第1話「拒否権ナシな、海外短期留学」

 

 

 

 

 

 

――――――さて、唐突ではあるがここで魔法の実力を示すClassについて説明を。

 

 

 

一般的にClassは最低がD、最高がSの5段階に分けられる。普通の魔法使いならClassAになるだけで充分な実力者であり、魔法関連の就職には困らないレベルである。そしてClassSになろうものなら、確実に何かしらの才能を持つほど。

 

だが、Classの限度はあくまで基準であり、最高・最低共にそれ以上の基準がある。

 

最低はClassDよりも下のClassE。これは魔法使いと総称されるレベルに追いつけず、『魔導使い』と称される。言ってみれば、魔力を様々に廻らせ、活用し、多くの魔法を使う人物を魔法使いと呼ぶなら、魔力を加工することができず、ただ一つ、ないし二つだけしか魔法を使えない人物のことを、『魔導使い』と呼ぶ。

ちなみに、そんな魔導使いでありながら、その僅かに使える魔法だけで並の魔法使いを凌駕する実力を持つ人物を、尊敬と畏怖の意味を込めて『魔導師』と称する。

 

最高はClassSよりも上の、S+、SS、SS+、SSSまでに該当され、更にそれよりも上の事実上、世界最高峰の実力、才能を秘めたClassを、Class Legend(レジェンド)と称される。

だがClassS以上ともなると、1000人に一人しか持ち得ないような特異点ともいえる才能が重要になり、SSは日本有数、SS+はアジア有数、そしてSSSは世界有数とされるのが一般的。そのSSSよりも上に居るのだから、Class Legendがどれだけ凄まじいかがわかっていただけるかと。

 

 

 

 

 

以上の事を踏まえた上で。

才能だけならSSSにも届くと言われた、雄真の現在のClass はB。

より上を目指すべく、日々努力しているわけなのだけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・短期留学?」

 

秘宝事件から年を越した、1月某日。

理事長室に呼ばれ、待ち構えていた母さんとゆずは理事長に、そんなコトを言われた。

 

「そ、留学。短期といっても2週間ぐらいの期間だけど」

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 

話が飛躍しすぎて理解できやしない。

というか、どこに行くかも解らない上に、参加前提で話が進められているのはどうか。

なので、当然の権利でもある、精一杯の抵抗をしてみる。

 

「えっと、その、拒否権は?」

「え?」

「え?」

 

だって言うのに、心の底から不思議そうな顔をされる始末。

あまりの理不尽に、暴動を起こしていいレベルだと思うのは俺だけじゃないハズ。

 

「ああ、そうね。一応雄真くんにも訊いておかないとね。この海外留学の件だけど、了承? 拒否しない?」

「・・・・・・選択肢が意味を為してないのは気のせいでしょうか・・・・・・?」

「いえいえ、そんなまさかぁ」

「わざわざ向こうから名指しでご指名されて、それを蹴り飛ばす子に育てた覚えはないけどなぁ、雄真くん?」

 

気のせいだろうか。

記憶が正しければ、母さんに育てられたのは6歳ぐらいまでなんだけど。

 

「・・・・・・解りましたよぉ」

「それでこそ雄真くん」

「さすがすうちゃんの息子」

 

全然嬉しくねー。

汚くはないけど、ズルい大人だなぁ。

文字通り、反面教師にしてやる。

 

 

 

 

「というか」

海外へ短期留学しなければいけないのは解った。拒否権が無いことも。

その上で、そもそもどこに飛ばされるのだろうか。(左遷風)

 

「どこの国に留学しなきゃいけないんです?」

「国というよりも、独立した大陸よ」

「大陸? どこの?」

「ムー大陸」

 

あっさり告げる二大教師。

ぼーぜんと聞き入れる主人公。

というか、よりにもよってそこか。

 

「ムー・・・・・・大陸?」

「そう、ムー大陸」

「あの、魔法だらけで、一つの大陸で四季が4つバラバラに区切られてて、大自然に満ち溢れてる、あのムー?」

「そう、そのムーよ」

 

 

 

