衝撃は、唐突に来た。
ズガンッ!!!!
「がっ!? あっ!!」
身体中の酸素という酸素が口から漏れ出たのでは、と錯覚するほどの衝撃が脇腹に走る。
「くぅっ……ゆ、雄真っ!?」
「ゆ、雄真っ、くんっ!!」
重力魔法によって成す術無く地に伏す杏璃と春姫は、その光景に雄真の名を呼ぶことしかできない。
雄真は突如飛来した魔法球が直撃し、真横へと吹っ飛んだ。
「ぐっ、あっ、げふっ!?」
2回3回と地面をバウンドしたところで、体勢を立て直す。
何とか地面に足を付け立ち上がった頃には、次の魔法球が眼前に迫っていた。
「げほっ!! アダファルス!!」
『ディ・ラティル・アムレスト!!』
パパァンッ!! バシィンッ!!
到底1人で捌ききれる量ではない。
いくつかの魔法球を同じ魔法球で相殺し、取りこぼしたものをクリスが防ぐ。
ワンドとの共同作業によって、ようやく立ち向かえる相手。
雄真とて。
魔法を再び手にしてから日が浅いとはいえ、
既に同年代の魔法使い候補生たちを遥かに上回る程の力を持っている事は事実。
それでも。
「くははははっ!! 必死じゃねぇか、小日向雄真ァ!!」
両手を広げ、男が嘲笑う。
雄真に魔法球を浴びせ続ける張本人は、指の動き1つで次から次へと天蓋魔法から魔法球を量産する。
大気が震える。
地面が抉れる。
一撃一撃が、重すぎる。
――――七賢人次期当主が1人。目黒竜也には届かない。
Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』
Magic40.仲間は、道具なんかじゃ――。
雄真が地面へと転がり、竜也から更なる猛攻を受けているところを確認したところで。
藤崎と大金が同時に地面を蹴った。
「っ!? 行かせるかっ!! クリス、防御を頼――っ」
ズガァァァンッ!!
言い切る前に、雄真の足元で闇の魔法球が爆ぜた。
「くそっ!?」
ドンッ!!
身体強化魔法、属性は風。
常人では成し得ない移動速度を得た雄真の身体は、一瞬にして自身を安全圏へと運ぶ。
――――はずだった。
ズガァァァァァンッ!!!!
「ぐぅっ!?」
今度は、雄真の肩口に着弾した。
フル・アーマーとして防御魔法としての機能も兼ね備えているにも関わらず、
竜也の魔法球は易々と雄真の身体にダメージを蓄積させる。
それはすなわち、1つの魔法に対する魔力濃度の違い(魔法一個の完成度とも言える)に他ならない。
「このぉっ!!」
手刀を数度振う。
無詠唱で生み出されし風の刃が、襲い来る闇の魔法球を迎え撃った。
しかし、それだけでは相殺できない。
なにせ、雄真の攻撃特化魔法・火属性の魔法球でようやく相殺できる程の威力なのだ。
雄真の風属性では役不足もいいところ。軌道を変える程度がせいぜいだった。
ただ、それだけでもそれなりの効果は発揮する。
全てが雄真目掛けて飛来するものの、
身体強化の脚力で、そして風の刃による軌道変更で、雄真の身体は闇の魔法球の嵐を紙一重で掻い潜る。
「カサカサカサカサ逃げやがって!! ゴキブリかてめぇは!!」
シュドドドドドドドッ!!!!
「うわっ!?」
今度の砲撃対象は、雄真の足元だった。
計18発の同時着弾。地面が衝撃で砕け、そこから生じた石の礫が雄真を襲う。
『エル・アムダルト・ウェンテ!!』
それを間一髪でクリスが退けた。
風を発生させる魔法で四方八方に撒き散らす。
「た、助かった!!」
『雄真さんっ!!』
クリスの声と同時に、雄真は地面を蹴り上げた。
瞬く間に空中へと自身を回避させた雄真が見たものは、
つい先ほどまで立っていた場所が真っ黒な魔法球で埋め尽くされる瞬間だった。
ズドォォォォォォォォンッ!!!!
