第3話「つまり所謂、お嬢のワガママ」
「インフィティア学園にようこそ。小日向雄真くん、式守伊吹さん」
「よろしくお願いします」
「よろしく頼む」
学園長室にて、明るい感じのおじさん、という呼称がぴったりな、ガレス学園長と挨拶を交わす。
気のいい人で、笑顔が実に親しみを持てる。
母さんやゆずはさんが『庶民的』と言った感想が、初対面なのによく解るほどだ。
しかし、これまた当たり前なのか。
あまりに高級品で誂えた学園長室のおかげで、相変わらずまるで落ち着きやしない。
堂々と鎮座している伊吹のおかげで、どうにか虚勢を張れているほどだ。
――――――前回の買い物騒動の翌日。
あんなことがあったとはいえ、期間の限られた留学生であるし、そのまま学園に留学することになったのだ。
小さな街のそれなりに大きな事件だったらしく、さっきからやたらと話題を出されてしょうがない。
正直、そっとしておいて欲しい。
「そう謙遜しないでくれたまえ。君が我が校の生徒を救ってくれた事実は間違いないのだから。誇ってよいことだよ?」
「や、まぁそれはそうかもですけど・・・・・・恥ずかしいんで、そっとしといて下さい」
「お国柄、というやつかな? ふふ、まぁいい。娘の期待通り、ということだしね」
「?」
なにやら不穏な言葉を聞いた気がするけど。
ともあれ、昨日、エリスから受け取った、この学園のパンフレットを取り出しつつ、流し見る。
――――――国立 インフィティア魔法高等学園。
――――――創立はムー大陸が出現した年の翌年で、事実上、創立100年は越える名門校である。
――――――とはいえ、国外からの生徒の入学は原則、受け入れておらず、国内の生徒のみで構成されている。
――――――敷地は言葉にするのも馬鹿馬鹿しいくらいに広く、部活動に乗馬部なんてのがある辺り、ある種セレブの学校なのかもしれない。
「さて、それではさっそく教室に案内しよう」
「あ、はい」
学園長に案内される形で、伊吹と2人、学園長室を後にした。
―――――で、その後。
まるで館のような、ほんとに廊下なのか疑うほどの、高級感満載の廊下を歩きつつ、隣を歩く伊吹を横目に見てみる。
さっきから(というか、ムー大陸に来てから)恐縮しっぱなしの俺と違って、伊吹は当たり前かのように普通で、それでいて優雅だった。
さすがと言えばそうなのかもしれないけど、ちょっと気になる。
「なぁ伊吹」
「む? なんだ?」
「伊吹はさ、なんていうか緊張しないのか?」
「・・・・・・成程。ここ最近、小日向の様子が変なのはそれか」
「う・・・・・・そんなに変だった?」
万感の思いを込めるかのように、深く頷く伊吹。
しかし勘弁してほしい。
入国早々、何かと騒動に巻き込まれっぱなしなのだ。
そんな中、平然といられる程に俺の真剣は図太くはないのだ。
「ちなみに、私とて多少なりとも緊張はしているぞ?」
「いや、全然そうは見えませんよ?」
「顔に出していないだけだ。―――――次期当主ともあろう者が、感情を表に出していては、下の者が不安になるであろう?」
「ああ、なるほど・・・・・・」
帝王学―――――かどうかは解らないけど、それに準ずるものを伊吹は身に着けているらしい。
流石は人の上に立つ器の持ち主だ。
そこら辺、自分とは大違いである。比べるつもりもないけど。
「・・・・・・そんなにおかしいか?」
が、なにを思ったのか、どこか不安な様子で訊き返された。
確かに普通じゃないかもしれない。
でも、それを変だとは思わないし、伊吹の場合、それは凄いとも立派とも見れる。
ようは、伊吹の勝手な勘違いということ。
「いや? 伊吹はすげぇなぁって思っただけだよ」
「そ、そうか・・・・・・なら、良いのだ」
