「悪い、良く聞こえなかった。もう一度言ってくれるか?」
聞き違いであってくれることを切に願う。
そう思った雄真だったが。
「だーかーらー。すももちゃんから料理を教わりたいって言ってるの!!
今度の週末空いてるか聞いといてよ」
残念ながら聞き間違いではなかった。
Happiness story『スペシャルss』
秘密の小部屋Stage1.炎の花嫁修業!!
「さあ!! 始めるわよ!!」
ピンク色でフリルのついたエプロンを身に付け、杏璃が堂々と宣言する。
日曜日。
思い立ったが吉日と言わんばかりの勢いで予定を組み上げた杏璃は、その週に料理勉強会を開催した。
場所は言わずもがな、杏璃の使う学生寮である。
「で。何で俺まで呼ばれてるわけ?」
この場に居るのは3人。
教師役のすもも、生徒の杏璃、
そして謎の雄真である(この場に来るために、雄真はわざわざ身体強化魔法でベランダから侵入した)。
「味見役は必要でしょ」
「まじか。俺、毒見役だったのぶっほっ!?」
雄真は自らのセリフを言い終える前に崩れ落ちた。
「いってぇな何しやがる!!」
「アンタがデリカシー無い事言うからでしょうが!!」
「……今のは兄さんがいけなかったと思います」
妹であるすももにまで冷たい目を向けられた雄真は黙るしかなかった。
「それでは、本日はコロッケを作ってみようと思います」
「ようしっ!! やったるわよー!!」
「ちょっと待てちょっと待て!!」
腕まくりをしながらキッチンへ向かう女子2人を、雄真は慌てて呼び止める。
「何ですか兄さん」
「何よいきなり何なわけ。人のやる気に水差さないでよ」
「いやいやいや!! 何でいきなりコロッケなわけ?」
「文句あんの?」
「文句、……って言うか」
完全に喧嘩腰になっている杏璃から視線を外し、雄真はすももの方へと目を向けた。
「コロッケって結構難しいんじゃないか? 揚げる時、うまくないと割れたりするだろ」
「えぇと……。それはお伝えしたんですが、どうしてもコロッケが良いと」
若干言いづらそうにしながらも、すももがそう答える。
視線を戻す雄真に、杏璃は鼻を鳴らした。
「そういうことよ」
「何がそういうことなのか詳しく説明頼む」
「だってアンタ、コロッケ好きでしょ?」
「ああ」
「だから作れるようになろうって言ってんの」
「はぁ。……は? えーと、それってどういう……」
「あ……」
首を傾げる雄真。フリーズする杏璃。一瞬の沈黙。
そして。
バチンッ!!!!
「へぶしっ!?」
「き、記憶を失え〜!!!!」
「ちょっ、柊さんっ!?」
雄真は再度リビングという名のマウンドに沈み込んだ。
「うわわわわっ!? 柊さん、火、火を止めて下さいっ!?」
「え? え? え? きゃあああああああああああっ!?」
ドカンッ!!!!
「なっ、何だ!?」
突如鳴り響いた轟音に、床に伏して気を失っていた雄真は慌てて飛び起きた。
痛む身体に鞭を打ち、音の発信源に目を向けたところで唖然とする。
ここは学生寮の一室。その一角から。
もうもうと黒煙が立ち上っていた。
「おいおいおい!?」
確か今日はコロッケを作ると言ってなかったか。なのになぜ爆発するような事態になる。
様々な疑問を押し殺し、雄真は慌てて煙の発生源であるキッチンに突っ込もうとしたが、その前に中に居た2人が飛び出してきた。
「何なのよもう〜!! けほっ!! けほっ!!」
「けほっ!! けほっ!! あ、あうううう〜」
自らに纏わりつく黒煙を振り払いながら、杏璃は涙目で悪態をつく。
すももに至っては目を回していた。
「な、何が起こったんだ!?」
2人の無事である姿を見て軽い安堵感を覚えつつも、雄真は問う。
対する杏璃は露骨に目を逸らした。
「……爆発した」
「何が」
「コロッケが爆発した!!」
半泣きである。
「今回は絶対にうまくいくと思ったのに!! すももちゃんを呼んで!! 選りすぐりの食材を選んで!!