地面が、爆発した。
「派手にやりやがるっ」
「いーんだよ、それで。俺らが狙われちゃ敵わねぇからなっ」
藤崎と大金はそう叫びあいながら、
重力魔法によって拘束された2人の魔法使いの前までやってきた。
「くっ」
「うぅ……」
「良い光景じゃねぇか。これまた見事にキマったもんだ。
ClassBとC。どの程度のもんかと思ってたが、呆気なかったな」
「……おい、あんま近づ――」
パシュッ!!
「なっ!?」
「“オープン”!! ファイナス!!」
ドゴォォォォォォンッ!!!!
一瞬だった。
大金の重力魔法が解かれて身体の自由を取り戻した春姫は、
その光景を相手が理解するよりも先に次の一手を放ったのだ。
すなわち遅延呪文。
伏している間、仕込む時間ならいくらでもあった。
発現されたのは火属性ClassAの高等魔法。
対象者は――――。
『東京都立魔法学園・大金利通。アウト』
「くそっ!? こいつら、いったいどうやって――」
重力魔法を操る大金。
これで雄真たちは影縛りの魔法から解放されたことになる。
攻撃を受け転移魔法による強制離脱準備に入った大金は、
自身の目の前で勝ち誇った笑みを浮かべる少女を見て悟った。
「そうか、お前っ……光属性の――」
パシュッ!!
そのセリフを言い切る前に、大金はフィールドから姿を消した。
そして残るは。
「お前ら、嵌めやがったのか!?」
春姫の条件起動型魔法陣に捕らわれている藤崎。
対・白戦で用いた、春姫得意の拘束魔法である。
「嵌めたのはお互い様っ!!」
春姫の手にするソプラノが、炎を纏う。
拘束魔法によって全てを封じられた藤崎に、成す術は無かった。
「この勝負っ」
「私たちの勝ちよ!!」
ドンッ!!!!
春姫と杏璃の勝利宣言と共に、放たれる魔法球。
が。
藤崎の身体を貫いたのは、別の魔法だった。
『東京都立魔法学園・藤崎友則。アウト』
「がっ……ぐっ、竜、也っ」
地面から生えし影の槍が、藤崎の無防備な腹に抉りこんでいた。
あまりの勢いのせいか、藤崎の身体は春姫の拘束魔法による束縛を引きちぎる様に、
空中へと放り出されていた。
「……え」
「なっ……」
春姫の魔法球は、誰もいない場所を通過し地面へと着弾する。
その行く末すら目で追う事無く、春姫と杏璃は呆けた声を出す事しかできなかった。
どしゃっ
空中で何回転かした後、藤崎の身体が地面へと叩きつけられる。
あまりの光景に、それをモニターで見ていた会場は愚か、フィールドの選手すら固まり沈黙が訪れた。
その中で、痛々しい声。
「が……ぁ、り、竜……也。……てめぇ」
「うっせぇよ」
ズガンッ!!!!
容赦の無い闇の槍が、地面に伏す竜也のチームメイトであるはずの男を狙う。
しかし、それが着弾するよりも先に転移魔法が発動し、
闇の槍は何もない地面へと突き刺さるだけに収まった。
「あーあ、当たらなかったか。ムカつくぜ」
草むらに唾を吐き捨てながら竜也は言う。
「女2人すら手に負えねぇなんてよ。ホント、屑もいいとこ――」
「目黒ぉぉぉぉ!!!!」
会場でモニターを凝視する観客が肩を震わせるほどの音量で、雄真が叫んだ。
身体強化によって一瞬で竜也の元へ距離を詰めた雄真が、竜也の胸倉を乱暴に掴む。
「お前っ!! 自分の仲間に何やってんだっ!!」
「あ?」
雄真の怒声に、竜也は眉を吊り上げた。
「使えない道具を始末して何が悪い」
「ふざけんなっ!! 仲間は道具なんかじゃ――」
「とりあえずよぉ」
シュドッ!!!!