ムー大陸。

―――――――――結論から言えば、おおよそ100年前、ぽっと出てきた大陸である。

 

・・・・・・冗談抜きで、いきなり一つの大陸がぽっと出てきてしまったのである。

それはもう魔法関係者の中では世界的ニュースで世界各国が一斉に調査に乗り出した。

が、その原因は一切不明。

初めからムー大陸に人が在住していたのも波乱を呼んだらしい。

 

――――――その代わり、幻とされてきたムー大陸の特徴だけはわかった。

 

大きさはおおよそ日本の佐渡島と同じ面積。

島を4分割して、それぞれ春夏秋冬が一度に存在している。

とにかく自然がダイナミック。山あり、海あり、湖あり。同時に大気に含まれるマナが非常に多い。

そのため、自然破壊を引き起こす原因となる機械文明は存在せず。つまり車がない。

また、在住する住人は全員が魔法を使える為、別名:魔法人種とも呼ばれている。

場所は、ポリネシア諸島のど真ん中。

――――――以上。

 

 

 

「――――――で、うちの国に留学しに来ないか。・・・・・・だって」

「・・・・・・えー?」

「実はムー大陸の首長代表、えらく変わり者っていうか、なんていうか庶民的なのよねぇ」

 

どんな代表だ。

近所のおばちゃんか。

 

「なんていうか・・・・・・興味本位で雄真くんがどういう人物が知りたがってたわ」

「・・・・・・どういう人なんですか、ソレ」

 

というかマジで意味わかんねー。

そんな理由で行かねばならないのか、その不思議島へ。

 

「でも現実的に考えても、留学できるメリットは凄いわよ。なにせ世界最高クラスの魔法使い育成所って呼ばれてるくらいだし」

「へぇ・・・・・・じゃあムー大陸に住んでる人はみんな大魔法使いなんですか?」

「いえ、それがねぇ・・・・・・実力だけならかなり低いのよ」

「へ?」

 

どういうことだろう。

わけわからんぞう。

マナが満ちてて、世界最高クラスの育成所・・・・・・っていうか学校があって、どうして実力が低いのか。

 

「簡単に言うとね、ムー大陸の魔法使いは、ムー大陸に満ち溢れているマナの高さに依存しすぎなのよ」

「あぁ、そういうこと」

 

つまりは酸素みたいなものである。

低地でマラソンランナーがいくらいい成績を残しても、高地マラソンになるとまったく実力が出なくなるようなものか。

 

「更に言えば、純粋な“魔法使い”というより、各専門分野に特化した、ある種“幻想使い”だらけなのよね」

「幻想使い?」

 

イマイチ意味は解らないけど、自分達のような魔法使いがあまりいないことはなんとなく理解。

・・・・・・それはそれで不安はすごいんですが。

 

「そう不安に思わないで」

「いや、無理ですって」

「そう言わないで〜。というか、私たちとしても是非行ってほしいのよ〜」

「え? なんでです?」

「やっぱり、魔法の中でもトップクラスの権力を有するムー大陸とは、学園的にパイプラインを持っておきたいのよ」

「・・・・・・」

 

実に(大人の都合的な意味で)やらしぃ話である。

本当にありがとうございます。

 

「あ、そうそう。留学可能な人数枠は4人だけど、そのうち雄真くんだけは一ヶ月前から行ってもらうわよ」

「い!?」

 

どうしてこの2人の大人は、そういった大事なことをすぐに言わないのか。

というか、それってもうすぐにでも行かなきゃならないということですか!?