「?」
―――――などと、雑談を交わす内に、学園長が足を止める。
―――――どうやら、目的地に着いたらしい。
「ここが、小日向くんが所属する教室だ」
「あれ? 伊吹は違うんですか?」
「当たり前であろう。私と小日向は学年が違うではないか」
「あー・・・・・・そういや、そうだったっけ」
留学生だし、あわよくば同じクラスと思ったのに。
さすがにそこまで甘くは無かった。
「では、式守さん。貴女の教室は上なので・・・・・・」
「うむ。ではな、小日向。お互い、励むとしよう」
なんて、実に素敵な笑顔で去っていく伊吹。
なんだかな、器の違いを様々と見せつけられた感があるのは、気のせいじゃない。
ともあれ、伊吹の言う通りだ。
ここからは1人で、なんとか頑張るしかない。
「では・・・・・・小日向くん、どうぞ」
「はい」
しばらくして、教室内の先生の案内に従い、教室に入っていく。
まるで転入生を見るかのような、奇異や物珍しそうな視線が、遠慮なしに集中する。
「というわけで、約1ヵ月間、この学園に留学することになった、小日向雄真くんです。―――――小日向くん、自己紹介を」
「あ、はい」
女性の先生の朗らかな笑顔に促され、教壇の横から一歩、前に出る。
シン、と静まる教室の雰囲気に、ちょっと胸が落ち着かないけどそこは我慢。
気合いを入れて、声を絞り上げた。
「えーっと、日本から来ました、小日向雄真です。1ヵ月間の短い間ですけど、よろしくお願いします」
当たり障りの無い自己紹介に、社交辞令の拍手が教室を包む。
まぁ、こんなもんである。
ハチのように、いきなりボケをかますような自己犠牲的な自己紹介は、ちょっと無理だし。
「それじゃあ、小日向くんの席は―――――」
と、先生が席を告げようとした、その瞬間。
「――――ようやく、ですわね」
「?」
「待ち侘びましたわよ! 小日向雄真!」
教室の真ん中辺りの席の、女子生徒が声高らかに席を立ち、そのまま指を差された。
そのあまりのKYすぎる、高飛車とも傲慢(あるいはバカ)ともとれる行動に、教室中が絶句してらっしゃる。
「えーっと・・・・・・どちらさま?」
「失礼。自己紹介がまだでしたわね。―――――私の名は、ミルファ・ガーネットですわ! 以後、よろしくしてくださる?」
「――――あ、ども。小日向雄真です」
とりあえず、改めて自己紹介しておく。
ウェーブがかった、肩下までの髪。
赤みがかかった暗めの色が、自然と目を引く。
顔立ちも綺麗だし、間違いなく美人の分類――――――なのだが。
「ようやく探し当てたのが貴方ですから。期待には応えるのが紳士として当然ですわよ?」
「――――」
実に、実に残念である。
ある意味、ハチみたく口を“開かなければ”深窓の令嬢なのに、口を開くばっかりに、なんともがっかりな残念系お嬢サマになってしまっている。
というか、さっきから何を言ってるのか、彼女は。
「ごめん、何の話?」
「あら、知りませんの? 私がわざわざ、貴方をこの国に招待しましたのよ?」
「―――――は?」
「ですから、私が」
「いや、なに言って―――――え? ガーネット?」
確か、学園長のフルネームは、がレス・ガーネット。
と、いうことはだ。
「・・・・・・学園長の、娘さん?」
「そうですわ! 私の父は、この学園の理事長兼総責任者ですのよ!」
「・・・・・・」
ちょっと待て。
いや、すごく待て。
仮に、今の話が真実だとしたら。
(こいつ、親のコネ(権力)だけで俺を呼び寄せたってのか・・・・・・!?)
なんというハタ迷惑な!
というか、なにをやっているのか、あの学園長!
娘の我儘で、歴代初の留学制度を実施するとか正気の沙汰じゃねー!
