第7話「ミルファと雄真の残念事情」

 

 

 

 

 

 

「うん! 今日も美味しいよ、お姉ちゃん!」

「――――(ニコニコ)」

「伊吹、ナプキン取って」

「ほら。――――ああ、もう。私が吹いてやろう」

「い、いーって!? 取ってくれれば!!」

 

 

先日の遺跡騒動の翌日。

昼寝を堪能してから、こうして昼食にエリスお手製のサンドイッチをいただいていた。

(お、これも美味い)

定番のマヨタマから、BLT、アンチョビサンドと、バラエティ豊かな品揃えは、どれも非常に美味である。

パンが具の水分を吸っておらず、具の量やバランスも完璧。

知らず知らず、食べるのに没頭してしまうほどである。

 

――――――という、雄真、伊吹、エリス、アリスの4人でランチタイムを楽しんでいると、

 

「――――?」

「ん? なに、エリス」

「こ、小日向・・・・・・頭の上のソレは、なんだ?」

「頭の上?」

 

言われるままに見上げると、そこにはニコニコ顔でこちらを見下ろす、輝かしいばかりの銀の精霊が――――――

 

「クラウ!? なんでここにいんの!?」

「あー、やっぱり」

「あ、アリス。説明、説明!」

 

1人納得した顔のアリスに対し、残りの3人は何が何やら。

とりあえず、アリスに説明してもらわないと状況がまるで解らないのだが―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――そなたは何にでも好かれるのだな、小日向」

「・・・・・・なんで伊吹が怒ってるんだよ」

 

アリスが説明してくれたことを簡潔に言えば、銀の精霊“クラウ”に懐かれた、というものだった。

正直なところ、イマイチよく解らなかったんだけど。

ただ、今までシルナ遺跡地下に居た銀の精霊が、その場を離れて俺に着いてきているのが確かな事実。

明らかに俺に好意(というか興味)を持たれているのはなんとなく解るんだけど。

 

・・・・・・そしたら今度は伊吹の機嫌が悪くなってしまった。

解らない、女心が、本当に。(5・7・5)

 

「それで、ミルファの家はこっちなんだ?」

「ぬ・・・・・・うむ。アリスの道案内ではそのハズだが」

 

ちなみにその時の話題の延長線になるんだけど。

俺とアリスが落下した際、伊吹がビサイムを使って救援を呼んでくれたらしく。

その時、一番最初に気付いてくれたのがミルファだったらしい。

で、すぐに救助に向かうべく準備してくれたらしいのだが、それより先に、俺とアリスが自力で脱出してきたそうな。

まぁつまり、ミルファにしてみれば取り越し苦労になったわけだ。

その謝罪とお礼を兼ねて、伊吹と2人(+クラウ)で休日の午後からガーネット家を目指しているわけである。

 

「――――それにしても、精霊とは不思議なものだな」

「そうだな。瑞穂坂じゃ、あんまり馴染みなかったし」

「せっかくだ。小日向、この銀の精霊を雇用すればよいではないか」

 

実に好き勝手に言ってくれるものである。

第一、精霊雇用のやり方自体が解らないってのに。

 

「いや・・・・・・別にいい」

「そうか? まぁそなたがそう言うなら構わないが」

「うん。けど、クラウが着いて来るのは気にしないし、何かしら助けてくれるなら有り難い話だけどな」

 

右を見れば、当のクラウはまるで気にする素振りもなく、ふよふよと着いてくるだけ。

けど視線に気づくと、なんだか嬉しそうに笑ってくれた。

うん。大変に可愛らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、歩くこと数分。

アリスに言われた場所に辿り着いた、んだけど――――――

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

実に予想通りというか、想定内というか。

荘厳なる大豪邸が、なんの臆面もなく鎮座していらっしゃった。

 

「・・・・・・すげぇなぁ。エリスとアリスの家も結構すごかったけどさ」

「うむ。なんというか、立派な館だな」

 

さすがは伊吹。

感覚が微妙にセレブなのは、伊吹も間違いなくお嬢様たる所以である。

 

「しかし敷地を無駄に使いすぎだな。門から館の入り口までこんなに距離があるのは少々・・・・・・」

 

ならば自分の家をどう説明する気だ。

加えて使鬼の杜の広大な森林をどう説明する。

単純に考えても、普通科、魔法科で2つ校舎のある瑞穂坂学園の10倍は軽く超える敷地面積だぞ。

 

