両者は、同時に動いた。
雄真の鋭い一撃が、竜也の脇腹を捉える。
が、その拳を受けた瞬間。竜也の身体はぼふっと闇に帰した。
上半身が霧散する。残った下半身は、一手遅れて形を失った。
その直後、闇の塊から無数の黒い槍が飛び出す。
並みの魔法使いならばここで串刺しになって終わりだっただろう。
槍が雄真を襲うのは、それ程のスピードだった。
しかし、雄真には風と火の身体強化が纏われている。
風の力を借りた足は、雄真の身体を常人には成し得ない速度で後退させた。
加えて回避の間に合わぬ槍は、火の力を借りた拳が打ち落とす。
ガシャシャシャシャシャッ!!!!
雄真を刈り取らんとする問答無用の猛攻は、一瞬にして粉塵と化した。
ゆらりと雄真の後ろの空間がうごめく。
その異変に雄真が反応した頃には、上半身のみの竜也が拳を振りかぶっていた。
遅れて雄真が拳を突き出す。
このタイミングならば。
明らかに竜也の拳の方が、早く雄真へと届く。
無論、普通ならば、の話だが。
雄真には風の身体強化がある。
少しの遅れは、ハンデにすらならない。
竜也の拳が雄真を捉えるより先に、雄真の拳が竜也の顔面を吹き飛ばした。
ぼふっという音を立て。再び竜也の身体が実体を失くす。
ギシッ!!
耳障りな音が響いた。
先ほど雄真が破壊した黒き槍。その粉塵が無数の槍と化し、再度雄真を襲う。
ゴシャァァァァッ!!!!
それは雄真を貫くよりも先に、見えない“何か”によって地面に叩きつぶされた。
不可視の弾丸・“インビジブル・バレット”だ。
直後。
雄真の身体から、思わず手で顔を覆いたくなるような熱風が吹き荒れる。
雄真へと纏わりついていた闇が、一気に四方八方へと吹き飛ばされた。
七賢人による、一方的な搾取は終わりを告げていた。
拮抗。
雄真は確かに、目黒竜也と拮抗した戦いを見せていた。
Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』
Magic44.お前に足りないもの
うおおおおおおおおおおおおおっ!!!!
静寂に包まれていた会場は、再び熱気を取り戻していた。
「みっずほざか!! みっずほざか!!」
「雄真!! 雄真!!」
「英雄!! 英雄!!」
「こーひなた!! こーひーなた!!」
その全てが瑞穂坂サイドのコール。
内8割は雄真個人に向けてのものだった。
東京都立サイドは、何とも言えぬ沈黙が漂っている。
それも当たり前かもしれない。今フィールドで戦っている竜也は、先ほど自分の仲間に手を出したのだから。
その1つの要因が、会場の雰囲気を2つに分断していた。
瑞穂坂サイドは、溢れんばかりの応援を響かせている。
「兄さん……兄さん……」
その中でただ1人。
雄真の妹、すももだけが祈るように掌を擦り合わせていた。
隣でその異変を感じ取った、準とハチがすももへと目を向ける。
大丈夫か、と叫んだのだろうか。
大歓声の中では、例え隣の席であろうと個人の声は聞こえない。
それでも。すももはニコッとほほ笑んだ。
兄さんは、大丈夫ですよ。と。
「ああああああああああああっ!!!!」
「らあああああああああああっ!!!!」
ゴシャッ!!!!
地面が隆起する。土砂が舞い上がる。
青空は、黒煙と闇で覆い尽くされていた。
両者一歩も譲らぬ接近戦は、フィールドを瞬く間に荒地へと変えていく。
余波だけで人を殺せる。
もはや2人はその領域にいた。
「い、い、か、げ、んっ!! くたばれやコラァァァァ!!!!」
シュドドドドドドドッ!!!!
竜也の掌から、無数の槍が飛び出す。
それは雄真のいない地面を一直線上に吹き飛ばした。
「くそっ!! ちょこまか動きやがってぇぇ!!」
振り返ったところに、既に雄真はいた。
奇襲をかけようとしたところで、どうやら足を滑らせたらしい。
最初の時のように吹っ飛びこそしなかったものの、スピード戦闘においてそれは致命的な間となった。
「ははっ!! コントロールはあと一歩ってかぁ!?」
竜也は嘲りながら左手をかざす。
“吸収”の魔法が発動した。
「っ!?」
ぐんっ、と。
雄真の身体が見えない何かに引き寄せられる。
「どれだけ早かろうが無駄だ!! これで仕留める!!」
左を突き出したまま、右を握りしめる竜也。明らかな迎撃体勢。
それを雄真は冷めた目で見据えていた。同じように左手を突き出す。
瞬間。
ゴオォッ!!!!
