夏休み。
式守の秘宝を巡った瑞穂坂学園での大規模な魔法戦闘。

 誰もが必死に戦った。
誰もが自分のやるべき事をまっとうした。
その結果が、あの勝利へと繋がっている。

 それでも。
本当の立役者が誰なのかは、考えてみるまでも無い。



 小日向雄真。



 魔法は遠い昔に捨てたと言った。
それからずっと触れて来なかったと言った。
その少年は、伊吹の時も新橋恭介の時も、最前線で活躍した。



 天才。



 MoL・御薙鈴莉の才能を色濃く受け継いだ少年。
他の誰かが雄真の代わりを出来たかと問われれば、当然それはNoだろう。

 でも。

 沙耶は雄真の活躍は、その才能が故のものだとは思っていなかった。



『友達が困ってるから助ける。友達が傷付けられたから怒る。理由なんて、それで十分だ』



 雄真はそう言った。
沙耶はそれを聞いて、敵わないと悟った。
彼の進む先は、どこまでも真っ直ぐでどこまでも真っ白な道なのだと感じた。

 そして、気付いた。

 自分はいつから、できるる事とできない事を差別化し、明確化し、取捨選択をしていたのだろう。

 いつから自分はできないと決めつけ、挑戦する事を諦めていたのだろう、と。

 それが、きっかけ。
自分の考える長所が間違っていたとは思わない。
自分の感じる苦手分野が間違っているとも思わない。
けれど、まだできるはずだ。

 雄真だって、初めからできたわけじゃない。
その大きすぎる才能の大半は、まだ眠ったままだという。
その不安定な実力でも、雄真は絶えずベストなパフォーマンスを発揮してきた。

 重要なのは気の持ちようなのだと。

 大切なのは諦めない事なのだと。

 沙耶は決心する。
パートナーに任せきりにはもうしない。

 自分も、前線に立つ。

 自分も、攻撃魔法を操って見せる、と。






Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』

Magic49.上条兄妹、猛攻!!





「瑞穂坂は、ダークホースが多すぎるな」

 信は目の前で展開される光景を見て、そう評した。
隣で白が静かに頷く。白もまったく同じ感想を抱いていたからだ。



 疾風迅雷の型。



 伊吹の従者・上条信哉はこの技をそう命した。
そして、これ以上ない命名であると白は思う。

 周囲にあるもの全てを吹き飛ばさんと猛威を振るう風。

 それに纏わりつき、近付く者全てを焼き払わんとする雷。

 本来交わる事の無いはずの異なる属性。

 その2つの属性が、1人の魔法使いの身体で協調している。



 属性協調。



 信の操る超高難度魔法・ClassS『アエギル』に匹敵する魔法技法。
普通の魔法使いでは、生涯に渡り辿り着けないであろう領域。

 雄真のように、火事場の馬鹿力で至ったのではない。
信哉は、それがさも当然であるかのように、自力でその領域に足を掛けていた。

「動かないってのは、無理かもな」

 苦笑いをしながら信はそう漏らした。
その言葉に白が下唇を噛む。

「そう腐るな」

 口にせずとも白の気持ちが分からないほど信は鈍くない。
悔しそうな顔を隠すように俯いた白に、信はそう言葉を掛けた。

「属性協調に対抗できるのは、同じく協調を扱える者、もしくは属性同調に至った者だけだ。
 それだけあの技は次元が違う」

「……存じてます」

 絞り出すような声で白が答える。
それと同時に、信が一歩を踏み出した。



「俺がやろう」






 身体を駆け巡る風と雷。

 異なる属性を完全に飼い慣らした信哉は、一歩を踏み出した信を見て目を細めた。

「素晴らしい。卓越した魔法技能と戦闘技術、賞賛に値する」

 パチパチと、言葉通り惜しみない賞賛と共に手を鳴らす信。
信哉は無言で風神雷神を構えた。

 それに信は1つ頷く事で応える。
今までそのほとんどが受け身であった信が、ゆっくりと構えた。

「相手になろう」

「っ」

ガカァァァァンッ!!!!

 轟音と共にフィールドが隆起する。
信哉が信を目掛けて地面を蹴った。

 それだけ。

 移動の為に踏み込んだだけで地形が変わってしまう程の身体強化魔法。

 先の戦いで雄真が至った、身体強化魔法の極み。

「はああああああああああ!!」

 一瞬にして肉薄した信哉が、掛け声と共に風神雷神を一閃する。
それを“インビジブル・アーマー”を纏っているにも関わらず、信は躱した。

「せいっ!!」

「ふっ!!」

 直後の回し蹴りを、信哉は上半身を屈める事で回避する。
そしてそう避ける事は予想していたと言わんばかりに、信は呟いた。

「“インビジブル・バレット”」

「あああああああああ!!」

ズパァァァァァァァンッ!!!!

