日本には7つの龍脈が張り巡らされている。
宮城・千葉・東京・神奈川・静岡・愛知・京都である。

 かつて、強力な魔力と権力を持つ一族たちが、その地を統治した。
後に言う『七賢人』の誕生だ。

 それまでは『日本魔法協議会』こそが日本の魔法社会を統制する組織であったが、
この七賢人の台頭によって、一部の権限が譲渡された。

 七賢人は、それぞれが統治する地に、学び舎を建てた。
今後の日本魔法社会を発展させていくため、というのが表向きの理由。
実際は、自身への抵抗勢力が誕生しないようにする為。
目の届く位置に設置してあった方が、早いうちから芽を摘めるからである。

 ともかく。
こうしてそ上記の県にのみ、魔法学校は設立された。
中学・高校、そして大学。その全てが上記7県にそれぞれ存在する。

 七校対抗魔法大会は、『権議会』と呼ばれる七賢人の会合を除けば、
7県を魔法関連の行事で繋ぐ唯一の大会となる。

 中学では、この大会は行われない。
なぜなら、そのほとんどの生徒が競える程の魔法を扱えないからである。

 開催されるのは、高校と大学のみ。10月の始めに高校。12月の始めに大学。
どちらも開催期間中はお祭り騒ぎとなるが、やはり大学対抗戦の方が盛り上がる。
大学ではどの生徒も使える魔法式が多い上、所得資格の平均がClassC〜B。
魔法に馴染みのない人であっても、十分に楽しめる催しとなるからだ。

 しかし、今年の七校対抗魔法大会・高校対抗戦は、一味違った空気を醸し出していた。
それには当然、七賢人の次期当主全員に参加資格があるという、
前代未聞の事態が関係しているという事は、いまさら言う必要も無いだろう。






Happiness story『小日向雄真と七校対抗魔法大会』

Magic6.オーダー






「雄真」

「ん?」

 声がした方に振り返る。
そこには杏璃と春姫、そして小百合が居た。

「あ、では。これで失礼します」

「お話し楽しかったです。また、お願いします」

「うん。こちらこそ。明日からの大会。頑張ろう」

 そう言って、今話していた女の子たちと別れる。
その様子を見て、杏璃がジト目を向けてきた。

「アンタって、本当に節操無しよね」

「おいおい。交流を図れって言ったのそっちだろ?
 それに声を掛けてきたのは向こうからだ」

 杏璃の言葉に肩を竦めて返す。

「だいぶ慣れてきたようね。
 私なんてまだ緊張しちゃってるのに。
 流石は小日向君だわ」

「………何が流石なのかは聞かないでおこう。
 けど、俺だって緊張してるぞ。
 さっきなんて声震えてたせいで笑われたんだからな」

「あはは。それ私もあったわ」

 小百合と笑いながら失敗談を話していると、春姫から1枚の紙を差し出された。

「雄真くん。これ」

「ん?」

 受け取って目を通してみる。そこには、こう書かれていた。






≪七対抗魔法大会・高校対抗戦タイムスケジュール≫

本大会は7日間に渡って行われます。
以下にその時間割を記します。
但し、競技の進行状況によって開始時間が前後する場合がございます。
時間には余裕を持って行動して下さい。

●1日目

立食パーティー
オーダー発表
※オーダー発表は立食パーティとは違い、自由参加ではありません。

●2日目
開会式(9:00〜9:30)
ターゲットアタック 1回戦(10:00〜13:00)
バルーンクラッシュ 1回戦(14:00〜16:00)
ダブルス      1回戦(17:00〜19:00)

●3日目
ターゲットアタック 2回戦(9:00〜11:00)
バルーンクラッシュ 2回戦(12:00〜13:30)
ダブルス      2回戦(14:00〜15:30)
フライングキャッチ 予選 (16:00〜17:00)
シングルス     1回戦(18:00〜20:00)

●4日目
ターゲットアタック 3回戦(10:00〜11:30)
バルーンクラッシュ 3回戦(12:00〜13:30)
ダブルス      3回戦(14:00〜15:30)
シングルス     2回戦(16:00〜17:00)

●5日目
ターゲットアタック 3・4位決定戦(10:00〜11:00)
バルーンクラッシュ 3・4位決定戦(12:00〜13:00)
ダブルス      3・4位決定戦(14:00〜15:00)
シングルス     3・4位決定戦(16:00〜17:00)

●6日目
ターゲットアタック 決勝(9:00〜10:00)
バルーンクラッシュ 決勝(11:00〜12:00)
ダブルス      決勝(13:00〜14:00)
フライングキャッチ 決勝(15:00〜16:00)
シングルス     決勝(17:00〜18:00)
閉会式(18:30〜19:00)