「む、どうかしたのか、小日向」

「いや、なんでも。――――とりあえずインターホンを・・・・・・って」

 

そこで初めて気づく。

インターホンがどこを探しても見当たらない。

代わりに、壁に描かれた小さな魔法陣がぐるぐる回って自己アピール中。

もしかしなくても、あれがそうなんだろうか。

 

「えーっと・・・・・・すみません、ミルファさんのクラスメイトの、小日向雄真と言いますが・・・・・・」

 

魔方陣に手を置き、呼びかけるように自己紹介。

 

「―――」

「・・・・・・」

 

しかし無反応。

手を置いた時、魔方陣はしっかり反応してくれたってのに。

 

「・・・・・・こうして見てると、なにやら痛い姿だな。壁に向かって自己紹介とは」

「伊吹サン!? いきなり何言ってんの!?」

『・・・・・・ぷ』

 

無自覚で悪意も無い、けれど的確すぎる伊吹の心無い一言。

最近、伊吹のキャラの変貌っぷりが若干恐怖です。

次にビサイムの失笑がメンタルに非常によろしくない。

 

―――――なんてことをやってると、入り口の方からメイドさんがやってきた。

―――――どうやらインターホン(のような魔法陣)は伝わってたらしい。

 

「はい、どちら様で・・・・・・――――って!?」

「む? そなたは・・・・・・」

「ミルファじゃん。・・・・・・ん?」

 

やってきた可愛らしいメイドさん。

しかしその顔は、忘れるはずもないお嬢、ミルファだった。

何やら顔を真っ赤にして、ものすごい動揺してらっしゃる。

や、なんだかすごく申し訳ないモノを見てしまったのか。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・な、なによ」

「――――(フッ)」

 

何も見なかった。

そういうことにしておこう。

学園じゃお嬢様を気取っていたのに、その真実はメイドさんだったなんて。

何も訊かないでおくのが、友達への気遣いというものだって―――――――

 

「そーいう反応が一番キツイですわ!!」

「いや、だってなぁ・・・・・・」

「いーですから! 悟った顔で帰ろうとするのをやめてもらえますこと!?」

「――――で? なぜそなたはメイドの格好をしておるのだ?」

 

さすがは僕らの伊吹たん。

訊きにくいことを実にズバリと訊いてくれる。

別名、無遠慮とも言う。

 

「そ、それは・・・・・・」

「――――」

「――――」

 

無言の圧力。

違うなら違うで理由をハッキリ訊きたいところ。

が、恥ずかしいのか、あるいは説明するボキャブラリーを持ちえなかったのか。

ミルファは年甲斐もなく、目に涙をいっぱいに溜め――――――

 

「う、うわぁぁぁぁぁん!!!!!!!! ラピスーーーーッッ!!」

 

なんて、負け犬という言葉がピッタリなセリフを叫びながら、館へ逃げ帰った。

―――――その直後、

 

「お嬢様の泣き声が聴こえたーーーーーっっっ!!!!!!!!!

「なんかキターーー!!」

 

館のドアを開け放ち、こちらへ突進してくるのは、またしてもメイドさん。

が、その姿は大人の女性。

というか、両手指間に挟まれた鈍く光る銀光。

あれはもしかしなくても、ニッポンでゴクドーさん愛用の“ドス”と言うものではないでしょーか?

 

「でぇぇぇりゃぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!

「やっぱり投げたーーーーっっっ!!!!!!

 

両手の指間、計8本のやたら研磨されたドスと言う名のナイフが、殺意全開で飛んでくる。

そのあまりの勢いに圧されたのか。

俺も伊吹も、全力で迎撃するのに躊躇いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・も、申し訳ありません」

 

屋敷の中に案内されがてら、メイドさん―――――ラピスさんからずっと謝られていた。

それを俺は恐縮して聞いているのだが、伊吹は当然のように聞いていた。

やはり庶民とは違うのだろう。

 

「まったくだ! メイドたるもの、常に一歩引き、けれど優雅たれとは考えぬのか!!」

「返す言葉もございません・・・・・・」

 

割と真剣にラピスさんに怒る伊吹。

他人、しかも他家のメイドさんをガチで叱るその姿、流石は伊吹お嬢様。

ぼくにはとてもできない。

 

