて。皆、想像できないでしょ?」
ビ―――――――ッ
「ラーク・ファイオン・リーク・ガイオン」
「っ!? エル・アムダルト・リ・エルス」
開始直後。
右手を天に掲げた竜也が朗々と詠唱を始めた。
それを遠方から。
それでも確かに認識した雄真が意表を突かれて、若干のタイムラグが生まれる。
まずは竜也が。
そして一拍おいて雄真の天蓋魔法が発現した。
「ラインマルス!!」
「アダファルス!!」
シュドドドドドドドドドドッ!!!!
次いで、轟音。
今試合は。
天蓋魔法による遠距離対決という、華々しい魔法戦によって幕を開けた。
その見栄えの良い戦いに、観客のボルテージも高まる。
まだ近・中距離範囲の魔法では、手も足も出ない距離。
お互いがお互いを視認し合うのも難しい距離から。
片や闇。
片や火。
両者間で、お互いの得意属性による問答無用の砲撃が交わされる。
手数はほぼ同じ。
それぞれの魔法陣から打ち出されし魔法球は、
フィールドのほぼ中央でお互いを相殺し合い、派手な火花を散らしていた。
そう。相殺されている。
これは、雄真の力量が七賢人に届き、同等の力を発揮している。
――――からではない。
恐るべきは、やはり七賢人・目黒竜也の方である。
なぜなら、同じ手数で相殺し得ているから。
雄真が、“攻撃特化”の火を使用しているにも関わらず、である。
竜也の得意属性は闇。
しかし、それでも。攻撃特化の火の威力と、何ら劣らぬ威力を発揮していた。
いや、違う。
「っ!? くそっ」
『ディ・ラティル・アムレスト!!』
バシュッ バシュッ バシュッ
火の砲撃を掻い潜った闇の魔法球が、雄真陣営を貫かんばかりに飛来する。
それをクリスの独自詠唱が防いだ。
どうやら、手数は竜也の方が一枚上手らしい。
「雄真くん!!」
「春姫たちは左右から回り込む形で攻めてくれ!! 俺は、あいつの足止めに専念するっ」
まずは、竜也以外の選手から仕留めてくれ。
雄真の言外からの頼みを、春姫と杏璃は正確に理解した。
「うんっ!!」
「すぐ片付けるわ!! それまで負けるんじゃないわよ!!」
2人が、地面を蹴ろうとした瞬間。
「えっ!?」
「はっ!?」
パシィィィンッ!!
春姫と杏璃が、拘束魔法によって体の自由が奪われた。
「うそっ!? どういうこと!?」
杏璃が叫びながら、辺りを見回す。
だが、当然のように誰もいない。
前方を見れば、藤崎と大金が、ゆっくりとした足取りでこちらへと向かってくるところだった。
「影縛りの魔法……。そんな、だって影は……」
呆然と呟きながら、春姫は自分の足元を見て即座に悟った。
ここは平原。地面には、草が隙間なく生い茂っている。
そう。草が生えるところに、“影”は生まれる。
それは、詰まるところ次のような可能性を示唆していた。
――――このフィールド全ては、大金の拘束可能範囲。
「うっ! けほっ!!」
「ぐくくっ!? まずい、まずいじゃない!!」
「っ!!」
『雄真さん!! そんな余裕はありませんからね!!』
「分かっ……てるっ!!」
一瞬。ほんの一瞬だが。
雄真の意識が竜也との打ち合いから逸れた。
それが、相手チーム・藤崎と大金への牽制球を放とうとする予備動作である事を正確に見抜いたクリスが、それを押し留める。
ただでさえ押され気味なのだ。他に意識を割いている余裕などない。クリスの判断は正しい。
が。
雄真はそこで思わぬ行動に出た。
「ウィンズ!!」
『なっ!?』
風の身体強化の発現。
天蓋魔法の効力はそのままに、雄真は自陣から敵陣へと地面を蹴った。
互いが砲撃をぶつけ合うフィールドへと、躊躇いなく突っ込む。
『雄真さん!! 貴方、自分が大将である事を自覚して下さい!! 貴方の背には――』
「こんなもん、当たらねぇよ!!」
まずは、大金。
その拘束魔法を潰さねば始まらない。
雄真が拘束されなかったのは、おそらく竜也の指示によるものだろう。
隣に居た春姫と杏璃が捕えられ、雄真が捕えられなかったのはおかしい。
だからこそ、そう考えるのが妥当。
ならば、先に潰しておかねばいつまで経っても相手の掌からは逃れられない事になる。
竜也の気分1つで、全員が戦闘不能になってしまうのだから。
雄真の読みは正しい。
フィールドを蹂躙する互いの魔法球を巧みに躱しながら、
雄真は徐々に徐々に藤崎・大金の元へと近づいていく。
一直線には駆けられない。
竜也の精密なコントロールを受ける魔法球は、実にいやらしい軌道を描いて雄真を襲っているからだ。
それでも、流石は移動術に長ける風の身体強化といったところか。
雄真はそれら全てを躱しながら、確実に距離を詰める。
「くはっ」
それを視界に収めながら、竜也は邪悪な笑みを零した。
雄真の読みに誤算があるとすれば。
――――闇の特性が不可視であることだろうか。
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