その掌から、直視できぬ程の熱気を携えた火球が生まれた。
「――っ!? ちぃっ!!」
それを見た直後、竜也が右手を突き出す。
即座に“反射”の魔法に切り替えられた結果、火球は雄真へと直撃した。
ドガァァァァァァァァァァンッ!!!!
「ひゃはぁっ!! ざぁーんねぇーんっ!!」
嗤いながらも、竜也は冷や汗を拭わずにはいられなかった。
“吸収”魔法を攻略された。
自身の手元へと吸い寄せるだけの魔法。
故に強力な効果を発揮するそれにも、弱点はある。
それは、対象から攻撃魔法を放たれてしまった場合。
一度対象物を選択してしまうと、吸収をキャンセルしない限り次の対象物は選べない。
そして、対象物が攻撃魔法を発現してしまうと、“それも対象物の一部”と判断され吸収の対象となってしまう。
吸収する魔法を回避する事はできない。
なぜなら自分の元へと引き寄せているのだから。
あれだけの魔力を込められた火球が左手に直撃していたら、流石の竜也でもただでは済まなかっただろう。
もう、雄真相手に吸収は使えない。
そう考えた直後、目の前で火球が真っ二つに裂けた。
中からは、雄真。
状態強化を掛けたのだろう。
ワンドによって火球を切り捨てた雄真は、身体強化の力を借りて、真っ直ぐに竜也へと突進してきた。
「くそがっ!!」
ズッ……!!
竜也が虚空へと手を伸ばす。
自身を包み込む闇から、棒状のものが突き出した。
それを目で捉える事無く手で掴む。
先端の側面四方向に、透き通った玉がはめ込まれただけの真っ黒な杖。
竜也のマジックワンドだ。
「せやぁっ!!」
ギィィィィィンッ!!!!
無詠唱で状態強化が掛けられた竜也のワンドが、クリスを迎え撃つ。
ギィン!! ガッッガンッ!! キキィンッ!!
目に見えぬ高速の打ち合い。
素人では何合切り結んでいるのかも把握できぬ超高速戦。
「こっちがお留守だぜぇ!? 愚民!!」
ドガッ!!!!
「ごぶっ!?」
竜也の片足が無くなっていた。
否。
雄真のみぞおちにめり込む膝。
竜也は、片足だけ転移していたのだ。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!!
フル・アーマーでなければ、木端微塵。
それほどの破壊力を身体に受けた雄真は、フィールドを横断するかのように数十m先へと吹っ飛ばされた。
水柱ならぬ砂柱があがる。
高く高く。
空へと届かんと伸びる砂柱が、フィールドに砂の雨を降らせる。
無論。
実体の無い竜也の身体は、その全てが貫通するだけなのだが。
「くははっ! その身体の可動範囲が攻撃範囲である限り、俺には勝てねぇよ!!」
ドザァッ、と地面へ土砂が降り注ぐ音をBGMに、竜也が両手をあげて大仰に叫んだ。
その先で、雄真は――――。
再び砂に埋もれていた雄真は、聞き覚えのある声によって意識を取り戻していた。
雄真の周囲のみが、砂からの浸食を受けていない。
クリスが咄嗟に障壁を展開したおかげだった。
『雄真さん、いつまで……寝ているつもりなんですか』
「……」
冷たくも、どこか温かな声が身体に染みわたる。
『怒りに身を任せて突貫するなど、もっとも……愚かな行為ですよ。
例え今ほどの実力が無かったとしても。
まだ……、まだ信さんと戦っていた、貴方の方が素敵でした』
「……う、ん」
頷くだけで激痛が走った。
知らぬ間に、自分はここまで自身の身体を酷使していたらしい。
震える声で語りかけてくるクリスの言葉を聞きながら、ようやく雄真はそのことに気付いた。
『怖いのです、雄真さん』
震える声で、クリスは言う。
『貴方の力が、いったい……どこに向かっているのか』
「……」
雄真は言葉に詰まった。
何と言っていいか分からなかったから。
『こんな無茶を繰り返していたら……。
いつかは、本当に死んでしまいますよ……』
「……」
大袈裟な、とは思わなかった。
雄真自身、その自覚があったからだ。
我を失う魔力の暴走。これが普通の状態であるはずがない。
『お願い、します』
クリスが、掌の中で震える。
『どこにも……行かないでください。
物である私にも、友達になりたいと言ってくれた、
……あの時の……あの時の貴方でいてください』
人だったら泣いていたのかもしれない。