 

「その・・・・・・どうして?」

 

恐る恐る聞いてみる。

出来れば、ワケわからん理由でやめてもらいたい。

 

「だから、面目上が海外留学だけど、雄真くんが行く目的は別にあるからよ」

「別?」

「詳しくは私たちも訊いてないわ。ただまぁ、向こうの強い要望ってことだけね」

「・・・・・・」

 

実に納得のいかない理由だ。

人権って言葉を深く問いただしたい程に。

 

「・・・・・・まぁ、なんていうか」

「ご愁傷様〜♪」

どうしてゆずはさんはここまで楽しそうなのか。

個人的に留学自体は嫌ではないが、孤独はなんだかヤダ。

 

――――――なので、ささやかな抵抗をしてみる。

 

「ねえ母さん、ゆずはさん。・・・・・・どうしても俺一人じゃないと駄目かな?」

「? どういうこと?」

「いやぁ・・・・・・やっぱ一人でいきなり見知らぬ土地はちょっとヤダなぁ・・・・・・と」

 

無駄な抵抗などせず、素直な心をぶちあける。

というか、これは人である限り当然の反応。

誰だって見知らぬ土地に一人で行かなければならないのは、相当に不安なはずである。

 

「うーん、そうねぇ・・・・・・――――――どう思う?すうちゃん」

「そうね・・・・・・向こうだって雄真くんには是非来て欲しいみたいだし・・・・・・一人くらいならいいんじゃない?」

「よっしゃ!」

「―――――それで? 誰にするの?」

「・・・・・・は?」

「いや、だから誰を誘うのかなぁって」

「いやいやいや。なんでそこで選択権が俺なんですか!?」

 

基準とかどこいった。

もっとこう、成績上位者とか。

 

「この際、雄真くんに選んでもらおうかなーって」

「なんの際!?」

「ぶっちゃけ、他の人はどうでもいいし〜」

「ぶっちゃけすぎだよ!? 後、扱い酷くない!?」

 

 

 

 

 

――――――などと、実に黒いカミングアウトをされた後、

――――――残りの留学生枠を決める為、みんなに来てもらうことになった。

――――――・・・・・・んだけど・・・・・・

 

 

 

 

 

「―――――と、いうわけで、残り3名の留学生枠を決めたいんだけど」

「先生! 質問が!!」

 

一通りの説明が終わってから、全員が一斉の挙手。

ちなみに、集まったのは言わずもがな、春姫・杏璃・小雪さん・すもも・伊吹・沙耶・信哉・準・ハチの、計9人。

集められた人選が、もっとも親しい交友関係に当たるメンバーというところに疑問が感じなくもないけど、まぁ一緒に行く分にはこれ以上望むべくもないメンバーである。

 

「はい、渡良瀬さん」

「一緒に行くのって魔法使い限定ですか!?」

「そうねぇ、魔法学園への留学だし、残念だけど」

「・・・・・・そ、そうですか」

 

シュン、と項垂れる準+すもも。

後、おまけでハチも悔しがっていた。

 

「はい先生!」

「どうぞ、柊さん」

「留学生枠が残り3人で、内1人が2週間前倒しなのはどうしてですか!」

「どうしてって・・・・・・ホントは雄真くんだけが2週間前倒しだったんだけど、雄真くんの強い要望で、1人でいいから一緒に来て欲しいってことになって―――――」

 

瞬間、空気が変わった。

その場に居る誰もが“私が!”と名乗り上げようとして、同時に他の全員を警戒して口を噤む。

なんという連帯感か、

友情以外の何かで絆が証明された瞬間でもある。

 

―――――――――が、そんな中、

 

「ふむ、なら私が行こう」

さも当然のように、伊吹が名乗り出た。

 

「「「「「なにぃぃぃぃぃっっっ?!!!!」」」」」

 

あ、すげぇ。シンクロした。

「」がやたら多いけど、誰が叫んだかは敢えて伏す。

 

「式守さんが?」

「ああ。立場上、式守家の代表として向かうことにすればよいであろう? まがりなりにも私が次期当主だ。立場的に問題ないはずだ」

「・・・・・・そうね。確かにベストかも」

 

二人の先生が認めた。

それはつまり、伊吹は確定してしまったということだ。

とどのつまり、残る枠はたったの2人である。

 

「・・・・・・負けない。必ず、雄真くんを追いかけてみせる・・・・・・!!」

「こんなおいしいイベント・・・・・・もといチャンス! 逃がしてなるもんかーっっ!!」

「・・・・・・負けませんよ?(クス)」

「・・・・・・負けません・・・・・・!! 私だって、雄真さんと・・・・・・!!」

 