「驚きました? 驚愕しました? 当然ですわよねーっっ!!」
「驚愕ってか、ひくわー・・・・・・」
「おーっほっほっほ――――!!」
聞いちゃいねぇ。
何がそんなに楽しいのか、教室中に響く高らかな笑い声をあげてらっしゃる。
クラスメイトは、それが日常茶飯事なのか、“やれやれ”みたいな態度で傍観してるし。
―――――と、
「おーっほっほごぁ!?」
瞬間、ミルファ嬢が視界から消える。
いや違う。
あれは凄まじい勢いで地面に前のめりに倒れたのだ。
さながら、『膝カックン』をクリティカルに決められたかのよーに。
「・・・・・・いー加減にしなよ、ミルファ。クラスがひいてるじゃないか」
「い、いきなり幼馴染に足蹴で膝カックンとは、随分な扱いですわね・・・・・・」
なにやら、ミルファ嬢の後ろの席の男子生徒がやったらしい。
その、一切容赦のない、全力の膝カックンを。座ったまま。脚で。
「先生、僕の隣が空いてます」
「そ、そうですね。では、小日向くん、あの席へ」
「あ、はぁ」
地面に突っ伏したまま悶絶してるミルファを横目に、男子生徒の隣の席に座る。
紫色の髪と瞳が特徴的な男子生徒は、早速とばかりに、苦笑しながら話しかけてきた。
「ごめん。転入早々、ミルファが迷惑かけちゃって」
「あ、いや。大丈夫。こーいうのは慣れてるから」
遺憾ながら。
まことに遺憾ながら。
「そうなんだ? 僕は、シュナ・アメジスト。シュナでいいよ。よろしく」
「ああ、よろしく、シュナ。俺も雄真でいいから」
「わかった、雄真」
屈託のない、彼――――シュナの笑顔に安心する。
やっぱり、同級生の男子と仲良くなるのはいいもんだ。
この一連の騒動を、窓際一番後ろの席に座っていたエリスは、黙って見ていた。
「―――――」
普段からあまり目立たないようにしているからか。
私は、彼が自分のクラスに転入してきたのに、挨拶もロクに出来なかった。
(・・・・・・でも、なんていうか)
いつの間にか。
不自然なくらい自然に、彼がクラスに溶け込んでいる錯覚に襲われる。
ミルファさんのおかげなのか、もしくはシュナくんのフォローか。
あるいは、これこそが彼の魅力なのかもしれない。
人を惹き付ける、誰とでも打ち解ける才能。
なんていうか、羨ましくて嫉妬しそうなほどに。
「・・・・・・」
彼、小日向さんが隣のシュナくんと、談笑している。
それを、どこか遠い目で見てしまう。
彼は、私とは違う。
彼の周りには人が集まり、みんなを笑顔にする。
私とは、違うんだ。
―――――と。
「――――」
「―――!」
不意に、彼がこちらに振り返る。
そして、親しい人だけに見せるような、安心したような顔で笑いかけてくれた。
「―――・・・・・・」
どうやら、彼は同じクラスに私がいることに、しっかりと気づいていたらしい。
みんなの前では何も言わず、こうしてこっそりと、私だけに伝えてきた。
なんていうか、彼の優しさを垣間見えた。
――――――のだけど、
(・・・・・・一級建築士・・・・・・)
なにが、とは言わない。
ただ、最近読んだ漫画のせいだろうか。
彼を見ていると、そんな単語が頭に浮かんで仕方ないんですケド。
「うぅ・・・・・・」
4時限目の授業が終わると同時に、机に突っ伏した。
なんていうか、ツライ。そしてキツイ。
最初はアウェイ感にビビったけど、そんなものは開始5分で吹き飛んだ。
なにせ午前中、魔法関係の授業しかしなかったのだ。
それも、瑞穂坂学園とはまるで違う、“魔法の仕組み”ではなく、“魔法を含めた、幻想概論”がメインなのだ。
まるで、ではなく、なまじちょっと理解出来ているので、逆に知恵熱で頭が灰になりそうなのである。
「だ、大丈夫? 雄真」
「あーうん・・・・・・無理」
シュナの声に、机に突っ伏したまま答える。
と、不意に視界に何かが飛び込んできた。
「ん・・・・・・?」
尾びれがなく、翼の生えたイルカのようなモノ。
これは、アリスの精霊“アクアマリン”じゃなかったっけ?