「お嬢様がシュナ様以外のご学友を招くなんて想像できず・・・・・・もしや敵かと」

「恐ろしい判断ですね!?」

 

この屋敷の常識はどうなっている。

敵と判断=即、殺意全開の凶器を投擲するなんて。

 

「え? 違うのですか? メイドたるもの、ナイフ投げは作法の一つだと」

「・・・・・・・・・」

「メイドの作法よりも真っ先に、ナイフ投げの技術を仕込まれましたし」

 

なにその武装屋敷。

間違ってる、と言いたいが、何を基準にそう言えるのか。

或いは、もしかしたら本当に護身術としてそういう作法があるのやもしれん。

それはそれで、冗談みたいだけど。

 

―――――さて、話が逸れてしまった。

 

「それで、ミルファは?」

「お嬢様でしたら、べそ掻きながらお着替え中です」

「・・・・・・」

 

要らない情報提供、ありがとうございます。

というか、威厳の欠片も感じないね、ほんと。

 

 

 

 

 

―――――で、待つこと数分。

 

ダイニングでお茶を頂いていると、私服に着替えたミルファがやってきた。

 

「先程は失礼しましたわ。ようこそ、お2人とも」

 

今度はお嬢様らしく、優雅かつ可憐に挨拶をするミルファ。

確かに、黒を基調としたワンピースにシニカルなスカートは、可愛さよりも落ち着きある女性の雰囲気を感じさせる。

加えて、ミルファの赤みがかった髪の色に実に似合う。

見た目だけなら完璧なお嬢様である。―――――見た目だけなら。

 

「で? さっきは何でメイド服着てたんだ?」

「か、開口一番にそれを訊きますの!?」

「泣いて逃げたのはそなたであろう」

「う!?」

 

伊吹と息の合ったコンビネーションで、ミルファを追及。

何故かここにきて、阿吽の呼吸がこれ以上ないほどに成立している。

 

「・・・・・・やっぱり実はメイドだとか?」

「じょ、冗談にも程がありますわ! ガーネット家の次期当主である私が、どうして使用人の服を着なければいけませんこと!?」

「その通りです、小日向様。お嬢様はメイドとしてはあまりにセンスがありませんし」

「・・・・・・」

 

何故か所々に棘、というか毒を吐くなぁ、この人。

あれかな。

最近のメイドさんは、主人への忠誠心(笑)が標準装備になってるのだろうか。

 

「じゃあ、どういう理由だったのさ?」

「そ、それは・・・・・・その、えと・・・・・・」

「?」

 

なにやら非常に歯切れが悪い。

ミルファの性格からすれば、大抵のことは臆面もなく言い切るタイプだと思ってたんだけど。

 

「・・・・・・」

「―――」

「・・・・・・」

 

無言が続く。

俺は不思議そうに、伊吹は自覚が無いのかプレッシャーを感じるほどの視線。

それに対し、いつも以上に消極的なミルファはますます言葉を失っていた。

 

「――――修行の一環です。花嫁と言う名の」

「ら、ラピス!?」

 

助け舟――――というより、しびれを切らしたという方が正しい。

どちらにせよ、ミルファが言えないことを、メイドのラピスさんが代弁していた。

 

「へー、ミルファってその歳で結婚相手決まってるんだ?」

「そんなわけありませんわ!! た、ただの戯れですわ! このようなことは!」

「ふーん・・・・・・でもいいんじゃないか? 将来のために頑張るってのは」

 

メイドって、女子力の全てが要求される仕事だし。

家事スキルを上げるには確かにもってこいでもある。

 

「さ、最低限、失礼の無いように学んでるだけですわ」

「そうですね。お嬢様はその“最低限”のレベルにすら到達しておりませんし」

「ラピスー!?」

 

もの凄い勢いでカリスマが下がった。

俗にいう、カリスマブレイクとはまさにこれ。

あれじゃあ、力関係がどっちが上かすぐに解るなぁ。

 

 

「――――それで、メイドの格好はともかく、なんで泣いて逃げたんだ?」

「それは、その・・・・・・」

 

またしても言葉に詰まるミルファ。

が、その視線は泳ぐことなく、真っ直ぐと伊吹に向けられていた。

 

「・・・・・・何故、私を見る?」

「あ、いえ! な、なんでもないですわよ!?」

「?」

「あ、で、でも訊きたいことがありまして―――――」

「何だ? 言ってみよ」

「う―――――」

 