怒気(というか覇気)を隠そうともしない4名。

今、春姫、杏璃、小雪、沙耶を止められる人物など、居るはずがなく、

危険を察知したのか、信哉は完全に自らを空気と化していた。

(し、信哉ーっっ)

個人的には同性である信哉に来て欲しかったけど、もはや無理なのは明らか。

視線を投げかけると、同じく信哉も視線で『頑張れ、雄真殿』なんて励ましてくれた気がした。

 

 

 

「じゅ、準さん。どうしましょう・・・・・・!? 私たち魔法使いじゃないから・・・・・・っっ」

「ちぃ!! ここに来て才能が立ち塞がるか!!」

「もとよりハチはヒロインにカウントすらされてないじゃない」

 

準の超・現実発言にハチが泣き崩れたところで、準の顔が邪悪に染まる。

あれだ。

みんな恐れる、悪魔の策略だ。

 

「安心してすももちゃん。これは魔法科の留学制度、ってことでしょ? なら・・・・・・」

「ふむふむ・・・・・・・・・――――――――・・・・・・わぁ・・・・・・」

「・・・・・・エゲツネー・・・・・・」

さりげに、ハチの最後のセリフが気になりまくる。

一体何をする気なのか普通科3人衆は!

 

 

 

 

 

と、そんなカオスサイドは放っておいて、伊吹に確認をとっておく。

 

「伊吹、本当にいいのか?」

「む、私では不服なのか?」

「そうじゃないけどさ。その、こんな簡単に決めちゃっていいのか? 式守家的に問題ないのか?」

「案ずるな! そのくらいはなんとでもなる。――――――むしろこのチャンスを逃していたら・・・・・・」

「え? なんだって?」

「な、なんでもない・・・・・・!! とにかく、私も一緒に行くからな!!」

「あ、おう」

 

何をそんなに真っ赤になっているのか。

むしろこっちは一人で行かなくて済むので、こっちが感謝しなければならないのに。

が、伊吹は顔を真っ赤にしながらも、なんか妙に嬉しそうだ。

あれかな。

やっぱ伊吹も変わった分野の魔法の勉強できるのが楽しみなのかな。

 

 

 

 

 

「それと雄真くん? 雄真くんは向こうではホームステイすることになってるから」

 

平然と告げる我が母親。

おかげでもう驚かない。

 

「式守さんは・・・・・・どうかしら。可能なら同じホームステイ先の方がいいけど、最悪、寮を取るしかないけど、いいかしら?」

「うむ、無理を言っているのだから仕方あるまい」

 

あっさりと納得する伊吹だが、不安が一つ。

そもそも、伊吹は一人暮らしに必要なスキルを身につけているのだろうか。

――――――――ちなみに、自分は大丈夫である。

こう見えてもすももにばっちり教育されてるので、むしろ無問題。

おかげで、今でもすももに頭があがりません。

 

「・・・・・・小日向。なんだその目は」

「い、いや? 敢えて気にしない方向で頼む」

「ふん? まぁいいがな」

 

あっさり引き下がる伊吹。

が、そんな主人とは裏腹に、背中のビサイムが切実な目線を向けている気がする。

いや、マジックワンドに目があるかどうかが問題ではなくて。

『・・・・・・雄真様』

(ビサイム・・・・・・正直な所、伊吹は一人暮らしのスキルは保有しているのか・・・・・・?)

『・・・・・・・・・』

(・・・・・・おーけぃ、よーっくわかった)

 

なんかビサイムの苦労が垣間見えたぞ。

というか苦労してるんだなぁ、ビサイムも。

 

「ええい! 人の背中で何を話している!」

 

と、ここでようやく伊吹が背後の会話に気づいたようだ。

無論、命はすんごい大事なので、口は使鬼の杜の封印の如く、固く封印している。

 

「小日向! お前も何をしている!」

「へ?」

「出立まで日が無いのだぞ? 今のうちに準備しておかないでどうする?」

「あー・・・・・・まぁそうだよな」

 