 不可視の膨大な魔力の塊は、信哉を地中深くに沈めるより先に真っ二つに斬り裂かれる。
己の役目を全うする事無く、信の魔力が霧散した。

 振り上げた風神雷神を信哉はそのまま信へと振り下ろす。

「へぇ、やるじゃないか。この程度では牽制にすらならんか」

ガカッ ガガガガガガガガガガガガガッ!!!!

 片眉を吊り上げてそう口にする信の顔は、未だ涼しげだ。

バチッ チッ!!

「むっ」

 その些細な音の変化を、信は敏感に感じ取る。片腕を信へと向けた。

「“インビジブル・バレ――」

「遅いっ!! 雷神の太刀ィィィ!!!!」

ガシャァァァァァァァァッ!!!!

 ガラスが割れたかのような甲高い音と共に、風神雷神の刀身が不可侵の領域へと侵入する。
それを信は身を翻す事で辛うじて躱した。

 雄真が目標とし、死力を尽くしてようやく辿り着いたその領域。



 信哉の技量を以てすれば、それはこうも容易く実現される。



ドガァァァァァンッ!!!!

 対象である信を逃した刀身が、そのまま地面へと叩きつけられた。同時に爆発。
しかし、それによって体勢を崩すような生半可な鍛え方を信哉はしていない。
 回避し、体勢の不安定な信にそのまま突っ込んだ。

「ちぃっ」

 信の顔に初めて焦りが生まれた。

「せやぁっ!!」

「はぁっ!!」

 風神雷神を避けきれないと判断した信は、迷わず左腕を振り上げた。
刀身に触れる事は得策ではない。
風神雷神には、未だに眩い雷が這い回っている。
信が狙ったのは、風神雷神を握る信哉の腕。

「むっ!?」

 属性協調により風と雷、その両方を纏わせている信哉の身体は、
本来触れるだけで重傷を負わせられるだけの力を宿している。

 しかし、それはあくまで並みの魔法使いの話。

 信には“インビジブル・アーマー”がある。

パァァァァァァァンッ!!!!

 対極の力を有する磁石のように、弾かれるように両者はその場から吹き飛ばされた。

 地面を削りながら距離が開く。

「信様っ!!」

「やるな、性能は奴の方が上か」

 慌てて駆け寄ってくる白を制し、遅れて発火した魔法服を左肩部分から破り捨てながら信が笑った。

「ご無事で!?」

「問題無い」

 露出された腕を見せ、信は言う。
確かに纏う魔法服は燃えたものの、信の身体には傷1つ無かった。

「まさか、信様の“インビジブル・アーマー”をこれほどまでに容易く……」

「お前と同じさ。俺も同調しているわけじゃないからな。予想外と言う程ではな――っ」

「きゃっ」

 言い終える前に、信が白を突き飛ばす。
たった今。今の今まで2人が立っていたところに、風神雷神が振り下ろされた。

ドガァァァァァァァァァンッ!!!!