●7日目
立食パーティー(10:00〜12:00)
解散



以上。






「うわぁ。バルーンクラッシュとダブルスは連戦かぁ」

「ゆ、雄真くんっ!! しーっ!! しーっ!!」

「あ、ごめん!!」

 慌てて口を塞ぐ。
きょろきょろと辺りを見回すが、どうやら聞かれてはいなかったらしい。
ほっと息をついた。

「アンタねぇ」

「わ、悪かったって」

 杏璃からの怒気を正面から受ける。それをやんわりと春姫が制した。

「各校のオーダー、そしてトーナメント発表はそろそろだし、
 今更雄真くんが出る種目を聞いても遅いと思うよ」

「そーゆー問題じゃないわよ。まったくアンタ本当に考えなしなんだから」

「………まさか杏璃からそんなことを言われる日が来ようとは」

「死にたいらしいわね?」

 杏璃がパエリアに手を伸ばしたところで、

『お待たせ致しました。
 これより、各校の選手・出場種目のオーダーと、
 大会における対戦トーナメントを発表致します』

 スピーカーから、若い男の人の声が響いた。

「命拾いしたわね」

「そ、そうですね」

 杏璃からギロリと睨まれる。

「先輩たちのところへ行きましょう」

「そうね」

 4人で瑞穂坂メンバーが揃っているところへと向かう。

「来たか」

「始まるわよ」

 幸平と静香に目が合い、軽く頭を下げると会釈で返される。
2人に倣って、会場前方のステージに目を向けた。

『初めまして。私は日本魔法協議会の協議員・三島誠司と申します。
 今大会の責任者を務めさせて頂きます』

「あ―――――っ!? あの人、ひほ―――――!?」

どっすぅ!!!

「はうっ!?」

 杏璃が突然叫んだ、と思った次の瞬間には、
伊吹のビサイムが杏璃の横腹に突き刺さっていた。

「馬鹿が!! その単語を口にするでないわ!!」

 伊吹が杏璃の耳元で怒鳴りつける。

「申し訳ございません。
 どうやら大会を控えて錯乱しているようです。
 もう大丈夫なようですので、続きをお願いします」

 小雪が一歩前に出て、頭を下げる。あんまりなフォローのセリフに、
クスクスと周りからの笑い声が聞こえ、杏璃は真っ赤になって俯いた。

「ど、どうしたんだ?」

 隣に立っていた春姫に小声で話しかける。
すると春姫も耳元でそっと教えてくれた。

「夏休み、雄真くんが寝込んでいる間に、処理したって話聞いたよね?
 その時、お手伝いをしてくれたメンバーに、あの人がいたの」

 『秘宝』『封印』等のワードを省きつつも、何となく意味が通るように話してくれた。

「………なるほど。
 じゃあ、母さんたちの知り合いってことだ。
 それにしても……」

 雄真は俯いている杏璃に向けて、要らぬ一言を放った。

「『まったくアンタ本当に考えなしなんだから』…ね」

ズンッ!!

「ぐおおおおおっ」

 杏璃に思いっきり足を踏みつけられた。
叫び声を最小限に抑えた自分を褒めてやりたい。
靴ひもを結びなおすような素振りで、雄真は足を抱えて蹲った。

「あ、杏璃ちゃん」

「ふんっ」

『では、続けましょう。今大会における各校選手たちオーダーはこちらです』

 誠司が手を後方のスクリーンに向ける。そこにそれは映し出された。

ざわっ!!!

「な、なんだと!?」

 伊吹が思いの他大きい声を上げる。
しかし、それが気にならないほど、周りも大きくざわめいた。

「……このオーダーは、予想できませんでした」

 小雪がポツリと漏らす。

「な、なに?」

 他の者より一歩遅れて、雄真はスクリーンへと目を向けた。

「………七賢人の参加種目を目で追ってみて下さい」

「えっと」

 言われた通り、各校順番に七賢人の名を探していく。






●仙台魔法学園オーダー●

大将:乃木鉄平(3年)

≪バルーンクラッシュ≫
Aブロック
鳥取晴香(3年)
藤枝知美(3年)
白百合由利(2年)

Bブロック
飯田貞治(3年)
原寺平蔵(3年)
吉本キチ(2年)

≪ターゲットアタック≫
Aブロック
飯田剛(3年)

Bブロック
林真(2年)