料理の研究本まで買って!! イメージトレーニングまでしてたのに!!」
「お、落ち着け杏璃!!」
「うわあああああああん!! やっぱり私には料理なんて無理なんだー!!」
半泣きからマジ泣きに移行した。目覚めてからの怒涛の急展開に雄真も焦りを隠せない。
「コロッケはパンクしやすいって聞いてたけど、まさかここまでなんてー!!」
「いや、パンクと爆発ってイコールとか派生形とかじゃないから」
思わず突っ込んでしまう雄真。涙目の杏璃にギロリと睨まれた。
「何よ!! じゃあアンタ作れるっての!?」
「俺に当たるな!!」
雄真と復活した杏璃がぎゃーぎゃー始めたところで、黒煙まみれのキッチンからコロコロと何かが転がって来た。
それは徐々に速度を落とし、雄真の足元で動きを止める。
「何だこれ」
首を傾げつつ、雄真が拾い上げる。それは――――。
「じゃがいもよ」
「虹色の!?」
当然じゃない何言ってるのみたいな感じで正体を明かす杏璃に、雄真は当たり前の反応を示した。
そう。そのじゃがいもと言われた物体は、美しい虹色の輝きを放っていた。
「じゃ、じゃがいもに虹色のものなんてあったのか……」
「わ、私の知る限りではありませんでしたぁ」
青天の霹靂だ的な目でじゃがいもをまじまじと見つめる雄真に、ようやく回復したすももが言う。
「ま、世間一般には出回ってないかもね。何せ虹色だし」
めちゃめちゃ偉そうに胸を張る杏璃。
この展開、どこかで経験したことがあるな、と雄真は思った。
あれはいつだったか。杏璃がケーキを作ると言って……。
「すもも」
「はい?」
過去の記憶を呼び起こしつつ、雄真は妹の名を呼ぶ。
「杏璃が用意した食材ってどんなのだったんだ?」
「え、えと」
「しょうがないわね。実際に見せてあげるわよ。まだもうちょっと残ってるし」
ようやく煙が晴れてきたキッチンに杏璃が踏み入る。何やらゴソゴソした後、直ぐに戻って来た。
それを見て雄真は絶句する。料理をしない雄真でもわかる。どう見てみても、異質な食材が籠の中には広がっていた。
「これは何だ、杏璃」
「何ってコロッケの材料よ」
「……すまん。普段俺って料理しないからさ。見たことない食材ばっかりなんだ。1つずつ教えてくれないか」
「ふふん。何よあれだけ偉そうな事言っといて、食材の名前も分からないわけ?
虹色のじゃがいも、白毛雄牛(しろげおぎゅう)の皇肉(こうぎゅう)、仙人のたまねぎ、死海の塩塩(しおじお)、粗々挽き(あらあらびき)のこしょう、
スウィートハニーの砂糖、白銀の小麦粉、陽弩嵐(ようどらん)のたまご、火星の水、そして黄金色のパン粉よ!!」
「パン粉よ!! じゃねぇよ!!」
どれ1つとして聞いた事の無い食材だった。
「お前それどこで買った」
「ど、どこだっていいじゃない」
杏璃が視線を逸らす。雄真は即座に逸らした先へと回り込んだ。
「……まさかメリッサとか言う奴のところじゃないだろうな」
「あらやだ。ジョセフィーヌったら冗談がお上手ですこと」
「モロじゃねぇかクリスティーナ!!」
その反応を見て雄真が吼えた。
「お前!! プルトニュームの悲劇を忘れたのか!!」
【※】
プルトニュームとは。
ケーキ界の頂点に君臨するキングオブケーキ。
その味は口にしたものをたちまち虜にすると言われている至高のケーキである。
材料は「まじかるバニラエッセンス」「味仙人のイチゴ」「○ーのはちみつ」「黄金のスポンジ」。
【※】
プルトニュームの悲劇とは。
西暦××××年××月××日、瑞穂坂学園学生寮、柊杏璃の部屋でそれは起こった。
プルトニュームを制作する為、クリスティーナ(柊杏璃)は商店街の裏にあるメリッサの元で特殊な材料を仕入れ、調理を開始した。
しかし、プルトニュームは完成することなく爆発。杏璃の部屋は一時騒然と化した。
それに同行し調理を見守っていたジョセフィーヌ(小日向雄真)が勝手に命名したものである。
【参考資料】
・ういんどみる制作『はぴねすっ!』
・ういんどみるでーたべーす http://happinessdata.fc2web.com/
「ひ!? 悲劇って何よ悲劇って!! 私だって真面目にやってんのよ!!」
「真面目にやったら何でも許されると思うなよ!!」
「んなっ!? そ、そこまで言わなくたっていいじゃない!!