「がぅっ!?」
「雄真っ!!」
「雄真くんっ!?」
身体強化によって強化された竜也の拳が、雄真の腹をまともに捉えた。
フル・アーマーは発現しているとはいえ、ほぼ無防備の状態でそれを受けた雄真の身体は、
数十メートルの単位で後方へと吹っ飛ばされる。
突然の衝撃にまともな受け身すら取ることができず、雄真は無様にも地面に転がった。
「ぐっ……げほっごほ、げぇぇっ!!」
「汚ぇ手で触ってんじゃねぇよ、愚民」
「雄真くんっ!! 」
「雄真っ!!」
「ごほっごほごほっ!! だ、大丈夫、だ」
春姫や杏璃の駆け寄って来る気配を背中で感じながら、雄真はふらつきながらも立ち上がった。
その光景に、竜也は不快そうに眼を細める。
「んだよ。やっぱこの程度じゃ退場にならねぇのか。
ったく、魔力だけはいっちょ前に持ってやがる」
「……はぁ、はぁ。お前っ!!」
「そんな睨むんじゃねぇよ、今のはサービスだ」
竜也は気怠そうに自身の背中に装備されているバルーンを数度叩いた。
「ホントなら割れたんだぜ、今。
隙丸出しで接近してくんじゃねぇよザコ。そんなに早く退場してーのか」
「っ」
その発言に、雄真は軽く息を呑んだ。
確かに、咄嗟な行為だったとはいえ褒められたものじゃない。
頭に血が昇り後先考えずに敵の元へと突っ込むなど、この競技のキングとしてあるまじき行為だ。
「あんま萎えさせんじゃねぇぞ愚民」
どくんっ
信の時と同じく。
竜也の身体から威圧とも言うべき圧力が漏れ出る。
その凄まじき魔力の奔流は、周囲の大気を容易に揺るがした。
「痛め付けて痛め付けて痛め付けて。
てめぇはぐちゃぐちゃに潰してやるって決めてんだからよぉ!!」
竜也の腕が振り下ろされる。
それに呼応するかのように、竜也の頭上で待機していた天蓋魔法が唸りを上げた。
しかし、その天蓋魔法が獰猛さを発揮するより前に。
パキャァァァァァァァァァンッ!!!!
「……あ?」
ガラスが割れたかのような甲高い音が響き渡る。
一向に効力を現さないそれに、竜也は怪訝な顔で上空を見上げた。
その瞬間、天蓋魔法が砕け散る。
「そうアンタの好き勝手させるはずないでしょ!!」
「……」
竜也は無言で声の主へと目を向ける。
杏璃は怯むことなくパエリアを突きつけて叫んだ。
「私にアンタの魔法は効かないわよ!!」
「……あぁ、影縛りの魔法を破ったのもお前だったか」
光と闇。そこにもたらされるのは、相殺だ。
「なら――」
竜也が、おもむろに左手を挙げた。
「お前から潰すとするか」
グンッ!!
「きゃっ!?」
「杏璃っ!!」
突如、雄真の隣に立っていた杏璃が見えない力によって竜也の元へと引き寄せられる。
それを目で確認してから、竜也は右手を握りしめた。形通りカウンターで決める為だ。
「ちぃっ!!」
「ゆ、雄真く――きゃっ!?」
舌打ち1つ、雄真は力の限り地面を蹴りあげた。
その反動、空気の衝撃を受けて春姫がよろめく。
それすら視界に入れる事無く、雄真は引き寄せられる杏璃とそれを待ち構える竜也の間に割り込んだ。
「ゆ、雄真っ」
「杏璃、今たすけ――」
「だぁーからよぉ!!」
ズンッ!!!!
「ごぶっ!?」
竜也の元へと一直線に飛んでくる杏璃を受け止めようと雄真が身構えた瞬間、
雄真の腹に竜也の拳がめり込んだ。
「きゃあっ!! った、くぅっ!?」
それにより、“吸収”の魔法から解放された杏璃が地面を転がる。
「何の策も無しに突っ込んで来るんじゃねぇよ愚民がァ!!!!」
ドガァッ!!!!