≪ダブルス≫
Aブロック
鳥取晴香
藤枝知美

Bブロック
乃地浩太(2年)
白百合由利

≪フライングキャッチ≫
飯田剛
浜エイジ(2年)

≪シングルス≫
乃木鉄平(3年)




●舞浜学園●

大将:安藤ももか(3年)

≪バルーンクラッシュ≫
Aブロック
稲本美智子(3年)
塩田修平(2年)
前田一典(2年)

Bブロック
大原千絵(3年)
加藤浩太(3年)
森平次(3年)

≪ターゲットアタック≫
Aブロック
梅田幸喜(3年)

Bブロック
安藤ももか

≪フライングキャッチ≫
八乙女咲夜(2年)
安藤ももか

≪ダブルス≫
Aブロック
蔵屋敷美紀(1年)
大原千恵

Bブロック
加藤浩太
稲本美智子

≪シングルス≫
蔵屋敷美紀




●東京都立魔法高校●

大将:藤崎友則

≪バルーンクラッシュ≫
Aブロック
目黒竜也(1年)
藤崎友則(3年)
大金利通(3年)

Bブロック
芝修二(2年)
飯島茂田(2年)
谷保みどり(2年)

≪ターゲットアタック≫
Aブロック
鳳健吾(3年)

Bブロック
三戸部三郎(3年)

≪フライングキャッチ≫
巣鴨真司(2年)
秋田義男(3年)

≪ダブルス≫
Aブロック
鳳健吾
谷保みどり

Bブロック
藤崎友則
大金利通

≪シングルス≫
三戸部三郎




●瑞穂坂学園●

大将:高峰小雪(3年)

≪バルーンクラッシュ≫
Aブロック
藍本静香(3年)
東山幸平(3年)
吉田小百合(2年)

Bブロック
小日向雄真(2年)
神坂春姫(2年)
柊杏璃(2年)

≪ターゲットアタック≫
Aブロック
東山幸平

Bブロック
高峰小雪

≪ダブルス≫
Aブロック
上条信哉(2年)
上条沙耶(2年)

Bブロック
小日向雄真
神坂春姫

≪フライングキャッチ≫
高峰小雪
藍本静香

≪シングルス≫
式守伊吹(1年)




●静岡魔法学園●

大将:菅野宮重次(3年)

≪バルーンクラッシュ≫
Aブロック
林金平(3年)
閣銀二(3年)
佐藤手毬(3年)

Bブロック
南修平(3年)
樋口良平(3年)
御手洗大輔(2年)

≪ターゲットアタック≫
Aブロック
南修平

Bブロック
毛利哲也

≪ダブルス≫
Aブロック
閣銀二
大西裕也

Bブロック
日立ニオ
菅野宮重次

≪フライングキャッチ≫
浅草舞(1年)
外堀卓郎(3年)

≪シングルス≫
菅野宮重次




●名古屋魔法高校●

大将:汐留渚(3年)

≪バルーンクラッシュ≫
Aブロック
静本綾香(3年)
西山さゆ(3年)
茅ヶ崎愛(2年)

Bブロック
岸信弘(2年)
北川明(2年)
米本さつき(2年)

≪ターゲットアタック≫
Aブロック
茅ヶ崎愛

Bブロック
汐留渚

≪ダブルス≫
Aブロック
桑田雄二(3年)
二宮誠(2年)

Bブロック
静本綾香
西山あゆ

≪フライングキャッチ≫
黒川アゲハ(2年)
桑田雄二

≪シングルス≫
黒川アゲハ




●京帝高校●

大将:神威空(2年)

≪バルーンクラッシュ≫
Aブロック
一之瀬了(3年)
星城聡(3年)
渡辺正和(3年)

Bブロック
三井良平(3年)
桜井誠(3年)
向井正春(1年)

≪ターゲットアタック≫
Aブロック
桜井誠

Bブロック
一之瀬了

≪フライングキャッチ≫
渡辺正和
平井司(3年)

≪ダブルス≫
Aブロック
星城聡
向井正春

Bブロック
神威信(3年)
児玉白(1年)

≪シングルス≫
神威空






 ――――――――つまりは、こういうことだった。



仙台魔法学園
乃木鉄平:シングルス

舞浜学園
早乙女咲夜:フライングキャッチ

東京都立魔法学園
目黒竜也:バルーンクラッシュ

瑞穂坂学園
式守伊吹:シングルス

静岡魔法学園
浅草舞:フライングキャッチ

名古屋魔法高校
汐留渚:ターゲットアタック

京帝高校
神威信:ダブルス
神威空:シングルス




「シ、シングルスにエントリーしてくる七賢人が、こんなに少ないなんて」

 静香の動揺が、会場内の人間の気持ちを雄弁に物語っていた。

「リスクを回避してきましたか。
 シングルスは、他の競技よりも配点が高い分、激戦区となる。
 ………だからこそ。敢えてそこを捨て、
 七賢人含めた主力を他の競技に据えることで得点を稼ぎにきたようです。
 確かに。七賢人同士の衝突さえなければ。
 彼らの実力があれば、他の競技で優勝を狙う事はそう難しくはありません」