そこまで……、言わなく、たってぇ……ぐすっ」
「げっ!?」
一転し、再び涙ぐむ杏璃。
今まで通り強気の暴言が飛んでくるとばかり思っていた雄真は仰け反らんばかりに驚いた。
「兄さんっ!! 今のは流石に酷いと思います!!」
「あ、い、いや……、その」
「言い訳無用です!! 柊さんにちゃんと謝ってください!!」
「うぅ……えぐっ、どうせ、……どうせぇ私なんてぇ……うぐっ」
「いや、あの……。ホントすみませんでした」
さめざめと泣く杏璃に、雄真は教科書の参考例として掲載されそうなほど見事な角度で頭を下げた。
「柊さん。料理どころか包丁も握ったことない兄さんの発言なんて気にしなくていいんです。
料理で大切なのは結果ではありません。過程なんです。真面目に、一生懸命に。食べてもらう人の事を想って精一杯作る。
そう、昔の偉い人は言いました。料理の最高のスパイスは『愛情』だと!!」
どーんっ!!
という効果音が付きそうな勢いですももが力説する。
両手を広げて神の教えを説くように告げるすももに、杏璃は涙でくしゃぐしゃになっていた顔を上げた。
「あ、……愛、情」
「そうです。料理の腕がどれだけ上手くても、愛情が無ければそれは美味しくありません。
逆に愛情さえあればどんな料理でも美味しくなるんです!!」
「いや、流石に愛情だけじゃカバーしきれない領域もあるんじゃ――何でもありません」
すももの一睨みで雄真は自分の発言を自ら打ち切った。再びお手本のようなお辞儀をする。
それを見てすももはふんっと鼻を鳴らした。
「……私にも、できるかな」
「できますよ。貴方に料理を、そしてそれを食す人に愛を注ぐ気持ちがあるのなら」
もはや宗教じみてきたな、などという突っ込みは雄真ももちろんしない。
「私、もう一回やってみる!!」
がばっと杏璃が立ち上がる。
「その意気です!! 柊さん!!」
「うおっしゃあああ!! やったるわよおおおお!!」
全力でキッチンへと戻っていく杏璃。もちろん神秘の詰まった食材の籠も忘れない。
「籠!?」
「ちょ、柊さん、愛情以外にも大事なものありました!! それは基本を忘れないという――」
カッ!!!!
チュドオオオオオオオオオオオオンッ!!!!!!!
「なんなのこれは!! いったいどういうつもりなの杏璃ちゃん!!」
現場にいた3人を現行犯として取り押さえた春姫は、そのまま3人を正座させてひたすらに説教を続けていた。
「タイヘンモウシワケゴザイマセンデシタ」
「どうしてキッチンの壁に穴が開くの?
どうして別々の部屋だったのに私と杏璃ちゃんの部屋がシェアしてる状態になってるの?
おかしいよね。おかしいでしょう? キッチンで何してたの杏璃ちゃん」
「リョウリデス」
「嘘!! 料理で爆発なんてしないもん!!」
いえ、実はするんです。今日ボクも初めて知りました。
雄真はそう言いそうになるのを寸でのところで堪え切った。
杏璃が今日の為にと用意したキワモノ材料の数々は、全て先ほどの調理と爆発で吹き飛んでしまい残っていない。
なので春姫に証拠品として提示する事ができない。
もし、あれらが残っていれば実際に春姫に調理させることで言い訳が立ったかもしれないが、それも叶わない。
そもそも爆発の原因があの食材によるものなのか、杏璃によるものなのか分からないのだ。
仮に後者だとするのなら、杏璃の料理の腕は達人どころか魔人の域に達していることは疑いようがない。
(結局、何で杏璃は急に料理なんて言い出したんだろうなぁ……)
もう日は落ち月が夜空を照らしている。綺麗な満月だった。
白銀の光に満ちている夜空を眺めつつ、雄真は最後までその謎が解けなかった。
「ちょっと聞いてるの雄真君!! この場に居た雄真君も同罪なんだからね!!」
「はいっ!! 聞いてます!!」
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End
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