「なんだ? お前、何しに来たんだ?」
思わず声をかけたけど、当然のように“アクアマリン”は何も言わない。
が、こちらの言葉は届いているのか、申し訳なさそうに目の前をふよふよ飛び回っていた。
そうなると、今度はこっちが罪悪感に苛まれるんですが・・・・・・
と、不意に制服の袖を、くいっ、と引っ張られた。
「? エリス?」
「――――」
袖を掴む手はそのままに、空いてる手でメモ帳を渡された。
―――――『アリスから伝言。屋上でお昼しませんか!って』―――――
とのこと。
もちろん、断る理由はないので、是非ご一緒させてもらおう。
というか、エリスはアクアマリンと意思疎通できる模様。
一度、アクアマリンの――――もちろん、エリスも――――声を聴いてみたいものである。
「あ、雄真」
「? なに、シュナ」
「よかったら、一緒にランチしないかい?」
「ああ、えっと。先約があるんだけど・・・・・・」
「先約?」
と、シュナは俺とエリスを交互にみて、どこか納得したように頷いた。
――――――で、結局こうなった。
「あれ? シュナさん?」
「やあ、アリス。しばらくぶり」
「おぉ、やっぱり伊吹も一緒か」
「アリスと同じクラスだからな。というか、そなたも同じであろう?」
「―――――」
ご覧の通り、俺、伊吹の留学生コンビに加え、エリス、アリス、シュナの合計5人でランチを摂ることになった。
―――――というか、
「? シュナってアリスたちと知り合いなのか?」
「うん、まあね。昔から同じ学校だし」
「シュナさんの家ってケーキ屋さんで、すっごく美味しいんですよ♪」
「へぇ、そうなのか」
そりゃあ昔からお世話になってるのだろう。
ムー大陸の土地柄、ライバル店のようなスイーツショップがそんなにぽんぽんあるとは思えないし。
「それで・・・・・・そっちの子が、雄真と同じ留学生なんだ?」
「あ、そういや紹介してなかったっけ。こいつは式守伊吹。俺なんかより遥かに各上の魔法使いなんだぜ?」
「こいつとはなんだ! こいつとは!!」
「あはは・・・・・・よろしくね」
「はい、小日向さん。お弁当ですよー」
アリスからランチボックスを受け取ると、ずっしりとした重量感。
期待に胸を躍らせつつ、フタを開けて――――――――
「――――え?」
中には、それはそれは美味しそうなペスカトーレが入っていた。
「なんで!?」
「―――(ドヤァ)」
「アリスもかーっ!!」
姉が姉なら、妹も妹だ!
ペスカトーレ――――――早い話が、魚介系のスパゲッティである。
味付けはトマトソースが一般的で、どちらかと言えばスープに浸して、出汁を楽しみつつ味わう料理である。
それらを、アリスは見事に仕上げていた。
重量感のあるスープ皿に、スープたっぷりのペスカトーレは、美味しそうという感想より、なぜこれをチョイスしたし? という疑問に潰されて仕方がない。
「あれ? 小日向さん、シーフード苦手でした?」
「いや苦手じゃなくて・・・・・・なぜに弁当にスープスパ系?」
「え? なにかおかしいですか?」
そりゃもう全部。
よくもまぁ、こんな汁物+香りの凄いランチボックスを持ち込んで、教室でクレームを言われなかったものである。
―――――なんて思ってたんだけど、
「よかったらみんなも食べるかい? 出来立てに近いシチューだけど」
「なぜに!?」
「え、なにか驚くところあった?」
「ちょ、ちょっと見せてくれ!」
シュナからランチボックスを奪い取ると、中にはまさにホカホカのシチューが堂々と鎮座!
美味しそうなホワイトの香りに、鼻孔が疼いて仕方がない―――――ではなく!
「なぜにシチュー!?」
「なぜって・・・・・・単に食べたかったから?」
「ですよね?」
シュナとアリスが、顔を揃えて頷き合う。
アルェー?