 シャレにならない程の爆発が起こる。

「悠長に会話する時間など与えぬっ!!」

「うおっ!?」

 狙いは言うまでも無く信。
反対側に転がった白には目もくれず、信哉は後退した信へと突貫する。

「くっ!! 信さ」

「警戒が薄れましたね、児玉白さん」

「――――っ!?」

 突如響く、沙耶の声。

「か、身体が、……こ、れはっ」

「幻想詩・第四楽章、『懺悔の檻』」

 鉛のように重くなる、身体。白が声の主を睨みつける。

「私が居る事も、お忘れなきよう」






「はぁぁぁぁっ!!」

 一振り、二振り。

 信哉から繰り出される連撃を、信は冷静に見極め、躱す。
風神雷神が1つ振られる度に2人の周囲に及ぼさる被害は甚大だ。
地面は抉れ、削られ、吹き飛ばされる。

 安定しない足場の中で最小限のステップを踏みながら、信は目を凝らす。
信哉の剣技、その一瞬の隙を探して。

 しかし。

「やるなっ。無駄の無い、洗練された動きだっ!」

「お褒めに預かり光栄だが、結果が伴っておらんっ!!」

 大振りの一振りで、信の後方のフィールドが横一直線に吹き飛んだ。

「“インビジブル・バレッド”!!」

「甘いっ!!」

 その一瞬の隙を突き、信が不可視の弾丸を発動させる。
が、その一撃すらも信哉には届かなかった。

「うおっ!?」

 背後からの一閃を察知し、信が辛うじてそれを回避する。

 雷と風。

 その2つの力を強調させた信哉の速力は、信の想像を遥かに凌駕していた。
残像すら見えるその回避性能には、流石に信も苦笑するしかない。

「これはっ、なかなか、きついなっ」

 攻撃に転じられない。先ほどから回避一辺倒だ。

 それもそのはず。

信哉の剣技には隙らしい隙が見当たらないし、仮に見つけても今のように超人的な回避性能が攻撃を許さない。

 信の左腕は、傷こそ負わなかったものの、今でも痺れを残している。
これは雷の付加効力。触れる事すら許されぬ身体強化魔法。

 それだけでも十分に厄介な代物なのに、風の力まで纏われているときた。
“インビジブル・アーマー”の効力のおかげで多少の接近は許されているものの、
ひとたび踏み込めば凶悪な風の刃が信の身体を切り刻むだろう。

 それは先ほどの一撃で実証済みだ。
風は雷の効力と同調し合い、信の魔法服を発火させた。
風の刃に雷の力が乗り“インビジブル・アーマー”では防ぎきれなかった熱量が炎として具現化したのだ。

「はぁぁぁぁぁぁっ!! せやぁぁぁぁっ!!」

 雷神の効力を有したまま、ワンドは振るわれる。

 一撃一撃が、命すらも刈り取れる一振り。

 信の魔力容量を考えれば緩衝魔法こそ発動しないだろうが、痛手を負うであろう事は間違いない。
“インビジブル・アーマー”では防ぎきれないのだから。

 そして防御には風神と雷神の両方が宿っている。

「冗談きついな、まったく……」

 そう呟きながらも、信は不可解な点を見つけていた。

(協調してからというもの、ペースが異常なまでに上がっているな)

 無論、物理的な速さが格段に上がっている為、それは当たり前のことではある。

 が、それでも。

(単調、とまではいかないが、向こう見ずな接近術が目立つ。焦ってるのか?)

 自分が手に入れた流れを断ち切られる前に倒しておきたい。そう考えているのか。
信哉の表情からは、その答えを読み取る事ができない。

 それでも信は、そうではないと直感が告げていた。

(……だとすると)

 それが、突破口となる。

 信哉の連撃を躱しながら、信は密かにそう確信していた。






 不快な気怠さを感じながらも、白は沙耶と向かい合いながらゆっくりとロッドを構えた。

「懺悔の檻をその身に受けておきながら、なおも衰えぬその戦意に賛辞を送ります」

「……光栄ですが、お忘れではないでしょうね」

「何をですか?」

 傾きそうになる身体へ鞭打ち挑発的な言葉を発する白に、沙耶は首を傾げる。

 白は大きく息を吸うと、

「私が近接術の使い手だという事をですよ!!」

 重い身体を無理やり動かし地面を大きく蹴り上げた。
信哉との近接戦時に比べれば、格段に遅い。

 しかし、それでも身体強化魔法の効力が消えているわけでは無い。
沙耶には捌けない。それだけのスピードを以て白は沙耶へと肉薄する。

 ただし、“今までの沙耶には”、であるが。

 勢いよく接近してくる白に対して、沙耶が人差し指を向ける。

 直後。

「何をするおつもりで!? 空からの魔法矢ならば、もう間に合いませ――」

 ガクンッ、と。

 白の身体が力を失くしたかのように崩れ落ちた。

「――えっ!?」

 踏ん張りの効かなくなった白は、身体強化によって得ていたスピードを殺し切れない。
沙耶の真横を転がるように通過してそのままフィールドの壁へと激突した。

「がっ、あっ!?」

 身体を襲う鈍い痛みに、白はそのまま倒れ込む。

「く……、これは、いったい」

 沙耶はサンバッハを軽く振りながら口にした。



「幻想詩・第6楽章『告解の祭壇』」



励みになります。
個人情報登録等は一切ございませんので、
作品が気に入って頂けましたらお願いします。
                      Leica

『小日向雄真と七校対抗魔法大会』に戻る

『Happiness story』に戻る

『小説置き場』に戻る

『A Fateful Encounter』のトップページに戻る