「……これは、シングルスに七賢人を据えた学校にとっては、逆に不利になる展開だ。
 他校がどれか1つの競技で、必ず優勝候補に名乗りでることができる一方で、
 シングルスに七賢人を置いた学校は、それがない。
 帝京は2人いるからいいとしても、仙台と瑞穂坂はかなり苦戦を強いられることに……」

 小雪と幸平が冷静に分析する中、伊吹が吼えた。

「貴様もか!! 信!!」

 会場の人間が、皆ぎょっと伊吹の方を向く。
当の本人はそれに構うことなく、信を睨みつけていた。

「そう怒鳴るなよ。伊吹。まだ三島協議員の話は終わってないぞ」

「貴様っ!!」

パンパン!!

ざわっ!!

 突如響いた手を鳴らす音に、一同の動きが止まる。
見れば、ステージに新たな人物が上がっていた。

 誠司が頭を下げながら、マイクを手渡す。その人物が前へ向き直った。

『なかなかに血気盛んな者たちが集まったようだ。
 私の名は大森零(おおもりれい)だ。以後宜しく』

ざわっ

 会場がまたしてもざわつく。

「お、大森零って…」

「魔法協議会の…」

 ぼそぼそと声が聞こえてくる。それを気にしないかのように零は続けた。

『今回も実に面白い面々が集まってくれた。
 いや。今回は特に、だな。今大会においては、私も観戦させてもらうつもりだ。
 君たちの戦果に期待する。以上だ』

 短い挨拶を終え、直ぐにマイクを誠司に返す。
どうやら、場の空気を戻すために壇上に上がっただけで、本来挨拶をする意図はなかったようだ。

パチパチ…

パチパチパチパチ!!

 零が下がるのと同時に、ぎこちない拍手から、割れんばかりの拍手へと変わった。

「大森零。日本魔法協議会におけるナンバー2です。
 まさか、七対抗魔法大会・高校対抗戦の。それもこのような場に姿を現すなど。
 前例がありませんね」

 雄真の横で、小雪が呆然とするかのように呟いた。

「………ナンバー2」

「はい。日本魔法協議会・副議長です。
 少なくとも去年までは、2日目以降でしたね。
 姿を現したのは」

『お話しありがとうございました。
 皆さん。熱くなるのは競技に入ってからにしましょうね』

どっ

 笑い声が漏れる。伊吹は苦虫を噛み潰したかのような顔をした。

『では、続いてトーナメントの発表をして参りましょう』

…。

………。

………………。






「信!!」

 全ての発表が終わり、誠司含めた協議員も退出。
パーティーもお開きとなり、皆が退出を始めたところで、伊吹が信に詰め寄った。

「まさか貴様がこのような手段に出ようとはな。どういうつもりだ」

「どういうつもりもなにも」

 信は肩を竦めた。

「お前こそ何か勘違いをしているんじゃないか?
 今大会は高校対抗戦。七賢人の力比べレクリエーションじゃないんだぞ」

「………っ!! それは、そうだが」

「そういう真っ直ぐなところは嫌いじゃないがな。
 場を弁えた発言を心掛けろ。
 それこそ、さっきのあれは酷いな。
 七賢人次期当主として、あるまじき醜態だ」

「……………そうだな。すまなかった」

「腐るなよ。ま、お前の言いたいことが分からん訳でもない」

 信は大げさに両手を上げてみせた。

「ただ、俺がシングルスではなく、ダブルスに移行したのはそういった意図じゃない」

「何?」

 伊吹が眉を吊り上げる。

「俺の今大会の目的は唯一つ。雄真と戦ってみたい。それだけだ」

「何だと?」

「ま、俺もチームの事より自分の事ってことだ。
 だから、今回の大将も空に任せてる。
 俺がチームの一員としてやってやれることは唯一つ。
 お前のところの雄真を倒し、ダブルスで優勝することくらいだ」