伊吹の家事スキル、というか女子力について不安が拭えない。

最悪、ホームステイ先の人に土下座してでも頼み込むしかない。

 

 

 

 

 

―――――そんなわけで伊吹と一緒に準備に出かけることになったのだが、去り際。

 

 

 

 

 

「譲れない・・・・・・譲りたくないっっっ!!!!」

「これで、決める!!!」

「本気、出しますよ・・・・・・?」

「もう・・・・・・終わりにしましょう・・・・・・!!」

 

やたら格好良いセリフを叫んでる春姫、杏璃、小雪、沙耶であるが―――――――――

4人の猛る魔力が暴風を巻き起こし、部屋を吹き飛ばす勢いなのはどうなのか。

後、目が洒落にならないくらいマジなのは気のせいであってほしい。

というか、気のせいにしてくれ。

むしろ信じさせてくれ。

お願いだから、帰ってきたら魔法科校舎が消し飛んでた、とかいうオチだけはよしてほしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――そんなこんなで、あっという間に時間は経って・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今やもう飛行機の中である。

ここまですっ飛ばしたのも実に久しぶりだったりする。(作者談)

窓際に座っているため、窓から一面の海が見えたりするのだが、さすがに見飽きた。

隣を向けば、伊吹は静かに本を読んでいる。

才女だなぁ・・・・・・というか、静かな雰囲気がやけに似合う。

と、ここで視線に気づいたのか、伊吹が本から目を離す。

 

「・・・・・・? どうした?」

「あぁ、いや・・・・・・」

「?」

 

考えてみれば、伊吹の服装は制服と魔法装束しか見たことがなかった。

なので、伊吹の白いワンピース姿など見慣れてないものだから、さっきからちょっと落ち着かない。

なんていうか、伊吹の雰囲気に良く似合う。

お嬢様ではあるものの、まだ幼さが残る伊吹。―――――――――が、逆にそこが彼女の魅力を引き出しているのかもしれない。

なので、情けない話だが、誤魔化すように話を持ちかける。

 

「あーあ・・・・・・それにしてもホームステイかぁ・・・・・・」

「確か・・・・・・エメラルド家、に行くようだな?」

「らしいな。なんでも姉妹二人とも魔法使いらしくてさ・・・・・・どうしたもんかと」

(・・・・・・なぜこうもこやつは・・・・・・!! これが1級フラグ建築士というやつかっっ)

 

なんか伊吹がブツブツ言い出した。

どうして伊吹までぼやき出してかはさておき。

 

「ていうか、ほんとに言葉は通じるのかね?」

 

 

問題はまずそこにある。

なんでも、言語は通じなくても、言葉――――――つまりは相手に伝えたい意思に魔力を乗せれば、意思をそのまま相手に伝えることができるため、言語に関しては問題ないらしいのだが。つまりは言霊みたいなものである。

 

 

「魔力は大陸中に溢れてるみたいだから問題なさそうだけど・・・・・・伊吹は試したことあるか?」

「いや、私もない。今回が初めてだが・・・・・・うむ、まあなんとかなるであろう!」

 

珍しい。

伊吹にしては随分楽観的に考えているみたいだ。

 

「・・・・・・その、なんでさ」

「む? 気づかないのか?」

「なにが?」

「私と小日向は、学園の中で間違いなく、1,2番目に入る才能を持っているではないか」

 

すげぇなぁ。

なにがって、そんな理由で安心している伊吹がだよ。

 

(・・・・・・けど)

そういうのもいいかな、とも思う。

だって、伊吹のこんな嬉しそうな笑顔、そうそう見られるもんじゃない。

だから、こっちも笑顔で応えよう。

きっと、上手く行くと考えて。

 

 

 

「そういえば・・・・・・迎えに来るのもその姉妹と聞いたぞ?」

「らしいね。向こうにはこっちの写真が送られてるから、俺たちはエントランスで待ってればいいってさ」

 

実際、ムー大陸など知識で知っているだけで、行ったことなどなく、土地勘も当然のようにない。

そういう意味では、ホームステイ先の大陸出身者が向かえに来てくれるのはとても自然だ。

 