気圧されたように固まるミルファ嬢。

対して、そんなこと微塵も気にしない伊吹嬢。

同じお嬢様でも、その風格というか貫禄は全然違った。

 

「い、伊吹さんは、式守家の次期当主・・・・・・なのですわよね?」

「そうだな。そなたと同じだ」

「や、やっぱりそうなのですね・・・・・・・・・なんというか、その、すごく“らしく”て・・・・・・」

「?」

 

遠慮がちに言われ、困惑の表情が隠せない伊吹。

隣にいる俺でも解るくらいだし。

なのか、たまらず伊吹が助けを求めてきた。

 

(小日向・・・・・・あやつは何を言いたいのだ?)

(知らねーよ、そんなの。・・・・・・けどまぁ、多分)

(多分?)

(伊吹のカリスマに当てられたんだろーな、きっと)

(・・・・・・かりすま?)

 

多分、伊吹に対して同じお嬢様という雰囲気を察したんだろう。

けど、そのあまりのカリスマ性の差に逃げ出したんだと思う。

そういう意味で、お嬢様なのにメイドという使用人の格好をしてたのが、堪らなく恥ずかしかった。・・・・・・んだと思う。

 

 

「要するにさ、ミルファ」

「な、なんですの?」

「お嬢様なのに、メイドの格好してたのが俺等に見られて恥ずかしかったんだろ?」

 

程度の差こそあれ、つまりはこうなのだろう。

ズバリと言い当てられたのか、ミルファは恥ずかしそうに頷いた。

 

「まったく・・・・・・そんなことで恥ずかしがっていたのか」

「そ、そんなことって・・・・・・次期当主ともあろう者が、使用人の服装なんて・・・・・・」

「むしろ、だからこそであろう。その家の上に立つ者として、あらゆる視点・視野を持つべきだ。

 ならばこそ、使用人の視点、経験を理解することはむしろ大事であろう」

「う――――――」

 

絶句するミルファ。

確かに、あれだけ正論を述べられたら何も言えない。

―――――というか、ならば疑問が沸くのだが。

 

「・・・・・・伊吹って、家で家政婦さんの仕事、してたりするのか?」

「うむ! たまの休日に手伝っているぞ。その際、細かな家事の技術を覚えているのだが―――――」

「――――が?」

「むぅ、なんというか、家政婦の者たちが遠慮してあまり教えてくれぬのだ」

「・・・・・・」

 

それは遠慮ではなく、避けられているだけなんじゃなかろーか。

まぁ確かに、去年の4月辺りの伊吹と、10月辺りの伊吹は、もはや別人じゃねーの? と言わんばかりの変貌ぶりだったし。

丸くなったと言えばそうだけど、声色までまるで違うのは、正直驚きどころか真剣に同一人物なのかと疑ったほどである。(割とガチで)

 

 

 

 

 

「そ、それで、お2人は今日はどういったご用件で?」

「あ、すっかり忘れてた」

 

ミルファに言われ、割と真剣に忘れてたことに気付く。

ガーネット家の門前からハプニングの連続だったし。

ともあれ、姿勢を正し、真っ直ぐにミルファを見据えて――――――

 

「ミルファ、昨日はありがとう」

「昨日・・・・・・? ああ、遺跡での」

「伊吹から聞いたよ。真っ先に助けに来てくれようとしたんだって」

「別に、構いませんわ。実際に助けたわけでもありませんし、その前に自力で脱出したのでしょう?」

 

それを言われるとそうなのだが。

けれど、伊吹の救援にすぐに応えてくれたし、何より無駄足を踏ませてしまったことを申し訳なく思ってしまう。

なので、なにかお返しでもできれば、って考えたんだけど。

 

「別にいいですわよ。そういうつもりで助けに行ったわけではありませんし」

「――――」

「な、なんですの?」

「いや、目から逆鱗」

「どーいう心境ですの!?」

 

なんていうか。

まともにミルファと話すことが無かったせいなのだろうか。

こう、普通に人として良い部分を見て取れたのが、実にカルチャーショックというか。

 

「とにかく、何かしらお礼でも――――」

「だから、別にいいですわ」

「いや、けれど・・・・・・」

 

だったら何しに来たって話である。

お礼だけ言いに来たってのも悪いし、このままサヨナラするのは実に申し訳ない。

なんて、どうしたもんかと考えこんでると、

 

「お嬢様・・・・・・」

「なに? ラピス」

 