「やたらと雄真にご執心のようだな。何があった?」

「別に、なにも。正直、あのオーダーは拍子抜けだった。
 ダブルスには七賢人の参戦が俺しかいない。事実上、雄真との一騎打ちだ」

「ダブルスだから“二”騎打ちだがな」

「ははは。まぁそうだわな」

 信は笑うと、伊吹に背を向けて歩き出した。

「じゃあな伊吹。1つだけ忠告しとくぜ。
 空を舐めない方が良い。お前、負けるぞ」

「何を言い出すかと思えば。
 その言葉。『空』を『雄真』に変えて、貴様に返そう」

 信はそれに答えず、手を振って出口へ消えて行った。

「伊吹!!」

 それを見計らって雄真が声を掛ける。

「ん? 何だそなたか」

「何だじゃないだろう。話は終わったのか?」

「ああ。まぁな」

「そうか。じゃあ戻ろうぜ。
 明日から試合だ。あまり遅くまでうろちょろしない方がいい」

「子ども扱いするでないわっ!!」

 頭に乗っけられた手を、伊吹は即座に振り払った。

「………雄真。覚悟しておけよ」

「おいおい。頭撫でたくらいでそこまで覚悟しなきゃならんのか」

「違うわ!!」

ばこっ!!

「いって」

 雄真を一発叩く。鼻息荒く、伊吹が雄真に向き直った。

「信は、どうやら完全にそなたに目を付けたようだ。
 シングルスを空に譲り、ダブルスに参戦してくる意図はそこにあったらしい」

「はぁ? 俺と戦いたいってことか?」

「そのようだな」

「そんな、俺と当たるかどうかなんて運だろ? 俺の出場競技知らないんだから」

「ある程度予想はできるだろう。そなたは七賢人ではない。
 つまり掛け持ちが可能な選手の1人。そして瑞穂坂学園に2人しかいないClassA保持者。
 おまけにあ奴は夏休みの件を知っている。1つは対人戦種目に参戦してくるであろうことは容易に想像できる。
 まぁ、バルーンクラッシュ・ダブルス・シングルスのどれに入ってくるかは、流石に運だがな」

「そのとぉ〜り」

がっ

「!?」

「……貴様」

 気が付いた時には、既に雄真の首に腕が回されていた。
気配を全く感じさせないまま、雄真の後ろを竜也が取っていた。

「目黒竜也よ。ここでやるつもりか?」

「おいおい。そんな邪険になるなよ。さっきも注意されてたろ?」

 伊吹がビサイムに手を伸ばすのを見て、竜也がせせら笑った。

「何か用か? 腕をどけてもらいたいんだが」

「あぁ、悪い悪い」

 今気づきました、と言わんばかりに。竜也はゆっくりと雄真から離れた。

「それにしても。
 まさか信さんまでこいつを狙ってるとはな。
 いったいお前何をやらかしたんだ?」

「……それをお前に言う必要があるのか?」

「くくっ。いや? ねぇな」

 笑いを噛み殺しながら竜也が答える。それを見て伊吹が食いついた。

「ならば何の用だ?」

「挨拶しに来た、じゃだめなのか?」

「ほう? そなたもようやく礼儀を覚えたのか」

「くはは。相変わらず面倒くさい奴だな。てめぇに用はねぇよ」

 ぐりんと顔を雄真に向ける。

「………決勝まで上がってこい。俺が直々にお前を潰してやるよ」

「お前こそ、な。そっちのブロックにも瑞穂坂のチームがいる。
 俺のことを考える前に、まずはそっちのことを考えた方が良い」

 何のことを言われたのかも分からなかったのかもしれない。
竜也は5秒ほど、たっぷりと固まった後、急に笑い出した。

「くははははははははは!!」

「?」

「………」

 訝しげに伊吹に対して目線を送ると、しかめっ面を返された。

「ははっははは!!」

 腹を手で押さえながら、竜也は背を向けて歩き出す。

「お、おい!!」

 雄真が呼びとめようとすると、伊吹から手で制された。

「な、なんだよ」

「………やめておけ」

 目も合わせずに、伊吹が雄真に告げる。その顔は苦々しげな表情で彩られていた。
それを見て、雄真は今にも踏み出そうとしていた体から力を抜く。

 竜也は何事も無かったかのように出口へ向かっていた。
そのまま出ていくのかと思ったが、一度だけ振り返る。

 そしてこう告げた。



「ま、精々楽しみにしてるんだな」



励みになります。
個人情報登録等は一切ございませんので、
作品が気に入って頂けましたらお願いします。
                      Leica

『小日向雄真と七校対抗魔法大会』に戻る

『Happiness story』に戻る

『小説置き場』に戻る

『A Fateful Encounter』のトップページに戻る