なんだこのアウェー感。
間違っているのは自分の方なのかと錯覚してしまいそうだ。
「・・・・・・もしかしなくても、魔法を使っているのか?」
「伊吹?」
「そうですよ? 私は“アクアマリン”を使って大気中の水分操作で、保湿・保温、ついでに防臭、スープの固定化辺りを」
「僕はシチュー全体に、“遅延”をかけてるよ」
「―――――」
伊吹の推察通り。
さすがに、伊吹と2人で驚くしかなかった。
想像することすら難しい、高度な魔法技術を、さも当たり前かのように使っている。
究極的なまでに、魔法という概念が日常生活に浸透している。
ああ、だからか。
ムー大陸が、諸外国からの干渉を極度に断っているのは。
ここは、この大陸は。
魔法使いだけが、当たり前のように機械文明を使わず、魔法文明だけで生活しているのだ。
「正直、驚いた。ここまでとは・・・・・・」
「伊吹にそこまで言わせるってことは、相当だな」
アリスが俺と伊吹の魔法形態を、オーソドックス・原始的と呼んだ意味が解った。
魔力という純粋な燃料を加工するだけの俺たちとは違う。
アリスやシュナは、魔力を燃料に、その先の“幻想”を操っている。
―――――だから、なのだろう。
高濃度のマナが大気に満ちている為、ムー大陸の人たちは自身のキャパシティがそれほど必要ではない。
それこそ、息をする感覚で大気の魔力を集め、“幻想”を扱っている。
一方、大気に高濃度のマナが無い俺たちの世界では、必然的に術者自身のキャパに溜め込んだ魔力を使わざるをえない。
故に、俺や伊吹がこの地で魔法を何の加減も無しに発現させてしまうと、尋常じゃないほどにまで威力が膨れ上がってしまうのか。
「・・・・・・雄真? どうしたんだい?」
「あぁ、いや。なんでもない」
シュナのシチューを返して、アリスお手製のペスカトーレをいただくことにする。
正直、思うところは多々ある。
けど、今自分が瑞穂坂とムー大陸を比較したり、個人の感情を出したところで、どうにかなるでもなし。
伊吹も同じことを考えていたのか、自然と目が合う。
で、似た者同士な自分たちに苦笑しつつ、ペスカトーレを口に運んだ。
――――――ちなみにペスカトーレの味だけど、
――――――鮮度も抜群で、弁当とは思えない美味しさだった。
「――――それじゃ、シュナは時間操作の魔法が使えるのか!?」
昼食後、心地良い満腹に満たされた中、何気なく口にした話題で盛り上がっていた。
つまり、シュナが扱う魔法――――というか幻想――――についてである。
「そんな大したものじゃないよ。生物以外のモノに対して、加速と遅延を働かせるだけだよ」
「む? 自身にはかけられないのか?」
「出来なくはないんだけどね・・・・・・生き物に対しては難しいんだ」
正直、すごく興味がある。
俗に言う、自分以外が停止、もしくはスローになるという“加速状態”になれるってことなんじゃないだろうか。
男なら、大小あるとはいえ、誰もが憧れる能力じゃなかろーか。
「難しいんだ、計算が。個人個人に流れる時の流れってバラバラだし、適当にやったら、加速状態から、通常の状態に正しく戻れなくなるかもしれない。第一、僕の時の魔法って“時粒子”概論じゃなくで、砂時計の自己イメージでやってるから、調整とか難しいんだ」
「へー・・・・・・そーなのかー」
「・・・・・・解っておらんだろう、そなた」
さすが伊吹だ。
俺のことをよく解ってらっしゃる。
ジト目をされつつ、肘鉄で小突かれるのだが、自分のことをよく知ってる人がいるのはなんだか嬉しい。
「なんだか、凄く仲良しなんですね。小日向さんと式守さんって」
「い、いきなり何を言うのだ!?」
「なんだか仲の良い兄妹みたいで」
「・・・・・・あー・・・・・・」
何やらアップダウンの激しい伊吹サン。
女心はまるで解らねェ。
「まぁでも、伊吹は妹って感じはないな。ちゃんとした妹がいるし」
「へー、雄真って妹いるんだ?」
「できた義妹だよ。すごいくらい」
言いながらシュナと笑い合ってたら、唐突に。
―――――― バァン!!