「そうか・・・・・・うむ」

伊吹が、どこか楽しそうに微笑む。

久しく・・・・・・いや、伊吹のこういう笑顔を見たのは初めてかもしれない。

「伊吹、どうした?」

「いやなに、この状況がどこか楽しみというか・・・・・・わくわくするとは、こういうことなのだろうな」

 

言ってる顔が何より伊吹の気持ちを代弁していた。

自分もそうだが、見知らぬ土地に行くというのは伊吹でも高揚感と期待感をせずにはいられないのだろう。

なので、そんな気分に紛れてみる。

というか、以前からずっと思っていたことなのだが――――――

 

「――――なあ、伊吹」

「む? なんだ小日向」

「それ、なんとかならないか?」

「?」

「だから、呼び方。いい加減、名字じゃなくて普通に呼んで欲しいんだけど」

 

そうなのだ。

伊吹は初対面の頃からずっと、俺のことを名字、もしくはフルネームで呼び続ける。

決して嫌なわけではないのだが、親しみの欠片も感じられないのも事実だったりする。

 

「な・・・・・・で、では、どう呼べというのだ・・・・・・?」

「どうって・・・・・・皆みたいにフツーに名前で呼んでくれていいぞ?」

「む・・・・・・」

 

考え込んでしまった。

その表情があまりに難しそうな顔なものだから、むしろ悪いことをしてしまった気分になってしまう。

おかしいなぁ。普通に真密度を上げるためだけだったはずなのだが。

 

「伊吹・・・・・・? 無理にとは言わないぞー・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・ゆ・・・・・・え、ええい! 小日向!」

「いや、変わってないじゃん」

「そ、そなたをどう呼ぼうと、私の勝手だろう!?」

「や、まぁ、そうっちゃそうなんだけどさ・・・・・・」

 

ショックじゃないけど、ちょっと残念だ。

出会いがよろしくなかったとはいえ、伊吹とも気軽に話し合う仲にはなったんだし、お互い名前で呼んでもいいと思っただけんだけど。

「―――――っっ」

だっていうのに、伊吹は何故か顔を真っ赤にして目も合わせてくれない。

伊吹の性格的に、これ以上追及しても逆ギレが待っているだけである。

素直に引き下がっておこう。

 

 

 

 

 

―――――――――けど、どうして伊吹がそこまで恥ずかしがるのかは、わからないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いた・・・・・・ようやく」

長時間に渡るシートとの激闘をくぐり抜け、ようやくムー大陸に到着した。

驚きなのは到着した直後から。

日本国内のあの長ったらしい空港施設などは無きに等しく、飛行機から大地へダイレクトだ。

とどのつまり、ムー大陸へ行く便の飛行機には魔法技術が使われているとのこと。

そのため、通常の飛行機よりも騒音や風が少なく、傍で人が直接乗り降りできるのだ。

 

「しかし、妙に暑くはないか?」

「仕方ないって。この地域は今“夏”の気候らしいし」

「むぅ・・・・・・早くエントランスに行くぞ。こうも暑いのは苦手だ・・・・・・」

「同感。行くか」

 

荷物を手に、伊吹と並んで空港内のエントランスへ向かう。

その途中、眩しい限りの空と海。そして、その自然の広大さに目を奪われる。

なにより感じるのは大気に含まれるマナの濃さ。

ここが日本ではないのだと、今更ながらにして実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず小休止。

涼しいエントランスホールでジュースを飲みつつ、思わず辺りをキョロキョロと。

田舎者・・・・・・もとい、観光客丸出しな行動だが、それを止められるものではない。

ちなみにムー大陸の通貨は“リカ”。1リカは約10円の市場価値だそうな。

 

――――――――そんなこんなで30分が経過・・・・・・・・・

 