「がはっ!!」
『雄真さんっ!!』
雄真の手から、クリスがはじけ飛ぶ。
問答無用の膝蹴りを頬に貰った雄真は、何の抵抗も無く生い茂る草原に崩れ落ちた。
「が……あ、う」
「ははっ、いい気味だぜ小日向雄真!!」
「雄真っ!! アンタァァァァァ!!」
吼える。
転がっていた体勢から跳ねるように起き上がった杏璃が、パエリアを手に竜也へと突貫する。
その仕草を見て、竜也は面倒臭そうに髪を掻き揚げた。
「うるせぇな、1人で熱くなってんじゃねぇよ、女ァ!!」
この程度の魔法に、詠唱など必要としない。
それでも確かな威力を持った魔法球が杏璃の眼前へと迫る。
それでも杏璃は止まらない。
「あん?」
その無謀とも言える動きに、竜也の眉がピクリと動く。
理由は、直ぐに分かった。
「ディ・ラティル・アムレスト!!」
ガシャァァァァァァンッ!!!!
「なっ!?」
初めて、竜也の顔に驚きの色が混ざる。
着弾の直前、春姫の障壁が割り込んだのだ。
杏璃を狙った魔法球は、春姫の障壁によって阻まれ姿を消す。
同時に障壁も魔法球によって粉々に砕かれた。
杏璃は、止まらない。
「オン・エルメサス・ルク・アルサス――」
竜也との距離を詰めながら、杏璃は朗々と詠唱を紡ぐ。
竜也の表情から余裕の色が消えたのを見て、杏璃は自身の攻撃が決まるものだと確信した。
そして。
その驕りこそが、竜也の求めた落とし穴だった。
「エスタリア――」
「ざぁーんねん!」
ドゴォォォォォォォッ!!!!
「きゃんっ!?」
竜也の“放出”の魔法が、杏璃の身体を吹き飛ばす。
竜也は自分で作った表情を解き、再び人を小馬鹿にするかのような笑みを浮かべた。
「んな真正面からの詠唱、喰らうかボケ」
「あ、いっつ……うぅ、く」
「杏璃ちゃんっ」
地面を文字通り削りながら吹き飛ばされた杏璃は、痛みに必死で抗うかのように身体を縮こませる。
追撃を与えようと思えば十二分に可能である状況の中で、
竜也は杏璃の元へと走り寄る春姫を見てただ嘲り笑った。
「はははははははっ」
「っ、何が可笑しいんですかっ!!」
春姫にしては珍しく、本気の怒気を放ちながら叫ぶ。
それでも、竜也が怯む事など無い。
「何がって、全てがさ。ちゃんちゃら可笑しいね。
無駄な努力と熱意ほど滑稽なモノはねぇよなぁ」
「――っ」
『熱くなって戦局を見失ってはいけませんよ、春姫!!』
「うっ、ソ、ソプラノ……」
『闇雲に戦えば相手の思う壺です!!
そんなことが分からない貴方ではないでしょう!!』
ソプラノからの叱責に、春姫の無意識下で握りしめていた手が緩む。
「おーおー、優秀な“自我持ち”じゃねぇか」
欠片も感情の篭っていない棒読み口調で、竜也は手をパンパンと叩きながら評した。
そして。
ドカッ!!
「げふっ!!」
足元で転がっていた雄真の腹をもう一度蹴り飛ばす。
「雄真くんっ!!」
「ゆ、ゆう、ま……っ」
『春姫!!』
「っ、だ、だって!! このままじゃ雄真くんが――」
『だからと言って無防備に突っ込むのが最善ですか!?』
「くははっ!!」
ワンドと口論を繰り広げる春姫に、竜也が嗤う。
「お前の連れは面白れぇな、小日向雄真。
道具に戦術を諭されてるなんざ、モノ以下じゃねぇか」
「……て、てめぇ」
バキッ!!
「ぶっ!?」
「ま、お前は大人しくそこで見てろよ」
雄真の顔面を蹴り上げて物理的に大人しくさせた竜也は、春姫と杏璃の方へと目を移した。
「まずは女2人。お前の目の前で血祭りにあげてやるからよ」
励みになります。
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作品が気に入って頂けましたらお願いします。
Leica
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