なんて、扉に恨みでもあるんじゃないかと思うくらい、愉快な音を立てて屋上のドアが開け放たれた。
「探しましたわよ! 小日向雄真!!」
意気揚々と現れたのは、もはや間違うハズもない残念なお嬢。
ミルファに他ならなかった。
「・・・・・・」
「・・・・・・?」
「――――」
「あ、ミルファさんだ」
「ハァ・・・・・・」
五者五様の反応を漏らす。
そんな反応に満足したのか、あるいは初めから気にしてないのか、ミルファは上機嫌でやってきた。
「ひょっとしてみなさんでランチタイムでも? でしたら誘って下さればよかったのに」
(いや、ないわー)
とは、ぐっと堪えて口にしない。
伊吹辺り、どうやら俺の様子を見て悟った感じだけど。
「・・・・・・ミルファ、爆音を立ててドアを開け放つのはレディーとして如何なものだろうか」
「あら、いいじゃありませんこと? 個性ってことで」
「それで許されるなら、エゴイストって言葉の意味が無くなるね」
シュナの冷ややかな皮肉もどこ吹く風。
あくまでのご機嫌なミルファは、楽しそうな顔で俺の真正面までやってきた。
「えーっと・・・・・・何か用?」
「用というと用ではありませんけど・・・・・・宣戦布告に来ましたの」
「―――――え? 選手宣誓?」
「どこをどう聞いたらそうなりますの!? せ・ん・せ・ん・ふ・こ・く! ですわ!」
いや解ってるよ。
ごめん、やっぱ解らんわ。
なにがどうなったら、そんなことになるのか。
「小日向雄真! 午後からの魔法実技、私と勝負をしますわよ!」
「え? 勝負?」
「あ、うん。実技の時間って、基本的に個人個人が好きなことするんだ。実験とかが主だけど、中には戦闘用の魔法研究する人もいてね、対戦形式の実戦試合も許可されてるんだ」
それはまた、なんともらしいっちゃらしい制度だ。
瑞穂坂学園で、対人戦の魔法試合をする場合、それはそれはややこしい準備云々が必要なのに、ここじゃそれすらフリータイムで大丈夫なのか。
「それで、私との勝負、受けてもらいますわよ!」
「え、嫌だ」
「即答ーッ!? ちょっとは考えて下さいませんこと!?」
「嫌だよ、そんな面倒なこと」
「メンドウーッ!?」
驚愕するミルファをよそに、さっきみたく横から伊吹に小突かれる。
「いいではないか。受けてみよ小日向」
「お前、他人事だと思って――――!」
「なに、折角の機会だ。そなたがこの大陸でどれ程の力を出せるか、楽しみだ」
「結局他人事じゃん!?」
と、伊吹に文句を言っていると、正面のミルファ嬢がなにやらごそごそと――――――
スカートの中に手を突っ込んだ。
「ちょー!?」
「なぁー!?」
で、さらにごそごそしてから、なにやら“白いナニか”をぶん投げてきた。
ちなみに、ほんのり人肌に温かい。
「なら、正式に決闘を申込みますわ! 小日向雄真!!」
「なんでそうなる!? 嫌だって拒否ったじゃんか!?」
「ツッコミどころが違う! というか小日向! そ、“ソレ”を握りしめるな!!」
「そうだよ! そもそも間違ってる! 決闘なら普通、白い手袋だろ! なんで白の紐パ「言わせるかーっ!?」
「え? ち、違いますの? 私、決闘を申し込む時は純白のパ「やめろぉぉぉっっ!!」
「どんな勘違いだよ。決闘相手に真っ白な紐パ「こーひなたぁぁぁッッッ!!!!!」
「そ、そうでしたの。私、今日はちょうど、黒ではなく白のパン「アーーーッッッ!!!!!」
直後、ビサイムの上段フルスイング(叩き落し)を受けて(何故か)成敗された。
とまぁ、いろいろごちゃごちゃあったけど。
収拾をつけるために、決闘の申込みを受領するハメになった。
ちなみに、決闘申込み物はちゃんと返還しました。
当然ですヨ?