そろそろ物珍しさよりも退屈さを感じてきた。

伊吹はというと、飛行機の中と同じく本を読んでいる。

退屈しのぎを忘れていたので、何気なしにビサイムと雑談を繰り広げてみた。

「ビサイム、大気中のマナはどう感じる?」

『濃いですね・・・・・・むしろ濃すぎるようにも感じます』

「濃すぎる?」

『はい。今の雄真様なら大丈夫かと思いますが・・・・・・伊吹様もですが、魔法を使われる際には注意すべきかと』

「注意って、どういう?」

『つまり、自然と魔法の威力が高まるので、少し手加減する意識でいいかと』

 

ビサイムの小さな忠告。

読書中の伊吹もどこか耳を傾けていたらしく、少しだけ頷いているのが見えた。

(手加減・・・・・・ね)

実際どれほどのものかわからないけど、ビサイムが言うのだ。従って間違いはない。

 

 

 

――――――――と、不意に視界の端に何かを捉えた。

 

 

 

「・・・・・・?」

薄い水色で、目を凝らさなければ透けて見えてしまうような物体。

形を端的に説明すれば、イルカのような姿なのだが、イルカに翼は生えてないし、尾びれがないのはイルカとは言わない。

とどのつまり、生き物ではないというのが結論だった。

 

「・・・・・・なぁ伊吹。あれ、何?」

「む?――――――あれは、精霊か?」

「精霊? あれが?」

 

始めて見る精霊は、しばらく自分たちの前をふよふよしたと思ったら、エントランスの入り口の方向へと去ってしまった。

直後、エントランスの扉が開かれ、2人の少女がやってきた。

その傍に、先程の精霊の姿を確認する。

 

「す、すいません、遅れてしまいました。――――――えっと・・・・・・小日向雄真さんに、式守伊吹さん・・・・・・ですよね?」

「ああ、そうだ」

「君たち2人が迎えに来てくれるっていう・・・・・・?」

「はい。私はアリス・エメラルド。こっちがお姉ちゃんのエリス・エメラルドです」

「――――――」

 

アリスと名乗った少女は翠玉色のショートヘアの髪を揺らしながら元気よくお辞儀をし、

エリスと紹介された翠玉色のロングヘアの少女は無言のまま、けれど優しい笑顔でお辞儀をした。

そんな丁寧な対応に、伊吹と目を合わせ――――――

 

「小日向雄真です。2人とも、よろしく」

「式守伊吹だ。・・・・・・よろしく頼む」

 

――――――こちらもちゃんと、挨拶し直した。

空港のエントランスでやるには少し恥ずかしい気もした。

けど、こうして2人の姉妹が嬉しそうに微笑んでくれたのだから、良しとしよう。

 

 

 

 

 

 

さて、そんなわけでようやく現地の人と合流出来たのだが、

「えっと・・・・・・エリス、さん?」

「――――――?」

 

呼んでも、エリスは決して返事をしない。

その代わり、

 

「あ、お姉ちゃんは呼び捨てでいいですよ」

 

必ず、こうして妹のアリスが答えていた。

違和感を感じたわけではないが、少しだけ気になった。

 

「エ、エリスはさ・・・・・・恥ずかしがり屋、なのか?」

「――――――」

 

ぶんぶんと首を振る。

違うらしいが、それなら何故に何も話してくれないのか。

 

「あ、違うんです御薙さん。お姉ちゃん・・・・・・生まれつき声が弱くって」

「弱い? 出ないんじゃなくて?」

「はい。――――その、家についてから説明してもいいかな、お姉ちゃん」

「―――――」

 

無言のまま頷くエリス。

そんなエリスに、少しだけ寂しそうにしながら微笑むアリス。

言ってしまえば、少しだけ不思議な姉妹だと思った。

 

 

 

「・・・・・・私からも聞きたいのだが、いいか?」

「なんですか?」

「この・・・・・・さっきから周囲を飛んでいるこれは、精霊なのか?」

「あ、俺も気になる」

「え・・・・・・小日向さんも式守さんも、“アクアマリン”が見えるんですか!?」

 

アリスは少し驚き、その表情はすぐさま嬉しそうな笑顔に変わっていく。

気のせいか、周囲を飛び回る精霊も、喜んでるような気がするし。

 

「そうです。“アクアマリン”は水の精霊・・・・・・私の一番最初のパートナーです!」

「ということは――――アリス、お前は精霊使いなのか?」

「えへへ、まあそういうことになりますね」

 

少し照れた様子のアリス。

それにしても珍しい。

日本じゃ精霊使いなんてほとんどいないし、俺だって見たことがない。

そんな人物に簡単に会えるなんて・・・・・・やっぱすげぇなぁ! ムー!

