「オン・サイレス・ライ――」

「遅っせぇんだよ!!」

ドガッ!!!!

「きゃうんっ!?」

「あ、杏璃ちゃ――」

「人の心配するたぁ余裕だなぁ!! えぇおい!!」

ズンッ!!!!

「――あっくぅ!?」

 竜也の足元に、2人の少女が崩れ落ちる。
どれだけ凄惨に痛めつけられても、退場を知らせるアナウンスは鳴らない。
なぜなら、緩衝魔法が発動しないギリギリのラインの攻撃を、竜也が維持し続けているから。

「……な、なん……で」

「あぁ?」

ゴシャッ!!

「かぁっ!?」

 腹に蹴りを入れられた杏璃が、地面で悶絶する。
もはや、スポーツマンシップという言葉を出す事すらおこがましい程の戦闘。

「そりゃあ何に対しての質問だ?
 あ? 属性優位の話か? それとも何で緩衝魔法が発動しないか、か?」

「けほっこほっけほ!!」

「決められたルールに従うなんざ、お前らみてぇな弱者がする事だ。
 いいか、強者ってのはな決められたルールを利用できる奴の事を言うんだよ」

「っ、はぁ、はぁ」

「勉強になったかぁ、女ぁ!!」

ガンッ!!

 再び蹴り飛ばされた杏璃が、草原を転がる。



 辺り一帯に竜也の笑い声が響いた。






Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』

Magic41.カウンター






「……はぁ、はぁ」

 鈍い痛みをいくつも身体に抱えながらも、雄真はようやく立ち上がった。
目の前では、尚も竜也による蹂躙は続く。
次々と放たれる魔法球や拳、蹴りによって春姫や杏璃はただ転がるだけ。

 ある程度予想はできた事態とは言え、あまりの惨状に雄真は痛み以上の嫌悪感で顔を歪めた。
手に、クリスは無い。何かの攻撃でとうに手放してしまっている。
いつ手放してしまったのかも分からないくらい、雄真の頭の中は朦朧としていた。

「げほっ、ごほ、ごほっ」

 湧き上がる嘔吐感を無理矢理やり過ごす。

 酸素が、足りない。

 それでも。

「はははははははははっ……あん?」

 視線は、前へ。

 両の手をあげて大声で笑う竜也が、背後からの異変に気付き振り返る。
そこには既に心身ともにぼろぼろとなった雄真が立っていた。
距離にして、おおよそ10mほど。
ワンドも持たず身体強化も発現していない現状では、竜也にとってまったく脅威にならない距離だ。

「何だぁ、お前」

 ゆらりと、竜也が首を傾げる。

「まだ立てたのかよ、えぇおい?
 お前を料理すんのは最後っつったろ。大人しく寝てろよ」

「……」

 雄真は答えない。いや、答えられない。
立つ事すら苦痛な今の状況下で、まともな応対などできるはずがない。

 雄真の身体がぐらりと傾いた。

「ぷっ、おいおい! ギリギリもいいとこじゃねぇか!!
 はははははっ!! んな身体で何しようってんだ!!」

 竜也の嘲りが一帯に響き渡る。
それも雄真の耳には届いていないだろう。
いや、聞こえていたとしても思考が意味ある音として変換できているとは思えない。

 目黒竜也を倒す。

 今の雄真の根底には、それしかない。
故に最低限の機能しか果たさぬ自身の身体では、他の事に意識を割いている余裕などないのだ。

 しかし。

「……目障りなんだよ、てめぇは」

ドンッ!!!!

「っっっっ!!??」

 竜也の元から放たれた一発の魔法球。
うめき声すら上がらなかった。
それすら避けられずそれすら言えずに雄真は、直撃し後方へと吹き飛ばされた。 何の反応も無く地面を転がっていく雄真を見て、竜也が満足気な笑みを浮かべる。

 が、直ぐに歪められた。

「……何なんだ、てめぇは」

 雄真が、立ち上がったからだ。

「何なんだぁ、てめぇは!! 寝てろよ愚民が!!」

シュドドドドドドッ!!!!

 魔法球の連射。雄真の身体や手足、足元に着弾し爆ぜる。
再び吹き飛ぶ雄真。それでも。

「てめぇ……」



 倒れない。



「いい加減に――」

パパパァンッ!!!!

 竜也の怒声が強制的に止められる。
放たれた魔法球の方へと目を向けてみれば、春姫がソプラノに縋りながらも立ち上がるところだった。
その更に奥では、杏璃がパエリアを拾い上げている。

「コイツ等、まだ……」

 諦めてないのか。

 竜也はその質問を紡ぐ前に切り捨てた。聞くまでもないからだ。

 胸糞悪い、と竜也は思った。
何もかもが思い通りに進んでいるようで進んでいない。
本当なら、とっくに泣き言を叫ばせ跪かせているはずだったのに。

「……」

 身体の奥底から沸き起こる苛立ちが、一瞬にして逆に冷えた。

「……ここまで歯向かってくるってんなら、しょうがねぇよなぁ」

 黒髪を掻き揚げながら、竜也はポツリと呟いた。
視線を雄真の方へと向ける。
既にフラフラで立っている事しかできない男。
にも関わらず、未だその眼光から諦めの色は見えない。