目の前で、ミルファとラピスさんが耳打ち相談中。

別に構わないんだけど、待たされてるこっちは非常に居心地がよろしくない。

 

「――――な、なるほど」

「?」

 

やがて相談は終了。

が、その直後からミルファの顔が若干赤い。

過去の経験から、こういう時はロクなことが無かった記憶しかないんだけど。

 

「お礼・・・・・・の替わりと言ってはなんですが、相談に乗ってくださらない?」

「相談? 別にいいけど、なんの?」

「そ、それは・・・・・・」

 

またしても黙り込むミルファ。

その挙動不審とも見える、感情の浮き沈みに、思わす伊吹と目を見合わせてしまう。

 

「それですわ!」

「は?」

「え? なに?」

「率直に尋ねますが! そ、その、お2人は恋人同士、なのですか!?」

「――――」

 

実にぶっ飛んだ質問相談である。

というか、これは相談でもなんでもない。

が、まぁミルファへのお礼代わりなんだし、隠すこともない。

 

「いんや? 違うね」

「え――――――ち、違うのですか!?」

「ああ。な、伊吹」

「・・・・・・ああ、そうだな」

 

同意を求めると、貫くほどの鋭い視線。

殺意をまるで隠そうともしない辺り、さすがです。

殺気が漲ってる理由がまるで解らないんですが。

 

「何? なんでそんな怒ってるんだ?」

「お、怒ってなどいないわ!」

「うそつけ。じゃあなんだよ、言ってみろよ」

「う・・・・・・」

 

至近距離まで顔を近づけて睨む。

と、伊吹の顔もみるみる赤くなって、目が溺れた魚のようにぐるぐるしている。

なんだかなぁ。

伊吹もいつもこうだとすごく可愛いのになぁ。

 

「――――成程」

「そこのメイド! なにを納得しておるのだ!!」

「いえ。・・・・・・お察し致しますわ」

「むぐぐぐ・・・・・・!!」

 

不毛な言い争いは続く。

というか、ラピスさんの圧勝なわけだが。

何に対しての圧勝なのかはまるで解らないけど。

・・・・・・それはそうと、もしかしなくてもミルファはひょっとして――――――

 

「なに? ミルファってシュナのこと好きなのか?」

「な!?」

「い!?」

「―――――」

 

あれ、違ったかな。

なにかしら直感が閃いたんだけど。

 

「な、なななな!? い、いきなり何を言いますの!?」

「なんだ、違うんだ? 相談って言われたから、てっきり恋愛相談なのかなって」

「――――!?!?!?」

 

ミルファの混乱っぷりが尋常じゃない。

だっていうのに、一切否定しない辺り、事実その通りなんだと思う。

なんていうか、言葉以上に正直な“受け応え”である。

 

「ところで、小日向様。どうしてお嬢様がシュナ様を恋慕していると?」

「いやだって、ラピスさん言ってたし」

 

屋敷に案内された時、“お嬢様がシュナ様以外のご学友を”って。

ただでさえ少ない友達―――そうじゃないかと思ってたけど―――に加え、相手が男子なのだから、普通、自然とそう考えるんだけど。

 

「――――おや。どうやら私が原因のご様子」

「・・・・・・ラピスぅ?」

「まーまー。言われなくても半ばそう思ってたし」

 

確信が確定に変わっただけで。

ぶっちゃけ、初対面での2人のやり取りを見てるだけで、お察ししたぐらいだし。

 

「・・・・・・小日向雄真ッ!」

「なにさ」

「私の秘密をここまで知られたからには・・・・・・逃がしませんわっっ!!」

「いや待て。さっき恋愛相談しようとしたんだろ!?」

 

なら遅かれ早かれ、この事実は伝わると思うんですが。

ぶっちゃけ、順序が違うだけである。

 

「それはそれ! これはこれ!!」

「都合のいい言葉だなそれ!」

「ふふふ・・・・・・こーなったら、貴方たちには協力してもらいますわよ・・・・・・?」

「待て!? 私も入ってるのか!?」

「お嬢様、そこは共犯、と」

「何させるつもりですか!?」

 

 

 

確かに言ったよ? 手伝うとはさ。

それが、何がどうなって、こんなことになってしまったのやら。

まるで隠す気のない伊吹の批難の視線を受けながら、ミルファの邪悪な笑顔に引きつるしかなかった。