そんなクリスの告白は、雄真の心の奥深くまで抉りこんだ。
だからこそ。
「物、なんかじゃない」
『……え?』
ちゃんと応えなければ。と、雄真は思った。
「お前は、俺の相棒だ。物なんかじゃない、……俺の、大切なパートナーだよ」
『っ』
今度はクリスが詰まる番だった。
『雄真、さんっ』
「悪かったな、心配かけて。大丈夫。俺はどこにも行かないよ」
手足を乱雑に投げ出したまま、雄真は言う。
「だから、一緒に戦ってくれ」
『……今まで、私の言葉を聞かずに好き勝手やっていた人がよく言います』
「は、はは……。それ言われちゃうと弱いなぁ」
痛みを堪えながら、雄真は引きつった笑いを漏した。
『雄真さん』
「ん?」
『あの時、私が貴方に言った事を覚えてますか』
「……」
あの時とは、どの時だろうか。クリスからは何度も助けられたし、教えも乞うた。
それでも。
今問われている言葉は直ぐに頭に浮かんできた。
『だから私は決めたんです。
その指輪の意志は、私が継ぐと。
貴方を生涯支えるパートナーになろう、と』
「……ああ、覚えてるよ。しっかり」
雄真は目を閉じながら、噛み締めるようにそう呟いた。
『なら、私の答えは1つです。行きましょう』
「ああ、行こう」
痛みで悲鳴を上げる両手足に力を入れる。
ギシッ!!
身体強化魔法はまだ生きている。
雄真の周囲を覆う障壁が、雄真の内側からの圧力で軋んだ。
『“チャージ”は使いますか?』
「いや……、いいよ。
多分、上でも俺を待ってくれてる人がいるから」
『ふふ……。そうですね』
雄真の返答に、クリスは柔らかく微笑んだ。
「クリス」
『はい』
「勝とう。あいつに」
『ええ!!』
ドォォォォォォォォォォンッ!!!!
再び砂柱があがる。
その光景を見た竜也は、露骨に顔をしかめた。
「……まぁだ生きてんのかよ。ホント信じられねぇ」
黒いマジックワンドをクルクルと手で弄びながら、竜也は砂柱のあがる中心部を睨みつける。
そこで、気付いた。
その中心部に、雄真がいない。
「……あ?」
ふとした、違和感。些細な変化。
それを敏感に感じ取った竜也が、上を向く。
雄真はそこにいた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「うっおっ!?」
シュドドドドドドドドドドッ!!!!
全てを燃やし貫かんとする火の矢が、竜也の立つ場所へと殺到した。
属性同調を使っている竜也の身体なら、避ける必要などない。
しかし、雄真から発せられた圧力を前に、竜也は本能的に回避の姿勢を取った。
その一瞬の隙を突いて、雄真が竜也の懐へと潜りこむ。
「せやっ!!」
「ちぃっ、らぁっ!!」
ギィン ギンッ ガン ガガガッ!!!!
ワンドとワンドが交錯する。
雄真が放った大振りと交わる事を避けた竜也が、バックステップで間合いを取った。
「お前、マジックワンド持ってたんだな」
「ああ? 当たり前だろうが。
持たずに成立してる家系なんざ、信さんとこの一族だけだろ」
「何で最初から出さなかった」
「出す必要がねぇと思ってたからな」
「そうか。そのワンドの名前は?」
「名前ぇ?」
雄真としてはおかしな質問をしたつもりは無かったのだが、竜也は小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
「くはっ。名前なんて付ける必要あんのか?」
「……なに?」
「しょせんはワンドだぜ? 壊れたら代用できるだけの消耗品だろうが」
「……そうか」
雄真はクリスを構え直した。
その姿勢を見て、竜也が目を細める。
「お前、さっきとは打って変わって慎重になったじゃねぇか。
どうした、今更ながら俺が怖くなったのか?」
「……」
せせら笑う竜也を前に、雄真はゆっくりと息を吐き出した。
「……不思議な気分だ」
「あ?」
「お前の脅威は何1つ変わってない。
属性同調、凄い魔法だ。ワンドを使った槍術も凄い。黒い槍も、吸収の魔法も。
全てが俺にとって脅威的な魔法だ。……それでも」
雄真は一呼吸おいて、竜也を正面から見据えた。
「どうしてかな。今のお前には、負ける気がしねぇよ」
その言葉に、竜也の頬がヒクついた。
一瞬の静寂。
そして。
「逆上せ上るなよ愚民がァァァァァァァァァ!!!!」
ドンッ!!!!