『小日向君なら絶対、そんな事はしないわ。絶対に諦めない』



 竜也は全てを悟った。
小日向雄真を折らない限り、瑞穂坂は止まらないのだと。

 だからこそ。

「お望み通り……」

 地面を、蹴る。

「お前から消してやるよ、愚民!!!!」

 坐して待つという今までのスタイルから一転して、今試合初めて竜也の方から相手へと距離を詰める。
右腕に魔力を集中し振りかぶったところで、予想外の場所から声が聞こえた。

『ウィンズ!!』

「あ!?」

 突如発現した風の魔法は、竜也目掛けて放たれたものではない。
咄嗟に身構えそうになった竜也だったが、その発生源を視界の端に捉えて首を傾げそうになった。

 雄真のマジックワンド・クリスが宙を舞っている。
正確には、自身の発現した風魔法によって飛ばされている。

 小日向雄真の元に。

「はははっ!! 今更死人一歩手前の主人の元へと向かってどうするってんだ!?」

 叫びながらも竜也は雄真の真正面へと着地し、振りかぶった拳を突き出した。
しかし、拳が雄真の顔面を捉えるよりも先にクリスが雄真の元へと辿り着く。

 変化は、一瞬だった。

バギャッ!!!!

「がっ……はっ!?」

 竜也の拳が虚しく空を切る。
よろめくよりも先に、雄真の拳が竜也を捉えた。

 突然の衝撃に対応が間に合わなかった竜也は、目を白黒させて草原を転がる。



 チャージされた魔法を開放するのに、詠唱は必要ない。



 竜也には何が起こったのか理解できなかっただろう。
全身ズタボロで今にも倒れてしまいそうだった選手が、
一瞬にして視界から消え気が付いたら殴り飛ばされていたのだから。

 そして、何より信じられないであろうことは。

「ぐっ、ちぃ、てめぇ!!」

 小日向雄真が、まったくの無傷になっているということ。
草むらを削りながら体勢を整えた竜也は、自身を殴り飛ばした張本人へと視線を向けて叫んだ。

「いったい、何をしやがっ――」

ドシュッ!!!!

「ごぶっ!?」

 言い終わるよりも先に、地面すれすれで迫っていた風の魔法球が竜也の脇腹に直撃する。
不意打ちにまたもや対応できなかった竜也の身体が、若干宙に浮いた。

『雄真さん、相手が動揺している間がチャンスですよ!!』

「分かってる!!」

 そうクリスに答えた時には、既に雄真の身体は竜也の真下にあった。

「っ!?」

「せやぁ!!」

シュドドドドドドドドッ!!!!

「ぐあああああ!?」

 雄真の手から生み出されし無数の風の刃が、竜也の身体を次々と襲う。
空中で回避行動を取ることができなかった竜也は、それを全身で受け止める羽目になった。

 更に。

「あああああああああああああ!!!!」

 膨大な魔力の生成・凝縮・発現・解放。

 その全てを一瞬で行えるようになった時、使用が可能となる1つの技法がある。

ズムッ!!!!

「ごぶっ!?」



 信の得意技。“インビジブル・バレット”。



 竜也の身体が、見えないハンマーで殴られたかのような衝撃を受けた。
度重なる連撃によりふわりと浮いていた竜也が、突如地面へと叩きつけられる。
その衝撃で草原に大きなクレーターが生じる。

「まだだ!!」

 先ほどとは一転して、地面を蹴りあげていた雄真は真下で大の字に倒れる竜也に対して掌をかざし叫んだ。

「“オープン”!!」

ドゴォォォォォォォォォォン!!!!



 ClassA・ファイナスが、雄真の眼前の全てを蹂躙した。






 画面がオレンジ色の炎で包まれる。
その一部始終を、観客は音も無く見据えていた。

「……う、嘘だろ」

 その信じられない光景に皆が固まる中、京帝の三井良平がポツリとそう呟いた。

「相手はあの七賢人、目黒竜也だぞ……。まさかあいつ、本当に――」

「軽はずみな発言はよせ」

「っ、あ、ああ。すまない」

 思いの外強い声色での発言に、桜井誠は一瞬肩を震わせてから答えた。
隣に座る信は、今まで京帝の面々が見た事も無いような険しい顔をしている。

「お、お兄様。もしやこれは……」

「何を勘違いしているかは敢えて聞かないでおくが、竜也は負けないぞ」

「え……?」

 信からの思慮外の断言に、空は思いがけず固まってしまった。

「な、なら……どうされたのですか?」

「……」

 空からのもっともな発言に、信は深く黙り込む。
信はしばらくの沈黙が続いた後、溜めていたものを吐き出すかのようにゆっくりと息を吐いた。

「まずいな」

「……何がだ?」

 良平の質問に、信は目を向ける事無く答えた。



「この先、竜也がちゃんと加減してやれるかって事だ」



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