 

「けど、お2人も凄い実力者ですね」

「え?」

「む?」

「だって、精霊使いの才能を持つ人以外に精霊を見るには、相当な実力が無いとダメなんですよ?」

「そうなんだ? なんかフツーに見えてたけど」

 

もう少し透けてたら幽霊と間違えかねないけど。

まぁ、こんな不思議生物(精霊)、幽霊とは見間違えない。フツーは。

 

「それで、小日向さんと式守さんは、どの魔法分野を専攻して―――――」

 

――――――瞬間、エントランスホールに女性の叫び声が響く。

 

「え、なに!?」

「――――っ!?」

 

アリスとエリスが慌てふためく中、エントランスを駆け抜けていく男。

直後、それを必死で追いかける女性が叫ぶ。

が、何を言っているのかがサッパリわからなかった。

 

「アリス、あの人なんだって?」

「ひ、ひったくり・・・・・・って叫んでます!あの男の人のこと!」

「む――――ビサイム!」

『御意』

「待った伊吹! 入国早々、攻撃魔法はまずい!」

 

いきなり攻撃魔法と決め付けるのは失礼極まりないが、否定しない辺りに伊吹の恐ろしさが窺えたりする。

伊吹を制した後、刹那の速度で右手に魔力を凝縮させ、頭の中で詠唱を構成する。

 

「小日向さん・・・・・・!?今から詠唱しても間に合わ――――――」

「ディア・ダ・オル・アムギア――――!!」

 

御薙流術式の極意・構成詠唱により、詠唱そのものをカット。

瞬間、魔法の真名を解き放ち、魔力の込められた右手を、大地に叩きつける。

刹那、大地を奔る光条が爆発するほどの速度で逃走する男に迫り、

一瞬のうちに、ひったくり犯を光の檻―――――いや、光そのものに封じ込めた。

 

「え―――!?」

「――――!!」

 

アリスとエリスが驚愕の声をあげる。

だが、そんなことよりも、明らかな魔力の放出を制御するのに手一杯だった。

「小日向、魔力を弱めよ! あれは封印レベルの魔力密度になっているぞ!」

「わかってるって・・・・・・!! くそ! 手加減したってのに、ここまで威力が跳ね上がるのか!?」

『雄真様、私を・・・・・・!』

言われるままにビサイムを掴み、魔力の放出量を制御、抑えていく。

それに合わせて、ひったくり犯を捉えていた光は、いつも通りの“光の檻”へと形を戻していった。

 

 

 

 

 

一時、空港は騒然となった。

だが、その中で誰よりも驚愕したのはアリスと、エリスに違いなかった。

「お、お姉ちゃん・・・・・・?」

妹の声に、頷きを以って応える。

(・・・・・・彼は・・・・・・)

今、見た光景が、脳裏に焼きついて離れない。

彼は、右手に魔力を一瞬のうちに凝縮させ、外国では一般的とされるマジックワンドの助けなしに、魔法を発動させた。

いや、驚くべきはそこではない。

彼は、“詠唱”そのものを唱えてはいなかった

(・・・・・・)

なのに、魔法は発動され、しかも封印レベルに届くほどの威力を発動したのだ。

魔法の発動に必須でもある詠唱をカットし、その上あれほどの大魔法をいとも容易く発動、直後に制御したのだ。

もはや人間技ではない。

いや、違う。

それだけ彼が他の魔法使いよりもずば抜けた実力を有しているということ。

(小日向、雄真・・・・・・)

エリスはもう一度、彼の名を心の中で呟き、確認した。

そうして、彼がこの大陸に呼ばれたことが普通ではないのだと、今更ながらに理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――それが、雄真がムー大陸で成し遂げた、一番最初の功績だった。