闇が、吹き荒れた。
竜也を中心として、どす黒い何かがフィールドを蹂躙する。
槍ではない。そんな一直線に伸びるだけの代物ではない。
もっと別のものだった。鞭のようにしなり、ゴムのように伸びる。
それに触れた草は、一瞬にして霧散した。
木も、土も。どんなものも等しく、同じ末路を辿る。
竜也の絶叫と共に広がるその光景は、まさしく地獄そのものだった。
対して。雄真は。
「お前に、足りないものを教えてやる」
ダンッ!!
躊躇いなく、地面を蹴った。
身体強化を纏いし雄真の身体は、一蹴りで凄まじいスピードを生み出す。
一瞬にして竜也の闇の中へと潜りこんだ。
風が、火が。闇と激突する。
しかし。
「はっ、はははぁっ!! 無駄無駄無駄ァ!!」
じゅわっという嫌な音と共に、雄真の風は黒色に染まった。
雄真の火は腐ったように鎮火した。
闇の勢いに押された雄真の足が、止まる。
「おしまいだ、愚民っ!! 闇の前では、全てが無力なんだよ!!」
周囲を闇に取り囲まれた雄真を見て、勝ち誇るように竜也が叫ぶ。
それを耳にした雄真は、ニヤリと笑った。
「っ!? 何がおかし――」
「気付かなかったのか?」
パァァァァァァァァァァッ!!
「なっ!?」
竜也が驚愕の表情を浮かべる。
自身を中心としてどす黒い闇に包まれていたはずのフィールド。
それが、雄真を中心として再び元の色を取り戻し始めていた。
草は草に。土は土に。木は木に。
生き返ったわけではない。元の荒野に戻っただけだ。
それでも。侵食したはずの闇が打ち消されていた。
「何で属性同調していたはずのお前の腕を、この俺が掴めたのか」
「な、何だっ!? これはっ!?」
慌てたように辺りを見渡す竜也。
だが、何か別の要因が緩衝したわけではない。
あくまで変化があるのは雄真の周囲だけだ。
「何で属性同調していたはずのお前の顔を、この俺が蹴り飛ばせたのか」
ダンッ!!
雄真が再び地面を蹴る。
「く、くそっ!!」
それを見た竜也が、迎撃の為にワンドを振り上げた。
ぼふっ!!!!
「なっ!?」
竜也のワンドを握る腕が、振り下ろすよりも先に後方へと吹き飛ばされ実体を失う。
何の事は無い、雄真の、ただ風を発現させるだけの魔法。
しかし、それは確かに竜也の迎撃する手段を失わせた。
敵の攻撃を受け流すための特性が、仇となった瞬間だった。
「歯、喰いしばれよ……!!」
「っ!?」
その声は、竜也の直ぐ真下から聞こえた。
竜也が視線を下に向けた頃には、既に雄真は拳を振りかぶっていた。
「お前は!! 魔法を!! ワンドを!! 仲間を!! ただの道具としか捉えてない!!」
「ああ!? ふざけん――なっ!?」
雄真を背後から襲おうと瞬時に転移させた竜也の腕が、一瞬にして霧散する。
竜也のワンドが支えを失って地面へと落下し、虚しく2度、3度と跳ねて止まった。
その後に残った、キラキラと輝く、光。
「――っ!! そうか!! てめぇのワンド、“特異属性”持ちか!!」
「お前に足りないものは――!!」
雄真が、拳を振り抜く。
「ひっ!? よ、よせっ!!」
「信頼だ!!!!」
雄真の拳が、竜也の顔面を正面から捉えた。
励みになります。
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